1. 最近、「高たんぱく・低糖質なのにだるい」という声が増えています
コンビニにも「高たんぱく」「糖質オフ」「ロカボ」の文字が並ぶようになりました。
プロテインバー、サラダチキン、糖質ゼロの飲み物…。からだに良さそうな響きが多いですよね。
一方で、こんな相談も増えています。
- 高たんぱく・低糖質を意識し始めてから、なぜか前よりだるい
- プロテインを頑張って飲んでいるのに、お腹が張って重たい
- 糖質をかなり減らしたら、頭がボーっとして仕事に集中しづらい
「やっていることは“健康によさそう”なのに、からだはしんどい」。
このギャップが、いまの“ブームの落とし穴”かなと感じます。
とはいえ、高たんぱくも、ある程度の糖質コントロールも、それ自体が悪者というわけではありません。
大事なのは「やり方」と「自分のからだとの相性」です。
この記事では、高たんぱく・低糖質ブームとだるさの関係を整理しながら、
- どこでバランスが崩れやすいのか
- 腸内環境や自律神経にどう影響しているのか
- 今日から現実的に変えやすいポイントはどこか
を、やさしく紐解いていきます。
「がんばっているのにしんどい…」という方のヒントになればうれしいです。


2. 高たんぱく・低糖質ブームで、からだに何が起きているのか
まず、「高たんぱく」「低糖質」「糖質制限」といった言葉の、ざっくりしたイメージを揃えておきます。
- 高たんぱく
体重1kgあたり1.0〜1.5g程度のたんぱく質を意識して摂る食事。筋肉量の維持には役立つ一方で、「たんぱく質だけ」を増やして他が足りなくなるとバランスを崩しやすくなります。 - 低糖質・糖質オフ
ご飯・パン・麺・お菓子などの糖質源をかなり減らす、もしくは置き換える食事。ゆるやかな糖質コントロールであれば血糖値や体重管理の助けになりますが、極端に減らすと“ガス欠”状態になりやすいです。
ネットやSNSでは、「糖質は悪」「とにかく減らすほどいい」「たんぱく質は多いほどいい」といったメッセージに触れることも多いと思います。
ところが、医学的な指針では少しニュアンスが違います。
日本の指針では、成人のたんぱく質の推奨量はおおよそ体重1kgあたり0.8〜1.0g/日。高齢期では1.0g/kg/日以上が望ましいとする資料もあります。J-STAGE+2国立公文書館+2
一方で、「たんぱく質だけを増やし、他の栄養素が不足する食事」は勧められていません。実際、日本の高齢者向けの栄養資料でも、「十分なたんぱく質をとりつつ、偏りのないバランスのよい食事を心がけること」が強調されています。国立公文書館
糖質についても同じです。
肥満や糖尿病のある方に、糖質をある程度コントロールすることは選択肢になりますが、急激な糖質カットは、
- だるさ
- めまい
- 頭痛
- イライラ
- 便秘
など、いわゆる「ケトフルー(keto flu)」と呼ばれる症状を引き起こすことがある、と海外の報告でも指摘されています。Harvard Health+2Cleveland Clinic+2
「ブームに乗ってかなり厳しめに糖質制限した」「ご飯やパンをほぼゼロにして、高たんぱくな食事とプロテインで乗り切ろうとした」
こういったケースでは、からだがついていかず、“健康的なはずなのにしんどい”状態に入りやすくなります。
3. たんぱく質・糖質・腸内環境・自律神経のつながりを整理する
ここからは、からだの中で何が起きているのかを少し丁寧に見ていきます。
3-1. たんぱく質は「量」よりも「バランス」と「タイミング」
たんぱく質は、筋肉・内臓・ホルモン・免疫細胞など、からだの材料になるとても大事な栄養素です。
日本のデータでも、たんぱく質摂取量が少ない高齢者ほど筋肉量や体力が低い傾向があり、体重1kgあたり1.0g/日以上を目標にすると、フレイル予防につながりやすいとされています。国立公文書館+1
ただし、ここで落とし穴があります。
- 朝・昼はほとんどたんぱく質がなく、夜だけドカンと高たんぱく
- たんぱく質を増やす代わりに、野菜や主食が極端に減ってしまう
- 1日の総エネルギー(カロリー)が低すぎる
こうなると、「たんぱく質の量」は足りていても、ガソリン(エネルギー)と一緒に燃やせていない状態になります。
結果として、筋肉にうまく回らず、疲れやすさやだるさにつながりやすいのです。
3-2. 糖質を減らしすぎると、“ガス欠モード”になりやすい
糖質は、脳や赤血球が好んで使うエネルギー源です。
糖質をほとんどとらない極端な食事を始めると、からだは脂肪を分解し、「ケトン体」をエネルギーとして使うモードに切り替えようとします。
この切り替えの時期に、
- 強い疲労感
- 頭痛
- めまい
- 集中力低下
- 眠りにくさ
などの「ケトフルー」の症状が出ることがある、と海外の医療機関や解説記事でもまとめられています。Harvard Health+2Cleveland Clinic+2
すべての人に出るわけではありませんが、
「高たんぱく・低糖質を始めた途端、急にだるさや頭痛が強くなった」
という場合は、からだが“ガス欠モード”で悲鳴をあげているサインかもしれません。
加えて、糖質を減らしすぎると、血糖値のリズムも乱れやすくなります。
ときどき糖質をまとめてドカ食いしてしまうと、血糖値の乱高下が起き、自律神経の負担が増します。血糖値の急上昇と急降下は、眠気やだるさ、イライラといった症状とも関係が深いことが分かってきています。EatingWell
3-3. 高たんぱく・低糖質で崩れやすい「腸内環境」
もうひとつ重要なのが、腸内環境です。
腸の中の細菌は、主に食物繊維をエサにして、「短鎖脂肪酸(酢酸・プロピオン酸・酪酸など)」という物質を作ります。
この短鎖脂肪酸は、
- 腸のバリア機能を整える
- 炎症を抑える
- 血糖値や脂質代謝を安定させる
- 脳とこころの状態(ストレス耐性や気分)にも良い影響を与える
といった役割を持っていることが、近年の研究で次々と示されています。サイエンスダイレクト+3MDPI+3Nature+3
ところが、「高たんぱく・低糖質」を意識するあまり、
- 主食をかなり減らす
- 野菜や海藻、豆類、果物が少なくなる
- 肉・卵・チーズ中心のメニューが増える
という状態になると、食物繊維が不足しやすくなります。
その結果、短鎖脂肪酸を作る腸内細菌が元気を失い、便秘・お腹の張り・ガス・肌あれ・メンタルの不調など、「なんとなく不調」がじわじわ増えてしまうのです。
一方で、「たんぱく質と一緒に十分な食物繊維をとる」形の高たんぱく・低糖質食は、腸内細菌のバランスをむしろ良くする可能性がある、という報告も出てきています。PubMed+2サイエンスダイレクト+2
つまり、
高たんぱく・低糖質そのものが悪いというより、
“食物繊維とエネルギーが足りない高たんぱく・低糖質”が問題になりやすい
と考えると、イメージしやすいかもしれません。
3-4. 自律神経は「エネルギーと腸」の影響を受けやすい
自律神経(交感神経と副交感神経)は、心拍・血圧・消化・体温・ホルモン分泌などを調整する“司令塔”です。
- ガス欠状態(エネルギー不足)
- 血糖値の乱高下
- 腸内環境の悪化(便秘・お腹の張り)
は、どれも自律神経にとってストレスになります。
エネルギーが足りないとき、からだは「とりあえず動けるように」と交感神経を優位にして頑張ろうとしますが、それが続くと、
- 眠りが浅い
- ちょっとしたことでイライラする
- どこも悪くないのにだるい
といった、“なんとなくしんどいモード”に入りやすくなります。
高たんぱく・低糖質ブームの影で、
「腸がしんどい」→「エネルギーが足りない」→「自律神経が疲れる」
という小さな連鎖が起きているケースが少なくないと感じています。
4. よくある食事パターンと、「なんとなく不調」につながるポイント
ここからは、現場でよく見かける「高たんぱく・低糖質」パターンを、いくつかイメージで整理してみます。
当てはまるところがあれば、「ここだけ少し変えてみようかな」と眺めてみてください。
4-1. パターンA:日中はほぼ糖質ゼロ&たんぱく質少なめ、夜だけ高たんぱく
- 朝:コーヒーだけ、またはヨーグルト少し
- 昼:サラダチキンと野菜少し(主食なし)
- 間食:おやつを控える代わりにブラックコーヒー
- 夜:糖質オフビール+肉や魚中心の高たんぱくおかず(主食はなし)
一見ヘルシーですが、
- 日中はエネルギーもたんぱく質も不足気味
- 夜だけ高たんぱく&高脂質になりがち
- 食物繊維が全体的に少ない
といったバランスになりやすく、
日中の集中力低下 → 夜のドカ食い → 翌朝の胃もたれ&だるさ
というサイクルにつながることがあります。
4-2. パターンB:1食をプロテインに置き換えて、トータルエネルギーが不足
- 朝:プロテインシェイクのみ
- 昼:低糖質パン+ハム・チーズ
- おやつ:プロテインバー
- 夜:主食少なめ・おかず多め
たんぱく質量は確保できていても、
- 炭水化物(糖質+食物繊維)が不足
- 総カロリーがかなり低い
- 噛む回数が少なく、満足感が出にくい
といった要素が重なり、
- やけに甘いものが欲しくなる
- 夜に一気に食べてしまう
- お腹が張る・便秘気味になる
といった不調につながることがあります。
4-3. パターンC:糖質オフおつまみ中心で、腸がヘトヘトに
- 夕食後に、「糖質ゼロ」のお酒+糖質オフのおつまみ
(チーズ・ソーセージ・唐揚げなど) - 野菜や海藻、豆類はほとんど登場しない
たんぱく質と脂質が多く、食物繊維が極端に少ないパターンです。
短期的には体重が落ちても、
- 便秘
- 肌あれ
- 口臭
- 疲れやすさ
が目立ってくるケースが多く、長期的には腸内環境と自律神経の両方に負担がかかります。高たんぱく食を続ける際には、「腸への負担」や腎臓への負荷などにも注意が必要だ、と指摘する解説もあります。The Times of India
Q1. どのくらいのたんぱく質をとると「とりすぎ」になりますか?
一般的な成人であれば、体重1kgあたり1.0〜1.2g/日くらいを目安にするのが、安全かつ現実的なラインと言われることが多いです。国立公文書館+1
たとえば体重60kgなら、60〜70g/日程度が目安。
筋トレをしっかりしている人でも、1.5g/kg/日を大きく超えるような摂取は、腎臓や腸への負担を考えると、自己判断で長期に続けないほうが安心です。The Times of India
腎臓病や糖尿病などの持病がある方は、そもそもの上限が変わるので、必ず主治医や栄養士と相談してくださいね。
Q2. 糖質制限でだるいとき、「やめどき」の目安はありますか?
- 立ちくらみやめまいが続く
- 階段を上るだけで強い疲労感が出る
- 気分の落ち込みやイライラが強い
- 睡眠の質が明らかに悪くなった
といった状態が数日〜1週間以上続く場合は、糖質制限の強度を下げるサインと考えていいと思います。
海外の報告でも、非常に糖質を絞る食事では、「ケトフルー」と呼ばれるだるさ・頭痛・眠りにくさなどの症状が出ることがあるとされています。Harvard Health+2Cleveland Clinic+2
「がんばればそのうち慣れるはず」と無理を続けるより、
- 主食を“ゼロ”から“少なめ”に戻してみる
- 根菜や果物を少し増やす
といった“減速”をしてみることをおすすめします。
Q3. プロテインは飲まないほうがいいのでしょうか?
プロテイン自体が悪いわけではありません。
- 朝食でたんぱく質がとりづらい
- 食欲が落ちているときに、少しでも栄養を補いたい
- トレーニング後にたんぱく質を効率よくとりたい
こういった場面では、とても便利なツールです。
大切なのは、
- 「プロテインだけ」で栄養を完結させない
- 一緒に食物繊維源(野菜・海藻・豆類・果物)をとる
- 1日のトータル量が体重1〜1.2g/kg程度に収まるようにする
といった使い方のバランスです。
もしプロテインを飲み始めてから、
お腹の張り・便秘・肌あれ・口臭・強いだるさなどが気になるようなら、
量や頻度、一緒に食べているものを見直してみてください。
5. 高たんぱく・低糖質と上手につき合うための現実的なヒント
最後に、「全部ガラッと変える」のではなく、今日からでも取り入れやすいバランスの取り方をいくつか挙げてみます。
5-1. たんぱく質は「体重1〜1.2g/kg」を3食に分ける
- 体重50kg → たんぱく質 50〜60g/日
- 体重60kg → 60〜70g/日
くらいを目安にして、朝・昼・夜で3等分するイメージです。国立公文書館+1
たとえば60g/日なら、1食あたり20g前後。
卵1個+納豆1パック+ヨーグルト少し、
魚の切り身1枚+豆腐半丁、
鶏むね肉100g+チーズ少し、
といった組み合わせで届きやすくなります。
5-2. 「たんぱく質+主食少なめ+食物繊維たっぷり」が基本形
高たんぱく・低糖質を続けたい場合は、「主食ゼロ」ではなく、
- 白ご飯を小盛りにする
- 麦ごはん・玄米・全粒粉パンなど、食物繊維の多い主食を選ぶ
- さつまいも・じゃがいもなどの芋類を適量とる
といった**“少なめ+質を上げる”方向**がおすすめです。
さらに、
野菜・海藻・きのこ・豆類・果物などの食物繊維源を増やすことで、
腸内細菌が短鎖脂肪酸を作りやすくなり、血糖値とメンタルの安定にもつながります。MDPI+2Nature+2
5-3. 「ゼロ・極端」ではなく、「1〜2割のシフト」を目指す
高たんぱく・低糖質ブームに触れていると、
- 主食は悪
- 糖質は敵
- たんぱく質は多ければ多いほどいい
といったメッセージに流されがちです。
でも、からだが求めているのは、
**「いまの自分に合ったバランス」**であって、「流行の正解」ではありません。
- いきなり糖質を半分以下にせず、まずは夜だけ少し減らしてみる
- プロテインを足す前に、1日3食のリズムを整える
- おかずを増やすと同時に、サラダや具だくさん味噌汁をセットにする
こうした「1〜2割のシフト」でも、
数週間続けると、「あれ、前よりラクかも」と感じる方は多いです。
完璧にやろうとしなくて大丈夫です。
むしろ、頑張りすぎないほうが自律神経もホッとします。
高たんぱく・低糖質という“道具”を、
自分のからだに合うペースで、上手に使いこなしていけるといいですね。
だるさや不調が続くときは、一人で抱え込まず、
栄養やからだに詳しい専門家に相談しながら、
あなたなりの「ちょうどいいバランス」を一緒に探していきましょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
