「やる気が出ない・ぼーっとする」の正体~スマホ時代の“脳疲労”とは何か~

スマホを見続けてやる気が出ない・ぼーっとしている大人のイラスト(脳疲労で頭が重く感じているイメージ)
目次

1. はじめに

最近、「体はそんなに疲れていないのに、やる気が出ない」「一日中ぼーっとして集中できない」という相談がとても増えています。
休みの日にしっかり寝たつもりでも、月曜の朝から頭が重くてエンジンがかからない……そんな感覚、心当たりはないでしょうか。

しかも、この「なんとなくしんどい」は健康診断の結果には出てきません。血液検査も画像検査も大きな異常はなく、「ストレスですかね」と言われて終わってしまうことも多いです。

私はこの状態を、あくまでイメージとして「脳のスタミナ切れ」と説明することがあります。
筋肉が疲れるように、情報処理を担当している脳も、使い方次第でヘトヘトになるからです。

この記事では、いまよく耳にする「脳疲労」という言葉を手がかりに、

  • なぜ「やる気が出ない」「ぼーっとする」が起きるのか
  • スマホ時代ならではの“脳過労”の背景
  • 今日からできる「脳の休憩タイム」のつくり方

を、できるだけやさしい言葉で整理していきます。

「全部を完璧に変える」のではなく、「これならやれそう」という小さな一歩を一緒に探すつもりで、読み進めてみてください。


2. いま話題の「脳疲労」って、結局なんなのか?

「脳疲労」「脳過労」「脳デトックス」……SNSや雑誌で見かける機会が増えましたが、医学の教科書にそのまま載っている正式な診断名ではありません。
ただ、指している中身はおおよそ共通していて、

情報や刺激を処理し続けた結果、脳がオーバーヒート気味になり、集中力や判断力・感情のコントロールが落ちている状態

をイメージして使われることが多いです。

専門的には「精神的疲労」「認知的疲労」「メンタル・ファティーグ」などと呼ばれ、最近では「デジタル・ファティーグ(Digital fatigue)」という言葉も使われます。デジタル機器の酷使によって、精神的な消耗や認知負荷が高まる状態として報告されています。ijsi.in

イメージを整理するために、ごくシンプルに分けると次のようになります。

用語主なイメージ
身体的疲労長時間の立ち仕事・運動などで筋肉が重だるい
精神的疲労対人ストレス・プレッシャーで気分的にぐったり
脳疲労(脳過労)情報処理・マルチタスク・デジタル機器で頭がオーバーワーク

ネット上には「脳疲労チェック」と称したリストも多く、「やる気が出ない」「集中できない」「ミスが増えた」など、今回のテーマそのものが並んでいます。
こうしたチェックは目安としては悪くありませんが、「いくつ当てはまったら病気」という明確な線引きがあるわけではありません。

ざっくりまとめると、脳疲労とは

  • 頭が休む暇もなく働き続け
  • その結果、集中・判断・感情のコントロールが落ちている状態

と捉えておくとよいと思います。


3. からだの中で起きていること ― 構造・神経・感覚の裏側

「やる気が出ない」「ぼーっとする」とき、脳の中ではどんなことが起きているのでしょうか。ここでは少しだけ“中身”を覗いてみます。

3-1. 睡眠不足で“前頭葉”のブレーキが利きにくくなる

脳疲労と切り離せないのが「睡眠」です。
近年の研究では、睡眠不足や睡眠の質の低下が、注意力・判断力・記憶力を大きく落とすことが繰り返し報告されています。Frontiers

特に、計画や判断・感情のコントロールに関わる「前頭葉」は、睡眠不足の影響を受けやすいとされています。
一晩ほとんど眠れなかっただけでも、反応速度が低下し、注意が途切れやすくなることが示されています。Nature

「しっかり寝たつもり」でも、途中で何度も目が覚めていたり、寝る直前までスマホを見ていて浅い眠りが多かったりすると、脳にとっては“睡眠負債”が溜まっている状態になります。

結果として、

  • 仕事中にぼーっとしてしまう
  • 同じ行を何度も読み返してしまう
  • イライラしやすくなる

といった「脳疲労の症状」が前面に出てきます。

3-2. スマホ・PCによる「情報過多」と自律神経の乱れ

スマホやPCのおかげで、私たちは常に情報にアクセスできるようになりました。便利な一方で、「情報過多」「常時接続」による負担も無視できません。

スマホの使いすぎがストレスや不安感、睡眠の質の低下と関連していること、また情報過多や常時接続が「テクノストレス」を引き起こし、仕事や勉強のパフォーマンスを落とすことが報告されています。SpringerLink+1

夜のスマホ長時間使用は、

  • ブルーライトによる体内時計の乱れ
  • SNSやニュースによる感情の高ぶり
  • 「返信しなきゃ」「見逃したくない」といった心理的な緊張

を通して交感神経(“アクセル役”の神経)を優位にし、睡眠の質をさらに悪くします。

その結果、「寝ているはずなのに脳が休めていない」状態が続き、日中のぼんやり感や頭の重さとして現れてきます。

3-3. 首・肩まわりの“物理的な負荷”も脳に伝わる

構造的な視点で見ると、いわゆる「スマホ首」の姿勢も脳疲労と無関係ではありません。
頭はボーリング球ほどの重さがあり、前に傾くほど首や肩の筋肉にかかる負担が増えます。

長時間うつむいた姿勢が続くと、

  • 首・肩の筋肉が常に緊張した状態になる
  • 頭部への血流が滞りやすくなる
  • 目から入る情報と体の感覚のズレが大きくなる

など、感覚の“ノイズ”が増えたような環境になります。
この「ちょっとしたノイズ」の積み重ねも、集中しづらさや疲れやすさにつながりやすいと考えられます。

3-4. 感情の揺れやすさも「脳の疲れ」の一部

脳は、身体の状態だけでなく感情も処理しています。
不安・怒り・悲しみといった強い感情が続くと、それだけで膨大なエネルギーを消費します。

SNSのタイムラインをスクロールしながら、怒り・羨ましさ・不安といった感情が短時間で切り替わると、脳は休む暇がありません。
ある研究では、ソーシャルメディアの情報過多が「ソーシャルメディア疲労」を引き起こし、精神的な疲弊や不安と関連することが示されています。PMC

感情のジェットコースターに乗り続けていれば、どこかで「もう無理」と脳がブレーキを踏むのは自然なことです。


4. 日常のクセと脳疲労の関係

ここからは、よくある生活パターンと脳疲労のつながりを、少し具体的に見ていきます。

4-1. 一日中「ながらスマホ・ながら仕事」

  • 通勤中はニュースとSNS
  • 仕事中はメール・チャット・資料作成を同時進行
  • 休憩時間もスマホで動画視聴
  • 帰宅後はテレビをつけたままスマホゲーム

こうした「常に何かを見て・判断している」状態では、脳の情報処理は休みなく続きます。

一見座っているだけ・指先を動かしているだけでも、脳のエネルギー消費はかなりのもの。
長時間の集中作業でメンタル・ファティーグが蓄積すると、ミスの増加やパフォーマンス低下につながることが報告されています。サイエンスダイレクト

「休憩中もスマホ」だと、脳は一日中“入力モード”のままになりがちです。

4-2. マルチタスクで「脳の切り替えスイッチ」が消耗する

人間の脳は、本来それほどマルチタスクに強くありません。
メール通知を見ながら作業し、合間にSNSを開き、頭の中では「今晩のごはんどうしよう」と考える……という状態では、そのたびに「注意の切り替え」が起こります。

この切り替えには意外とエネルギーが必要で、頻度が増えるほど脳は疲れやすくなります。
私自身も、仕事中に通知を全部オンにしていると、仕事が終わった後の“ぐったり感”が明らかに違うと感じることがあります。

4-3. 「少しずつの睡眠負債」が積もり続ける

平日は5〜6時間睡眠で乗り切り、週末に“寝だめ”をする。
こうした生活パターンは珍しくありませんが、研究では、慢性的な睡眠不足が続くと注意・判断・記憶などの認知機能が回復しきらず、ミスやパフォーマンス低下が続くことが示されています。Dove Medical Press

つまり、脳のスタミナが常にフルチャージされないまま走り続けているイメージです。

4-4. 「休憩しているつもり」で、実は脳が休めていない

短い休憩(マイクロブレイク)が、疲労感の軽減には一定の効果があるというメタ解析があります。PMC
一方で、「どんな休憩でもOK」というわけではなく、質の低い休憩ではパフォーマンスが十分に回復しないことも指摘されています。

たとえば、

  • 休憩中ずっとSNSをスクロール
  • 動画を見ながら、さらに別のことを考えている

といった過ごし方は、体は休んでいても脳は情報処理を続けています。
休憩のつもりが、実は「情報過多の延長」になっているケースも多いのです。

4-5. Q&A:よくある疑問に答えておきます

### Q1. 「脳疲労チェック」をやってみたら、ほとんど当てはまりました。大丈夫でしょうか?

市販の「脳過労チェック」やネット上のリストは、「自分の生活を振り返るきっかけ」としては役立ちますが、診断ではありません。
多く当てはまるからといって、それだけで重大な病気というわけではないですし、逆に、当てはまる項目が少なくてもつらいことはあります。

大事なのは「どれくらい生活に支障が出ているか」。
仕事・家事・人間関係に明らかな影響が出てきた、気分の落ち込みが強い、といった場合は、チェック表の結果に関わらず一度専門家に相談してみると安心です。

### Q2. 脳疲労と病気のサインはどう見分ければいいですか?

「疲れているだけ」と思っていたら、実は別の病気が隠れていることもあります。
次のような症状がある場合は、早めに医療機関の受診をおすすめします。

  • 片側の手足の麻痺・しびれ、ろれつが回りにくい
  • 今まで経験したことのないような激しい頭痛
  • 息苦しさ・胸の痛み・動悸が続く
  • 数週間以上続く強い気分の落ち込みや、何に対しても興味がわかない

「いつもと違う」「これはさすがにおかしい」と感じたら、「脳疲労だから」と自己判断せず、まず安全を確かめることが大切です。

### Q3. サプリやドリンクで「脳デトックス」してもいいですか?

カフェインを含む飲み物などは、一時的に集中力を上げる手助けにはなります。ただし、根本的な「脳の疲れ」を取っているわけではなく、借金を先送りしているだけのことも多いです。

また、「脳デトックス」「脳の若返り」をうたうサプリの中には、エビデンスが十分とは言えないものもあります。
基本的には、

  • 睡眠
  • 情報量のコントロール
  • 軽い運動やリラックス時間

といった生活習慣が土台であり、サプリはあくまで“おまけ”くらいに考えておくとよいでしょう。持病や内服薬がある方は、自己判断せず医師や薬剤師に相談することをおすすめします。


5. おわりに ― 「ぐっすり」と「ぼんやり」を、少しだけ増やしてみる

ここまで読んでくださった方は、「結局、何から始めたらいいの?」と感じているかもしれません。
全部を一気に変える必要はありません。脳疲労ケアの柱は、とてもシンプルです。

  • 夜にしっかり「ぐっすり」眠れる土台をつくること
  • 日中に意識的な「ぼんやりタイム」をつくること

この2本柱だけでも、脳の負担はかなり変わります。

たとえば、こんな小さな一歩からでも十分です。

行動のヒントイメージ
寝る30分前からスマホを手放す「画面断食タイム」を一日の区切りにする
1時間に1回、30〜60秒だけ遠くを見る目と頭を“外の景色”にリセットする
昼休みに5分だけ、ゆっくり深呼吸する何も入力しない“無音の時間”をつくる
寝る前に「今日一番うれしかったこと」を1つ思い出す感情のギアを少しだけ“安心側”に戻す

この中から、気になったものをひとつだけ選んで、数日〜1週間試してみてください。
「なんだか夕方のどんより感が少しマシかも」「イライラの波が少し緩やかになった気がする」――そんな小さな変化も、立派な前進です。

最後に、記事全体のポイントを3つだけまとめておきます。

  1. 「やる気が出ない・ぼーっとする」は、脳のスタミナ切れ――いわゆる“脳疲労”のサインであることが多い。
  2. 情報過多・スマホ過剰・睡眠負債・マルチタスクが重なると、脳は休む暇を失い、集中力や感情のコントロールが落ちやすくなる。
  3. 寝る前のスマホ時間を短くする、マイクロブレイクで「何もしない瞬間」をつくるなど、小さな工夫でも脳の負担は少しずつ軽くできる。

「最近ちょっと脳がくたびれているかも」と感じているとしたら、
それは、あなたのからだと心からの優しいSOSです。

全部は変えなくて大丈夫です。
できそうなことを、ひとつだけ選んでみてください。
その小さな一歩が、“ぼーっとした毎日”から抜け出すきっかけになっていきます。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

からだトレンドラボを運営している、理学療法士のテラサワです。
病院やクリニックでのリハビリに長く関わる中で、
「もっと早く知っていれば楽になれたのに」という声を
何度も聞いてきました。

このブログでは、からだや健康にまつわる“トレンド情報”を、
医学的な視点でていねいに噛み砕いてお届けします。
難しいことはできるだけやさしく。
読み終わったときに、ちょっとだけ不安が軽くなっていたら嬉しいです。

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