「なんとなく息が浅い」人が増えている?~マスク生活・猫背・スマホ姿勢と呼吸の浅さ~

「前かがみでスマホを見る姿勢から上体を起こし、深く息を吸い込もうとしている男女のイラスト(息が浅い生活と姿勢・呼吸の関係をイメージした画像)」
目次

1. 「大きく息を吸えていない気がする」そんな相談が増加中

ここ数年、「なんとなく息が浅い気がする」「深呼吸してもスッキリしない」という相談がじわじわ増えています。
胸いっぱいに空気を入れた感覚がなくて、常に胸のあたりにモヤモヤが残るような感覚が続く。そんな声です。

背景には、マスク生活が長く続いたこと、オンライン中心の生活、スマホを見る時間の増加など、生活スタイルの変化が重なっています。座っている時間が伸び、前かがみの姿勢が「標準」になってしまった人も多いはずです。

私自身、パソコン作業やスマホに集中していると、知らないうちに肩がすくみ、呼吸が浅くなっていることがあります。気づいて一度大きく息を吐き出すと、「こんなに止めてたんだな」と驚くこともあります。

この記事では、「息が浅い」というあいまいな感覚を、もう少し具体的に言葉にしながら、

  • からだの中で何が起きているのか
  • マスク生活・猫背・スマホ姿勢とどう関係しているのか
  • 今日からできる、呼吸を少しラクにするコツ

を整理していきます。すべてを完璧に変えなくても、「ここだけ意識してみよう」というポイントを見つけるつもりで読んでみてください。


2. 「息が浅い」とはどういう状態かを、いったん整理してみる

「息が浅い」という言葉はよく使われますが、医学的な診断名ではありません。
ただ、日常会話のなかでは、だいたい次のような感覚を含んでいることが多いです。

  • しっかり吸っているつもりでも、胸いっぱいに入った感じがしない
  • 吸う量は多いのに、なぜかスッキリしない
  • 呼吸の回数は多いのに、一つ一つが浅く落ち着かない
  • 呼吸と一緒に、動悸・不安感・ソワソワ感がついてくる

呼吸そのものにもいくつか種類があります。

用語イメージポイント
深い呼吸下っ腹や肋骨までふんわり動く横隔膜・肋骨がしっかり動く
浅い呼吸胸の上の方・首あたりだけで吸う呼吸筋が一部に偏りやすい
速い呼吸ハァハァと回数が多い運動時・不安時に増えやすい
過換気ぎみ浅く速い呼吸が続くしびれ・めまいが出ることも

「浅い呼吸」は、必ずしも病気というわけではありません。緊張したとき、人前で話すとき、階段を駆け上がったあとなど、一時的に浅く速くなるのは自然な反応です。

問題になりやすいのは、

  • 特別な理由がないのに、日常的に浅い呼吸が続いている
  • 座っているだけ・横になっているだけなのに、呼吸がしづらい
  • 息が浅い感覚に、不安・動悸・頭痛・肩こりなどがセットになっている

といった状態が「普通」になっている場合です。

最近は「自律神経が乱れているのかな?」と自己判断される方も増えていますが、実際には

  • 姿勢や筋肉のこわばり
  • マスク生活の長期化
  • ストレス・不安の積み重ね

といった複数の要素が絡み合っています。呼吸だけ切り離して考えるより、からだ全体と生活の流れの中で眺める方が、対策が具体的になりやすいです。


3. マスク生活・猫背・スマホ姿勢で、からだの中では何が起きているか

ここからは、「構造」「神経」「感覚」の3つの視点に分けて、呼吸が浅くなる背景を眺めてみます。

3-1. 構造の視点:肋骨の動きが小さくなると、呼吸も小さくなる

呼吸で主役になる筋肉は「横隔膜」です。みぞおちの奥にドーム状に張っている筋肉で、息を吸うと下に下がり、吐くと上がります。
同時に、肋骨の間にある「肋間筋」や、背中の筋肉も動いて、胸郭全体がふんわり広がって縮みます。

ところが、長時間の猫背姿勢やスマホ姿勢が続くと、

  • 胸の前がペタンとつぶれる
  • 肋骨が内側に巻き込まれた形で固まりやすい
  • 首の前や肩まわりの筋肉ばかりが緊張する

という状態になり、横隔膜や肋間筋の動きが小さくなります。

海外の研究でも、「座位時間が長く、前かがみ姿勢が多い人ほど、肺活量や呼吸筋の機能が低下しやすい」という報告があります。長時間座位の生活が心肺機能に影響する可能性を示したデータもあり、世界的に問題視されています。

数字を細かく覚える必要はありませんが、「長時間の猫背+座りっぱなし」は、呼吸の“器”そのものの動きも小さくしがち、というイメージは持っておいてよさそうです。

3-2. 神経の視点:浅い呼吸は、交感神経をオンにしたままにしやすい

呼吸は、自律神経とも直結しています。ざっくり言うと、

  • 早く浅い呼吸…交感神経(緊張モード)が優位になりやすい
  • ゆっくり深い呼吸…副交感神経(休息モード)が働きやすい

という特徴があります。

ストレスがかかったとき、脳は「いつでも動けるように」からだを準備します。心拍数を上げ、筋肉に血液を送り、呼吸も浅く速くします。この反応自体は生き延びるための仕組みですが、問題はその状態が長く続くことです。

いくつかの研究では、不安障害や慢性的なストレス状態の人ほど、安静時でも呼吸が浅く速くなりやすい傾向が報告されています。また、呼吸をゆっくり整えるトレーニングが不安感や血圧の改善に役立つ可能性も示されています。

つまり、「息が浅いから自律神経が乱れている」のではなく、

  • ストレス → 浅い呼吸になる
  • 浅い呼吸が続く → 交感神経がオンになりっぱなし
  • 結果として、「息苦しさ+不安+モヤモヤ」がセットになる

というループに入ってしまう人もいる、ということです。

3-3. 感覚の視点:マスク生活と「息苦しさ」の感じ方

マスク生活が長く続いたことで、「マスク=息苦しい」という印象を持っている方も多いと思います。
実際には、日常生活レベルのマスク着用で酸素や二酸化炭素の値が危険なレベルまで変化することは少ない、とする調査もあります。

それでも「息苦しい」と感じるのは、

  • 口元に常に布が触れている感覚
  • 自分の吐いた息の温かさ・湿気をずっと感じる
  • 声が通りにくく、つい口呼吸気味になる

など、感覚的なストレスが重なっているからです。感覚としての「息苦しさ」が続くと、脳は「今はちょっと緊張状態だ」と判断しやすくなります。

結果として、

  • マスクをしているときは無意識に浅い呼吸
  • 外した瞬間にドッと疲れを感じる

というパターンが起こりやすくなります。「マスクが悪い」というより、マスク生活に合わせたからだの使い方が習慣化し、そのクセが今も残っている人が多い、という見方の方が近いかもしれません。


4. こんな生活パターンが、「なんとなく息が浅い」を育てやすい

構造・神経・感覚の話を、もう少し日常の場面に落としてみます。思い当たるところがあれば、「全部」ではなく「ここだけちょっと変えてみようかな」と眺めてください。

4-1. 「座りっぱなし+スマホ前かがみ」がいつの間にか標準ポジションに

在宅勤務・オンライン会議・動画視聴・SNSチェック…。
1日のなかで、座って前かがみで画面を見る時間が、いつの間にか何時間もある人は少なくありません。

  • イスの背もたれによりかかり、骨盤が後ろに倒れる
  • その上に丸まった背中がのり、頭が前に出る
  • 目線を画面に合わせるために、首の後ろがつねに踏ん張る

この姿勢では、肋骨の動きはどうしても小さくなります。
呼吸が浅くなるだけでなく、首・肩・背中も「呼吸のたびにガチガチ動員される」ので、夕方にはどっと疲れが出やすくなります。

4-2. 「ため息のような深呼吸」が増えていないか

忙しい日や、気持ちが落ち着かないとき、「はぁ…」とため息のような深呼吸が増えることがあります。一見「深呼吸しているから良さそう」にも見えますが、

  • 日中ずっと浅い呼吸
  • 限界がきて、ときどき大きく吸って一気に吐き出す

というパターンだと、「振れ幅の大きい呼吸」が自律神経を消耗させてしまうこともあります。

ある調査では、仕事のストレスが強い人ほど、日中の呼吸パターンが不規則で、浅く速い呼吸と大きなため息が混ざりやすい傾向が報告されています。
呼吸そのものが「ストレスのバロメーター」になっているわけです。

4-3. 寝る前スマホで、休息モードに切り替わりづらい

寝る前のスマホ習慣も、「息が浅いまま眠りにつく」原因のひとつです。
ブルーライトが脳を覚醒させるだけでなく、

  • ベッドで横向きのまま、画面をのぞき込む姿勢
  • 肩や首がねじれた状態で、長時間固まる
  • SNSやニュースで心がザワザワする情報が目に入る

など、呼吸にとってあまりやさしくない条件がそろいやすいからです。

結果として、「布団に入っているのに、息が浅くて落ち着かない」「寝る前に胸のあたりがムズムズする」といった感覚につながることもあります。


Q&A:呼吸に関するよくある疑問

Q1. 息が浅いと感じたら、すぐに病院に行ったほうがいいですか?

「胸の痛み」「強い息切れ」「冷や汗」「意識が遠のく感じ」など、急激で強い症状がある場合は、迷わず医療機関を受診してください。心臓や肺の病気が隠れている可能性があります。

一方で、「なんとなく浅い」「モヤモヤする」程度で、日常生活はこなせている場合、まずは姿勢・生活習慣・ストレスとの関係を見直すことも大切です。それでも不安が強いときや、症状が何週間も続くときは、一度内科や呼吸器内科で相談しておくと安心です。

Q2. 息が浅いのは、全部“自律神経の乱れ”が原因なのでしょうか?

自律神経の影響は確かに大きいですが、「自律神経だけ」が原因ということはほとんどありません。姿勢、筋肉のこわばり、運動不足、ストレス、睡眠の質、ホルモンバランスなど、複数の要素が関わります。

「自律神経のせい」と一言で片付けてしまうと、かえって不安が強くなってしまうこともあります。「からだとこころのバランスが少し偏っているサインかもしれない」くらいの受け止め方で、できるところから整えていくのがおすすめです。

Q3. 深呼吸トレーニングをすれば、すぐに改善しますか?

深呼吸そのものは、自律神経を落ち着かせるうえで役立つ手段です。ただ、「固まった姿勢のまま、無理に大きく吸おうとする」と、かえって首や肩に力が入り、苦しく感じることもあります。

ポイントは、

  • 姿勢や肋骨の動きを少し整えてから
  • 無理のない範囲で、ゆっくり丁寧に

行うことです。トレーニングというより、「からだに呼吸の感覚を思い出してもらう時間」と考えてみてください。


5. 今日からできる、「息を深くしやすいからだ」に近づく小さなヒント

最後に、すべてを一気に変えなくても取り入れやすい「呼吸リセット」のコツをいくつか挙げてみます。できそうなものから1つだけでも十分です。

5-1. 1時間に一度、「背もたれ&あばらリセットタイム」

長時間のデスクワークやスマホ時間がある日は、タイマーやアプリを使って、1時間に一度だけ次の動きを挟んでみてください。

  1. イスの奥に座り直し、背もたれに軽くもたれる
  2. 片手をみぞおち、もう片方の手を肋骨の横あたりに当てる
  3. 顔は正面を向いたまま、鼻からゆっくり息を吸い、肋骨が手の下で「少し膨らむ」感覚を探す
  4. 口をすぼめて、細く長くフーっと吐く

大きく吸おうとする必要はありません。「肋骨が少し動いたかな?」と感じられたらOKです。

5-2. 寝る前スマホの「終わりの時間」を決めてみる

呼吸だけでなく睡眠の質のためにも、寝る前スマホはほどほどにしたいところです。いきなり「ゼロにする」のは難しいので、

  • 就寝予定の30分前には画面を閉じる
  • ベッドに入ったら、画面ではなく天井や暗い部屋の空間を見る

など、「終わりのライン」を一つ決めてみてください。

画面を閉じたあとは、仰向けでお腹に手を当て、

  • 吸うときにお腹がふんわり膨らむ
  • 吐くときに、お腹が少しへこんでいく

そんな波を眺めるだけでも、からだは少しずつ休息モードに切り替わっていきます。

5-3. 「呼吸の質」をチェックするミニ質問

最後に、自分の呼吸の状態を振り返るミニチェックを置いておきます。

  • 日中、ため息のような深呼吸が1時間に何回も出ていないか
  • 息を吸ったとき、動いているのは「首・肩」ばかりになっていないか
  • マスクを外した瞬間、「どっと疲れた」と感じることが多くないか
  • 寝る前、胸のあたりのモヤモヤやザワザワが続いていないか

「全部当てはまるからダメ」という話ではありません。
いくつか当てはまるものがあれば、「ちょっと呼吸ががんばりすぎている時期かもしれないな」と受け止めて、今日紹介したような小さな工夫を試してみてください。

息が少しだけ深くなってくると、頭の中のざわつきや、全身のこわばりも少しずつほぐれていきます。毎日の中でほんの数分、「呼吸のための時間」をプレゼントしてあげられたら、それだけでもからだは喜んでくれます。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

からだトレンドラボを運営している、理学療法士のテラサワです。
病院やクリニックでのリハビリに長く関わる中で、
「もっと早く知っていれば楽になれたのに」という声を
何度も聞いてきました。

このブログでは、からだや健康にまつわる“トレンド情報”を、
医学的な視点でていねいに噛み砕いてお届けします。
難しいことはできるだけやさしく。
読み終わったときに、ちょっとだけ不安が軽くなっていたら嬉しいです。

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