湯船につかる「お風呂」の健康効果はサウナ以上?~40.5℃入浴研究と“ほどよい温活”のコツ~

湯船につかってリラックスする人とお風呂の健康効果をイメージしたイラスト(お風呂とサウナの違い・40.5℃入浴のイメージ)
目次

1. はじめに

「時間がないからシャワーでさっと…」
「やっぱりサウナのほうが“ととのう”感じがする」

こんな会話、身近でもよく耳にしませんか。
最近は「40.5℃入浴の健康効果」「お風呂は“運動に近い反応”を起こす」といったニュースも増え、
お風呂好きな方ほど気になっているはずです。

臨床の現場でも、

  • 寝ても疲れが抜けない
  • 足先が冷えてなかなか眠れない
  • サウナに行く体力や時間はないけれど、体に良いことはしたい

そんな声をよく聞きます。

この記事では、「お風呂の健康効果って、結局どうなの?」というモヤモヤを、
なるべく生活の目線に近いところでほどいていきます。

40.5℃入浴の研究でわかってきたこと、サウナとの違い、
そして「これくらいなら今日からできそう」という“ほどよい温活”のコツまで。

私自身も、ついシャワーで済ませてしまう日があるので、
一緒に「がんばりすぎないお風呂の付き合い方」を整理していきましょう。🛁


2. いま話題の【お風呂の健康効果】って、結局なんなのか?

「お風呂は運動と同じくらい体にいい?」という話の正体

最近ニュースで取り上げられているのは、
40.5℃前後のやや熱めのお湯にしっかり浸かると、体が“運動に近い反応”を示すという研究です。

たとえば、40.5℃のお湯に60分つかる「ホットウォーター・イマージョン(熱いお湯への全身浴)」の研究では、

  • 心拍数が安静時より大きく増える
  • 末梢の血管が広がって血流が増える
  • 一部の心血管リスク指標が改善する可能性がある

といった変化が報告されています。Physiology Journal+1

別の研究では、40.5℃のお湯に45分浸かった場合
同じ時間のサウナや遠赤外線サウナよりも、
深部体温の上昇・血流の増加・免疫マーカーの変化が大きかったという結果も出ています。Physiology Journal+1

こうしたデータから、

「お風呂、特にやや熱めのお湯につかることは、
ある程度“運動に似た効果”を持つのでは?」

という見方が広がってきました。

ただし、ここで大事なのは、
研究で使われる条件(40.5℃で45〜60分など)は、現実的にはかなりハードだという点です。
自宅のお風呂で毎日再現するのは、正直かなり大変ですし、リスクもあります。

観察研究が示す「日常のお風呂習慣」のメリット

一方で、私たちの普段のお風呂習慣を長期間追いかけた研究もあります。

  • 日本の中年層を対象にした大規模調査では、
    湯船につかる頻度が高い人ほど、心筋梗塞や脳卒中など心血管疾患の発症リスクが低かったと報告されています。Heart
  • 高齢者を対象とした研究では、
    週に数回以上お風呂につかる人は、要介護状態になるリスクや認知症の発症リスクが低かったという報告もあります。PMC+1

これらは「お風呂に入れば必ず病気を防げる」という話ではなく、
お風呂習慣がある人は、そうでない人に比べて健康状態が良い傾向がある、というレベルの話です。
ただ、長期的なメリットを示すヒントとしては、とても心強いデータです。

睡眠の質とお風呂の関係

「お風呂に入るとよく眠れる気がする」という体感にも、ある程度の裏付けがあります。

  • 暖かいお風呂やシャワー(40〜42.5℃)を寝る1〜2時間前に10〜15分行うと、
    寝つきが早くなり、睡眠の効率(ベッドにいる時間のうち実際に眠っている割合)が高まるという報告があります。PubMed+1
  • 別の研究では、40〜40.5℃のお風呂に入り、口の中の温度が約0.9℃上がる程度の「ほどよい温まり方」をした条件で、
    「眠りの深さ」「寝汗や寝返りの落ち着き」が改善したと報告されています。SpringerLink

ポイントは「体を一時的に温めて、そのあと自然に冷めていく流れ」ができること。
この “温まってから、少し冷める” プロセスが、脳に「そろそろ眠ろう」というサインを送ってくれます。

最近よく耳にする「睡眠負債」について気になる方はこちらもどうぞ。


3. からだの中で起きていること

ここからは、同じ「お風呂」の健康効果でも、
からだの中では何が起こっているのかを少し覗いてみます。

血管と心臓:ゆるやかな「トレーニング効果」

お湯につかると、皮膚の血管がひらき、血液が表面近くをたくさん流れるようになります。

  • 心臓は、増えた血流を送り出すために少しがんばって拍動を増やす
  • 同時に、血管が広がることで血圧はやや下がりやすくなる

という変化が起きます。

熱めのお湯を使った**パッシブヒーティング(受動的な加温)**を一定期間続けると、
収縮期血圧(上の血圧)が下がる傾向があるというランダム化比較試験のまとめも出てきています。PMC+1

また、日本の温泉習慣を持つ人を対象にした研究では、
日常的に温泉(スパ)に入る人ほど、心血管疾患や高血圧の発症が少ないという報告もあります。Nature

イメージとしては、

「きつい運動で心臓を鍛える」のではなく、
「お湯の中で、心臓と血管にやさしい“揺さぶり”をかけている」

ような感覚に近いと思ってください。

もちろん、心臓病や重い動脈硬化がある方は注意が必要です。
このあたりは後半で触れます。

自律神経:戦闘モードから休息モードへ

お風呂に入ると、「ふーっ」と息が抜ける感じがしますよね。
これは、自律神経のバランスが“休息寄り”に傾いているサインです。

日本式の湯船入浴を調べた研究では、

  • お風呂のあとに血流が改善する
  • 心拍数の揺らぎ(心拍変動)のパターンから、
    交感神経(戦闘モード)から副交感神経(休息モード)へのシフトが示唆される

といった結果が報告されています。SCIRP+1

交感神経が優位な状態では、

  • 心拍数が上がる
  • 筋肉がこわばる
  • 呼吸が浅くなる

といった「いつでも戦えるぞ」スタイルになります。
副交感神経が優位になると、

  • 脈が落ち着き
  • 消化や回復にエネルギーが回り
  • 「眠気」が出てきやすくなる

この切り替えを、お湯の温かさと水圧が手伝ってくれるのです。

体温と睡眠:一度温めてから、スッと冷ます

睡眠の研究では、「深部体温(体の中心の温度)」が重要なキーワードになります。

  • 夜になると、深部体温がゆっくり下がる
  • ある程度下がったところで、眠気が高まり、深い睡眠が出てくる

というリズムが、人間の体に組み込まれています。

暖かいお風呂の役割は、

  1. いったん体を温めて深部体温を上げる
  2. お風呂から上がったあと、手足から熱を放出しやすくする
  3. その結果、深部体温がスムーズに下がり、眠りやすくなる

という“助走”をつけることにあります。

先ほどの研究のように、40〜42.5℃の入浴・シャワーを寝る1〜2時間前に10〜15分行うと、
入眠までの時間が短くなり、睡眠効率も良くなった、という結果が複数の研究で示されています。PubMed+2JCSM+2

さらに、全身浴が難しい方を対象にした研究で、
40℃のお湯で30分の足湯を寝る1時間前に行うと、合計睡眠時間や睡眠効率が改善したという報告もあります。Wiley Online Library

「全身浴が面倒な日でも、足だけ温めるだけで意味がある」
というのは、忙しい現代人にとって嬉しいポイントです。

サウナとの違い:どちらが“偉い”というより、刺激の質が違う

フィンランド式サウナに関しても、
週に数回利用する人ほど、心血管疾患や突然死のリスクが低かったという大規模研究があります。JAMA Network

最近の比較研究では、

  • 同じ「受動的な加温」でも、
    サウナよりも熱いお風呂(40.5℃程度の全身浴)の方が、深部体温の上昇や血流・免疫反応が強く出た

というデータも報告されています。Physiology Journal+1

とはいえ、だからといって

「サウナはダメで、お風呂だけが正しい」

という話ではありません。

  • サウナ:短時間で強めの熱ストレス
  • お風呂:水圧や浮力も加わった、少しマイルドで長めの熱ストレス

という違いがあり、からだへの刺激の質が少し異なります。
日常生活に取り入れやすいのは、自宅のお風呂のほうかもしれません。


4. 日常のクセと【お風呂の健康効果】の関係

ここからは、私たちの日常の「お風呂習慣」と、
からだの感じやすい不調とのつながりを見ていきます。

「シャワーだけ生活」と“休まらないからだ”

忙しい現代生活では、「平日はシャワーだけ、休みの日だけ湯船」という方も多いと思います。

シャワーはもちろん悪者ではありませんが、

  • 水圧=ほぼゼロ
  • 温度が高くても、温まるのは表面だけになりがち
  • 体が十分に温まる前に終わってしまう

という特徴があります。

その結果、

  • 手足が冷えたまま寝る
  • 寝つきが悪く、眠りも浅い
  • 朝起きたときに、体がこわばっている

といった「休息の質の低下」につながりやすくなります。

一方で、10分前後でも湯船に浸かる習慣がある人は、
先ほどのような睡眠の質の向上や、自律神経の安定を得やすいと考えられます。SpringerLink+1

理想を言えば毎日ですが、
まずは「週に3回だけは湯船に浸かる」「寝る前1〜2時間のどこかで入る」など、
“ゼロか100か”ではなく、20〜30%だけ変えるイメージから始めるのが現実的です。

熱すぎるお湯&長湯は、からだにとっては“強すぎる刺激”

40.5℃入浴の研究が話題になる一方で、
日本では入浴中の事故や急死が毎年問題になっています。

日本式の高めの温度(42℃以上)での長風呂は、

  • 急激な血圧変動
  • 脱水
  • 心臓や脳の負担

などを招きやすく、高齢者や心臓病・高血圧のある方には危険な組み合わせになりうる、
というレビューも出ています。SpringerLink

つまり、研究で「40.5℃で60分」と聞くと、

「よし、そのとおり忠実にやってみよう!」

と頑張りたくなりますが、
家庭のお風呂で無理に真似する必要はありません。

実際には、

  • 温度:38〜41℃程度
  • 時間:10〜15分前後(体調に合わせて)

くらいを目安に、
「少し汗ばんできたかな」くらいで切り上げるのが、
からだにとっても安全で続けやすいラインです。

半身浴・足湯という“ゆるい選択肢”

お腹まで浸かる全身浴がつらい、という方には、半身浴や足湯も立派な選択肢になります。

  • 寝る1時間前に、40℃の足湯を30分行うと、
    高齢者の「総睡眠時間」と「睡眠効率」が改善したという研究があります。Wiley Online Library
  • 手浴(手だけを温める)でも、主観的な快適さが増し、自律神経に影響を与える可能性が報告されています。PubMed

つまり、

「今日は疲れすぎて、お風呂に入る気力がない…」

という日こそ、

  • 洗面器にお湯をはって足をつける
  • ちょっと深めのバケツやフットバスで足首まで温める

といったミニマムなお風呂習慣が、
からだと心の“最終防波堤”になってくれます。

スマホ持ち込み入浴は、リラックスを削ってしまうことも

もうひとつ、最近よく見かけるのが「スマホをお風呂に持ち込む」習慣です。
動画やSNSを眺めているとあっという間に時間が経ちますし、
ブルーライトや情報量の多さで、頭は意外と休めていません。

せっかく副交感神経が優位になりやすいタイミングなので、

  • お風呂の間だけはスマホを脱衣所に置いておく
  • 音楽を静かめに流す
  • 何もしない時間をあえて味わう

といった「情報の断食」を組み合わせると、
同じ10分の入浴でも、休息の質は大きく変わってきます。


Q1. 湯船につかる時間はどのくらいが目安ですか?

一般的には、

  • 健康な成人
    38〜41℃で10〜15分程度
  • のぼせやすい方・体力に自信がない方
    38〜40℃で5〜10分程度から

をひとつの目安にしてみてください。

研究レベルの40.5℃×45〜60分は、
**「実験室で専門家が管理して行う条件」**に近く、
家庭で毎日再現するのはおすすめできません。Physiology Journal+1

「ちょっと汗ばんできて気持ちいいな」くらいで上がるのが、からだにはちょうどいいことが多いです。


Q2. 高血圧や心臓病があっても、お風呂に入って大丈夫?

結論から言うと、主治医から入浴禁止を言われていなければ、工夫しながら楽しめるケースも多いです。
ただし、いくつかのポイントは押さえておきたいところです。

  • お湯の温度は40℃以下に抑える
  • 浴室と脱衣所の温度差を小さくする(ヒートショック予防)
  • 急に肩までドボンとつからず、半身浴からゆっくり
  • 浴槽から立ち上がるときは、しばらく縁に座ってから
  • 一人暮らしの方は、できれば誰かが在宅している時間帯に入浴する

日本のレビュー研究でも、
入浴中の事故は「高温・長時間・脱水・急激な姿勢変化」が組み合わさった状況で起こりやすいとされています。SpringerLink

不安がある場合は、
「何度くらい、何分くらいなら良さそうか」を、主治医に具体的に相談しておくと安心です。


Q3. サウナとお風呂、疲れている日はどちらを優先したらいい?

どちらにも良さがありますが、

  • 強めの刺激で一気に切り替えたい → サウナ
  • からだも心もじんわりほぐしたい → お風呂(湯船)

というイメージで選んでもらうとわかりやすいと思います。

比較研究では、
40.5℃のお湯に浸かるほうが、サウナより深部体温や血流、免疫反応の変化が大きかった
という結果も報告されていますが、Physiology Journal+1

実生活で無理なく続けられるのは、
「家のお風呂で10〜15分」くらいのやり方です。

疲れている日は、

「今日はサウナに行く気力はないから、ぬるめのお風呂に10分だけ入ろう」

と、お風呂を“最小単位の温活”としてキープしておくと、
心身のメンテナンスの継続率がグッと上がります。


5. おわりに ― “全部やる”より、“ひとつだけ続ける”

ここまで、「お風呂の健康効果」をサウナや40.5℃入浴の研究も交えながら見てきました。

最後に、今日から実践しやすい“ほどよい温活”を、イメージと一緒に整理してみます。

行動のヒント具体例からだのイメージ
① 湯船に浸かる日を決める「週3回は38〜40℃で10分」血管と心臓が、やさしくストレッチされる
② 寝る前の“助走”として使う寝る1〜2時間前に入浴 or 足湯体温リズムが整い、眠りへの滑走路ができる
③ 無理な日は足湯だけにする洗面器+40℃のお湯で足首まで15〜20分「休息スイッチ」をかろうじて押しておく
④ スマホを浴室に持ち込まない音楽だけ、小さな灯りだけで過ごす自律神経が、情報から解放される時間になる

全部を完璧にこなす必要はまったくありません。
この中から一つだけ、「これならできそう」と思うものを選んでもらえれば十分です。

  • 週に数回、湯船につかる
  • 寝る前1〜2時間のどこかでお風呂に入る
  • しんどい日は足湯だけ
  • 入浴中だけはスマホを離してみる

こうした小さな選択の積み重ねが、
少しずつ「休息の質」を底上げしてくれます。

からだは、急に劇的に変わるよりも、
じわじわと続く“心地よい刺激”に、とてもよく反応する仕組みになっています。

今日のお風呂が、「ただ汗を流す時間」から
**“からだと神経をいったんリセットする小さな儀式”**に変わっていくきっかけになればうれしいです。🛁✨

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

からだトレンドラボを運営している、理学療法士のテラサワです。
病院やクリニックでのリハビリに長く関わる中で、
「もっと早く知っていれば楽になれたのに」という声を
何度も聞いてきました。

このブログでは、からだや健康にまつわる“トレンド情報”を、
医学的な視点でていねいに噛み砕いてお届けします。
難しいことはできるだけやさしく。
読み終わったときに、ちょっとだけ不安が軽くなっていたら嬉しいです。

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