胃腸炎のとき何を食べて何を飲む?~ノロなどウイルス性胃腸炎と水分補給の基本~

胃腸炎のときの食べ物と飲み物のイメージとして、おかゆとバナナ、経口補水液のボトルとコップが並び、水分補給の大切さを示すイラスト
目次

1. はじめに

冬になると、どうしても増えてくるのが「嘔吐と下痢でヘトヘトです…」という胃腸炎の相談です。
ここ数年は、ノロウイルスをはじめとするウイルス性胃腸炎が、日本でも世界でも例年より目立っていると報告されています。Vax-Before-Travel+1

そんな中で検索をすると、

  • 「胃腸炎 食べ物 飲み物」
  • 「ノロウイルス 何を食べる」
  • 「嘔吐下痢 水分補給 方法」

といったキーワードがずらっと並びます。情報は多いのに、「結局、自分や家族にはどうしたらいいの?」がかえって分かりにくくなりがちです。

臨床の現場でも、

  • スポーツドリンクをガブ飲みして、かえって下痢が長引いてしまった
  • こわくてほぼ絶食状態が続き、回復が遅れてしまった
  • 家族で胃腸炎が“リレー”して、何週間も落ち着かなかった

…というケースをよく見ます。

この記事では、「何を食べるか」よりも一歩引いて、

どう回復を待つか・どう水分補給するか

という視点を軸に、胃腸炎と付き合うための整理棚をつくっていきます。
読み終わるころには、「全部はできなくても、このポイントだけは押さえておこう」と思えるラインが見えてくるはずです。


2. いま話題の「胃腸炎のときの食べ物・飲み物」って、結局なんなのか?

「お腹の風邪」と呼ばれるウイルス性胃腸炎

冬に増える急性胃腸炎の多くは、ノロウイルスなどによるウイルス性胃腸炎です。主な症状は嘔吐・水っぽい下痢・腹痛・発熱で、多くは数日の経過で自然に回復します。国立健康危機管理研究機構+1

強い症状のわりに、抗ウイルス薬が効くタイプではないため、治療の基本は対症療法、つまり「からだがウイルスを追い出しているあいだ、いかに安全にやり過ごすか」です。厚生労働省のQ&Aでも、ノロウイルスに特効薬はなく、水分と栄養の補給が治療の中心になるとされています。厚生労働省

ここで多くの人が気になるのが、

  • 何を飲ませればいい?(水?お茶?経口補水液?ポカリ?)
  • 何を食べてよくて、何を避けたほうがいい?
  • 胃腸炎はいつから普通の食事に戻していいの?

といったポイントです。

「経口補水液」と「スポーツドリンク」は、似て非なるもの

ネットでもよく見かけるのが、「下痢 経口補水液 ポカリ 違い」という疑問です。

ざっくり整理すると、

飲み物特徴のイメージ向いている場面の例
経口補水液(ORS)ナトリウム(塩分)とブドウ糖のバランスが、脱水の治療用に調整されている特別用途食品政府のオンライン+1嘔吐・下痢で「脱水ぎみかな?」というとき
スポーツドリンク運動時の水分・エネルギー補給が目的。糖分はやや多めで、ナトリウムはORSより少なめMayo Clinic+1軽い運動時・発汗時の水分補給
水・麦茶など糖分・塩分はほぼゼロ。飲み慣れていて受け入れやすい軽い症状のときのこまめな水分補給

世界各国のガイドラインや公的な情報でも、「ウイルス性胃腸炎による軽〜中等度の脱水には、経口補水液(ORS)がもっとも推奨される」ことが繰り返し示されています。糖尿病・消化器病・腎疾患研究所+2Medscape+2

一方で、健康な大人が軽い症状であれば、スポーツドリンクや薄めたジュース、スープなどでもある程度は補えます。ただし、砂糖を多く含む飲み物は下痢を悪化させる可能性があるため、海外の医療機関も「炭酸飲料や濃いジュースは控えめに」と注意喚起しています。Mayo Clinic+1

「何を食べるか」より「いつ・どのくらい食べるか」

「ノロウイルス 何を食べる」で検索すると、うどん・おかゆ・バナナ・りんご…といろいろ出てきますが、実は食べ物の種類よりもタイミングと量のほうが大事です。

  • 嘔吐や強い吐き気があるあいだは、無理に固形物を入れない
  • 吐き気が落ち着いて、少し水分が飲めるようになってから、「少量ずつ」「消化のよいもの」から
  • 「普通の食事」は、少し柔らかめ・脂っこくないものを少量から試し、問題なければ徐々に戻していく

感染症のガイドラインでも、「嘔吐がおさまったら少しずつ水分を補給し、様子を見ながら食事を再開する」といった流れが示されています。厚生労働省+1


3. からだの中で起きていること

ここからは、からだの中で何が起きているのかを、できるだけイメージしやすく紐解いていきます。

腸の“じゅうたん”が荒れている状態

ノロウイルスなどのウイルスは、小腸の表面(絨毛とよばれる細かな突起の部分)で増殖し、腸の粘膜に炎症を起こします。NSMC Hospital+1

腸の内側は、栄養と水分を吸収するための“ふわふわのじゅうたん”のような構造になっていますが、炎症が起きると、

  • 水分を吸収する力が落ちる
  • 腸の中に水分が溜まりやすくなり、水っぽい下痢が出る
  • 腸の動きも不規則になり、腹痛やゴロゴロ感が出る

といった変化が起こります。

からだとしては「ウイルスを早く外に出したい」ので、下痢や嘔吐はある意味“防御反応”。
その代わり、水分と電解質(ナトリウム・カリウムなど)もどんどん失われるのが問題です。

脱水になると、自律神経にかなりの負担がかかる

嘔吐や下痢で体液が失われていくと、

  • 血液量が少しずつ減る
  • 血圧を維持するために、交感神経がフル稼働する
  • 心拍数が上がり、めまい・だるさ・頭痛が出やすくなる

といった負のループに入りやすくなります。
特に高齢者や乳幼児は、短時間で脱水が進みやすく、公的機関も「嘔吐や下痢が続くときは水分補給に注意を」と繰り返し注意喚起しています。広島県公式サイト+1

「なんだかぐったりしている」「口が渇いて、尿の回数・量が減っている」「立ち上がるとフラッとする」などは、脱水サインとして要注意です。

経口補水液が“治療用”と言われる理由

経口補水液(ORS)は、単なるイオン飲料ではなく、

  • ナトリウム:胃腸炎で失われやすい塩分を効率よく補う量
  • ブドウ糖:腸から水分とナトリウムを一緒に取り込む“運び屋”として最適な量
  • カリウムなどの電解質もバランスよく配合

という形で、脱水の治療を目的に設計された飲み物です。政府のオンライン+2Royal Children’s Hospital+2

世界的にも、ウイルス性胃腸炎での死亡が大幅に減った背景には、この経口補水療法の普及が大きく貢献したとされています。Medscape+1

一方で、

  • 味にクセがあり、気持ち悪くて受け付けない人もいる
  • 脱水がそれほど強くないのに常飲すると、塩分摂取過多になる可能性もある

といった点から、「なんとなく健康に良さそうだから普段からガブ飲みするもの」ではないことも大切なポイントです。

スポーツドリンクやジュースは“補助的”に

スポーツドリンクは、「運動で汗をかいたときのエネルギー+水分補給」が目的なので、糖分はやや多めに含まれています。
海外の医療機関も、「ウイルス性胃腸炎では、糖分の多い飲み物が下痢を悪化させることがある」としています。Mayo Clinic+1

とはいえ、成分だけを見て「絶対ダメ」とするのも現実的ではありません。
子どもがどうしても経口補水液を飲めないとき、ガチガチに制限して水分がほとんど入らないよりは、

  • スポーツドリンクを少し薄めて少量ずつ
  • 気持ち悪くなりにくい温度(常温〜少し冷たい程度)で

といった“現実的な折り合い”をつけるほうが、かえって安全なこともあります。

腸の感覚は“過敏モード”になっている

胃腸炎の最中や直後は、腸の粘膜だけでなく、腸から脳へ上がる感覚の信号も過敏になっています。

  • いつもなら平気な量の食事でも、「お腹いっぱいで気持ち悪い」と感じやすい
  • 脂っこいもの・甘いもの・刺激物などで、腹痛や下痢がぶり返しやすい
  • においや見た目だけで吐き気が誘発されることもある

自律神経もフル稼働している状態なので、「早く栄養をつけなきゃ」と頑張りすぎるほど、からだの感覚とのギャップが大きくなり、戻してしまう…ということが起こります。


4. 日常のクセと「胃腸炎のときの食べ物・飲み物」の関係

ここでは、日常のクセと、胃腸炎との付き合い方がどう結びついているかを見ていきます。
ちょっと耳が痛い部分もあるかもしれませんが、「ここだけ少し変えてみようかな」という視点で読んでもらえたらうれしいです。

パターン1:「早く普通食に戻さなきゃ」と頑張りすぎる

真面目な方ほど、「早く元気になりたい」「体力を落としたくない」という思いから、

  • 嘔吐が止まってすぐに通常の量の食事をとる
  • 揚げ物・肉類など、いつもどおりのおかずを食べてしまう

という“頑張りすぎ”モードに入りやすいです。

腸の粘膜と感覚がまだ回復途中の段階で、消化に負担のかかるものを入れると、

  • 胃のあたりのムカムカ
  • 食後すぐの腹痛・下痢
  • だるさのぶり返し

が起こりやすくなります。

目安としては、

  1. 嘔吐が24時間以上おさまっている
  2. 少量の水分をとっても気持ち悪くならない
  3. 尿がある程度出ている

このあたりを確認しながら、「おかゆ・うどん・バナナ・りんごのすりおろし」など、消化のやさしいものを少量から試していくイメージが現実的です。

パターン2:「絶食して胃腸を休めないと」と我慢しすぎる

逆に、インターネット上の情報を見て「胃腸炎のときは絶食が一番」と考え、ほぼ水だけで数日過ごしてしまう方もいます。

確かに、強い嘔吐や腹痛がある最初の数時間〜半日は、無理に食べないほうが安全です。ただ、その後もずっと極端な制限を続けると、

  • 体力の消耗が激しくなる
  • 低血糖気味になり、ふらつきや頭痛が出る
  • 回復している腸に、適度な「動く刺激」が入らない

といったデメリットも出てきます。
多くのガイドラインでは「嘔吐がおさまったら、様子を見ながら食事を再開する」ことが勧められており、「長期絶食」が推奨されているわけではありません。厚生労働省+1

パターン3:水分補給が“ジュース・炭酸・濃いスポドリ”に偏る

子どもや若い世代でよく見るのが、

  • 甘い炭酸飲料やジュースをメインに飲んでしまう
  • 濃いめのスポーツドリンクを一気飲みする

というパターンです。

砂糖の濃度が高い飲み物は、腸の中の浸透圧(しみこむ力)のバランスを崩し、下痢を悪化させることがあります。Mayo Clinic+1

どうしてもそういった飲み物しか受け付けない場合は、

  • 水で1:1くらいに薄めて、少量ずつ
  • 「美味しく飲める範囲で、できるだけ薄める」

という折り合い方が一つの目安になります。

パターン4:一気飲み・一気食べでまた吐いてしまう

「嘔吐下痢 水分補給 方法」と検索すると、「少量ずつこまめに」という言葉がよく出てきます。これは単なるお決まりフレーズではなく、とても合理的なやり方です。

嘔吐後しばらくは、胃の入り口付近の感覚がかなり敏感になっていて、

  • 一気に大量の水分が入る
  • 胃が急に膨らむ
  • その刺激で再び吐き気スイッチが入る

という流れが起こりやすくなります。

ティースプーン1杯〜数口ずつ、10〜15分おきくらいから始めて、吐き気がぶり返さないことを確認しながら少しずつ量を増やしていくのが、安全な王道パターンです。

パターン5:家族で胃腸炎が“リレー”してしまう

「家族で胃腸炎 消毒 対策」も、冬場によく検索されるキーワードです。
ノロウイルスは、吐物や便の中に大量に含まれており、ほんの少量でも口から入ると感染することが知られています。国立健康危機管理研究機構+2広島県公式サイト+2

公的な資料では、家庭内での対策として、

  • 嘔吐物や便の処理は、使い捨て手袋とマスクを着けて行う
  • 使い捨てのペーパーなどで覆い、次亜塩素酸ナトリウムを含む消毒液で拭き取る
  • トイレ・ドアノブ・洗面所などを定期的に消毒する
  • 石けんと流水での手洗いを、いつも以上に丁寧にする

といった点が繰り返し挙げられています。厚生労働省+2福岡県公式サイト+2

「家族の誰かがかかったら、全員が一緒に覚悟するしかない…」と思ってしまいがちですが、感染経路をできるだけ遮断することで、“リレー状態”になるリスクはかなり減らせます。


Q1. 胃腸炎のとき、ポカリと経口補水液はどっちがいい?

A. 脱水の強さと、飲めるかどうかで選ぶのがおすすめです。

  • 「尿がほとんど出ていない」「ぐったりしている」など、脱水が心配なときは、経口補水液(ORS)が第一候補です。
  • 症状が比較的軽く、水やお茶も飲めている大人なら、スポーツドリンクを薄めて飲む形でもかまいません。

ただ、どちらにしても「一度に大量に」ではなく、「少量ずつこまめに」がポイントです。
腎臓や心臓に持病のある方は、自己判断で大量に飲まず、医療者に相談してください。

Q2. 胃腸炎のときは、絶食したほうが早く治りますか?

A. 強い嘔吐の最中は食べないほうが安全ですが、何日も“水だけ”で過ごすのはおすすめできません。

嘔吐が続いているあいだは、無理に食べるとそのまま戻してしまい、誤嚥(気管に入ること)のリスクもあります。
嘔吐が落ち着き、水分がとれるようになったら、

  1. おかゆ・柔らかいうどん・バナナなど、消化のよいものを少量
  2. 問題なければ、量と種類を少しずつ増やす

というふうに“段階的に戻す”イメージが現実的です。
「胃腸炎 いつから普通の食事?」という問いには、「嘔吐が落ち着いて、水分が飲めるようになってから、少しずつ」というのが答えになります。

Q3. どんなときに病院を受診したほうがいいですか?

A. 迷ったときは“脱水のサイン”を目安にしてください。

  • 水分をほとんど受け付けない、または飲んでもすぐ吐いてしまう
  • 尿がほとんど出ない、口が強く渇いている、目がくぼんでいる
  • 高熱が続く、ぐったりして意識がもうろうとしている
  • 血便が出る、激しい腹痛がある
  • 高齢者・乳幼児・持病のある方で、いつもと様子が違う

こういった場合は、時間帯にかかわらず医療機関に相談してください。
「そこまでではないけれど心配」というときも、電話で相談できる窓口(#7119など)を活用すると安心です。


5. おわりに 〜「全部」ではなく「ひとつだけ」からでOK

胃腸炎のときの「食べ物・飲み物」は、どうしても不安がつきまといます。
私自身も、家族が嘔吐下痢になったときは、「これで本当に大丈夫かな…」と心のどこかでソワソワしてしまうことがあります。

最後に、今日から実践しやすい“小さな一歩”を、行動のイメージと一緒に整理しておきます。

行動のヒントイメージ
水分は「ティースプーン〜数口」を10〜15分おきに胃をびっくりさせないよう、少しずつならす
経口補水液は“脱水ぎみのときの治療用”として使う普段飲みではなく、「困ったときの切り札」として
食事再開は「おかゆ・うどん・バナナ」など少量から腸のじゅうたんを、そっとなでるように慣らしていく
家族の嘔吐物・便は手袋+マスクで処理&しっかり手洗い家の中に“見えないウイルスの粉”をまき散らさない

全部を完璧にやろうとすると、それだけで疲れてしまいます。
この中から「いまの自分にできそうなものを1つだけ」選ぶところからで十分です。

  • 脱水を防ぐために、少量ずつこまめな水分補給を意識する
  • 「治すために食べなきゃ」ではなく、「からだの感覚を見ながら、少しずつ戻す」
  • 家族内の感染リレーを減らすために、トイレと手洗いだけは丁寧に

そんな小さな工夫でも、からだにとっては大きな安心材料になります。
つらい時間は長く感じられますが、多くのウイルス性胃腸炎は、からだが自力で乗り切ってくれる病気です。

「ちゃんと休んで、水分をうまく入れてあげよう」と思えたら、それだけで回復への道筋はぐっと整っていきます。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

からだトレンドラボを運営している、理学療法士のテラサワです。
病院やクリニックでのリハビリに長く関わる中で、
「もっと早く知っていれば楽になれたのに」という声を
何度も聞いてきました。

このブログでは、からだや健康にまつわる“トレンド情報”を、
医学的な視点でていねいに噛み砕いてお届けします。
難しいことはできるだけやさしく。
読み終わったときに、ちょっとだけ不安が軽くなっていたら嬉しいです。

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