黄砂やPM2.5が多い日に体調が悪くなるのはなぜ?~だるさ・咳・自律神経の関係~

黄砂やPM2.5が多い日に空を見上げながら、だるさや咳・頭重感などの体調不良に悩んでいる女性のイメージイラスト(背景はかすんだ空と街並み)
目次

1. はじめに

春先〜初夏にかけて、「今日は空が白っぽいな」「車のフロントガラスがうっすら黄色い…」という日が増えてきます。そういう日にかぎって、

  • なんとなくだるい
  • 頭が重い
  • 咳や喉の違和感が続く
  • 夜も眠りが浅い

といった声を聞くことが多くなります。

私のもとに来られる方の中にも、「黄砂が飛ぶ日は決まって体調が落ちる」「PM2.5の予報が“多い”の日は一日しんどい」と感じている方が少なくありません。検索ワードでいうと「黄砂 PM2.5 体調不良」のような組み合わせで、原因を探している方も増えている印象です。

一方で、

  • 「ニュースを見ると、怖くなってしまう」
  • 「どこまで気をつければいいのかわからない」

という戸惑いも、とてもよく分かります。

この記事では、“必要以上に怖がらず、でも楽観しすぎず”のちょうどいいところを目指しながら、

  • 黄砂・PM2.5とは何者なのか
  • 体の中でどんな変化が起きているのか
  • 日常生活のどこを整えるとラクになりやすいのか

を、呼吸器・自律神経・アレルギーの観点から整理していきます。
読み終わるころには、「全部は無理でも、この1〜2個なら試せそうだな」と感じてもらえたらうれしいです。


2. いま話題の「黄砂」と「PM2.5」による体調不良って、結局なんなのか?

まずは、名前の整理から軽くしておきます。
同じニュース画面に「黄砂」「PM2.5」「大気汚染」「花粉」が並ぶので、とても分かりにくくなりがちです。

ざっくり言うと、

  • 黄砂:主に中国内陸の砂漠地帯などから飛んでくる“砂ぼこりの雲”
  • PM2.5:直径2.5マイクロメートル以下の、とても細かい粒子(排気ガス・工場・煙など由来)
  • 花粉:スギやヒノキなどの植物が飛ばす粒(もっと大きい)

といった違いがあります。

イメージしやすいように、簡単な表にしてみます。

項目黄砂(こうさ)PM2.5花粉
粒の大きさの目安数µm〜数十µm2.5µm以下(髪の毛の太さの約30分の1以下)おおよそ数十µm以上
主な発生源砂漠地帯の土壌が風で巻き上げられたもの排気ガス・工場の煙・燃焼・二次生成粒子など植物(スギ・ヒノキ など)
日本までの飛び方偏西風に乗って中国〜朝鮮半島経由で飛来国内外の発生源から広く拡散近くの山林・街路樹から飛散
主な影響空が黄ばむ・視界不良・呼吸器やアレルギー悪化心臓・肺・血管への負担、慢性疾患のリスクなどくしゃみ・鼻水・目のかゆみ

黄砂そのものも細かい粒ですが、途中の大気汚染物質や花粉などを“おんぶして”運んでくることがある、と言われています。特にアレルギーや喘息を持つ方では、黄砂の飛来日に咳や症状が悪化するという疫学研究が複数報告されています。J-STAGE+1

一方、PM2.5は“粒の細かさ”自体が問題です。世界保健機関(WHO)は、PM2.5が心筋梗塞・脳卒中・慢性閉塞性肺疾患・肺がんなどのリスクを高める重要な要因だとしています。世界保健機関+1
2021年のWHO新ガイドラインでは、年間平均5µg/m³以下というかなり厳しい基準が示され、日本の環境基準(年平均15µg/m³、1日平均35µg/m³以下)よりも低く設定されています。PMC+1

日本では、PM2.5の1日平均が70µg/m³を超えると、環境省の暫定指針として「屋外での長時間の激しい運動を避ける」などの注意喚起が出されます。jsce-ac.umin.jp

ここまで読むと、「なんだか怖い話ばかりだな」と感じてしまうかもしれません。ただ大事なのは、

  • “1日外に出たら即大病”という話ではなく、積み重なるとリスクになる
  • 持病がある人や子ども・高齢者は、より丁寧に守ってあげたい

という“距離感”です。

黄砂やPM2.5が多い日に体調不良を感じるのは決して気のせいではなく、ちゃんと理由があります。その理由を、からだの内側で起きていることから見ていきます。


3. からだの中で起きていること

呼吸器にとっては「細かい砂や煙」が直接ぶつかる

黄砂やPM2.5は、まず**呼吸器(鼻・喉・気管・肺)**を直撃します。

ある研究では、黄砂(kosa)が飛来した日のあと、喘息や慢性の咳を持つ患者さんの咳の回数が増えたことが報告されています。金沢大学KURA+1
また、アジアダストが気道の炎症を強め、喘息やアレルギー性疾患を悪化させる仕組みも指摘されています。KURENAI

PM2.5はさらに厄介で、粒が非常に細かいため、

  • 鼻や喉を通り抜けて肺の奥(肺胞)まで入り込み
  • 場合によっては血管内にまで届く

とされています。WHOは、こうした微小粒子が心臓や血管、肺だけでなく、脳や他の臓器にも影響しうると指摘しています。世界保健機関+1

その結果として、

  • 喉のイガイガ
  • 咳が出る・痰が絡む
  • 胸が重い感じがする
  • 息切れしやすい

といった症状が出やすくなります。もともと喘息・COPD・心疾患がある方は、こうした日には普段よりも呼吸器や心臓に負担がかかっていると考えてあげるのが安全です。

自律神経が「常に軽く警戒モード」になる

「黄砂が強い日は、からだ全体がだるくて、頭もぼーっとする」「PM2.5が多い日の夕方は、妙に疲れがドッと出る」という訴えは少なくありません。

理由のひとつとして、自律神経のバランスの乱れが考えられます。

最近の研究では、PM2.5などの大気汚染物質にさらされると、心拍変動(HRV:心拍のゆらぎ)が低下し、交感神経(“戦う・逃げる”側)が優位になりやすいことが報告されています。SpringerLink+1
心拍変動が小さくなるというのは、「自律神経のクッション性が弱くなり、緊張モードに傾きやすい」状態とも言い換えられます。

結果として、

  • なんとなく落ち着かない
  • 動悸が気になる
  • 眠りが浅い・途中で目が覚める
  • 疲れが抜けにくい

といった“全身のだるさ”につながりやすくなります。

黄砂の日は、外の光がにごり、景色もぼんやりします。脳に入ってくる視覚情報や体の感覚も「いつもと違う」状態になり、それだけでも自律神経には小さなストレスになります。そこに細かな粒子の刺激や、花粉やウイルスの心配ごとなどが重なると、体は軽く「防御モード」に入ってしまう、というわけです。

アレルギーと炎症のスイッチが入りやすくなる

もうひとつのポイントは、アレルギーと炎症です。

黄砂の粒子には、土壌成分だけでなく、途中で付着した大気汚染物質や微生物などが含まれていることがあります。花粉と一緒に吸い込むことで、アレルギー反応をより強くする可能性も指摘されています。J-STAGE

炎症が起きると、体の中ではサイトカインと呼ばれる物質が増えます。これ自体は「異物を追い出すための正常な反応」ですが、量が増えすぎると、

  • 熱っぽさ
  • だるさ
  • 筋肉痛のような重さ

として感じられます。風邪をひいたときに全身がだるくなるのと似たイメージです。

さらに、短期間であっても、PM2.5濃度が高い日は心臓や肺の病気での入院がわずかに増える、という大規模研究もあります。BMJ+1
「一日だけだから大丈夫」と割り切るのではなく、「しんどい日に無理を重ねない」ことが、体を守るうえで大切になってきます。


4. 日常のクセと「黄砂・PM2.5の多い日の体調不良」の関係

黄砂やPM2.5が多い日でも、全く平気な人もいれば、強く体調不良が出る人もいます。
その差を生みやすいのが、日常のちょっとしたクセです。

パターン1:その日の“空気情報”を見ないまま、いつも通り行動してしまう

春の晴れた日は、つい気分がよくなって、

  • 朝から窓を全開にして換気
  • 洗濯物をたっぷり外干し
  • 日中も長時間屋外で過ごす

といった行動をしやすくなります。

ただ、黄砂やPM2.5が「多い」予報の日にこれを続けると、

  • 室内に粒子をたくさん取り込む
  • 洗濯物や布団の表面に付着させてしまう
  • 呼吸器への刺激時間が長くなる

といった形で、体への負担が増えやすくなります。
特に、夜になっても咳や喉のイガイガが続く方は、「日中に吸い込んだもの」がそのまま残っていることが多い印象です。

パターン2:エアコン・空気清浄機・加湿のバランスがちぐはぐ

空気が悪い日は「窓を締め切る」方向に振れやすいのですが、

  • 室内が乾燥しすぎる
  • エアコンの風がダイレクトに顔や首に当たる
  • ほこりがたまりやすい

など、別の形で呼吸器や自律神経にストレスがかかることがあります。

一方で、空気清浄機を使っていても、

  • フィルターの掃除を忘れている
  • 風量が弱すぎて部屋全体が回っていない

といった状態では、期待しているほどの効果が出ないこともあります。

大事なのは、「締め切るか、全開か」の二択ではなく、

  • 黄砂・PM2.5が多い時間帯は窓を控えめに
  • その代わり、空気清浄機や換気扇を上手に使う
  • 加湿をほどよく保ち、喉のバリア機能をサポートする

という中間点を探していくことです。

パターン3:睡眠不足・ストレス・過労がベースにある

黄砂やPM2.5に敏感な人ほど、

  • もともと睡眠時間が短い
  • 疲れがたまっている
  • ストレスが強い時期が続いている

という背景を持っていることが少なくありません。

大気汚染と心臓・呼吸器系の病気の関係を調べた研究では、「同じ汚染レベルでも、ベースの健康状態が悪い人ほど影響を受けやすい」といった傾向が示されています。bmjgroup.com+1

自律神経の面から見ても、寝不足やストレス状態では交感神経優位が続いており、そこに「空気の悪さ」という刺激が重なると、だるさ・頭重感・動悸などが出やすくなります。

「黄砂のせいだけ」にするよりも、

もともとの余裕が少ないところに、
黄砂やPM2.5という“負荷”がちょっと乗っかった。

と考えてあげると、対策の方向性が見えやすくなります。

パターン4:花粉症持ちさんの“ダブルパンチ”

花粉症がある方にとって、黄砂の季節はまさにダブルパンチです。
黄砂の粒が、大気中の汚染物質や花粉をくっつけて運び、気道の炎症やアレルギー反応を強める可能性が示されています。J-STAGE+1

その結果として、

  • 同じ花粉量でも症状が重く感じる
  • 鼻づまりが強くなり、口呼吸が増える
  • 夜のいびき・睡眠の質の低下 → 日中のだるさ

というループに入りやすくなります。

「今年は例年より花粉症がしんどいな…」という年ほど、実は黄砂やPM2.5の飛来状況も影響しているかもしれません。


ここまで読んで、「じゃあ、実際のところどう行動したらいいの?」という疑問も湧いてきたと思います。
よくいただく質問を、Q&Aの形でまとめておきます。

Q1. 黄砂やPM2.5が多い日は、外に出ないほうがいいですか?

完全に外出をゼロにする必要はありませんが、

  • 喘息や心臓病がある
  • 高齢の方・小さなお子さん
  • 妊娠中、体調が不安定

といった方は、「長時間の激しい屋外運動は控えめにする」くらいの意識を持っておくと安心です。

日本の暫定指針では、1日平均のPM2.5濃度が70µg/m³を超えるような日には、屋外での長時間の運動を控えるように呼びかけています。jsce-ac.umin.jp

普段から元気な方でも、

  • ウォーキングやランニングは時間を短めに
  • 日中ピークの時間帯を避けて朝夕にずらす

など、「量とタイミングの調整」で負担を減らすイメージがよいと思います。

Q2. 普通のマスクでも意味はありますか?

はい、不織布マスクでも一定の効果はあります。

N95マスクなどの高性能マスクのほうがPM2.5のカット率は高いとされていますが、一般的な不織布マスクでも、まったくしないよりは吸い込む量を減らすことができます。

  • 顔にフィットするサイズを選ぶ
  • 鼻の部分をしっかり密着させる
  • 汚れたらこまめに交換する

といった基本を押さえるだけでも、喉の違和感や咳の出方が変わることがあります。

「息苦しさがつらいからマスクは絶対イヤ」という方は、
代わりに「滞在時間を短くする」「人混みを避ける」「帰宅後の洗顔・うがいを丁寧にする」という方向でバランスを取るのもひとつです。

Q3. どんなときに病院を受診したほうがいいですか?

次のようなときは、自己判断で様子を見続けるより、医療機関で相談したほうが安全です。

  • 息苦しさ・胸の痛み・強い動悸がある
  • ゼーゼー・ヒューヒューといった喘鳴が続く
  • 夜も眠れないほど咳が止まらない
  • 38℃前後の発熱や、明らかな風邪症状を伴う
  • 持病(喘息・COPD・心臓病・糖尿病など)があり、いつもと違う不調が続く

医師は、「大気汚染の影響かどうか」を判断するだけでなく、
必要に応じて薬の調整や検査など、今できる対策を一緒に考えてくれます。


5. おわりに 〜全部じゃなくて“できる一歩”を選ぶ〜

黄砂やPM2.5のニュースを見ると、不安になって当然だと思います。
一方で、私たちがコントロールできることも、少しずつ見えてきます。

最後に、「今日から試せる小さな一歩」を整理しておきます。

行動のヒントイメージ
情報を“ほどほど”にチェックする毎朝1回だけ、天気アプリや環境省サイトで黄砂・PM2.5の予報を見る。
外出と換気のタイミングを工夫する濃度が高い時間帯は窓全開を避け、朝夕などに短時間の換気をする。
マスク+帰宅後のケアをセットにする外では不織布マスク、帰ったらうがい・洗顔・鼻うがいをルーティン化。
室内環境を“呼吸しやすい空気”に整える空気清浄機や加湿器のメンテナンスを定期的に行う。
自律神経の土台をととのえる睡眠・食事・入浴のリズムを見直し、「休む時間」を少しだけ確保する。

全部を一度にやろうとすると、それ自体がストレスになってしまいます。
気になるものを1〜2個だけ選んで、1〜2週間試してみるくらいのペースで十分です。

黄砂やPM2.5の多い日は、からだにとって「少し負荷がかかる日」です。
そんな日は、無理にがんばる日ではなく、

  • 予定をちょっと軽めにする
  • 早めに家に帰って、ゆっくりお風呂に入る
  • スマホを見る時間を少し減らして、眠りを優先する

といった“自分を守るモード”に切り替えてあげてください。

「空気の悪さ」は変えられなくても、
その日に自分の体をどう扱うかは、少しずつ選び直すことができます。

黄砂やPM2.5のシーズンを、「ただつらいだけの時期」から、
「自分のからだと向き合い直すきっかけの季節」にしていけるよう、一緒に整えていきましょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

からだトレンドラボを運営している、理学療法士のテラサワです。
病院やクリニックでのリハビリに長く関わる中で、
「もっと早く知っていれば楽になれたのに」という声を
何度も聞いてきました。

このブログでは、からだや健康にまつわる“トレンド情報”を、
医学的な視点でていねいに噛み砕いてお届けします。
難しいことはできるだけやさしく。
読み終わったときに、ちょっとだけ不安が軽くなっていたら嬉しいです。

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