暖房をがまんして体調を崩す人たちへ~冬の冷えと自律神経・血圧の関係~

冬の寒い部屋で暖房を節約しながら過ごす人と、冷えによる自律神経・血圧への負担をイメージしたイラスト
目次

1. はじめに

冬になると、「電気代が怖くてエアコンを控えています」「家の中でも手足がずっと冷たくてだるいです」という相談が増えてきます。
厚着をして、膝掛けを二重にして、カイロも貼っているのに、なぜか頭が重い・肩がこる・夜も眠りが浅い。そんな声が少しずつ重なっていきます。

私自身も、つい暖房をケチってしまい、気づけば肩がすくんでカチカチ…ということがあります。節約したい気持ちと、からだのしんどさのあいだで、心の中で綱引きが起きる季節です。

この記事では、
「冬の冷え」と「自律神経」、そして「血圧」を中心に、寒い部屋でがまんし続けると、からだの中で何が起きているのかを整理していきます。
そのうえで、電気代の不安と健康のバランスを取りながらできる、現実的な暖房節約&冷え対策を一緒に考えていきましょう。

全部を完璧にする必要はありません。読み終わったあと、「これなら今日から一つだけやってみてもいいかな」と思えるヒントを持ち帰ってもらえたら嬉しいです。


2. いま話題の「冬の冷えと自律神経」って、結局なんなのか?

「冷え」と聞くと、人によってイメージがかなり違います。
・手足が氷のように冷たくなる感じ
・ゾクゾクするような寒気
・数字としての“室温が低い”状態
これらがごちゃっと混ざって、「なんとなく寒い・しんどい」に見えていることが多いです。

一方で、世界的な公衆衛生の視点では、「室内の寒さそのものが健康リスクになる」という話も進んでいます。世界保健機関(WHO)の「住まいと健康」に関するガイドラインでは、冬の室内温度は少なくとも18℃以上を保つことが、一般的な健康を守る目安とされています。NCBI+1
18℃を下回るような住宅では、高血圧や心血管疾患のリスクが高まるという報告も増えてきました。NCBI+1

ここで整理しておきたいのは、

種類何を指しているかどんな影響が出やすいか
体感としての「冷え」手足・お腹などの冷たさ、ゾクゾク感だるさ、肩こり、眠りの質の低下など
環境としての「寒さ」室温が低い・隙間風が多い家など血圧上昇、心臓・血管への負担、呼吸器の負担
病気としての「冷え」貧血・甲状腺疾患などに伴う冷え内科的な精査・治療が必要になることも

この記事で主に扱うのは、真ん中の**「環境としての寒さ」と、それをがまんし続けた結果としての体感の冷え**です。

ここに深く関わっているのが、自律神経です。
冬の冷えや寒い部屋は、からだにとって一種のストレス刺激になります。そのストレスに反応して、交感神経(“戦う・がんばる”側の神経)が強く働きやすくなるのが、冬の特徴です。

交感神経が優位になるとどうなるか。
・血管がキュッと縮んで血圧が上がりやすくなる
・筋肉がこわばり、肩こり・首こりが生まれやすい
・眠りが浅くなり、翌日のだるさにつながる

つまり、「冬の冷えと自律神経」の話は、単なる“冷え性の話”ではなく、環境×神経×血圧が絡み合う全身の話だと思ってもらえるとよいかなと思います。


3. からだの中で起きていること

ここからは、からだの中で起きていることを、少し丁寧にのぞいてみましょう。キーワードは「血管」「自律神経」「感覚(からだの受け取り方)」の三つです。

冷たい空気と血管の反応

冬の冷えた空気や、室温の低い部屋にいると、皮膚の近くを走る血管は熱を逃がさないようにキュッと縮みます
これは、交感神経を通じた“防寒モード”の一つで、皮膚への血流を減らすことで、体の中心の温度を守ろうとする反応です。冷たい刺激で交感神経の活動が高まり、皮膚血管の収縮や血圧上昇が起きることは、生理学の研究でも確かめられています。PMC+1

血管が全身で少しずつ縮むと、全体としての血流の抵抗(末梢血管抵抗)が上がり、血圧も上がりやすくなります
高血圧がある人や、動脈硬化が進んでいる人ほど、この変化は負担になりやすく、冬に心筋梗塞や脳卒中が増える一因と考えられています。Physical Society Online Library+1

寒い部屋と「家の中の血圧」

外だけでなく、「家の中が冷えている」ことも重要です。
WHOのガイドラインや、日本を含む複数の研究では、室内温度が18℃を下回る家に住む人は、血圧が高くなり、心血管疾患のリスクも増えることが報告されています。NCBI+2onnetsu-forum.jp+2
また、冬の屋内温度が低い家では、朝の血圧が高くなりやすいことも示されており、これが長期的には心臓や血管に負担をかける要因になると考えられています。J-STAGE+1

冷えた部屋で厚着をして何とかしのいでいても、首まわり・顔・手先など一部が強く冷やされている状態が続けば、交感神経は長時間オンになりがちです。
「暖房はつけていないけれど、フリース・カイロ・毛布で何とかしている」という生活は、財布にはやさしくても、からだにはじわじわと“緊張状態”を強いている面があります。

筋肉と姿勢のこわばり

寒いと、自然と肩をすくめて、背中を丸めた姿勢になりやすいですよね。
この姿勢が続くと、首〜肩〜背中の筋肉は常に少しがんばっている状態になります。血管も縮みやすく、筋肉の中に十分な血液が流れにくくなるため、こわばりや痛みにつながります。

しかも、自律神経の視点で見ると、「寒さ+こわばり+浅い呼吸」はセットで起きやすい組み合わせです。息が浅くなると、酸素や二酸化炭素のバランスも変わり、脳は「今は楽に休むタイミングではない」と判断しがちです。結果として、夜になっても交感神経のスイッチが切れにくく、眠りの質の低下や“翌日のだるさ”として表に出てきます

感覚としての「安心」が削られる

冷えや寒さは、単に温度の問題ではなく、「からだが安心できるかどうか」にも影響します。
・足元がスースーする
・布団に入っても腰だけ冷たい
・トイレや脱衣所だけ極端に寒い

こうした環境は、感覚的に「ここは少し危ないかも」「油断すると冷え切ってしまうかも」というメッセージとして脳に届きます。
その結果、からだは**“守りのモード(防御モード)”を続ける必要がある**と判断し、筋肉や血管、自律神経を緊張させ続ける方向に動きやすくなります。

この「安心できない環境」が何日も重なると、
・理由のよくわからないだるさ
・軽い頭痛やめまい
・寝ても疲れが抜けない感じ
といった、“冬のなんとなく不調”が少しずつ積み上がっていきます。


4. 日常のクセと「冬の冷え・自律神経」の関係

ここからは、冬によくある生活パターンをいくつか取り上げて、それぞれがどのように自律神経や血圧に関わっているかを整理してみます。

パターン1:暖房をギリギリまで我慢する

光熱費が気になり、暖房をほとんどつけない、あるいは短時間だけつけてすぐ消してしまうケースです。
室温が15〜17℃程度のまま長時間過ごしていると、からだはずっと「熱を逃がさないように」とがんばり続けます。交感神経の活動が高まり、血管は収縮し、血圧もじわじわ上がりやすくなります。NCBI+1

高血圧や心臓・脳の病気がある人にとっては、この「じわじわ負担」が数週間〜数か月続くことがリスクになります。
「寒さを少し我慢したくらいで…」と思われがちですが、研究レベルでは、屋内温度の低さ自体が心血管リスクと結びつくことが、繰り返し報告されています。PMC+1

パターン2:在宅勤務やデスクワークでじっと動かない

冬はどうしても外出が減り、家の中で座りっぱなしの時間が増えがちです。
動かない時間が長くなると、
・筋ポンプ(ふくらはぎなどの筋肉による血流サポート)が働きにくい
・同じ姿勢で筋肉が固まりやすい
・体温を生み出すための“産熱”も減る
などが重なり、からだが冷えたままになりやすい状態が続きます。

自律神経から見れば、「寒い+動かない」は、交感神経の“頑張るモード”だけが長時間続くセットになりがちです。
短時間でいいので、1〜2時間に一度は立ち上がり、足首や膝を大きく動かしたり、背伸びをしたりするだけでも、体内の巡りはかなり変わります。

パターン3:お風呂はサッとシャワーだけ

冬場にシャワーだけで済ませる日が続くと、深部までじっくり温まる機会が減ってしまいます
日中、寒い部屋でがまんして、夜もシャワーだけで終わる生活は、「一日のうちに交感神経を落ち着かせる時間がほとんどない」状態をつくりやすくなります。

研究でも、適度な温浴は血管を広げて血圧を一時的に下げる効果や、睡眠の質の改善と関連していることが報告されています。www.heart.org+1
熱すぎるお湯で長湯をする必要はありませんが、ぬるめのお湯に10〜15分浸かるだけでも、からだ全体が「一度リセットできた」と感じやすくなります。

パターン4:寝室が冷え切っている

「寝るときは暖房を切らないと罪悪感が…」という声もよく聞きます。
ただ、寝室が極端に冷えていると、夜間や早朝の血圧が上がりやすいことが、日本の調査研究でも示されており、特に高齢者では注意が必要とされています。J-STAGE+1

全員に「夜通しエアコンをつけましょう」と言いたいわけではありませんが、
・最低限の室温(できれば16〜18℃以上)をめざす
・布団の中だけでも腰まわり・足元を重点的に温める
・寝る直前に湯たんぽや電気毛布で“下地”をつくっておいて、寝るときに弱める
といった工夫で、からだの安心感を少し底上げすることができます。


Q1. 暖房をつけっぱなしにするのは、からだに悪くないですか?

一日中高温でガンガン暖房をかけるのは、乾燥やのぼせ・頭痛の原因になりますが、18〜20℃前後の穏やかな暖かさを保つこと自体は、むしろ健康面でメリットが多いと考えられています。NCBI+1

ポイントは、
・室温:おおよそ18〜20℃を目安に、必要に応じて上下する
・湿度:40〜60%を目標に、乾燥が強いときは加湿を検討する
・長時間不在のときは設定温度を少し下げる
といったバランスです。

「つけっぱなし=悪」というより、“低すぎる温度でがまんし続けるリスク”のほうが、近年は問題視されるようになってきています

Q2. 電気代が不安で、どうしても室温18℃を保てません。何か優先すべきポイントは?

その気持ち、とてもよくわかります。
すべての部屋を理想的な温度に保つのは難しい場合、優先順位をつけるのがおすすめです。

例えば、
・一日のうちで一番長く過ごす部屋だけは、なるべく18℃前後を目指す
・高齢の家族や、心臓・血圧に持病がある人が長くいる部屋は、特に冷やさないようにする
・トイレや脱衣所など「急激に冷えやすい場所」には、局所的な暖房(小型ヒーターなど)を検討する

そのうえで、からだ側の工夫として、
・足首〜ふくらはぎを冷やさない靴下・レッグウォーマー
・首・お腹・腰を重点的に温める肌着
・カイロは首の後ろ・肩甲骨の間・お腹・腰など“太い血管が通るところ”に使う
といった局所の温め方を組み合わせていくと、「室温は控えめでも、からだとしては少しラク」という状態に近づけます。

Q3. 冷たい部屋にいると血圧が上がるのが心配です。高血圧がある場合、どこまで気をつけるべきでしょうか?

高血圧がある方にとって、冬の冷えと室温の低さは、たしかに注意したいポイントです。
屋内温度が18℃を下回る環境では、高血圧の割合や心血管イベントのリスクが増えるという報告がありますし、特に朝の血圧上昇との関連が指摘されています。onnetsu-forum.jp+2J-STAGE+2

・冬のあいだだけでも、朝晩の家庭血圧を記録しておく
・血圧の数字が普段より大きく上がるようなら、主治医と相談し、薬や生活の調整を検討する
・急に寒い場所へ移動するとき(冷えたトイレや玄関など)は、できるだけ短時間で済ませ、服装やスリッパで冷えを和らげる

こうした工夫で、冬のリスクをかなり下げることができます。
一人で不安を抱え込まず、「冬になると血圧が上がる感じが怖い」と、そのまま主治医に伝えてもらうだけでも、対策の選択肢は広がります。


5. おわりに

ここまで、「冬の冷え」と「自律神経」、そして「血圧」との関係をみてきました。
ポイントをざっくりまとめると、

  1. 冬の冷えや寒い部屋は、交感神経を強く働かせ、血管を縮めて血圧を上げやすくする。
  2. 室内温度が18℃を大きく下回る環境では、高血圧や心血管リスクが高まるという報告が増えている。
  3. 「暖房をがまんすること」が、だるさ・肩こり・眠りの質の低下など、“冬のなんとなく不調”を育ててしまうことがある。

とはいえ、「じゃあ今日から全部20℃で暖房つけっぱなし!」とは、なかなかいきませんよね。
現実的な一歩として、例えば次のような工夫から選んでみてください。

小さな一歩からだに起こりやすい変化のイメージ
一番長くいる部屋だけ、18〜20℃を目標にする血圧の急な上昇が和らぎ、肩のこわばりも少しラクになりやすい
足首・ふくらはぎ・腰をしっかり温める「芯まで冷えている」感じが減り、眠りにつきやすくなる
1〜2時間ごとに、立ち上がって足首・膝を大きく動かす筋肉がポンプの役割を果たし、冷えとむくみが軽くなる
週に数回は、ぬるめのお湯に10〜15分つかる自律神経がいったんリセットされ、睡眠の質が上がりやすい

全部やろうとすると苦しくなるので、**「今日はこれだけ」**と決めて、小さな一つから試してみるのがちょうどいいと思います。

暖房費を気にするのは、とても現実的で大事なことです。
ただ、「少しの節約」と「からだへの負担」が釣り合わなくなってしまうと、結果的に病院代や薬代、そして何より日々の快適さを失うことにつながりかねません。

冬のあいだ、からだが安心して温度調整できるような環境を、できる範囲で整えていくこと。
それが、自律神経をいたわりつつ、血圧や心臓・脳を守るための、ささやだけれど確かな投資になります。

「暖房をつける=甘え」ではなく、「自分と家族のからだを守るための一つの選択肢」として、少しだけ見方を変えてもらえたら嬉しいです。
この冬も、できる限りあたたかく、そして無理のない形で過ごしていきましょう。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

からだトレンドラボを運営している、理学療法士のテラサワです。
病院やクリニックでのリハビリに長く関わる中で、
「もっと早く知っていれば楽になれたのに」という声を
何度も聞いてきました。

このブログでは、からだや健康にまつわる“トレンド情報”を、
医学的な視点でていねいに噛み砕いてお届けします。
難しいことはできるだけやさしく。
読み終わったときに、ちょっとだけ不安が軽くなっていたら嬉しいです。

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