1. 受験前になると「眠れている気がしない」という声が増えます
受験シーズンが近づくと、「ちゃんと寝なきゃと思うけど、つい夜更かししてしまう」「ベッドに入ってもスマホと問題集が手放せない」という相談が一気に増えます。
「受験 睡眠 自律神経」みたいな言葉で検索したくなるくらい、心とからだの両方が落ち着かない時期ですよね。
周りを見れば、夜遅くまで塾や自習室が開いていて、「頑張る=遅くまで起きている」みたいな空気もあります。
一方で、模試や本番の試験時間は朝から。朝うまくスイッチが入らず、頭がボーッとしたまま、という話も少なくありません。
この文章では、
- なぜ受験シーズンに睡眠と自律神経が崩れやすいのか
- 夜更かし・朝型シフト・スマホがからだの中で何を起こしているのか
- 今日からできる小さな睡眠習慣の整え方
を、できるだけ実感に近い形で整理していきます。
「全部できなくても、この中の1つならできそう」と感じてもらえたら十分です。


2. 受験シーズンの睡眠と自律神経、世の中で言われていること
まず、前提として「どれくらい寝ればいいのか」という話から整理しておきます。
日本の睡眠ガイドラインでは、思春期の子ども・高校生世代について、7〜9時間程度の睡眠が望ましいとされています。PMC+1
一方、国内の調査では、日本の高校生の平均睡眠時間は6時間台前半という報告もあり、多くの受験生が「推奨より少なめ」の睡眠で過ごしているのが現状です。ResearchGate+1
そこに受験勉強が重なると、
- 塾や自習室で帰宅が遅くなる
- 家に帰ってからも「もう少しだけ」と勉強を続ける
- 夜遅くにやっとスマホを見る時間ができる
という流れになりやすく、入眠が後ろにズレていきやすい状況が整ってしまいます。
さらに、SNSや動画サイトでは「睡眠時間を削ってでも勉強」「受験生に安息なし」といったメッセージも目に入りがちです。
ただ、近年の大規模な研究では、睡眠不足が続くと、気分の落ち込みや不安が増え、学習効率も落ちやすいことが繰り返し示されています。Nature+3PubMed+3PMC+3
ざっくりまとめると、
- 「徹夜=頑張っている」は、からだの側から見るとむしろ逆効果になりやすい
- 少なくとも平日は6〜7時間は確保したい、できれば7時間前後をキープできると、自律神経もメンタルも安定しやすい
というイメージでとらえておくとよいと思います。
3. 夜更かし・朝型シフト・スマホが自律神経に与える影響
受験シーズンにありがちな生活パターンを、からだの中で起きていることとセットで見てみます。
3-1. 夜更かしで「交感神経モード」が長引く
夜遅くまで問題集と向き合っているとき、からだの中では「交感神経」が優位になっています。
これは、テスト本番に集中するためにも必要なモードですが、本来は夜に向かって少しずつブレーキがかかるはずの時間帯です。
交感神経モードが長引くと、
- 心拍数や血圧が高めのまま
- 筋肉のこわばりが抜けにくい
- 呼吸が浅く速くなりやすい
といった状態が続きます。
この状態のままベッドに入ると、「横になっているのに頭だけがギンギン」という感覚になりやすく、入眠が遅れます。
3-2. スマホとブルーライトが体内時計を後ろに押す
寝る前のスマホ使用も、受験生の睡眠を大きく揺らす要因です。
スマホやタブレットから出る光には、メラトニン(眠気を促すホルモン)を抑えてしまう働きがあることが、多くの研究で示されています。JAMA Network+4PMC+4chronobiologyinmedicine.org+4
実験条件によって影響の強さは異なりますが、
- 就寝前数時間に強い光を浴び続ける
- 画面の明るさを最大にして長く見る
といった状況では、眠くなるタイミングが10〜30分ほど後ろにずれるという報告もあります。
さらに、SNSや動画の内容そのものが脳の覚醒を高めてしまうので、光の問題と内容の問題がセットで効いてきます。
3-3. 朝型シフトの「切り替え期」が一番しんどい
試験本番は朝から始まります。
そのため、「そろそろ朝型に戻さないと」と、受験直前になって一気に就寝・起床時間を早めようとすることも多いです。
体内時計は、1日に調整できる幅がだいたい1時間前後と言われています。
それ以上を短期間で動かそうとすると、
- 眠くないのに無理に布団に入る
- 早く起きたのに頭が働かない
- 休日に寝だめして、またリズムが崩れる
といった「時差ボケに似た状態」になりやすく、自律神経への負担がかえって増えます。
3-4. からだの感覚として出てくるサイン
こういった「夜更かし・スマホ・急な朝型シフト」が重なったとき、からだはどんなサインを出すか。
代表的なのは、
- 朝起きた瞬間から、首や肩がガチガチにこっている
- 胃のあたりが重い、食欲がわきにくい
- ちょっとしたミスに過剰に落ち込みやすくなる
- 眠いのに、ベッドに入ると余計に目が覚める
といった感覚です。
筋肉・内臓・神経がそれぞれ「オーバーワーク気味だよ」と教えてくれている状態とも言えます。
少し整理してみましょう。
| 行動・状態 | からだの中で起きていること | 感覚として出やすいもの |
|---|---|---|
| 夜遅くまで難しい問題を解く | 交感神経優位・心拍や血圧アップ | 頭が冴えすぎる・眠気がこない |
| ベッドの中でスマホを長時間見る | メラトニン分泌の低下・体内時計の遅れ | 寝つきが悪い・浅い眠り・寝起きのだるさ |
| 短期間で朝型に切り替える | 体内時計のズレ・自律神経の調整が追いつかない | 朝ボーッとする・日中の強い眠気 |
| 座りっぱなしで勉強 | 血流低下・筋のこわばり・姿勢筋の疲労 | 肩こり・腰痛・目の奥の重さ |
「根性が足りない」わけではなく、からだの仕組みとしてそうなりやすい、という視点を持っておくことが大切だと感じています。
4. 受験モードの生活パターンと、自律神経の疲れ方
ここからは、よくある生活パターンと、そのとき自律神経がどう疲れていくかを、もう少し生活の具体に落として眺めてみます。
4-1. 平日は夜更かし、休日は昼まで寝るパターン
平日は塾や学校で帰宅が遅くなり、
「23時過ぎからようやく自分の勉強時間」という声もよく聞きます。
そこから夜更かしを続けると、睡眠時間はどうしても削られがちです。
休日になると、その反動で昼近くまで寝てしまうこともあると思います。
ただ、平日と休日の睡眠・起床時間の差が大きいほど、体内時計が乱れやすいことが、いくつかの研究で指摘されています。Semantic Scholar+1
体内時計が乱れると、
- 朝の目覚めが悪い
- 午後の眠気が強い
- 夜になっても眠くならない
といった「ジェットラグ(時差ボケ)」に似た状態になり、自律神経も常に揺さぶられる形になります。
4-2. 勉強中、からだはずっと「止まっている」のに頭だけ全力
「長時間机に向かう=頑張っている」という感覚はとてもよく分かります。
ただ、からだの構造の視点で見ると、同じ姿勢を長く続けること自体がストレス源です。
- 首から肩にかけての筋肉(僧帽筋など)が緊張し続ける
- 背中や腰の筋肉が、微妙なバランスで体重を支え続ける
- 呼吸が浅くなり、酸素がやや不足気味になる
こうなると、交感神経がじわじわと優位になり、脳も「戦闘モード」のまま。
結果として、夜になってもブレーキがかかりにくい自律神経のパターンが出来上がってしまいます。
4-3. ベッドの中が「休む場所」から「情報の戦場」になる
ベッドに入ってからスマホを開くと、
- 友達の勉強ペース
- 他校の模試の結果
- 受験情報サイトの「やることリスト」
などが一気に押し寄せてきます。
光だけでなく、情報そのものが自律神経を刺激し続けてしまうイメージです。
最近のレビュー研究では、睡眠時間が短いほど、思春期の不安や抑うつ傾向が高まりやすいことが報告されています。PubMed+2PMC+2
もともと受験というストレスフルな状況の中で、ベッドの中まで「比較」と「不安」の場になると、心もからだも休まるタイミングがなくなってしまいます。
4-4. 「全部完璧」はいらないから、少しだけ整える
ここまで読むと、「理想は分かるけど、現実には難しい」と感じる方も多いと思います。
私自身も受験期には、つい夜更かしをしてしまった経験がありますし、「全部守らなきゃ」と思うほど苦しくなってしまう側面もあります。
大事なのは、100点満点の睡眠習慣ではなく、今より少しだけ自律神経をいたわる工夫です。
- 平日の就寝・起床時間の幅を、できるだけ一定に近づける
- 休日も「平日より2時間遅いくらいまで」にとどめる
- ベッドの中では、勉強とスマホを持ち込まない時間帯をつくる
このあたりを「目安」として、できそうな範囲から試してみてください。
Q1. 受験生は、最低どれくらいの睡眠時間を目標にすればいいですか?
個人差はありますが、高校生〜受験生世代では、7時間前後をひとつの目安にするとよいと考えています。
ガイドライン上は7〜9時間が推奨されますが、現実的には6時間台後半〜7時間台前半をキープできると、自律神経やメンタルの安定に役立ちやすいです。PMC+1
どうしても忙しい日が続く時期は、「3日連続で5時間台が続かないようにする」といった、**自分なりの“下限ライン”**を決めるのも一つの方法です。
Q2. 夜のほうが集中できるタイプです。それでも朝型にしたほうがいいですか?
「夜の静けさのほうが集中できる」という感覚は、多くの人が持っています。
ただ、試験本番はほぼ例外なく朝〜昼に行われるため、「本番の時間帯に頭がよく回るリズム」をつくることが大切です。
完全な朝型にしなくても、
- 本番の2〜3週間前から、就寝・起床時間を毎日15〜30分ずつ前にずらす
- 朝起きてすぐに、カーテンを開けて日光を浴びる
といった小さなステップでも、体内時計と自律神経は少しずつ整っていきます。
Q3. どのくらいつらくなったら、医療機関や専門家に相談したほうがいいですか?
次のような状態が2週間以上ほぼ毎日続く場合は、一度医療機関や専門家に相談することをおすすめします。
- 寝つきが極端に悪い or 夜中に何度も目が覚める
- 理由なく涙が出る・強い不安感におそわれる
- 食欲が著しく落ちている or 体重が急に減っている
- 「勉強どころか、日常生活もやっと」という感覚が続いている
受験シーズンは、心とからだ両方に負荷がかかります。
少しでも「これは一人で抱えないほうがよさそうだな」と感じたら、早めに相談してほしいなと思います。
5. 今日からできる「受験シーズンの睡眠と自律神経」ケアのヒント
最後に、今日から取り入れやすい工夫をいくつか挙げてみます。全部やる必要はありません。ピンとくるものを1つだけ選ぶくらいがちょうどいいと思います。
5-1. 「寝る1時間前はスマホをベッドから離す」を合図にする
完璧なデジタルデトックスは難しくても、
- 寝る1時間前になったら、スマホをベッドから手の届かない場所に置く
- どうしても必要なら、画面の明るさを落とし、ナイトモードにする
といったルールを決めるだけでも、メラトニンの分泌や体内時計への影響は抑えやすくなります。chronobiologyinmedicine.org+1
「ベッドは休む場所」として脳に覚えてもらうことが、自律神経の切り替えを助けます。
5-2. 試験時間に合わせて、2〜3週間前から少しずつ朝型シフト
本番の時間に合わせて、少しずつリズムを前倒ししていくのがコツです。
- 2〜3週間前:就寝・起床時間を毎日15〜30分前へ
- 朝起きたら、カーテンを開けて光を浴びる&軽くストレッチ
- 夜の勉強は「ここまでやったら終わり」と区切りを決めておく
一気に変えようとしないほうが、からだにも心にも優しいです。
5-3. 勉強と勉強のあいだに「1分のリセットタイム」を挟む
長時間の勉強で自律神経をすり減らさないために、短いリセットをおすすめしたいです。
- 50分勉強したら、1〜3分だけ席を立つ
- 首・肩・背中をゆっくり動かす
- 目を閉じて、鼻から吸って口から吐く深呼吸を3回
これだけでも、筋肉のこわばりや浅い呼吸が少しほどけます。
「勉強を中断する」感覚ではなく、「次の1時間の集中力をチャージする」と捉えてもらえると良いかなと思います。
受験シーズンは、どうしても睡眠と自律神経に負担がかかりやすい時期です。
それでも、生活の全部を変えなくても、できる範囲でリズムを整えていくことはできます。
うまくいかない日があっても大丈夫です。
「昨日は夜更かししちゃったから、今日はスマホだけ早めに手放そう」
そのくらいの柔らかいスタンスで、自分のからだと相談しながら進んでいけるといいなと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
