1. オンライン会議が続く日の「終わったあとのぐったり感」
一日じゅうオンライン会議が入っている日、夕方には「イスから立ち上がる気力もない…」と感じることはありませんか。
頭はぼんやり、目はショボショボ、首や肩は板のよう。人と話しているだけなのに、なぜここまで消耗するのか、不思議に感じる方も多いと思います。
臨床で話を聞いていても、
「対面で研修していたときより、オンラインのほうが明らかに疲れる」
「1時間の会議より、30分×3本のオンライン会議のほうがぐったりする」
といった声はとても増えています。
この記事では、オンライン会議ならではの
- 脳の疲れ方
- 目や首・肩の負担
- 心の消耗感
を、それぞれ整理しつつ、「全部は変えられないけれど、このあたりだけ意識するとラクになりやすい」という現実的なケア方法をまとめていきます。
「オンライン会議がある日は、終わったあとまだ自分の時間を楽しめるくらいの余力を残したい」という方の、小さなヒントになればうれしいです。


2. 「Zoom疲れ」とも呼ばれるオンライン会議の疲れ方とは
最近は海外の研究でも「Zoom疲れ(Zoom fatigue)」という言葉がよく使われるようになりました。
ビデオ会議システム全般で起こる疲れ方を指す言葉で、単なる「長時間労働の疲れ」とは少し質が違います。EBSCO+1
ざっくり整理すると、オンライン会議の疲れはこんな要素が重なって生まれます。
- 画面越しのコミュニケーションに特有の“気づかれない緊張”
- 長時間同じ姿勢で座っていることによる首・肩・腰への負担
- 近い距離で画面を見続けることによる目の酷使
- 「いつも人に見られている」ような感覚からくるストレス
スタンフォード大学の研究グループは、Zoom疲れの原因として、次のようなポイントを挙げています。tmb.apaopen.org+1
- 顔が大きく映りすぎる・視線が常に合っているように感じる
- 相手の反応を読み取るために、表情や声のニュアンスを過剰に処理してしまう
- 自分の映像が常に映っており、無意識の「自分チェック」が起きる
- 画面の前でほとんど動けず、身体が拘束されている感覚が続く
対面コミュニケーションと比べると、
「少しがんばって相手の反応を読み取り続ける時間」が長くなるのが特徴です。
そこに、仕事の内容・会議の本数・家事やプライベートの負荷が重なると、
「今日は何時間も走り回ったわけじゃないのに、なぜかフルマラソン後のような疲労感」
という状態になりやすくなります。
3. 画面越しコミュニケーションで、脳・目・からだに起きていること
オンライン会議中、からだのなかでは具体的にどんなことが起きているのかを、少し分解してみます。
3-1. 脳は「ノイズの多い会議室」でフル回転している
ビデオ会議では、声がわずかに遅れて聞こえたり、映像がカクついたりすることがあります。
ほんのわずかな遅延でも、人間の脳は「聞き取りにくい」と感じて余分な集中力を使うことが分かっています。PMC+1
さらに、画面上では本来なら無視してもよい情報まで目に入ります。
- 参加者全員の顔が同じ大きさで並んでいる
- 背景の物がチラチラ動く
- 誰かの通知音やミュートし忘れの生活音
といったものです。
脳は、これらの情報を「重要かどうか」仕分け続けながら、会議の内容も理解しようとします。
つまり、会議中ずっと、
不要な情報を捨て続けながら、必要な情報だけを必死に拾っている
状態になり、結果として「認知負荷」が高くなります。
3-2. 自分の映像を見続ける「うっすら自己監視」
多くのツールは、自分の顔も画面の端に映ります。
研究では、この「自分の姿を見続けること」がZoom疲れを強める一因になっていると指摘されています。ssrn.com+1
- 「変な表情になっていないかな」
- 「部屋が散らかって見えないかな」
- 「疲れて見えていないかな」
といった“うっすらした自己監視”が続き、気づかないうちにストレスが積み重なります。
私自身もオンラインで講義をするとき、自分の映像を消しているときのほうが、終わった後のどっとした疲れは少ない感覚があります。
3-3. 目の筋肉と首・肩は「ずっと軽い全力疾走」
画面を見続けると、目のピントを合わせる筋肉や、まぶたを開け続ける筋肉が休めなくなります。
デジタル機器を長時間使うことで起こる「デジタル眼精疲労」では、
- 目の乾き・痛み・ピントの合いにくさ
- 頭痛
- 首や肩のこり
などがセットで出やすいことが、大規模な調査で報告されています。EyeWiki+3AAO+3AAO+3
また、オンライン会議中は画面に顔を近づけがちで、
首が前に出た姿勢で固まりやすくなります。
長時間の座りっぱなし・前かがみ姿勢が、首や肩の痛み・コリのリスクを高めることは、多くの研究で示されています。MDPI+3The Washington Post+3BMJ Open+3
結果として、
- 目の筋肉
- 首から肩にかけての筋肉
- 背中を支える筋肉
が同じ状態で緊張し続け、会議が終わるころには「カチカチの肩」と「重たい頭」がセットでやってきます。
3-4. 自律神経は「オンになりっぱなし」
オンライン会議は、対面よりも「沈黙が気まずく感じやすい」「表情から感情を読み取りにくい」という特徴があります。PMC+1
そのため、
- 相手の反応を読み違えないように気を張る
- 話を遮っていないか常に気にする
- 自分の発言の順番を逃さないよう、ずっと待機している
といった状態が続き、自律神経のうち「緊張モード(交感神経)」が優位になりがちです。
交感神経のスイッチが入りっぱなしだと、
- 心拍数や血圧が上がりやすい
- 呼吸が浅く早くなる
- からだが“戦闘モード”で固まりやすい
といった状態が続くため、会議が終わった瞬間にどっと疲れが押し寄せます。
4. よくある一日の流れと“オンライン会議疲れ”のパターン
続いて、ありがちな一日をイメージしながら、「どこで疲れが積もりやすいか」をたどってみます。
4-1. 気づけば午前中だけで3本の会議
朝9時から1時間、10分休憩のあとにまた1時間、そのあと30分…
カレンダーがオンライン会議でぎっしり埋まっている方は少なくありません。
このパターンでは、
- 目と首・肩を休める時間がほとんどない
- 会議の合間もメール対応や資料チェックで画面を見続ける
- 立ち上がるタイミングがなく、トイレも我慢しがち
といった“小さな無理”が積み重なります。
4-2. 昼食後の「眠い時間帯」にもオンライン打ち合わせ
本来、昼食後は生理的に眠気が出やすい時間帯です。
そこにオンライン会議が入ると、
- ぼんやりする自分を叱咤しながら画面を見続ける
- 眠気をごまかすためにコーヒーや甘いものが増える
- 終わった後、仕事のスピードがガクッと落ちる
という流れになりやすく、からだも心も「踏ん張り続ける状態」が続きます。
4-3. 夕方には「椅子から立つのもおっくう」に
夕方の会議が終わるころには、
- 肩から首にかけてじわっと重く、ズキズキした頭痛も出てくる
- 目を閉じても、画面のレイアウトがまぶたに残る感覚がある
- 仕事が終わっても、スマホを見る気力がわかない
という方も多いです。
この「ぐったり感」は、
- 脳の認知負荷
- 自律神経のオン状態
- 目と首・肩の物理的な疲れ
が重なった“ミックス疲労”と考えるとイメージしやすいかもしれません。
Q1. オンライン会議では、カメラは常にオンにした方がいいのでしょうか?
研究では、「カメラオン」の時間が長いほどZoom疲れが強くなる傾向が報告されています。Nature+1
会議の性質にもよりますが、
- 報告やレクチャー中心の場面ではカメラオフも選択肢にする
- 発言が必要なときだけオンにする
など、メリハリをつけることで、自己監視によるストレスを軽くできる可能性があります。
Q2. オンライン会議の疲れは、自律神経の乱れと関係がありますか?
オンライン会議は、姿勢の固定・目の酷使・緊張状態の継続が重なりやすく、自律神経にとっては負担のかかりやすい状況です。
・寝つきが悪くなる
・動悸や息苦しさ、不安感がセットで出る
といった症状が続く場合、自律神経のバランスが揺さぶられているサインの一つと考えてよいと思います。
ただし「全部を自律神経のせい」と考えすぎると不安が強くなるので、姿勢や目・体のケアとセットで考えていくことが大切です。
Q3. どのくらいしんどくなったら、専門家や医療機関に相談したほうがいいでしょうか?
- 強い頭痛や吐き気、視界の異常が続く
- 手足のしびれや力が入りにくい症状を伴う
- 胸の痛みや強い動悸を繰り返す
- 眠れない日が何週間も続き、日常生活に支障が出ている
といった場合は、オンライン会議の疲れだけでは説明できない病気が隠れている可能性もあります。
「仕事だから仕方ない」と我慢しすぎず、早めに医療機関に相談することをおすすめします。
5. 今日からできる「オンライン会議疲れ」を軽くする小さな工夫
すべての会議を減らすことは難しくても、「からだの負担のかけ方」を少し変えるだけで、ぐったり感は和らぎやすくなります。やれそうなものから一つだけでも十分です。
5-1. 会議ごとに「目・首・視線」をリセットする
オンライン会議が終わるたびに、30秒〜1分だけ、次のような“儀式”を入れてみてください。
| 行動のヒント | 具体的なやり方のイメージ |
|---|---|
| 目のリセット | 20秒ほど、遠くの景色や壁のすみを見る(20-20-20ルールを応用)AP News+1 |
| 首・肩のリセット | イスに座ったまま、肩を大きく前後に3回まわす/首をゆっくり左右に倒す |
| 姿勢のリセット | いったん立ち上がり、背伸びをしてから座り直す |
たった1分でも、目の筋肉や首・肩の血流がリフレッシュされ、次の会議への持久力が変わってきます。
5-2. カメラと画面の「距離」と「高さ」を見直す
- 画面との距離を、腕を伸ばして指先が触れるくらいまで離す
- 目線が、画面のやや上1/3くらいにくるよう高さを調整する
- ノートPCだけでなく、可能なら外付けモニターやスタンドを使う
といった工夫は、首の前のめり姿勢を減らし、首・肩こりの予防につながります。サイエンスダイレクト+1
「とりあえずノートPCをそのままテーブルに置く」状態から一歩抜け出すだけでも、1日の終わりのしんどさは変わりやすいです。
5-3. 会議の「詰め込みすぎ」を1割ゆるめる
- 60分会議を50分に短縮して、10分の移動時間(休憩)を確保する
- 30分会議を連続させず、間にメール処理や資料整理など“画面から少し離れられるタスク”を挟む
- 「これは本当に会議が必要?」と、一度だけ立ち止まってみる
こうした“1割ゆるめる工夫”は、脳と自律神経にとって大きな余白になります。
完璧にスケジュールを組むより、「少し余白がある一日」のほうが、結果的にパフォーマンスは安定しやすいことも多いです。
オンライン会議が続く一日のぐったり感は、「気合いが足りないから」ではありません。
画面越しのコミュニケーション特有の負担が、脳・目・首肩・自律神経にじわじわ積み重なった結果です。
全部を変えようとすると苦しくなりますが、
- 会議ごとの1分リセット
- 画面との距離と高さの見直し
- スケジュールを1割ゆるめる
このあたりから少しずつ試してみてください。
「オンライン会議の日でも、夕方にまだ自分の時間を楽しめる余力が残っている」という感覚を、すこしずつ取り戻していけたらいいなと思います。
今日もここまで読んだ自分を、ちゃんと労ってあげてくださいね。🫧
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
