1. 楽しいはずの旅行や帰省のあと、「どっと疲れる」のは珍しくありません
連休明けに、「仕事より旅行のほうが疲れた気がする」「実家から戻ってきたら、しばらく何もする気になれない」という声をよく聞きます。
思い出はたくさんできたのに、身体はぐったりしている感じ。なんとなく損をしたような気持ちにもなりますよね。
- 旅行後から頭がぼんやりして抜けない
- 帰省から戻ってきてから腰痛や肩こりが悪化した
- 連休明けは毎回、風邪みたいなだるさが出る
といった相談が少なくありません。
「年だからかな」「体力がないからだ」と自分を責めてしまう方もいますが、実際には年齢だけの問題ではなく、**長時間移動・環境の変化・予定ぎっしりスケジュールが重なった“負荷のかかり方”**が大きく関わっています。
この記事では、旅行や帰省のあとに出てくる「どっとした疲れ」を、
- からだの構造(筋肉・関節・姿勢)
- 脳やホルモン・体内時計
- 気持ちや感覚の変化
といったいくつかの面から整理しつつ、現実的にできる旅行疲れ対策をまとめていきます。
「旅行は楽しみたいけれど、あとでつぶれてしまうのは避けたい」という方の、小さなヒントになればうれしいです。


2. 「旅行疲れ」は気のせいじゃない?世の中のイメージと実際
まず、「旅行疲れ」や「帰省後の疲れ」という言葉は、医学的な病名ではありません。ただ、
- 長時間の移動
- いつもと違う寝る環境
- 人との関わりの多さ
- 予定の詰め込み
などが一度に重なることで、肉体的な疲労と精神的な疲労がミックスされた状態になりやすいことは、いろいろな研究からも示唆されています。
よくあるイメージ
一般的に、旅行疲れというと
- 「単に歩きすぎ・遊びすぎで筋肉痛になっただけ」
- 「気持ちの問題。楽しかったなら我慢できるはず」
- 「贅沢な悩み」
と軽く扱われがちです。でも、実際にはそれだけでは説明しきれません。
実際には、こんな要素が重なっています
旅行や帰省のあとに出てくる「どっとした疲れ」は、いくつかの要素が積み重なった結果として現れていることが多いです。
- 長時間移動による同じ姿勢の継続
車・新幹線・飛行機などで何時間も座っていると、血流が落ち、筋肉の酸素供給も低下しやすいことが報告されています。PMC+1 - 睡眠リズム・体内時計の揺らぎ
到着が遅くなる・早朝出発で睡眠時間が短くなる・いつもと違う枕や布団で眠りが浅くなる。
大きな時差がなくても、「寝る時間・起きる時間のズレ」だけで、睡眠の質が落ちることがデータから示されています。OUP Academic+1 - 環境の変化による“うれしいストレス”
人混み、騒音、強い照明、観光地のにぎやかさなどは、楽しい刺激である一方で、脳にとっては負荷にもなります。 - 人間関係による“気疲れ”
実家での気遣い、久しぶりに会う親戚との時間、子どもの世話など、「心のスタミナ」をじわじわ削る要素も多いです。
ざっくり言えば、「身体の疲れ」+「脳の疲れ」+「心の疲れ」が一気に押し寄せている状態。
決して「気のせい」ではなく、ちゃんと理由のある疲れ方だと理解しておくことが大切です。
もちろん、高熱が続く・強い頭痛や息苦しさがあるなど、「これは旅行疲れではなさそう」と感じる症状がある場合は、早めに医療機関での相談が必要になります。
3. 長時間移動・環境変化・予定ぎっしりでからだに起きていること
ここからは、旅行疲れの「中身」をもう少し分解してみます。
からだの構造、脳・ホルモン、感覚やメンタルの変化、それぞれで何が起きているのかをイメージしてみましょう。
3-1. 長時間移動と「座りっぱなし」の影響
車や新幹線、飛行機などの移動では、どうしても同じ姿勢で座り続ける時間が長くなります。
研究では、8時間座り続けるような状況になると、下肢の血流が低下し、筋肉への酸素供給も減ることが報告されています。PMC
また、長時間の飛行機移動では、下肢の血流低下や血圧の上昇が起こることも示されています。Physoc
それが積み重なると、
- 足のむくみ
- だるさ・重さ
- 腰や背中のこわばり
- 肩・首のハリ
といった形で表に出てきます。
「大して歩いていないのに疲れた」という感覚の背景には、**“動かなかった疲れ”**が隠れていることも多いのです。
3-2. 体内時計と睡眠リズムの乱れ
旅行や帰省では、
- 早朝出発・深夜到着
- 寝る時間が毎日バラバラ
- 枕が合わず眠りが浅い
- 子どもの夜泣きや物音で目が覚める
といった、「いつも通りに眠れない」要素が重なりがちです。
大規模な睡眠データを解析した研究では、日常的な旅行でも睡眠時間や眠りの質が乱れやすいことが示されています。OUP Academic
また、長距離移動や時差を伴う場合には、体内時計のリズムを整えるコルチゾール(ストレスホルモン)の分泌パターンが乱れ、日中のだるさ・集中力低下などに影響することも報告されています。PMC+1
結果として、
- 日中に強い眠気が出る
- ぼーっとして判断力が落ちる
- いつもよりイライラしやすい
といった、「脳の疲れ」として感じやすくなります。
3-3. 刺激の多い環境と「感覚の疲れ」
観光地や駅、空港、ショッピングモールなどは、
- 音(アナウンス・人の声・車の音)
- 光(照明・看板・車のライト)
- におい(食べ物・人の多さ)
など、五感への刺激がとても多い空間です。
こうした環境では、脳は常に周りの情報を処理し続けなければならず、**「ぼーっとしていても、裏側では頑張り続けている」**状態になりがちです。
強いストレスではなくても、弱い刺激が長時間続くこと自体が負荷になります。
私自身も、旅先から戻った日は「楽しかったのに、頭の中がザワザワしているような感じ」になることがあります。
この感覚も、決して“気のせい”ではなく、感覚処理のオーバーワークと考えると納得しやすいかもしれません。
3-4. 「心の疲れ」と身体症状のつながり
帰省は、楽しい時間であると同時に、
- 親や親戚への気遣い
- 家族間の会話や価値観の違い
- 子どもの世話・家事の負担
など、目には見えにくいストレスも多い場面です。
ストレスを感じているとき、私たちの身体ではストレスホルモンが増え、心拍数や血圧が上がりやすくなります。長期的なストレスだけでなく、短期間でも負荷が続くと、疲労感や睡眠の質の低下につながることが知られています。Nature+1
「実家は好きなんだけれど、帰ってくるとぐったりしてしまう」という感覚は、感情の揺れが身体に反映されているサインでもあります。
4. ありがちな旅行・帰省パターンと、疲れが抜けない流れ
ここからは、日常でよく見かけるパターンと、そのとき身体に何が起きやすいかをつなげてみます。
4-1. 「移動日に詰め込みすぎ」パターン
よくあるのが、
- 早朝に家を出て、長時間の車・電車移動
- 到着してすぐに観光地へ直行
- 夜遅くまで外食や観光を続ける
というスケジュールです。
このパターンでは、
- 睡眠時間が短くなる/質が下がる
- 移動でずっと座りっぱなし
- 到着後すぐに歩き回る・人混みの中にいる
という形で、**「休むスキマがほとんどない一日」**になりがちです。
その場ではテンションで乗り切れても、数日後にドッと疲れが来ることが多いです。
4-2. 「実家でじっとしていない」パターン
帰省先で、
- 食事作りや片付けを手伝う
- 子どもと遊び続ける
- 親の話をじっくり聞く
など、「身体も心もフル稼働」している方もいます。
この場合、
- 生活リズムは崩れているのに
- 「自分のペースで休む時間」はほとんどない
という矛盾が起こりやすく、「帰ってきてから一気に疲れが噴き出す」パターンになりやすいです。
4-3. 「帰ってきた翌日から全開で働く」パターン
もうひとつ多いのが、
- 夜遅くに自宅に到着
- 片付け・洗濯でさらに遅くなる
- 翌日は朝からフルで仕事・家事
という流れです。
身体はまだ“旅モード”のままなのに、いきなり「いつもの全力モード」に戻そうとすると、体内時計や筋肉・神経の切り替えが追いつかず、数日間ボンヤリしたり、肩こりや腰痛が強く出たりします。
4-4. ほんの少しの「余白」があるだけで、疲れ方は変わる
ここまでのパターンを眺めると、共通しているのは
- 予定をめいっぱい詰め込んでいる
- 「何もしない時間」がほとんどない
- 移動と活動のあいだにクッションがない
という点です。
逆に言えば、予定を全部変えなくても、「余白」を1コマ足すだけで、旅行疲れの出方はかなり変わります。
このあと紹介する対策も、「全部やらなきゃ」ではなく、できそうなものを1つか2つ選ぶ感覚で読んでみてください。
Q&A:旅行疲れについて、よくある疑問
Q1. 旅行中は元気なのに、帰ってきてから熱っぽくなるのはなぜですか?
旅行中は気持ちが高ぶっていて、アドレナリンなどの影響で一時的に疲れや不調を感じにくくなっていることがあります。
帰宅してホッとしたタイミングで、睡眠不足やストレス、免疫の揺らぎが一気に表に出て、「微熱っぽさ」「だるさ」として感じやすくなります。
ただし、39℃前後の高熱が続く・呼吸が苦しい・強い頭痛や胸の痛みがあるなど、「いつもの疲れ」とは違うと感じる場合は、早めに医療機関での受診を検討してください。
Q2. 一泊二日の近場旅行でも、ひどい旅行疲れになります。体力がないだけでしょうか?
体力だけの問題ではありません。短い旅行でも、
- 朝早く起きる
- いつもと違う環境で眠る
- 普段より情報量の多い場所にいる
などが重なれば、脳や神経は十分に疲れます。
「距離」や「日数」よりも、スケジュールの詰め込み具合と休むタイミングの少なさのほうが、旅行疲れに影響していることが多いです。
Q3. 旅行疲れが1〜2週間続くのは、何かの病気のサインですか?
連日の睡眠不足や強いストレスのあとでは、疲れが数日〜1週間ほど尾を引くこともあります。
ただし、
- 2週間以上強いだるさが続く
- 階段を上るだけで息切れする
- 体重減少や食欲不振が目立つ
といった場合には、貧血や甲状腺の病気、うつ状態など、別の背景が隠れていることもあります。
「旅行疲れにしては長いな」と感じたら、無理に我慢せず、一度医療機関で相談しておくと安心です。
5. 旅行や帰省を楽しみつつ、「あとがラク」になる小さな工夫
最後に、今日から意識できる現実的な旅行疲れ対策をいくつか挙げてみます。
全部やる必要はありません。「これならできそう」というものを1つでも取り入れるだけでも、身体の受けるダメージはかなり変わります。
5-1. 移動中は「1〜2時間につき1度、姿勢を変える」を合言葉に
長時間の座りっぱなしは、血流や筋肉の酸素状態を悪くしやすいことが分かっています。PMC+1
車・電車・飛行機のどれであっても、
- 1〜2時間ごとに立ち上がって軽く歩く
- その場で足首回し・かかと上げ下ろしをする
- 背もたれから少し離れて、背中を伸ばす
といった“こまめなリセット”を入れてあげると、旅行疲れはぐっと軽減しやすくなります。
5-2. スケジュールに「何もしない一コマ」を最初から組み込む
旅行や帰省の予定を立てるときに、
「観光や予定」=4コマ、「何もしない時間」=1コマ
くらいのイメージでスケジュールを組んでみるのもおすすめです。
- 到着した日の夜は、外食ではなく部屋でゆっくりする
- 最終日の午前中は予定を入れず、ゆっくり荷造りと散歩だけにする
- 帰宅の翌日は、できればフル稼働の予定を避ける
といった小さな工夫だけでも、「あとからつぶれる感じ」はかなり変わります。
5-3. 帰宅後は“リセット儀式”を決めておく
家に着いたあと、「とりあえず片付け」と動き続けてしまう方も多いのですが、
あえて**毎回同じ“リセット儀式”**を作っておくと、身体も心も切り替わりやすくなります。
例えば、
- 軽くシャワーか湯船につかって、移動中のこわばりを流す
- ストレッチを5分だけ行う(ふくらはぎ・太もも・腰まわり)
- 消化の良いものを少しだけ食べて、早めに布団に入る
といったシンプルなもので十分です。
おわりに
旅行や帰省のあとに「どっと疲れが出る」のは、決してあなたの根性や体力が足りないからではありません。
長時間移動・環境の変化・人間関係・スケジュールの詰め込みといった負荷が、たまたま同じタイミングで重なりやすいイベントだからこそ起きる疲れ方です。
「全部ガラッと生活を変える」のではなく、
- 移動中はこまめに姿勢を変える
- 何もしない時間を一コマだけでも確保する
- 帰宅後の“リセット儀式”を決めておく
このあたりから少しずつ試していくと、「旅行は楽しいけれど、そのあとがしんどい」というパターンから、少しずつ抜け出しやすくなります。
ここまで読んでくださったこと自体が、すでに「からだの声をちゃんと聞こうとしている」サインです。
次の旅行や帰省のときには、今回の内容をふっと思い出して、ひとつだけでも取り入れてみてくださいね。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
