夜になるとホットフラッシュや汗、不安感でなかなか眠れない。でも朝になると「うまく言葉にできない」「わがままに聞こえないかな」と黙り込んでしまう。そんな夜を何度かくり返すと、「誰も分かってくれない」という孤立感がじわじわ大きくなります。
この記事では、更年期の夜のつらさを“見える化”して、家族や職場に「伝えやすくする」ための視点をまとめました。全部を理解してもらう必要はありません。少しだけ言葉を整えることで、協力をお願いしやすくなるはずです。

1. 「わがままじゃないのに」と感じてしまう夜のしんどさ
更年期の相談を受けていると、「夜がいちばんつらいのに、朝になるとうまく伝えられない」という声をよく聞きます。
- 夜中に何度も目が覚める
- 上半身だけ急に熱くなって汗びっしょり
- 心臓がドキドキして、不安感が強くなる
こんな状態でも、朝の家族はふつうに出勤・通学の準備モード。
自分だけ“違う世界”にいるような感覚になりやすい時間帯です。
世界的には、40〜64歳の女性の約6割前後がホットフラッシュなどの血管運動神経症状(ほてり・発汗など)を経験すると報告されていますし、こうした症状は睡眠の質や日中の集中力にも影響することが分かっています。Lippincott Journals+1
日本の研究でも、ホットフラッシュがある人は、ない人に比べて不眠症状を経験しやすく、そのリスクが約2倍になるというデータが示されています。国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構+1
つまり、「夜眠れない・汗で起きてしまう」というのは、性格や気の持ちようではなく、ホルモンと自律神経の揺らぎによって起きている“からだの反応”です。
それでも、家族に話したときに
「更年期って言われても、正直よく分からない」
「そんなに眠れないなら、早く寝れば?」
こんな返事が返ってくると、「やっぱり理解されない」と心が閉じてしまいます。
ここで大事になるのが、「夜のつらさを、相手にもイメージしやすい形に変換すること」です。
2. 更年期の夜のつらさを“見える化”するという発想
感覚的なつらさは、そのまま言葉にしても伝わりにくいことが多いです。
そこでおすすめなのが、「数字」と「生活への影響」で見える化する方法です。
数字で伝えるとイメージが共有しやすい
例えば、こんな伝え方です。
- 「昨夜は3時間ごとに起きて、合計4時間くらいしか眠れていない感じ」
- 「ここ1週間、夜中の覚醒が毎晩2〜3回あって、朝起きると頭が重たい」
“眠れない”という一言よりも、回数や時間が入ることで、「それはきつそうだな」と相手もイメージしやすくなります。
更年期の睡眠に関する大規模調査では、半分近い女性が「睡眠に何らかの問題がある」と回答しており、ホットフラッシュなどの症状が強いほど、睡眠の質が落ちやすいとされています。PMC+1
つまり「夜中に2〜3回起きる」は、決して大げさな表現ではなく、よくあるパターンです。
生活への影響もセットで伝える
数字に加えて、「日中のどこに影響が出ているか」を一言そえると、ぐっと伝わり方が変わります。
- 「眠りが浅くて、朝の家事に1.5倍くらい時間がかかっている」
- 「会議中に眠気と頭の重さで集中がもたない感じが続いている」
“がまんが足りない”ように聞こえてしまう言い方から、「機能が落ちている」というニュアンスに変えていくイメージです。
更年期症状を持つ女性を対象にした国内調査では、9割以上が「家族や周囲が更年期を理解してくれると支えになる」と答えています。ファンケル
こちらが状況を“見える化”すればするほど、相手が理解しやすくなり、サポートの一歩につながりやすくなります。
3. ホルモンと自律神経の変化が、コミュニケーションも難しくする
夜のつらさをどう伝えるかを考えるとき、からだの中では何が起きているのかも、少しだけ押さえておくと気持ちが整理しやすくなります。
エストロゲン低下と「体温調節のズレ」
更年期では、卵巣から分泌されるエストロゲンがゆっくり減っていきます。
エストロゲンは、骨や血管だけでなく、「体温調節の中枢」にも影響するホルモンです。
エストロゲンがゆらぐと、脳の体温センサーが敏感になり、「ちょっと暑いかも」が「ものすごく暑い!」に誇張されて伝わりやすくなります。その結果として、
- 突然ほてる
- 上半身にバーッと汗が出る
- 熱がひくと今度は寒気がする
といったホットフラッシュが起こり、眠りを妨げます。輝きプロジェクト+1
自律神経と睡眠の“ゆらぎ”
体温調節は、自律神経とも深く関わっています。
本来、夜は副交感神経が優位になり、体温も少し下がることで「眠りモード」に入っていきますが、ホットフラッシュが頻繁に起こると、このリズムが崩れやすくなります。
- 眠りに落ちる直前に急に熱くなって、入眠できない
- 眠れても、汗や動悸でパッと目が覚めてしまう
- そのあと「また眠れなかったらどうしよう」と不安になり、さらに目が冴える
“不眠がつらい → 不安になる → さらに眠れない”というループができてしまうと、からだのしんどさに加えて、メンタル面の負担も増えていきます。
「イライラしやすさ」も、からだの反応の一部
睡眠が足りないと、感情のブレーキ役である前頭葉の働きが落ち、イライラや落ち込みが増えやすくなることも分かっています。
更年期の女性を対象にした研究でも、ホットフラッシュが強い人ほど、うつ症状や不安が高まりやすい傾向が報告されています。PMC+1
つまり、
- イライラしてしまう
- 家族の何気ない一言に傷つきやすい
- 普段なら流せることが流せない
こうした反応は、「性格が悪くなった」のではなく、ホルモン・自律神経・睡眠不足が重なった結果として起こりやすいものです。
この背景を自分で理解しておくと、家族や職場に伝えるときにも
「いま、からだの仕組みとしてこうなっている」
という説明に切り替えやすくなります。
4. 家族・職場への伝え方のコツと“言葉の選び方”
ここからは、具体的に「どう伝えるか」のパートです。
夫・パートナー、思春期の子ども、職場…それぞれに少しずつ言い方を変えると、受け止められ方が変わってきます。
4-1. 夫・パートナーに伝えるときのポイント
パートナーに話すときは、**「性格の問題」ではなく「からだの変化」**として共有することが大きなポイントです。
NGになりやすい言い方の例と、少し伝わりやすい言い方を並べてみます。
| 言い方の例(NGに転びやすい) | 伝わりやすい言い方の例 |
|---|---|
| 「最近イライラしてるの、分かってよね」 | 「ホルモンの変化で、夜ほとんど眠れていない日が続いていて、些細なことで反応しやすくなっているかも」 |
| 「家事もっと手伝ってよ」 | 「夜中に2〜3回起きていて、朝の体力が前より落ちているから、朝だけ10分手伝ってもらえるとすごく助かる」 |
| 「更年期なんだから、察して」 | 「からだの変化の時期に入っていて、自分でもコントロールしづらい症状が出ているみたいなんだ」 |
ポイントは、
- 感情だけでなく、「睡眠時間」「起きている回数」などの具体的情報を入れる
- 要望は「全部」ではなく、「この部分だけ手伝ってほしい」と小さく区切る
「全部やって」と言われると身構えてしまう人も、「ここだけならできる」と感じやすくなります。
4-2. 思春期の子どもがいる家庭での説明
思春期の子どもは、自分の変化だけでも手いっぱい。
そこに親の更年期の話が乗ってくると、うっとうしく感じることもあります。
ここでは、“更年期”という言葉を前面に出しすぎないことも一つの工夫です。
- 「最近、夜の眠りが浅くて、朝ちょっとボーッとしていることが多いんだ」
- 「年齢的に、からだのホルモンバランスが変わる時期で、暑くなったりイライラしやすかったりすることがあるんだよね」
ここまでシンプルで十分です。
そこに一言、「あなたに当たりたいわけじゃない」と添えておくと、子ども側の防御反応も少し和らぎます。
さりげなく「あなたも、将来こういう時期が来るかもしれないね」と、からだの変化について話すきっかけにしても良いと思います。「マイナビウーマン」
4-3. 職場での伝え方(上司・同僚への“ミニ説明テンプレ”)
職場では、詳しく話しすぎない方が安心な人も多いと思います。
ここでは「症状名」よりも、「仕事への影響」と「配慮してほしいポイント」に絞るのがおすすめです。
ミニ説明テンプレの一例です。
「今、年齢的なからだの変化の影響で、夜の睡眠が断片的になっている時期です。
日中の集中力に波が出やすくなっているので、
可能であれば、大事な会議は午前中に入れてもらえると助かります。
業務は責任もって行うつもりですが、体調によってはこまめに休憩をはさませてください。」
厚生労働省の情報でも、更年期症状を持つ人が仕事を続けるためには、「職場での基本的な情報共有」と「体調に応じて利用できる制度」が重要とされています。母性ナビ+1
「大ごとにしたいわけではないけれど、少し配慮してもらえるだけで仕事が続けやすくなる」というスタンスで伝えるのがポイントです。
4-4. 「全部分かってもらおうとしすぎない」という心のライン
どれだけ丁寧に説明しても、100%分かってもらうことはできません。
これは、更年期に限らず、すべての体調不良のコミュニケーションに共通するテーマです。
- 「3割くらい伝わればOK」
- 「分かってくれる人に、必要な分だけ伝える」
このくらいのラインを心の中に引いておくと、伝える前から「どうせ分かってもらえない」と決めつけなくて済みます。
実際、職場の更年期支援に関する報告書でも、本人の意向を尊重しながら、必要な範囲での情報共有を進めることが大事だとされています。日本医療政策機構+1
「私が全部説明しなきゃ」「相手を完璧に教育しなきゃ」と背負い込みすぎないことも、自分を守る大事なセルフケアです。
Q1. 職場には、病名(更年期障害など)まで伝えた方がいいですか?
必ずしも病名まで伝える必要はありません。
「年齢によるからだの変化で、夜の睡眠が不安定になっている」「体調に波があって集中力に影響が出ることがある」といった、“仕事への影響”に絞った説明でも十分です。
診断名を言うことに抵抗がある場合は、「専門の医療機関に相談しながら、仕事と両立できる方法を探しているところです」と添えると、真剣に対処していることは伝わりやすくなります。
Q2. 夫に話しても「みんな寝不足だよ」と軽く流されます…
「みんな寝不足」という言葉の裏には、「どう対応したらいいか分からない」「冗談めかして軽くしたい」という不器用さが隠れていることもあります。
そのうえで、「私の場合は、夜中に2〜3回起きてしまって、ここ1週間ほぼ熟睡できていない状態で、日中のミスが増え始めていて不安なんだ」と、“期間”と“影響”をセットで伝えてみてください。
それでも反応が変わらないときは、「今は話を聞いてもらえなかった」と一度距離をとり、信頼できる友人や医療者など、別のサポート源も持っておくことをおすすめします。
Q3. どのくらいつらくなったら、医療機関に相談した方がいいですか?
目安としては、
- 週の半分以上、睡眠不足で日中の生活に支障が出ている
- 動悸・息苦しさ・胸の痛みなど、循環器や呼吸器の症状が気になる
- 気分の落ち込み・不安感が続き、「何をしても楽しくない」状態が2週間以上続く
といった場合は、一度婦人科や更年期外来、心療内科などに相談してほしいラインです。
ホルモン補充療法や睡眠・不安に対する治療、認知行動療法など、選べる手段は増えています。セルフケアだけで抱え込まなくて大丈夫です。
5. すべてを変えなくていいから、「この一言だけ」決めておく
最後に、今日からできる小さなヒントをいくつかまとめます。
小さな一歩のアイデア
1つ目は、「自分なりの一言フレーズ」を用意しておくことです。
- 「今、からだの変化の時期で、夜の眠りが浅い日が続いています」
- 「ホルモンバランスの影響で、暑さとイライラがコントロールしづらい時期です」
この“入り口の一言”さえ決めておけば、そのあとに続ける内容は、そのときの相手や状況に合わせて調整できます。
2つ目は、「誰に、どこまで話すか」を自分の中でざっくり決めておくこと。
- パートナーには、症状+家事の具体的なお願いまで話す
- 子どもには、「眠りが浅い」「イライラしやすいかも」まで
- 職場には、「睡眠の不安定さ」「集中力の波」と仕事への影響まで
といった具合に、“レベル分け”しておくと、「これは話していい範囲かな?」と迷いにくくなります。
3つ目は、「理解してくれる人の存在を忘れないこと」。
統計的にも、更年期症状で悩む人の多くが「周囲の理解が支えになる」と感じていることが分かっています。ファンケル
家族や職場だけがすべての支えではありません。友人、医療者、同じ経験をしている人のコミュニティなど、輪を少しずつ広げていければ十分です。
完璧に伝えようとしなくて大丈夫です。
「昨夜はこんな感じでつらかった」「だから、今日はこんなふうに協力してもらえると助かる」
この2つが少しだけ言葉にできれば、それはもう立派な一歩です。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事があなたのより良い生活のための一助になりますように。
