1. 「ちゃんとしなきゃ」と思うほど、からだが悲鳴を上げることがある
「任された仕事は完璧にこなしたい」「中途半端なまま終わらせたくない」。
そんなふうに普段から気を張っている人ほど、肩こりや頭痛、夜なかなか眠れないといった相談が多くなります。
オンラインでの打ち合わせが増え、家事や育児との両立も求められるようになった今、「生真面目さ」や「責任感の強さ」がそのまま体調不良につながるケースは珍しくありません。
私がこれまで関わってきた方を振り返ってみても、
- 首から肩にかけて常にガチガチ
- こめかみや目の奥の頭痛が続く
- 布団に入っても仕事の段取りが頭から離れず眠れない
といった「心当たりのある組み合わせ」が、完璧主義的な傾向のある方に重なっていることが多いと感じます。
この記事では、「完璧にこなそうとするクセ」がからだにどんな負担をかけているのかを、
からだの構造・自律神経・感覚やメンタルの3つの視点から整理していきます。
全部を変える必要はありません。
読み終わったときに「これなら、試しにやってみてもいいかな」と思えるヒントをいくつか持ち帰ってもらえたらうれしいです。


2. 完璧主義ってそもそもどんな状態?やさしく整理してみる
「完璧主義」と聞くと、少し極端なイメージが浮かぶかもしれませんが、実際にはグラデーションがあります。
心理学の分野では、
- 自分に対して「こうあるべき」という基準がとても高い
- 失敗やミスに対して過剰に敏感
- 他人からどう見られているかを強く気にする
といった特徴を含めて「完璧主義傾向」と呼ぶことが多いです。
からだトラブルとの関連を考えるうえでは、ざっくり次のようにイメージしておくと整理しやすくなります。
| よくある特徴 | からだへの出方の例 |
|---|---|
| なんでも“100点”を目指しやすい | 仕事・家事を休むことに強い罪悪感が出る |
| 自分の失敗を許せない | ミスのあとに動悸や胃の不快感が続く |
| 他人の期待に応えようと頑張りすぎる | 肩こり・頭痛・眠れない夜が増える |
大切なのは、「完璧主義 = ダメ」ではない、という点です。
向上心が高く、責任感があるからこそ、仕事や家族との関係がうまくいっている部分もたくさんあるはずです。
一方で、「どんな状況でも100点を目指し続ける」ことは、からだにとっては常に緊急モードで走り続けているようなもの。
この“アクセル踏みっぱなし状態”が、結果として肩こりや頭痛、眠れなさにつながりやすいと考えられます。
最近の研究では、「完璧主義傾向が強い人はストレスを感じやすく、うつ症状や不安症状と関連しやすい」という報告がいくつも出ています。
ストレスが増えれば自律神経のバランスも乱れやすくなり、筋緊張や睡眠の質にも影響が出る、という流れです。
ここから先は、「からだの中で何が起きているのか」をもう少し具体的にみていきます。
3. 完璧を目指すと、筋肉・自律神経・睡眠に何が起きるのか
3-1. 肩こり・頭痛:筋肉が“力を抜くタイミング”を失う
まずは一番分かりやすい「肩こり・首こり」から。
「ミスできない」「早く仕上げなきゃ」と頭の中がいっぱいになるとき、多くの人は無意識のうちに、
- 歯を食いしばる
- 眉間にシワが寄る
- 肩をすくめるようにしてパソコン作業を続ける
といった姿勢になっています。
このとき首から肩にかけては、常に軽く“戦闘態勢”の筋肉活動が続きます。
本来なら、集中 → いったん脱力 → 集中…と、強弱がつきながら働いてくれるのが理想です。
しかし「常に100点を取り続けたい」状態が続くと、
筋肉が力を抜くタイミングそのものを失ってしまい、いつ見てもガチガチ、という状態に近づきます。
緊張が続くと、首の後ろやこめかみ周りの筋肉も硬くなり、血流が悪くなります。
そうすると「締め付けられるような頭痛」「目の奥の重さ」といった形で、頭痛が日常的に出やすくなります。
3-2. 自律神経:交感神経が優位な時間が長くなる
完璧主義の人は、頭の中の「やることリスト」が常に稼働していることが多いです。
- あのメール、表現は大丈夫だっただろうか
- 会議の準備、あれも入れておいたほうがよかったかも
- 家に帰ったらあれとこれを片付けて…
こうした“終わらない内的チェックリスト”は、からだにとってはストレス信号とほぼ同じ意味を持ちます。
ストレスを受けると、自律神経のうち「交感神経」が優位になります。
交感神経は、心拍数を上げ、血圧を少し高め、筋肉に血液を送り出し、「戦う・逃げる」モードの準備を進める役割があります。
短時間であれば、交感神経が働くこと自体は悪いことではありません。
問題は、完璧主義でいつも気を張っている人では、この交感神経優位な時間が長くなりやすいことです。
ストレスホルモンであるコルチゾールも、心理社会的ストレスが続くと分泌が高まりやすくなることが分かっています。
長期間こうした状態が続くと、疲れが取れにくい、免疫が落ちやすい、血糖値が乱れやすいといった影響も出てきます。
3-3. 眠れない夜:頭のブレーキがききにくくなる
「布団に入ってからが反省会の本番です…」という声もよく聞きます。
昼間のやり取りや、自分の発言、送ったメールの文面などを寝る前に思い返し、
「もっとこう言えばよかった」「あれは誤解されていないだろうか」と考え始めると、
頭の中は再び“フル会議モード”に戻ってしまいます。
睡眠の入り口では、本来、副交感神経が優位になって体温が少しずつ下がり、
呼吸や心拍数もゆっくりになっていきます。
しかし、寝る直前まで完璧さを求める考えが頭の中を占めていると、
「交感神経のスイッチ」がオフになりきらず、入眠のタイミングが遅れます。
睡眠医学の研究でも、「就寝前にネガティブな反すう(同じ考えをくり返し考えてしまうこと)が多い人ほど、
入眠までの時間が長くなり、睡眠の質も下がりやすい」と報告されています。
結果として、
- 布団に入ってから眠るまでに1時間以上かかる
- 夜中に何度も目が覚める
- 朝起きたときの「寝た実感」が薄い
という“眠れないセット”につながり、さらに翌日の集中力低下やミスへの不安が強まりやすくなります。
3-4. 「からだの感覚」に鈍くなりやすい理由
完璧主義の人は、「やるべきこと」「守るべきルール」に意識が向きやすい一方で、
からだの小さなサインを後回しにしがちです。
- 「肩が重い気がするけど、もう少し頑張ればいける」
- 「頭が痛いけど、今休むと迷惑をかけるから」
- 「眠くても、ここまでやらないと落ち着かない」
こうして感覚のサインを何度も“先送り”していると、
からだからのメッセージ全体に対する感度が落ちてしまうことがあります。
結果として、「限界ギリギリまで気づきにくい」「ある日突然、動けないほど疲れた」と感じるような経過になりやすいのです。
4. 生活パターンと完璧主義のからだへの響き方
ここからは、日常生活の中でよく見かけるパターンをもとに、
完璧さを求めるクセがどのように肩こり・頭痛・眠れなさにつながっていくのかを眺めていきます。
4-1. 「仕事は家に持ち帰らない」の逆を行く日々
テレワークやフレックスが増えた結果、
勤務時間とプライベートの境目が曖昧になっている人も多いはずです。
完璧主義傾向が強い人ほど、
- 定時を過ぎてもメールチェックを続ける
- 家に帰ってからも資料の修正をしがち
- 休日も「気になる案件」について考え続けてしまう
といった「見えない残業時間」が増えます。
ストレスに関する疫学研究では、「仕事から心理的に“切り離せない”状態が続くと、
肩こり・頭痛・睡眠障害・消化器症状などの身体症状のリスクが高まる」といった報告があります。
からだはオフにしたいのに、頭のスイッチだけがオンのまま残ることで、
交感神経優位の時間が長引き、筋肉の緊張や眠りの浅さが積み重なりやすいと考えられます。
4-2. 「頼むより自分でやったほうが早い」の積み重ね
家事や育児、職場での小さなタスクでも、
「人に頼んで失敗されるくらいなら、自分でやったほうが安心」という気持ちが働くことがあります。
もちろん、そのほうがスムーズに回る場面もありますが、
これが日常化すると、からだは常に「常駐スタッフ」のような状態になります。
- いつも自分が“最後の砦”になる
- 何かあれば自分がフォローに入る前提でスケジュールを組んでしまう
こんな日々では、休憩時間も「心から休める」感覚が得にくくなります。
筋肉も自律神経も、一度しっかりオフにする時間がないまま、低レベルの緊張が続きやすくなります。
4-3. 「がんばり方」は変えずに、気合いだけで乗り切ろうとする
多くの人は、からだの不調を感じても、
- とりあえず栄養ドリンクでごまかす
- 休日に一気に寝だめしてリセットしようとする
といった「その場しのぎ」で乗り切ろうとしがちです。
もちろん、一時的に楽になることもありますが、
完璧主義のベースが変わっていなければ、また同じ使い方に戻ります。
健康に関する大規模な調査では、
「ストレスの量」そのものだけでなく、「ストレスとの付き合い方」や「自分の考え方のクセ」が、
睡眠や慢性痛などの症状と深く関わっていることが報告されています。
つまり、「がんばり方」をほんの少し緩めることができると、
からだの負担もじわじわと変えられる可能性がある、ということです。
ここで、よくいただく質問にQ&A形式で触れておきます。
Q1. 完璧主義をやめないと、体調はよくならないのでしょうか?
「性格を丸ごと変えないといけない」と考える必要はありません。
大切なのは、「どの場面でなら“70〜80点でよし”と言ってあげられそうか」を少しずつ広げていくことです。
たとえば仕事ではきちんと仕上げたいけれど、家事は“合格ラインを少し下げる”など、
分野ごとにメリハリをつけるだけでも、からだの緊張は変わってきます。
Q2. 肩こりや頭痛があるときは、まず病院に行くべきですか?
片側だけの強い頭痛や、ろれつが回りにくい、手足の麻痺、激しいめまいなどを伴う場合は、
早めに医療機関を受診したほうがよいケースもあります。
一方で、検査では異常が見つからない「筋緊張性頭痛」「ストレス関連の不調」のことも多いです。
不安が強い場合はいったん受診したうえで、「生活の使い方」を見直していくのがおすすめです。
Q3. どのくらいつらくなったら、専門家に相談したほうがよいでしょうか?
目安としては、
- 市販薬やマッサージだけでは、日常生活に支障が出るレベルの不調が続いている
- 3か月以上、肩こり・頭痛・眠れなさがくり返し出ている
- 仕事や家事のパフォーマンスが明らかに落ちている
といった場合は、一人で抱え込まず、医療機関や専門家に相談してよいと思います。
相談すること自体も、「自分一人で完璧に抱え込まない」練習のひとつになります。
5. 「完璧すぎるアクセル」に、ほんの少し“遊び”をつくるためのヒント
最後に、今日からできそうな工夫をいくつかまとめます。
全部を一気にやる必要はありません。
「これならやれそうかな」と感じるものを1つ、2つだけ拾ってみてください。
5-1. 一日の中に「アラを残す時間帯」を決める
一日のどこかで、「あえて完璧を目指さない時間帯」を決めてしまう方法です。
- 夜21時以降は、仕事のメールを開かない
- 夕食後の片付けは“7割きれい”で終了にする
- 休日の午前中は、家事の優先順位を2つだけに絞る
など、ルールは自分でカスタマイズしてかまいません。
ポイントは、「やらない」と決めたことに対して、自分を責めない練習をすることです。
何度か繰り返すうちに、「完璧じゃなくても、意外と物事は回る」という感覚が育っていきます。
5-2. 肩とあごに「こまめな脱力スイッチ」を入れる
完璧主義の人は、肩とあご(食いしばり)の緊張が強いことが多いです。
- 1時間に1回、肩をすくめてストンと落とす
- 上下の歯を「1〜2ミリ」離す感覚を意識する
- 改札や信号待ちなど、立ち止まったときに首をゆっくり一回だけ回す
こうした小さな動きでも、筋肉にとっては「力を抜いていい時間なんだ」というサインになります。
からだに“休憩のクセ”をつけていくイメージです。
5-3. 寝る前30分を「反省会」ではなく「回復タイム」にする
眠れない夜が続いている人ほど、寝る前30分の過ごし方を見直す価値があります。
- スマホはベッドから手が届かない場所に置く
- 明日のタスクは紙に書き出して、頭から“外に出しておく”
- 明かりを少し落として、呼吸を意識しながら軽くストレッチする
など、「頭の回転数を下げていく行動」を意識してみてください。
睡眠医学の領域では、就寝前のルーティンを整えることが、
入眠のしやすさや睡眠の質を高めるうえで有効とされています。
完璧主義の人ほど、「寝る前30分だけは、がんばらない練習の時間」と決めてしまうのがおすすめです。
完璧を目指してきたからこそ、今のあなたの仕事や生活が支えられている部分もきっとあります。
その力を否定する必要はまったくありません。
ただ、「からだの悲鳴」が聞こえ始めているなら、
アクセルの踏み方を少しだけ変えてみるタイミングなのかもしれません。
100点を取らなくてもいい場面を少しずつ増やすことは、
肩こりや頭痛、眠れない夜を和らげるだけでなく、
長い目で見て、あなたのパフォーマンスを守ることにもつながっていきます。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
