1. 「検査は異常なし」と言われても、ずっとだるい…そんな相談が増えています
「ずっと疲れている気がする」「夕方になると頭が重い」「最近、動悸や息切れが増えた気がする」。
こうした“なんとなく不調”が続いて病院で血液検査を受けたのに、「貧血はありませんね」と言われて戸惑う方は少なくありません。
ところが、ヘモグロビン(いわゆる“貧血の数値”)は正常でも、フェリチンという“貯蔵鉄”の値が低くなっている方は意外と多いことが分かっています。日本の調査では、月経のある20〜40代女性の約4人に1人が鉄欠乏性貧血、さらに約65%が貧血〜隠れ貧血の状態とも報告されています。女性特有の健康課題を知る、学ぶ! 働く女性のウェルネス向上委員会+1
こうした「鉄不足・フェリチン低値」が、だるさや頭痛、動悸、メンタルのゆらぎと関わっているケースは確かにあります。
一方で、「全部鉄のせい」にしてしまうと、ほかの大事な病気を見落としてしまう心配もあります。
この記事では、
- 鉄不足やフェリチン低値がどんな不調と関係しやすいのか
- 血液検査のどこを見ればよいのか
- 日常生活で意識したいポイント
を、できるだけやさしい言葉で整理していきます。
「もしかして自分も?」と不安になっている方が、少し冷静にからだを眺め直せるきっかけになればうれしいです。


2. 「鉄不足」「貧血」「フェリチン」…言葉の整理からはじめましょう
まずは、よく聞く言葉をいったん整えておきます。
鉄不足と鉄欠乏性貧血
- 鉄不足(鉄欠乏)
体の中の鉄が足りない状態。
まだヘモグロビンはギリギリ保たれていても、「酸素運搬」や「エネルギーづくり」に必要な鉄が不足してきている段階です。 - 鉄欠乏性貧血
鉄不足が進み、ヘモグロビンの値まで下がった状態。
WHOや日本の基準では、成人女性ではヘモグロビン12 g/dL未満が貧血とされます。厚生労働省
貧血は「ヘモグロビンが足りない状態」のことで、その背景にある原因のひとつが鉄欠乏、というイメージです。
フェリチンとは何か
フェリチンは、体の中で鉄を貯めておく“倉庫”のようなタンパク質です。血液検査で測る「血清フェリチン」は、この貯蔵鉄の量のおおよその目安になります。日本鉄バイオサイエンス学会
日本鉄バイオサイエンス学会では、フェリチン値についておおむね次のように考えています。日本鉄バイオサイエンス学会+1
| フェリチン値の目安 | 体内の状態のイメージ |
|---|---|
| 25 ng/mL以上 | 貯蔵鉄はおおむね保たれている |
| 12〜25 ng/mL未満 | 貯蔵鉄が減ってきている(鉄不足予備軍) |
| 12 ng/mL未満 | 貯蔵鉄が枯渇した鉄欠乏状態(治療が必要なレベル) |
ヘモグロビンは正常でも、フェリチンが25 ng/mL未満に下がっている人は多く、「隠れ貧血」と呼ばれることもあります。女性特有の健康課題を知る、学ぶ! 働く女性のウェルネス向上委員会
「検査で異常なし」と言われるのはなぜ?
ここで少しややこしいのが、
- 通常の健康診断では、フェリチンが測定項目に入っていないことが多い
- ヘモグロビンが基準値内なら「貧血なし」と判断されやすい
という点です。
そのため、
- ヘモグロビン:基準値内
- フェリチン:低値(鉄不足)
- 自覚症状:だるさ・頭痛・動悸・メンタル不調
という組み合わせでも、「貧血はありませんね」と言われてしまうことがあります。
もちろん、「なんとなく不調」の原因は鉄だけではありません。
ただ、フェリチン低値があるのに何もケアされていない人が多い、という現状は知っておいて損はありません。
3. 鉄不足で、からだとこころの中で何が起きているのか
ここからは、もう少しからだの中の話をしていきます。
鉄は「酸素運び係」+「エネルギーと脳のスイッチ役」
鉄の代表的な役割は次の3つです。厚生労働省+1
- ヘモグロビンの材料として酸素を運ぶ
筋肉や脳に酸素を届ける“トラック”のガソリンのような存在です。足りなくなると、少し動いただけで息切れしたり、階段でドキドキしやすくなります。 - エネルギー産生に関わる酵素の材料
ミトコンドリアでエネルギー(ATP)をつくるための酵素にも鉄が含まれています。
ここが不足すると、全身レベルで「電池切れ」のようなだるさが出やすくなります。 - 神経伝達物質(ドーパミン・セロトニンなど)の合成に関与
やる気や快感に関係するドーパミン、気分の安定に関わるセロトニンの合成にも鉄が必要です。大正製薬
典型的なからだのサイン
鉄欠乏性貧血や鉄不足でよく見られる症状には、次のようなものがあります。白山内科外科クリニック |+1
- 疲れやすい・だるい
- 頭痛、頭が重い
- 動悸、息切れ、階段での息切れ
- 立ちくらみ、ふらつき
- 顔色が悪い・まぶたの裏が白い
- 爪が薄く割れやすい、髪が抜けやすい
- 手足の冷え
ヘモグロビンが大きく下がる前の「潜在的な鉄欠乏」の段階でも、なんとなくの倦怠感や集中力の低下が先に現れることが知られています。白山内科外科クリニック |+1
メンタルや睡眠とのつながり
最近は、「女性のメンタル不調と鉄不足・低フェリチンの関連」を示すデータも増えてきています。
ある国内の大規模データ解析では、物事に集中できない、落ち込みやすいといったメンタルの不調と、ヘモグロビンだけでなく血清フェリチンの低さが関連していたと報告されています。大正製薬
また、**むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)**と鉄不足の関連もよく知られています。脳内のドーパミン機能の低下と鉄代謝の異常が関係し、鉄欠乏性貧血の人に多い、夜になると脚がむずむずして眠れない状態です。ゼリアメディカルサイト
「布団に入ると足がムズムズして眠れない」「夜中に何度も目が覚めてしまう」といった睡眠トラブルの陰に、鉄不足が隠れている場合もあります。
自律神経のバランスにもじわじわ影響
鉄不足で酸素供給やエネルギー産生が落ちると、からだは“省エネモード”と“がんばりモード”の切り替えがうまくいかなくなり、自律神経にも負担がかかります。
- 朝からすでに疲れている
- 午後になると急にだるさが押し寄せる
- ちょっとしたことで動悸や焦りを感じる
といった“なんとなく自律神経の乱れっぽい”感覚も、鉄不足と重なって出ているケースがあり、現場でも実感するところです。
とはいえ、これらの症状は他の病気でも起こりうるため、鉄だけに結びつけてしまわないことも大切です。甲状腺の病気や心臓、ホルモンの異常などでも似た症状が出ます。気になる場合は、自己判断で様子を見るより、一度きちんと受診して検査してもらう方が安心です。
4. 生活パターンと鉄不足・フェリチン低値のつながり
日常生活の中には、鉄不足を招きやすいパターンがいくつかあります。全部当てはまる必要はなく、「いくつか重なっていると、少しケアしたいね」というイメージで読んでみてください。
よくあるパターン① 食事のボリューム・偏り
- ダイエット中で、肉・魚を控えがち
- 朝食を抜く、または菓子パンとコーヒーだけ
- 忙しくて、夜はコンビニで簡単に済ませる日が多い
日本人女性は、推奨量に比べて鉄摂取量が少なく、必要量の6割程度にとどまっているというデータもあります。母性ナビ+1
植物性の食品にも鉄は含まれますが、吸収率の高い「ヘム鉄」は主に肉や魚に含まれます。
「なんとなくヘルシー」を意識しすぎて、結果的に鉄が少ない食事になってしまうケースは少なくありません。
よくあるパターン② 月経や出血によるロス
- 月経量が多い・期間が長い
- 不正出血が続いている
- 子宮筋腫など婦人科の持病がある
月経のある女性は、毎月どうしても鉄を失いやすい状態です。
そこに食事からの鉄が足りない状態が重なると、貯蔵鉄(フェリチン)がじわじわと減っていきます。厚生労働省+1
よくあるパターン③ 産後・授乳期・忙しすぎる毎日
- 産後の出血+授乳で睡眠不足が続いている
- 小さな子どもの育児と仕事の両立で、ゆっくり食事がとれない
- 自分の受診は後回しになりがち
こうした状況では、鉄だけでなく、睡眠不足やストレス、自律神経の乱れも同時に起こりやすくなります。
ある意識調査では、「疲れが取れない」「だるさを感じる」といった鉄不足が一因と考えられる不調があっても、約7割の女性が鉄不足対策を特にしていないという結果も出ています。ファンケル
「がんばりすぎている毎日」に、鉄不足が上乗せされているイメージです。
ここまで読んで、「もしかして自分も…?」と感じた方もいるかもしれません。
ここからは、よくいただく質問にQ&A形式でお答えしていきます。
Q1. フェリチンはどのくらいあれば安心なのでしょうか?
フェリチンの“理想値”には個人差があり、年齢や性別、持病などでも変わるため、一概に「何ng/mLあれば安心」とは言い切れません。
日本鉄バイオサイエンス学会では、フェリチン12 ng/mL未満を鉄欠乏と定義し、12〜25 ng/mL未満を貯蔵鉄の減少としています。日本鉄バイオサイエンス学会+1
目安としては、25 ng/mLを切っている場合は、生活や体調とあわせて主治医と相談したいラインと考えて良いでしょう。
ただし、フェリチンは炎症や感染症、肝臓の病気などがあると逆に高く出ることもあります。検査結果は数値だけで判断せず、必ず医師に解釈してもらうことをおすすめします。
Q2. 鉄サプリメントを飲めば、とりあえず安心ですか?
自己判断で高容量の鉄サプリメントを長期間飲み続けることはおすすめしません。
通常の食事だけで鉄を“摂り過ぎる”ことはまずありませんが、サプリメントや治療薬での過剰摂取は、体内への鉄沈着や慢性疾患のリスクと関連する可能性が指摘されています。厚生労働省
- ヘモグロビン・フェリチンがどの程度不足しているのか
- 背景に消化管出血など、別の病気が隠れていないか
を確認したうえで、医師の指示のもとで鉄剤やサプリを使うのが基本です。
市販のサプリを使う場合も、「多ければ多いほど良い」ではなく、推奨量の範囲内で、期間を区切って使うくらいのイメージで考えてみてください。
Q3. 貧血と言われていなくても、検査を受けた方がいいサインはありますか?
次のような状態が数週間〜数か月単位で続く場合は、一度血液検査を受けてみても良いタイミングだと思います。
- 休んでも回復しないだるさ・疲れやすさ
- 歩くだけ・階段だけで息切れや動悸が強くなる
- 頭痛や立ちくらみが増えてきた
- 夜、脚のムズムズや違和感で眠れない
- 月経量が多くなった、出血の期間が長い
- 髪の毛が急に抜けやすくなった、爪が割れやすい
鉄不足かどうかに限らず、甲状腺や心臓、ホルモンなどの病気が隠れていることもあります。
「こんなことで受診していいのかな」と遠慮する必要はありません。心配な場合は、内科や婦人科などで相談してみてください。
5. 今日からできる「鉄不足との付き合い方」の小さな一歩
最後に、読んでくださった方が**今日から試せる“小さな一歩”**をいくつか挙げておきます。全部いきなり完璧にこなす必要はありません。できそうなものを一つ選ぶだけでも、からだの印象は少しずつ変わっていきます。
① 検査結果の「見方」を知っておく
次に健康診断や受診の機会があったら、
- ヘモグロビン(Hb)
- フェリチン(必要に応じて追加で相談)
を意識して見てみてください。「フェリチンも測ってもらえますか?」と一言聞いてみるだけでも、情報量はぐっと増えます。
② 食事で“ちょっとだけ鉄を意識する”
毎日が難しくても、週のうち何回かでもいいので、
- 赤身肉・レバー・カツオ・マグロ・イワシなどの「ヘム鉄」をとる
- ほうれん草・小松菜・ひじき・大豆製品などの「非ヘム鉄」+ビタミンC(野菜・果物)を組み合わせる
- 食後すぐの濃いお茶・コーヒーは、鉄の吸収を妨げやすいので少し時間を空ける
といった工夫を取り入れてみるのも良いと思います。厚生労働省+1
私自身も、忙しい日の食事はどうしても偏りがちです。そんな日は「せめてタンパク質と野菜だけでも足しておこう」といった“60点を目指す選択”を意識するようにしています。
③ 「自分の疲れ方」をメモに残してみる
だるさや頭痛、動悸、メンタルのゆらぎは、その日の天気や睡眠時間、仕事の忙しさでも変化します。
簡単なメモでいいので、
- その日の疲れ具合(10点満点で何点くらいか)
- 月経の状態
- 睡眠時間や夜の覚醒回数
などを書き留めておくと、後で医師に相談するときにも役立ちますし、自分でもパターンに気づきやすくなります。
鉄不足やフェリチン低値は、数字だけを見ると「少しの不足」に見えるかもしれません。
それでも、日々の忙しさや睡眠不足、ストレスと重なったとき、「なんとなく不調」を長引かせるひとつのピースになることがあります。
全部を一気に変える必要はありません。
まずは「自分のからだと血液データの関係を、少しだけ丁寧に見てみる」。
その小さな一歩が、今のしんどさをほどいていくスタートになるはずです。焦らず、マイペースでいきましょう。
