1. はじめに
「朝、家族全員がだるそうに起きてこない」「なんとなくみんな不機嫌で、風邪も順番にうつっている気がする」。
こんな話を耳にすることがよくあります。
誰か一人だけではなく、「家族全員がなんとなく不調」という状態。熱があるわけでも、検査で異常が出るわけでもないのに、疲れやすさや頭の重さ、イライラ、寝起きの悪さがじわじわ続いていきます。
よくよく聞いていくと、
- 子どもは夜までスマホやゲームを触っている
- 親もベッドに入ってから長くスマホを見ている
- 休日は全員が「寝だめ」して昼近くまで起きてこない
- 誰かが風邪をひくと、家族内でぐるっと一周する
…こうした「家族の睡眠リズム」と「スマホ習慣」「感染症」の組み合わせが見えてくることが多いです。
この記事では、家族単位で起きている“なんとなく不調”と睡眠の関係を整理しながら、今日からできる小さな工夫までお伝えしていきます。
完璧を目指す必要はありません。「これなら、うちでも一つできそうだな」と感じたところを一つだけ拾ってもらえたら十分です。


2. いま話題の「家族の“なんとなく不調”と睡眠」って、結局なんなのか?
「なんとなく不調」が家族ぐるみになるとき
「なんとなく不調」という言葉は、人によって中身が少しずつ違います。
多いのは、こんな感覚です。
- 朝起きられない、起きてもすぐ動けない
- ずっと眠い、だるい
- 頭痛や肩こり、目の疲れが続く
- イライラしやすい、やる気が出ない
これが家族全員にかぶっている状態だと、「うちの家族って、みんな体力がないのかな」「性格の問題かな」と捉えられてしまうこともあります。
けれど実際には、「からだそのもの」ではなく、
家族で共有している生活リズムや睡眠習慣が関わっているケースがとても多いです。
子どもの睡眠不足は“例外”ではなく、かなりよくある
日本では、子どもたちの睡眠時間が足りていないことが、さまざまな調査で指摘されています。
厚生労働省のガイドラインでは、小学生はおおむね9〜12時間、中高生は8〜10時間程度の睡眠が目安とされていますが、実際にはそれより短い子どもが多いと報告されています。毎日新聞+1
夜更かしや朝の早起きだけでなく、
- 塾や習い事で帰宅が遅くなる
- 家族全員の夕食や入浴が遅い
- 寝る前のスマホやゲームが習慣になっている
といった要素が重なり、「気づいたら睡眠時間が削られていた」という状況が生まれます。
スマホやゲームと睡眠の関係
ここ十数年、子どもや大人のスクリーンタイムと睡眠の関係を調べた研究が多く出ています。
複数の系統的レビューでは、5〜17歳を対象とした67本以上の研究をまとめた結果、画面を見る時間が長いほど、睡眠時間が短くなったり、寝つきが悪くなったりしやすいことが報告されています。PubMed+1
さらに、夜のスマホ利用と睡眠の質を調べた近年のレビューでは、
- 寝る前のスクリーン使用は、寝つきの遅れ
- 夜間の中途覚醒や、浅い眠りの増加
といった問題と結びついていることも示されています。sleephealthjournal.org+1
つまり「スマホが悪い」というより、夜の遅い時間の光・情報・興奮が、家族全員の睡眠リズムをずらしていくと考えた方がしっくりきます。

感染症と「病み上がりのだるさ」のループ
冬場や新学期には、風邪やインフルエンザなど感染症が家族内で一巡することがあります。その後も、「熱は下がったのにだるさが続く」「なんとなく本調子に戻らない」という“病み上がりの不調”が残る人も少なくありません。
海外の医療機関や総説では、**ウイルス感染後に数週間〜数か月続く疲労感(ポストウイルス疲労)**が存在することが示されています。PMC+3North Bristol NHS Trust+3Healthline+3
そこに、もともとの睡眠不足や夜更かし、ストレスが重なると、「家族内で順番にだるさが続く」というループが起きやすくなります。
3. からだの中で起きていること
ここからは、「家族のなんとなく不調 × 睡眠」で、からだの中で何が起きているのかを、少し丁寧に見ていきます。
1)睡眠リズムと自律神経
人のからだには、24時間のリズム(体内時計)があります。
このリズムに合わせて、自律神経やホルモン、体温が変化し、「今は活動の時間」「今は休む時間」と切り替えています。
- 日中は、活動モード(交感神経優位)
- 夜は、休息モード(副交感神経優位)
というイメージです。
夜更かしが続いたり、寝る時間がバラバラだったりすると、
- 夜になっても脳と自律神経が「まだ起きていたい」と勘違いする
- 朝になっても「まだ夜だ」と感じてしまう
結果として、朝起きられない・日中だるい・イライラしやすいなどの「なんとなく不調」が出やすくなります。
子どもの場合、睡眠時間の不足や不規則な睡眠は、メンタルヘルスや日中の集中力、学業成績とも関連するという報告もあります。BMJ Open+1
「ぐっすり寝ること」は、体力だけでなく、こころの安定にも直結しているのです。
2)夜のスマホ習慣がもたらすもの
スマホやタブレットの画面から出る光(特にブルーライト)は、眠気を誘うホルモン「メラトニン」の分泌を遅らせることが知られています。
それに加えて、SNSや動画、ゲームから入ってくる情報は、脳を「まだ活動したいモード」に保ちやすくします。
研究をまとめたレビューでは、夜の画面使用時間が増えるほど、
- 寝つくまでの時間が長くなる
- 総睡眠時間が短くなる
- 夜中に目が覚めやすくなる
といった“睡眠の質の低下”に結びつく傾向が、子ども・大人ともに示されています。sleephealthjournal.org+1
親がベッドでずっとスマホを触っている姿を、子どもは意外とよく見ています。
「大人がやっていること」が家族のスタンダードになり、結果的に家族全員のスクリーンタイムが夜側に寄っていくことも多いです。
私自身も、ついベッドの中でニュースやSNSを長く見てしまい、「あ、今日ちょっと脳が起きてる感じがするな」と反省することがあります。
3)「休日寝だめ」と体内時計のズレ
平日は早起き、休日は昼近くまで寝る——。
これ自体は、多くの人が経験していることだと思います。
ただし、睡眠研究では、休日に大きく寝る時間・起きる時間がズレるほど、月曜日以降の体調不良や集中力低下が起きやすいといった報告があります。サイエンスダイレクト+1
体内時計からすると、
- 平日は「時差+0時間」の国にいる
- 休日は、急に「時差+2〜3時間」の国に移動する
ような状態。
これを毎週くり返していると、軽い“時差ボケ”を毎週リセットしないまま生活しているようなものです。
大人と同じリズムで動かされている子どもにとっては、そこに成長期特有の睡眠リズムの変化も重なるため、朝起きられない・イライラしやすい・授業に集中できない、といった形であらわれやすくなります。PMC+1
4)感染症と「だるさ」が長引く理由
風邪やインフルエンザなどにかかると、免疫がウイルスと戦うために大量のエネルギーを使います。熱が下がっても、からだの中では修復作業が続いており、その間は疲れやすさ・眠気・筋肉の重さが残ることがあります。
複数の医療機関やレビューでは、ポストウイルス疲労は数週間〜数か月続くことがあり、睡眠・ストレス・活動量のバランス調整が回復の鍵になるとされています。PMC+2ランセット+2
もし家族の誰かが十分に休めないまま復帰し、そこで夜更かしや睡眠不足が続くと、
- だるさが抜けきらない
- 免疫が回復しきらない
- また風邪をもらいやすくなる
というループになり、家族内での感染と“なんとなく不調”が長引くことがあります。

4. 日常のクセと「家族のなんとなく不調 × 睡眠」の関係
ここからは、少し“生活の場面”に落としてみます。
思い当たるところがあれば、「全部じゃなくても、この部分だけ少し変えてみようかな」と眺めてもらえたら十分です。
パターン1:夜遅くまで明るいリビングと、ダラダラ就寝
夕食が終わるのが21時前後、そこからテレビやスマホを見ながら家族団らん。
子どもは宿題をしながら、合間にタブレット。大人はソファでスマホ。気づいたら23時を過ぎていて、そこから慌ててお風呂・就寝——。
こうした生活が続くと、
- 子ども:睡眠時間が短くなり、朝の目覚めが悪い・日中の集中力低下
- 親:寝る直前まで光と情報を浴びて、眠りが浅くなる・日中の疲れが取れにくい
という形で、家族全員の「なんとなく不調」につながっていきます。
実際に、夜間のスクリーン使用や不規則な就寝時間が、小児の睡眠問題や日中の疲労感と関連しているという調査結果もあります。サイエンスダイレクト+1
パターン2:休日の「まとめて寝る」で崩れるリズム
平日は6時半起床、休日は11時まで寝ている——こうした“寝だめスタイル”は、一時的には気持ちよくても、体内時計からするとかなり大きな負担になります。
特に子どもは、もともと必要な睡眠時間が大人より長いぶん、
- 平日に不足した睡眠を、休日だけでは補いきれない
- 月曜日〜火曜日に「睡眠負債」の影響が出やすい
という状態に陥りがちです。
**「休日も、起きる時間を平日より1〜2時間以内のズレにおさめる」**というだけでも、体内時計の安定にはかなりプラスです。
パターン3:病み上がりでもフルスロットル
感染症からの回復期に、こんなパターンもよく見られます。
- 熱が下がった翌日から、いつも通り学校や仕事にフル出勤
- 「もう平気そうだし」と夜更かしやゲームをすぐ再開
- 週末にまとめて予定を詰め込む
ポストウイルス疲労に関するガイドでは、症状が落ち着いたあとも、一定期間は“7割程度の力で生活する”イメージで、活動と休息のバランスをとることが推奨されています。North Bristol NHS Trust+1
家族の中で誰か一人が、あまり休めないままフル稼働モードに戻ると、その人が「再び体調を崩す→家族内でまた感染が広がる」という巡りになりやすいのです。
Q&A:家族の睡眠と“なんとなく不調”のよくある疑問
Q1. 子どもは、結局どれくらい寝ればいいのでしょうか?
年齢や個人差はありますが、目安としては、
- 小学生:おおむね9〜12時間
- 中学生〜高校生:8〜10時間
が推奨されています。毎日新聞
実際にはそこまで取れない日も当然ありますが、平均してこのゾーンに近づけていくイメージが大切です。
どうしても時間が確保しにくい場合は、「就寝時間を10〜15分だけ早めてみる」など、少しずつ前倒ししていく方が、からだへの負担が少なく済みます。
Q2. スマホは何時までにやめるのが理想ですか?
研究では、「寝る前1〜2時間のスクリーン使用が睡眠の質に影響しやすい」という報告が多いです。sleephealthjournal.org+1
理想を言えば、就寝の1時間前にはスマホ・タブレット・ゲームを手放し、光と情報を減らしていくのがベストです。
一気にゼロにするのが難しい場合は、まず「布団の中にスマホを持ち込まない」「寝る直前の動画視聴だけやめてみる」といった小さなルールから始めるのがおすすめです。
Q3. 病み上がりのだるさが続くとき、どこまで様子を見ていいのでしょう?
熱や強い咳・息苦しさ・ぐったり感などの「明らかな悪化」がある場合は、もちろん早めの受診が大切です。
そのうえで、単なる疲労感やだるさが数週間以上続くときは、ポストウイルス疲労の可能性も含めて、一度かかりつけ医に相談しておくと安心です。メディカルニューストゥデイ+1
家庭でできることとしては、
- 睡眠時間とリズムを整える
- いきなり激しい運動ではなく、軽い散歩などから活動量を少しずつ戻す
- 学校や仕事の負荷を、一時的に7〜8割程度に調整する
など、「がんばりすぎない回復期」を意識することが大切です。
5. おわりに
家族全員の“なんとなく不調”は、「体が弱いから」「みんな性格的にだらしないから」といった話ではありません。
多くの場合、家族で共有している睡眠リズム・夜のスマホ習慣・感染症からの回復の仕方といった“生活の設計図”が、大きく関わっています。
とはいえ、いきなり全部を理想通りに変えるのは現実的ではありません。
ここでは、今日から試せる「小さな一歩」を、イメージとセットで整理してみます。
| 小さな一歩 | イメージ |
|---|---|
| 平日の就寝・起床時間を「毎日±30分以内」におさめてみる | 体内時計にとっての“ゆるやかなリフォーム” |
| 寝る1時間前は「スマホ・ゲームをお休みタイム」にする | 脳と目をクールダウンさせる準備運動 |
| 病み上がりの1週間は、家事・仕事・部活などを「いつもの7割」に調整する | 体の“修復作業”に余白を残す感覚 |
| 休日も、起きる時間は平日より1〜2時間のズレまでにする | 毎週の“時差ボケ”を予防する工夫 |
この中から、**「今のわが家でも現実的にできそうなものを一つだけ」**選んでもらえれば十分です。
一つの小さな変化が、家族全員の睡眠リズムと自律神経にじわじわと良い影響を広げていきます。
家族の誰か一人が「なんとなく不調」から抜け出しはじめると、空気が少しやわらぎます。
その変化が、周りの家族にも伝染していきます。
「うちの家族、ちょっとしんどそうだな」と感じたときは、
責めるのでも、完璧を目指すのでもなく、みんなで一歩だけ“睡眠と生活リズム”を見直してみる。
そんなやさしいスタートからでも、からだはちゃんと応えてくれます。
どうか、焦らず、できるところから少しずつ整えていってくださいね。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
