1. はじめに
「寝つきが悪くて睡眠薬を出してもらったけれど、できればいつか減らしたい」「グリシンやGABAのサプリが良いって聞くけど、睡眠薬と併用しても大丈夫なのかな?」
こんな相談は、ここ数年で一気に増えました。
市販の睡眠サプリや、コンビニでも見かけるGABA入りチョコレート。そこに「処方の睡眠薬」や「市販の睡眠改善薬」まで加わると、
- 何がどこに効いているのか
- 一緒に飲んでいいラインと、避けた方がいいライン
- どのタイミングで医師に相談すべきなのか
が、だんだん曖昧になってきます。
この記事では、**グリシン・GABAサプリと睡眠薬の「役割の違い」と「併用を考えるときの考え方」**を整理していきます。
不安を煽るためではなく、「ここまではセルフケアでOK」「ここから先は医師と一緒に考えた方が安心」という線引きが、少しクリアになるよう意識して書いていきます。


2. いま話題のグリシン・GABAと睡眠薬の併用って、結局なんなのか?
まず、言葉の整理から始めます。
- グリシンやGABAのサプリ
- 医療用の睡眠薬
- ドラッグストアで買える市販の睡眠改善薬
これらは、同じ「睡眠」に関わっていても、性質も働き方もまったく違います。
グリシン・GABAサプリってどんなもの?
グリシンはアミノ酸の一種で、体内でも作られる成分です。就寝前に3 g程度を摂取すると、主観的な睡眠の質や、翌日の日中の眠気・疲労感が軽くなったという研究がいくつか報告されています。MDPI+3Wiley Online Library+3SpringerLink+3
一方で、長期的な安全性や、他の薬との細かい飲み合わせについては、まだ十分なデータがあるとは言えません。
**GABA(γ-アミノ酪酸)**は、脳の中で「ブレーキ役」を担う神経伝達物質です。GABAを含む発酵由来のサプリを使った試験では、75 mg程度の比較的少量で入眠までの時間が短くなった、睡眠の質が改善したとする報告もありますが、研究の数はまだ多くなく、「効果は限定的」というレビューもあります。PMC+2J-Stage+2
ポイントは、どちらも“医薬品”ではなく、あくまで「食品・サプリ」に分類されること。
効果についてある程度のデータはあるものの、医療用の睡眠薬ほど厳密な試験や、他薬との併用データは揃っていません。
医療用の睡眠薬ってどんなもの?
「睡眠薬」と聞いて多くの方がイメージするのは、病院やクリニックで処方される**医療用の睡眠薬(催眠鎮静薬)**です。
代表的なものとしては、
- ベンゾジアゼピン系・ベンゾジアゼピン受容体作動薬(いわゆる“ベンゾ系”)
- 非ベンゾジアゼピン系(ゾルピデムなど)
- メラトニン受容体作動薬
- オレキシン受容体拮抗薬
などがあり、日本でも長年、不眠症治療の中心として使われてきました。PMC+2Wiley Online Library+2
一方で、ベンゾジアゼピン受容体作動薬の長期連用は、依存や離脱症状、認知機能への影響などが問題になっており、国内外のガイドラインでは「なるべく短期間にとどめる」ことが推奨されています。厚生労働省+3jssr.jp+3ジャマネットワーク+3
市販の睡眠改善薬との違い
ドラッグストアで購入できる「睡眠改善薬」「寝つきが悪い方に」と書かれたものは、多くが**抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミンなど)**を含んでおり、脳を少し“ぼんやり”させることで眠りやすくする薬です。
こちらも医薬品ではありますが、処方薬とは成分も働き方も異なります。
ざっくり整理すると…
いったん表にしてみます。
| 種類 | 何にあたる? | 主な例 | どこに効く? | 注意ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 医療用睡眠薬 | 処方医薬品 | ベンゾ系、非ベンゾ系、オレキシン拮抗薬など | 脳の睡眠・覚醒システムに直接作用し、「眠らせる力」が強い | 依存性・転倒リスク・認知機能への影響など。自己判断で増減しない |
| 市販の睡眠改善薬 | 一般用医薬品 | 抗ヒスタミン成分など | 眠気を起こしやすくして寝つきを助ける | 日中の眠気・口渇・排尿困難など。高齢者は要注意 |
| グリシン・GABAサプリ | 食品・サプリメント | 粉末・カプセル・飲料など | 自律神経や体温調節、リラックス感のサポート | 医薬品ほどの効果・エビデンスはなく、他の薬との併用データも少ない |
グリシン・GABAと睡眠薬の併用というのは、
「脳にしっかり効く薬」と「からだのリズムやリラックスをそっと後押しする成分」を同時に使っていく、というイメージに近いです。
大切なのは、「どちらが良い・悪い」ではなく、役割の違いを知ったうえで、無理のない組み合わせにすることです。
3. からだの中で起きていること
ここからは、体の中で何が起きているのかをイメージしやすい形で見ていきます。
神経のブレーキとアクセル
脳の中では、常に「オン」と「オフ」の信号が飛び交っています。
- アクセル役 … グルタミン酸などの興奮性の神経伝達物質
- ブレーキ役 … GABA(γ-アミノ酪酸)やグリシンなどの抑制性の神経伝達物質
日中はアクセル寄り、夜になるにつれてブレーキ寄りに切り替わっていくことで、「そろそろ眠る時間だよ」という流れが生まれます。
処方の睡眠薬の多くは、この**GABAの働きを強めることで“強制的にブレーキを踏ませる”**タイプがメインです。琉球大学学術リポジトリ
一方、サプリとしてとるGABAやグリシンは、**自律神経や体温調節、リラックス感を少しずつ整えることで、“ブレーキを踏みやすい環境を作る”**イメージに近いと言えます。
グリシンがしていること
グリシンは、脳幹や脊髄で働く抑制性の神経伝達物質でもあり、体温の調整や深部体温の低下をうながすことで睡眠に関わっていると考えられています。PMC+1
ヒトを対象とした研究では、
- 就寝前に3 gのグリシンを摂取すると、
- 主観的な睡眠の質
- 翌日の日中の眠気や疲労
が改善したという報告がいくつかあります。PMC+3Wiley Online Library+3SpringerLink+3
また、多くの試験で大きな副作用は報告されておらず、短期間・通常量の範囲では比較的安全性が高いと考えられています。ただし、これは「健康な成人」を対象とした研究が中心であり、持病がある方や多剤併用の方にそのまま当てはめてよい、という意味ではありません。
GABAサプリがしていること
GABAはもともと脳内で作られる物質ですが、「サプリとして飲んだGABAがどこまで脳に届くか?」については、まだ議論が続いています。
- 一部の研究では、GABAを含む食品やサプリの摂取で、入眠までの時間が短くなり、ノンレム睡眠が増えたという結果もあります。J-Stage+1
- しかし、睡眠への効果に関しては、エビデンスはまだ限定的で、より質の高い研究が必要とされています。Frontiers
とはいえ、大まかなところでは、
- 交感神経(アクセル)を少し落ち着かせる
- リラックス感を高める
といった方向に働き、**「寝る準備がしやすいからだ」に近づける可能性がある、と捉えるとわかりやすいかもしれません。
睡眠薬がしていること
医療用の睡眠薬は、脳の睡眠・覚醒システムのどこかを直接ガツンと調整する役割です。
- ベンゾジアゼピン受容体作動薬や非ベンゾ系薬は、GABAの働きを強めて神経活動を抑え、「眠り」を強くうながします。琉球大学学術リポジトリ+1
- オレキシン受容体拮抗薬は、「起きていなさい」というシステムを抑えることで、眠りへの切り替えを助けます。琉球大学学術リポジトリ
その分、効き目もはっきりしている一方で、長期連用による依存や認知機能への影響、転倒・骨折リスクの増加などが各国のガイドラインや大規模研究で問題視されています。jssr.jp+2ジャマネットワーク+2
「感覚」としてどう現れるか
からだの構造や神経の話をしましたが、最終的には「感覚」として立ち上がってきます。
- グリシン・GABAサプリ
- 手足が少しあたたまる
- 呼吸がゆっくりになりやすい
- ぼんやりではなく「ふわっと力が抜ける」感覚に近い
- 睡眠薬
- まぶたが急に重くなる
- 起きたときに「まだ頭がぼーっとする」こともある
- 量や種類によっては、夜中のふらつきや記憶が曖昧になる
このあたりの違いを、「自然な眠気を後押しするサポート」と「脳のスイッチを直接操作する薬」、というイメージで持っておくと、併用を考えるときの判断材料になります。
4. 日常のクセと「グリシン・GABA・睡眠薬の併用」の関係
ここからは、生活の中でよく見かけるパターンと、グリシン・GABAサプリ・睡眠薬の使い方がどう絡むかを見ていきます。
パターン①「生活リズムはそのまま+薬とサプリを足していく」
- 寝る直前までスマホで動画やSNS
- カフェインは夕方以降も普通に摂る
- ベッドに入ってから「眠れないから睡眠薬を追加」「ついでにグリシン・GABAも」
こういった状態では、からだの「眠る準備」が整っていないまま、外からスイッチだけ切ろうとしているイメージになります。
研究でも、睡眠薬だけに頼るより、生活リズムや睡眠衛生(寝室の環境・光・音など)を整えた方が、不眠症の長期的な改善には有利とされています。jssr.jp
このパターンでは、
- グリシン・GABAサプリは「眠る準備」を後押しする側
- 睡眠薬は「スイッチを切る側」
として働きますが、土台である生活リズムが乱れたままだと、どちらも“本来の力”を発揮しづらいというのが正直なところです。

パターン②「睡眠薬を自己判断で減らしたり増やしたり+サプリを足す」
ときどき見かけるのが、
「今日はよく眠れたから、明日は半分にしてみよう」
「最近眠りが浅い気がするから、同じ量の睡眠薬にグリシンとGABAもプラスしてみよう」
といった、自己流の増減+サプリの上乗せです。
ベンゾジアゼピン受容体作動薬などの睡眠薬は、承認された用量の範囲内でも、長期連用によって依存や離脱症状が起こりうることが、厚生労働省やPMDAからも繰り返し注意喚起されています。厚生労働省+2厚生労働省+2
そのため、
- 「眠れたから突然やめる」
- 「眠れないから自己判断で増量する」
といった急な変化は、不眠をかえって悪化させたり、離脱症状を招いたりするリスクがあります。
ここにグリシン・GABAサプリを足すこと自体が、即座に危険とは限りませんが、問題は“睡眠薬の扱いが自己流になっている”ことです。
サプリをどうするかを考える前に、まずは今の睡眠薬の使い方を主治医と一緒に整理することが、結果的に一番の近道になるケースが多いと感じます。
パターン③「睡眠薬を完全にやめて、グリシン・GABAに置き換えたい」
これもよくある相談です。
「将来的には睡眠薬を卒業して、グリシンやGABAだけにしたい」
その気持ちはとても自然ですし、私自身も「いつか薬を減らしたい」という願いは大事にしてほしいと思っています。
ただ、睡眠薬を“サプリにスパッと置き換える”のはおすすめできません。
- 長期にわたって睡眠薬を使用している場合、急な中止や急な減量で、不眠や不安、動悸などの離脱症状が出ることがあります。PMDA+1
- サプリだけでは、不眠の原因(うつ病・不安障害・身体疾患など)に対して十分なケアにならないこともあります。jssr.jp+1
グリシン・GABAサプリは、「睡眠薬をやめるための魔法のスイッチ」ではなく、「睡眠薬を減らしていけるような土台づくり」をサポートする役目として捉えると、現実的な使い方になってきます。
医師に相談すべきタイミングの目安
「ここから先はセルフケアではなく、医師に相談した方がよい」ラインとして、目安になりやすいのは次のような場面です。
- 睡眠薬を3〜4週間以上飲んでいるのに、眠りの質があまり変わらない
- 処方される睡眠薬の種類や量が少しずつ増えてきている
- 日中のふらつき・物忘れ・転倒が気になる
- うつ病・不安障害・持病(心臓・呼吸器・肝臓・腎臓など)がある
- 抗うつ薬・抗てんかん薬・アルコールなど、他の中枢神経に作用するものも使っている
こういった場合は、グリシン・GABAサプリを足す前に、「今の睡眠薬の位置づけ」を主治医と一緒に確認する方が安全です。
Q&Aコーナー(よくある疑問)
### Q1. 睡眠薬とグリシン・GABAサプリは一緒に飲んでも大丈夫ですか?
一般的な量のグリシン・GABAサプリと睡眠薬の併用で、重い副作用が多発しているという報告は現時点では多くありません。MDPI+1
ただし、
- 高齢の方
- 他にもたくさん薬を飲んでいる方
- 肝臓・腎臓の機能に不安がある方
では、眠気やふらつきが強くなる、夜間の転倒リスクが高まるといった可能性が理論上考えられます。
「絶対にダメ」というより、**“安全性のデータが十分とは言えないので、主治医や薬剤師に一度確認してから”**が現実的なラインです。
### Q2. 睡眠薬をやめて、グリシンやGABAサプリだけに切り替えてもいい?
長期間睡眠薬を飲んでいる場合、急にやめたり、一気に減らしたりするのはNGです。jssr.jp+1
グリシンやGABAサプリは、睡眠の質を少しずつ整えるサポートにはなりえますが、
- 睡眠薬の離脱症状を完全に防ぐ
- 不眠症の原因そのものを解決する
といった役割までは期待しない方が現実的です。
**「少しずつ睡眠薬を減らしながら、生活リズムやサプリで土台を整える」**という流れを、主治医と一緒に作っていくのがおすすめです。
### Q3. 市販の睡眠改善薬とグリシン・GABAサプリの併用はどうですか?
市販の睡眠改善薬は、多くが抗ヒスタミン薬で、「ぼーっとさせて眠気を起こす」タイプです。厚生労働省
ここにグリシンやGABAサプリを足すと、
- 夜の眠気が強く出すぎる
- 起床後も頭が重い・だるい
- 高齢者では転倒・ふらつきのリスクが高まる
といった形で、**“効きすぎ”“ダブルパンチ”になってしまう可能性があります。
特に、運転や高所作業がある方、夜中にトイレに起きることが多い方は要注意です。
併用したい場合は、必ず薬剤師に「具体的な商品名」を伝えて相談してみてください。
5. おわりに
ここまで、グリシン・GABAサプリと睡眠薬の違い、そして「併用を考えるときの視点」を見てきました。
最後に、今日からできそうな小さな一歩を、イメージ付きで整理してみます。
| 行動の一歩 | イメージ |
|---|---|
| ① 睡眠薬とサプリの「役割」を書き出してみる | 「睡眠薬は“スイッチ”、グリシン・GABAは“土台づくりのサポーター”」と紙に書いてみると、頼り方のバランスが見えやすくなります。 |
| ② 眠る1時間前の“減速タイム”をつくる | スマホ・PCを少し控えて、照明を落とし、ぬるめのお風呂やストレッチで、からだに「そろそろ休もうね」と合図を送ります。サプリはその一部として位置づけるイメージです。 |
| ③ 「医師に相談すべきタイミング」のメモをつくる | 「睡眠薬が増えている」「物忘れやふらつきが気になる」など、自分なりの“相談サイン”を書き出しておき、次回の受診時に持っていきます。 |
全部やる必要はありません。
この中から「これならできそう」と感じるものを、ひとつだけ選んでみてください。
グリシンやGABAのサプリは、不眠症の万能薬ではありませんが、
- からだのリズムを整える
- 自律神経のバランスをととのえやすくする
- 「眠る準備」のスイッチを少し押しやすくする
といった形で、**睡眠薬だけに頼らない流れを作る“きっかけ”**になりえます。
そして何より大事なのは、ひとりで抱え込まず、「薬のことも、サプリのことも、生活習慣のことも含めて、主治医や薬剤師と一緒に調整していく」姿勢です。
眠りは、その日の心とからだの「成績表」みたいなもの。
うまくいかない日が続いても、自分を責める必要はまったくありません。
少しずつ条件を整えながら、「今日はこれをやってみたからOK」と、自分に丸をつけてあげてくださいね。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
