1. はじめに
お昼ご飯を食べて、デスクに戻った途端にまぶたが重くなる…。
会議中に意識がふっと遠のきそうになる…。
「寝不足かな?」とコーヒーを流し込んでごまかすけれど、毎日のように同じことが起きている。
そんな相談を、私は日々かなりの頻度で受けます。
「昼ご飯を食べると必ず眠くなる」「甘いものを食べたあとに、急にだるくなる」「最近、食後の眠気が前より強くなった気がする」──年齢も職種もバラバラですが、似た感覚を抱えている方はとても多い印象です。
この“食後の強い眠気・だるさ”の背景にあるキーワードのひとつが「血糖値スパイク」と呼ばれる現象です。
血糖値スパイクそのものは、最近メディアやSNSでもよく取り上げられるようになりましたが、「なんとなく体に悪そう」というイメージだけが先行して、からだの中で何が起きているのかは、意外と知られていません。
この記事では、
- 食後の眠気やだるさと血糖値の関係
- 「血糖値スパイク 眠気」というテーマの、短期・長期それぞれの影響
- 日常の“ちょっとしたクセ”がどんなふうに関わっているか
- 今日からできる現実的な対策
を、できるだけ生活の感覚に近い言葉で整理していきます。
全部を完璧に変える必要はありません。「これならできそう」というものを、ひとつだけ拾ってもらえたら十分です。


2. いま話題の血糖値スパイクと食後の眠気って、結局なんなのか?
まず、言葉の整理から軽くしておきます。
血糖値スパイクとは、ざっくり言うと「食後に血糖値が急上昇し、そのあと急降下すること」を指します。日本の医療機関や解説記事でも、食後の急な眠気や倦怠感・集中力低下の原因として、血糖値スパイクが挙げられることが増えてきました。brain-gr.com+1
「スパイク(spike)」という言葉のイメージ通り、血糖値のグラフがギザギザと鋭く“とがる”状態です。
一方で、よく似た言葉に
- 空腹時高血糖(何も食べていないときでも血糖が高い状態)
- 耐糖能異常(糖尿病とまではいかないが、糖を処理する力が落ちている状態)
などがあります。医療的には細かな定義がありますが、日常感覚でいえば
| 用語 | ざっくりしたイメージ |
|---|---|
| 空腹時高血糖 | 何も食べていなくても血糖値が高めの状態 |
| 血糖値スパイク | 食後だけ血糖値がグンと上がり下がりも激しい状態 |
| 耐糖能異常・予備群 | 「糖のさばき」がやや追いついていないグレーゾーン |
という感じです。
ここ数年、「食後のひどい眠気は血糖値スパイクが原因のことがある」「検診で空腹時血糖やHbA1cが正常でも、食後だけ大きく上がっている人がいる」といった解説が、クリニックや専門家のサイトで多く紹介されています。やのメディカルクリニック勝どき |+1
ただし、重要なのは「食後に眠い=即、糖尿病」ではないということです。
眠気には、睡眠不足・自律神経の乱れ・単純な“午後の眠気(post-lunch dip)”など、血糖値以外の要因も多数関わります。実際、午後2時前後の眠気と作業効率低下は、世界的にも“ポストランチディップ”としてよく知られており、そのメカニズムには血糖値の変化だけでなく、脳内物質や体内時計の影響も考えられています。J-STAGE+1
それでも、炭水化物や甘いものを摂ったあとに決まって強い眠気・だるさが来る
食後1〜2時間で、急に集中力が切れる感じがする
というパターンが重なる場合、血糖値スパイクが関わっている可能性は高くなります。最近の日本語の解説でも「食後の眠気やだるさは、血糖値の急激な変化が主な原因のひとつ」とされることが多くなってきました。四谷内科・内視鏡クリニック |+1
「自分ももしかして?」と感じている方は、からだの中で起きていることを少し具体的にイメージしてみましょう。
3. からだの中で起きていること
ここからは、からだの中の話をすこし丁寧にたどっていきます。
専門用語は必要最低限にして、「何がどうつながっているのか」にフォーカスしてみます。
3-1. 炭水化物 → 血糖値 → インスリン → “ちょっと下げすぎ”
ご飯やパン、麺類や甘いデザートなど、いわゆる“糖質多め”の食事をとると、消化されてブドウ糖として血液に流れ込みます。血糖値(血液中のブドウ糖の濃度)が上がると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、余ったブドウ糖を細胞の中に取り込んで血糖値を下げてくれます。
本来はこの上下動が“ゆるやかな丘”のようなカーブになるのが理想です。
ところが、
- 早食い
- 白米や白パン、甘い飲料など、血糖が上がりやすいもの中心
- あまり噛まずに一気にかき込む
- 空腹時間が長く、どか食いになる
といった条件が重なると、血糖値が短時間でグッと急上昇します。
それに合わせてインスリンがドバッと出てしまい、**「上がりすぎた分を急いで処理した結果、一時的に下げすぎる」**という状態が起こることがあります。これが、血糖値スパイクの典型的なパターンです。MYメディカル+2やのメディカルクリニック勝どき |+2
血糖値が急降下すると、脳は「エネルギーが足りないかもしれない」と判断し、
- 強い眠気
- だるさ
- 集中力の低下
- イライラ、甘いものへの渇望感
などを通して、“エネルギー不足のサイン”を送ります。日本の内科クリニックの解説でも、血糖値が急激に上昇すると強い眠気が起こり、急激に低下したときには強い空腹感やイライラを感じやすくなると説明されています。brain-gr.com+1
「昼ご飯をしっかり食べたのに、すぐにまた甘いものが欲しくなる」「食後の眠気のあと、妙にイライラする」という感覚は、こうした血糖値のジェットコースターに振り回されている可能性があります。
3-2. 覚醒ホルモン“オレキシン”と眠気
血糖値スパイクと眠気の関係では、オレキシンという脳内物質もよく話題になります。
オレキシンは、覚醒(目を覚まして活動する状態)を維持するうえで重要な働きをするペプチドで、「血糖値が高い状態が続くと、オレキシンの分泌が抑えられ、眠気やだるさにつながる」というメカニズムが指摘されています。MYメディカル+1
研究レベルではまだ議論もありますが、
- 食後に血糖値が大きく変動
- それに応じてインスリン・オレキシン・自律神経が揺さぶられる
- 結果として、眠気・だるさ・集中力低下として感じられる
という流れは、多くの報告で共通しています。
私たちの日常感覚でいえば、「ご飯や甘いもので短時間の“ハイ”を作って、その反動で“強烈な眠気とだるさ”がやってくる」というイメージに近いかもしれません。
3-3. GI値が高い食事ほど、眠気を招きやすい?
炭水化物の種類によっても、血糖値の上がり方は違います。
GI値(グリセミック・インデックス)は、食後の血糖値の上昇のしやすさを示す指標で、GI値が高いほど血糖値が上がりやすい食品ということになります。
一部の研究では、GI値の高い食事をとったあとのほうが、低GIの食事に比べて主観的な眠気が強くなると報告されています。サイエンスダイレクト+1
また、睡眠と覚醒に関する研究の中でも、食事の内容と血糖値の変化が、日中の眠気や作業効率に影響する可能性が示されています。MDPI
もちろん、すべての人が同じように反応するわけではありませんが、
- 白米・白パン・麺類・砂糖たっぷりのスイーツなど、GIが高いものが中心
- 野菜やたんぱく質・脂質が少なく、炭水化物に偏った食事
といったパターンほど、血糖値スパイクによる眠気を招きやすい、という方向性はほぼ共通しています。
3-4. 「ちょっと眠い」で終わらない、長期的なリスク
「眠くなるだけなら、我慢すればいいのでは?」
そう感じるかもしれませんが、血糖値スパイクの影響は短期的なパフォーマンス低下だけではありません。
心血管領域のレビューでは、食後の血糖値の急上昇(postprandial hyperglycemia)が、平均的な血糖値以上に心血管イベントのリスクと関連することが、複数の疫学研究で示されています。Frontiers+2Dove Medical Press+2
メカニズムとしては、
- 急激な血糖値の上昇が血管内皮に酸化ストレスを与える
- それが慢性的な炎症や動脈硬化の進行に関わる
といった流れが考えられています。幹細胞治療 表参道ヘレネクリニック+1
もちろん、たまに血糖値が高くなるだけで即座に大きな病気になるわけではありません。ただ、「毎日・毎食後のように血糖値スパイクが起きている」状態が長く続くと、生活習慣病の土台を少しずつ固めてしまう可能性があります。
ですから、
食後の眠気・だるさは、「病気になったサイン」ではなく、「からだからの早めのメッセージ」
と捉えてあげるのが、いちばん現実的で前向きな姿勢だと私は感じています。
4. 日常のクセと血糖値スパイクの関係
ここからは、もう少し生活の場面に降りていきます。
同じ“血糖値スパイク”でも、それを招きやすいパターンには、いくつかの共通点があります。
4-1. お昼どきの「炭水化物ドカ食い」パターン
一番よく見かけるのが、
- 朝はコーヒーだけ、あるいは何も食べない
- 昼前にはかなりお腹が空いている
- 昼食は丼もの・ラーメン・パスタなど一皿で済ませる
- 野菜やたんぱく質は少なめ
- 早食いになりやすい
というパターンです。
空腹時間が長いほど、“のどが渇いたスポンジ”のように糖を一気に吸い込みやすくなりますし、炭水化物メインの食事は血糖値を上げやすい条件がそろっています。
さらに、仕事の合間で時間がないと、どうしても噛む回数が減り、食事時間も短くなりがちです。
日本の医療機関の解説でも、「高糖質・早食い・野菜不足」が食後の眠気や血糖値スパイクの要因として繰り返し挙げられています。四谷内科・内視鏡クリニック |+1
「お昼ご飯のあとだけ、特に眠気が強い」という人は、このパターンが当てはまっていないか、一度振り返ってみる価値があります。
4-2. 夜遅い食事と“リセットされないままの朝”
もう一つ多いのが、
- 夜遅い時間にしっかり食べる(21〜23時台など)
- 寝る直前までスマホ・PCで脳が興奮状態
- 寝不足のまま翌朝を迎え、食欲がわかない
- 結果として朝食を抜きがち
という流れです。
睡眠不足や夜更かしは、それ自体が インスリンの効き方を悪くし、血糖値のコントロールを乱しやすくすることが、さまざまな研究で示されています。MDPI+1
夜遅くまでダラダラ食べて、睡眠の質が落ちる
→ 朝は胃腸が重くて食べる気がしない
→ 昼に一気に食べる
→ 血糖値スパイクと眠気が強くなる
という“負のループ”に入ってしまうと、「生活リズム」と「血糖値」がお互いを悪い方向に引っ張り合いやすくなります。
4-3. 食後すぐに座りっぱなし・スマホ見っぱなし
食後の過ごし方も、血糖の上下に影響します。
最近の研究では、食後に中等度の運動(速歩きなど)を取り入れると、食後血糖値が有意に低く保たれることが報告されています。PMC+1
体を少し動かすことで、筋肉がブドウ糖を取り込みやすくなり、血糖値のピークを緩やかにできるからです。
反対に、
- 食後すぐにデスクに戻り、動かずに座りっぱなし
- スマホを見ながら、追加で甘い飲み物やお菓子をつまむ
というパターンは、血糖値スパイクが起きやすい条件のかたまりです。
動かないうえに、糖質の“追い打ち”がかかるため、眠気とだるさが重くのしかかってきます。
4-4. 「完璧」ではなく「1〜2割の修正」でいい
ここまで読んで、
そんなにいろいろ気にしていたら、食事が楽しくなくなりそう…
と思った方もいるかもしれません。
私自身も、仕事が立て込むとつい早食いになりがちですし、甘いものに手が伸びてしまうことも正直あります。
大事なのは、「全部を一気に変える」ことではなく、**「血糖値スパイクを招いているクセを1〜2割だけやさしく修正する」**イメージです。
例えば、
- 白米の一部を雑穀米にする
- 丼ものだけで済ませず、サラダや味噌汁を先にとる
- 昼食のときだけ、よく噛むことを意識してみる
- 食後すぐPCに向かわず、3〜5分だけ歩く・階段を使う
といった“小さな工夫”でも、血糖値のカーブは少しずつなだらかになっていきます。
ここで、読者の方からよく聞かれる質問にも触れておきます。
Q1. 毎回ご飯のあとに強い眠気が来るのは、もう隠れ糖尿病でしょうか?
結論から言うと、**「必ずしもそうとは限らないけれど、チェックしておいて損はない」**という答えになります。
食後の眠気は、血糖値スパイクだけでなく、睡眠不足・自律神経の乱れ・単純な午後のリズムなど、さまざまな要因が重なって起きます。
ただし、健診で空腹時血糖が正常でも、食後だけ血糖値が大きく上がっている人が一定数いることは、国内外の研究で知られています。brain-gr.com+2サイエンスダイレクト+2
- 40代以降
- 家族に糖尿病の人がいる
- 体重増加や血圧・コレステロールも気になり始めている
といった条件が重なる場合は、一度かかりつけ医に相談し、食後の血糖測定やOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)なども視野に入れてみるのがおすすめです。
「隠れ糖尿病かどうか」を自分だけで決めつけず、専門家の目を借りることで、安心材料にもなります。
Q2. コーヒーやエナジードリンクで眠気をごまかしても大丈夫?
一時的に眠気を和らげるには、カフェインが役立つ場面もあります。
ただ、
- 砂糖たっぷりの缶コーヒー
- 甘いエナジードリンク
は、さらに血糖値スパイクを強めてしまう可能性があります。
眠気を抑えたつもりが、糖分の追加でまた血糖値のジェットコースターに乗ってしまう…ということにもなりかねません。
どうしてもカフェインを使うなら、
- 無糖〜微糖のコーヒーやお茶
- 量と時間帯をしぼる(夕方以降は控えめに)
といった“付き合い方の調整”を意識してみてください。
Q3. 低糖質ダイエットにすれば、血糖値スパイクも眠気も完全になくせますか?
糖質を極端に減らせば、確かに血糖値が大きく上がる場面は減ります。
ただ、「ゼロか100か」になってしまうと、長続きしないことがほとんどですし、場合によっては栄養バランスを崩して別の不調を招くリスクもあります。
現実的には、
- 食事全体の“糖質の質と量”をちょっと整える
- たんぱく質・脂質・食物繊維を一緒にとって吸収を緩やかにする
- よく噛む・食べる順番を意識する
といった**「穏やかな調整」**を積み重ねたほうが、からだにも心にも優しいと私は感じています。
5. おわりに
ここまで、「食後の眠気・だるさ」と血糖値スパイクの関係を眺めてきました。
最後に、今日からできる“小さな一歩”を、イメージしやすい形でまとめておきます。
| 行動のヒント | イメージ |
|---|---|
| 昼食に野菜かスープを一品足し、先に食べる | ご飯・麺の“前にクッションを入れる”感じ |
| 食事時間を5分だけ伸ばし、よく噛む | 「早食い競争」を降りて、ゆっくりモードへ |
| 食後に3〜5分だけ歩く・階段を使う | 血糖値の“山”を、足でなだらかにする |
| 甘い飲み物を「毎日」から「ときどき」へ | ジェットコースターを“減便”するイメージ |
すべてを一度にやろうとすると、それ自体がストレスになってしまいます。
この中から1つだけ、「これならできそう」と思ったものを選ぶだけで十分です。
記事全体のポイントをざっくり振り返ると、
- 「血糖値スパイク 眠気」という組み合わせは、お昼後の“仕事にならないほどのだるさ”と深く関係しているが、原因は血糖値だけに限らない。
- 高糖質・早食い・動かない・夜更かしといった日常のクセが重なると、血糖値のジェットコースターに乗りやすくなり、短期的な眠気だけでなく、長期的な生活習慣病リスクにもつながる。高級会員制人間ドック | SBIメディック+2Frontiers+2
- 完璧主義ではなく、「野菜を先に」「よく噛む」「少し歩く」など、小さな修正を積み重ねることで、からだはゆっくりと“揺れ幅の小さいモード”に戻っていける。
もし、食後の眠気やだるさがつらくて、「仕事にならない」「毎日不安になる」という感覚が続いているなら、それはあなたのからだからの真面目なサインです。
「サボっている」わけでも、「気合が足りない」わけでもありません。
少しずつでも、血糖値の波をやさしく整えていくことで、
午後の時間帯が今よりすこし軽く、集中しやすいものに変わっていきます。
焦らず、できるところから。
からだの声に耳を傾けながら、自分なりの「ちょうどいい食べ方・暮らし方」を一緒に見つけていきましょう。 🌱
今回も最後までお読みいただきありがとういございました。
