1. はじめに
冬が近づいてくると、
「健診ではそこまで高くないのに、冬だけ血圧が上がる気がする」
「お風呂やトイレがなんとなく怖い」
こんな相談が増えてきます。
特に高血圧の薬を飲んでいる方や、家族に心筋梗塞・脳卒中の既往がある方ほど、
「冬=血圧が危ない季節」というイメージを持ちやすいかもしれません。
実際、世界的にも心筋梗塞・脳卒中などの心血管イベントは冬に多いことが、いくつもの研究で示されています。Wiley Online Library+1
日本でも、寒い時期の浴槽内の事故死やヒートショックが毎年のように問題になっています。Nippon+1
とはいえ、
「怖いからとにかくお風呂はぬるく、短く」
「血圧が少し上がっただけで毎回パニック」
…というのも、生活の質が落ちてしまいます。
この記事では、
- 冬に血圧が上がりやすい背景(寒暖差・自律神経の働き)
- お風呂・トイレで血圧が大きく変動しやすい理由
- 今日からできるシンプルな対策
を、できるだけ専門用語をかみ砕きながらお話ししていきます。
読み終わる頃には、
「全部完璧にはできないけれど、この1〜2個ならやってみようかな」
と、自分なりの“冬の血圧対策ルール”が見えてくると思います。
2. いま話題の「冬に血圧が上がる原因」って、結局なんなのか?
「冬 血圧 上がる 原因」と検索すると、
- 寒さで血管が縮む
- ヒートショックが危ない
- 冬は心筋梗塞・脳卒中が増える
といった情報がたくさん出てきます。
大枠は間違っていないのですが、
「冬=危険」とだけ覚えてしまうと、
必要以上に不安になったり、逆に「じゃあ春夏は油断していい」と勘違いしたりしがちです。
冬の血圧でよくある“勘違い”
ざっくり整理すると、次のようなイメージです。
| よくあるイメージ | 実際に近いイメージ |
|---|---|
| 冬は誰でも突然、血圧が危険なほど高くなる | もともと高血圧や動脈硬化がある人ほど、冬の血圧変動の影響を受けやすい |
| 「最高血圧がちょっと高い日」が一番危ない | 「高い+変動が大きい+寒暖差」の条件が揃うとリスクが上がりやすい |
| ヒートショックはお風呂だけの問題 | 脱衣所・トイレ・廊下など、家の中の温度差も関係する |
| 若い人には関係ない | 若い人でも、喫煙・肥満・睡眠不足・ストレスなどがあると、冬の血圧変動で負担がかかりやすい |
医学的な研究でも、冬は血圧が平均して数mmHgほど高くなり、心血管疾患のリスクも上がることが報告されています。Nature+1
ポイントは、
- 「絶対値がどれくらい高いか」
だけでなく、 - 「寒さや寒暖差でどれくらい上下しやすいか(血圧変動の大きさ)」
も大事だということです。
「ヒートショック」って何者?
ニュースでもよく聞く「ヒートショック」は、医学用語ではありませんが、
急な温度差で、血圧や脈拍が大きく揺さぶられて、心臓や脳に負担がかかる状態
と考えるとイメージしやすいです。
典型的なのは、
- 冷えた脱衣所で服を脱ぐ
- 血管がギュッと縮み、血圧が上がる
- 熱いお湯に一気に肩まで浸かる
- 血管が急に広がり、血圧がストンと下がる
- 立ち上がったときに“ふらっ”としたり、心臓・脳の血流が乱れる
こうした血圧のジェットコースターのような変動が、
心筋梗塞・脳卒中・失神などの引き金になると考えられています。PMC+1
「冬に血圧が上がる原因」は一つではなく、
- 外気温・室温の低さ
- 家の中の温度差
- 熱いお風呂
- トイレでのいきみ
- 寒さによる肩こり・睡眠不足・ストレス
など、いくつかの要素が重なった結果として起きている、
とイメージしてもらえるとよいと思います。
ちなみに、こういう書き方をするとお風呂=危険ととらえる方がいるかもしれませんが、一概にそういうわけでもありません。
お風呂の入り方によっってはメリットもたくさんあります。そのあたりは以下の記事をご参照ください。

3. からだの中で起きていること
ここからは少し、からだの“裏側のメカニズム”を覗いてみましょう。
難しい話になりすぎないように、イメージを挟みながら進めていきます。
(1)血管の「構造」から見た冬の血圧
冬の寒さに触れると、からだは熱を逃がさないように血管を縮める方向に働きます。
特に皮膚の表面や手足の血管は、暖房のスイッチを切った部屋のエアコンのように、瞬時に反応します。
- 血管が縮む(収縮する)
→ 中の圧力(血圧)が上がる
これは、ホースの口を指で少しつまむと水の勢いが強くなるのと似ています。
動脈硬化で血管が硬くなっている人ほど、
この「キュッと縮む」反応で血圧が大きく上がりやすくなります。
研究でも、室温が1℃下がるごとに収縮期血圧が約0.5mmHg上がるという報告があり、寒い家ほど血圧が高い傾向が示されています。University College London+1
(2)自律神経(神経のスイッチ)がフル稼働する
もう一人の主役が、心臓や血管をコントロールする自律神経です。
- 寒さを感じる
- からだは「危険=体温を守れ」と判断
- 交感神経がオンになり、血管を縮め、心拍数も上げる
この流れで、血圧は自然と高めにシフトします。
寒冷刺激で交感神経の活動が高まり、血圧やストレスホルモンが上昇することは、多くの実験研究でも確認されています。PMC+1
ただし、自律神経は「オン・オフ」ではなく、
日々の睡眠・ストレス・運動不足・飲酒などの影響も受けています。
- 寝不足
- 常に気を張っている
- 運動が少ない
こうした状態が続くと、“冬のスイッチ”が入った時にブレーキ役が効きにくいため、
血圧がグッと上がりやすくなります。
(3)「感覚」と血圧のギャップ
意外と見落とされがちなのが、「自分のからだをどう感じているか」という部分です。
- 「寒い」と感じているのに我慢してしまう
- 「ちょっとフラッとした」感覚をスルーしてしまう
- 入浴中の「のぼせそう」「息苦しい」をいつものことと思ってしまう
からだからのサインを拾うセンサーが鈍くなっていると、
血圧の変動そのものより、「危険の前触れに気づきにくい」ことがリスクになります。
たとえば日本では、冬の入浴中・入浴後の事故死が年間1万件以上と推計されており、
その多くが高齢者で、寒暖差・血圧変動・意識障害が関係しているとされています。SpringerLink+1
「お風呂で意識が遠のきかけたことがある」
「立ち上がるときに視界が暗くなる」
こうした経験がある方は、血圧変動+感覚の鈍さが重なっている可能性があり、
ほんの少しの工夫が、大きな事故を防ぐカギになります。
4. 日常のクセと「冬に血圧が上がる原因」の関係
ここからは、よくある生活パターンと冬の血圧の関係を、
お風呂・脱衣所・トイレの3つに分けて見ていきます。
(1)「寒い脱衣所+熱いお風呂」のコンボ
典型的な流れはこうです。
- リビングは暖かい
- 冷えた廊下・脱衣所に出る(血圧が上がる方向へ)
- 服を脱いでさらに体温が逃げやすい状態に
- 熱い湯船に肩までドボン(血管が急に広がり、血圧が下がる方向へ)
この急激なアップダウンがヒートショックの土台になります。
公的な調査でも、高齢者の浴槽内の死亡は16〜20時台の入浴時・冬季に多いことが示されており、
「寒い時間帯に熱いお風呂に入る」パターンがリスクになりやすいと考えられています。Nature+1
(2)「長風呂・アルコール後の入浴」
- 晩酌のあとに、少し酔った状態でお風呂へ
- スマホを見ながら長風呂
- 半身浴のつもりが、気づけば汗だく
アルコールには血管を広げる作用があり、
入浴による血管拡張と重なると、血圧が下がりすぎて立ちくらみや失神のリスクが高まります。
また、長風呂は脱水にもつながり、血液がドロッとして
心筋梗塞・脳梗塞のリスクを高める可能性があります。
ある研究では、冬の浴槽事故の多くが高齢者・夜間に集中していることも報告されています。PMC+1
(3)トイレでいきむ/冷えたトイレ
トイレも、冬の血圧変動と密接に関わる場所です。
- 冷えたトイレに入る → 血管が縮み、血圧が上がる方向へ
- 便秘でいきむ → 一時的に血圧がさらに上がる
- そのあと急に血圧が下がり、**失神(排便時失神)**につながるケースも
「いきみ」は心臓や血管に大きな負担をかけることが分かっており、
心不全・冠動脈疾患・不整脈のある人では、心血管イベントの引き金になり得ると報告されています。PMC+1
(4)少し変えるだけで、からだの感じ方も変わる
とはいえ、生活をガラッと変えるのは現実的ではありません。
「ここだけは」というポイントに絞るのがおすすめです。
- 脱衣所とトイレだけでも、暖房器具や断熱で極端な寒さを避ける
- お湯の温度は41℃以下・入浴時間は10〜15分程度を目安にする(のぼせやすい人はさらに短く)
- アルコールを飲んだ日は、シャワーだけにする or 入浴時間を短くする
- 便秘がある人は、水分・食物繊維・適度な運動で、いきみを減らす工夫をする
どれも「完璧にやらなくてはダメ」というものではなく、
1〜2割でも変えられれば、からだの負担は確実に減ります。
Q&Aコーナー(よくある疑問)
### Q1. 冬のお風呂は、何度くらい・どんな入り方が安全ですか?
一般的には、
- お湯の温度:40〜41℃程度
- 入浴時間:10〜15分程度
- 肩まで一気に浸からず、かけ湯→半身浴→ゆっくり肩まで
が、ヒートショック予防に推奨されることが多いです。
ポイントは、
- 脱衣所や浴室をあらかじめ温めておく
- 入る前にコップ1杯の水を飲んでおく
- 立ち上がるときは、浴槽の縁につかまり、ゆっくり動く
といった「血圧の急な変化を避ける工夫」です。
高血圧や心臓病を指摘されている方は、
主治医から**「熱いお湯は避けて」「長湯は控えて」**と言われていることも多いので、
その指示を最優先にしてくださいね。
### Q2. 冬は血圧が高めでも“仕方ない”と考えていいのでしょうか?
「冬は少し高めになりやすい」のは事実ですが、
だからといって放っておいていいわけではありません。
目安として、
- 家庭血圧で、上が135mmHg以上・下が85mmHg以上が続く
- 冬になってから、明らかに数値が上がり、頭痛・動悸・息切れなどの症状も出ている
といった場合は、一度かかりつけ医に相談しておくと安心です。
最近は、冬の日ごとの血圧変動(血圧のブレ幅)が大きい人ほど、将来の心血管リスクが高いという報告も出ています。AHA Journals+1
私としては、
- 「冬だから多少の変動はあるよね」と理解しつつも、
- 数字や症状が気になるなら早めに医師と相談して調整する
この2つを両立させるのが、いちばん現実的なスタンスかなと感じています。
### Q3. トイレで倒れないために、日常で意識できることはありますか?
トイレでの事故を減らすには、
- トイレの室温を上げる(暖房・断熱)
- いきむ時間をなるべく短くする(便秘対策)
- 「力んでも出ない」と感じたら、一度やめて後で出直す
といった工夫が有効です。
特に、
- もともと血圧が低め
- 狭心症・心筋梗塞・不整脈などの持病がある
- 立ちくらみしやすい
といった方は、長時間いきむこと自体がリスクになります。
便秘薬の調整や、食事・運動の見直しも含めて、
「トイレで粘る」習慣から「スムーズに出せるからだ作り」へ、
少しずつシフトしていけると安心です。
5. おわりに
冬になると血圧が上がりやすいのは、決して“気のせい”ではありません。
- 血管が縮みやすい構造的な理由
- 寒さで自律神経がフル稼働する神経的な理由
- 寒暖差や疲労で「からだのサイン」に気づきにくくなる感覚的な理由
これらが重なって、冬特有の血圧の上がりやすさ・変動の大きさが生まれています。
とはいえ、
全部を完璧にコントロールしようとすると、
それ自体がストレスになってしまいます。
最後に、「これだけでも十分意味がある」という
小さな一歩の例を表にまとめておきます。
| 行動のヒント | からだのイメージ |
|---|---|
| 脱衣所・トイレだけでも暖房 or 断熱をする | 「家の中の急な寒暖差」を減らし、血圧のジェットコースターをなだらかにする |
| お湯は40〜41℃・10〜15分を目安に | 血管への負担を減らしつつ、リラックス効果はしっかり確保する |
| アルコール後はシャワーか短時間入浴に | 「酔い+長風呂」の危険な組み合わせを避ける |
| 便秘対策(食物繊維・水分・軽い運動)を習慣に | トイレでの“全力いきみ”を減らし、心臓・血管への負担を軽くする |
| 気になるときは家庭血圧を記録し、医師に相談 | 「なんとなく不安」を「数字と相談」に変えて、安心材料を増やす |
全部やる必要はありません。
この中から**「これなら続けられそう」**と思うものを、ひとつ選ぶだけでも十分です。
私自身も、つい面倒で「今日はいいか」と思ってしまう日があります。
それでも、7割できたら合格くらいの感覚で、
冬のからだをいたわってあげられるといいなと思います。
冬の血圧は、ちょっとした工夫で「怖いもの」から「うまく付き合えるもの」に変わっていきます。
無理のないペースで、自分のからだとの対話を深めていきましょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
