夜になると大きないびきが続き、ときどき呼吸が止まったように静かになる。朝起きてもぐったりしていて、日中は会議中にまぶたが落ちてくる。ついでに夜はトイレで何度も目が覚める…。
そんな「少しずつ気になるサイン」が重なっているとき、背景に**睡眠時無呼吸症候群(SAS)**が隠れていることがあります。この記事では、いびき・日中の眠気・夜間頻尿と体調不良のつながりを、やさしく整理していきます。「自分はどうかな」と振り返るきっかけになればうれしいです。

1. 「いびき+眠気+夜のトイレ」が重なる相談が増えています
外来やカウンセリングで話を聞いていると、こんな言葉がよく出てきます。
- 「パートナーに“いびきがすごい”と言われるけれど、自分はよく覚えていない」
- 「朝から頭が重くて、一日中ぼんやりしている」
- 「夜中に2〜3回トイレに起きてしまい、そのあとよく眠れない」
どれも、「年齢のせいかな」「仕事の疲れだろう」と片付けられがちなものです。
ところが、これらがセットで続いているとき、睡眠時無呼吸症候群を疑ったほうがよい場面が増えてきました。
日本では、睡眠時無呼吸症候群の潜在患者は数百万人規模と推定されている一方で、実際に治療を受けている人はごく一部にとどまるといわれています。JACD+1
「ただのいびき」「ただの疲れ」と見過ごされているケースが多い、ということですね。
この記事では、
- ただのいびきと、病気が隠れていそうないびきの違い
- 日中の眠気や夜間頻尿と睡眠時無呼吸症候群のつながり
- 自分や家族がチェックしておきたいポイント
を、なるべく専門用語をかみ砕きながら整理していきます。
2. 睡眠時無呼吸症候群とは?よくあるイメージとのギャップ
「太った中年男性だけの病気」ではありません
睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、寝ている間に呼吸が何度も止まる・浅くなる病気です。医学的には「無呼吸」と「低呼吸」が1時間あたり何回起きているか(AHI)で重症度を判定します。一般社団法人日本呼吸器学会+1
世の中のイメージとしては、
- 太った中年男性
- 大いびき
- CPAP(シーパップ)という機械をつけて寝ている
といった姿が浮かびやすいかもしれません。
実際には、女性や痩せている人、高齢者でも起こりうることがわかってきています。顎の小ささや首まわりの骨格、鼻づまりのしやすさなども影響するためです。ScienceDirect+1
「ただのいびき」と「要注意ないびき」の違い
いびき自体は、多くの人が一度は経験する、ごくありふれた現象です。風邪で鼻が詰まっているとき、疲れてぐっすり寝た夜、少し飲みすぎたとき…。
問題は、いびきが“習慣化”し、その裏で呼吸が何度も止まっているかどうかです。
ざっくりと整理すると、次のようなイメージになります。
| いわゆる「ただのいびき」 | 睡眠時無呼吸症候群が疑わしいいびき | |
|---|---|---|
| 音の特徴 | 一定のリズムで続く | 急に静かになり、しばらくして「ガッ」と再開 |
| 同居家族の印象 | 「うるさいけど、ずっと鳴っている」 | 「息が止まっていて怖い」「息継ぎのようにあえぐ」 |
| 朝の状態 | たまにだるい程度 | いつもぐったり・頭痛・起きるのがつらい |
| 日中の眠気 | 時々眠い | 座るとすぐ眠くなる・運転中に眠気を感じる |
| 夜間のトイレ回数 | 0〜1回程度 | 2回以上起きることが続くことが多い |
日本呼吸器学会の資料や睡眠関連のレビューでも、いびき・夜間頻尿・日中の眠気・起床時頭痛は睡眠時無呼吸症候群を疑う代表的な症状として挙げられています。オンライン診療サービス クラウドドクター+3一般社団法人日本呼吸器学会+3JACD+3
「放置してもそのうち落ち着く」は危険な場合も
睡眠時無呼吸症候群は、単に睡眠の質を落とすだけではありません。
- 高血圧
- 心不全・不整脈
- 脳卒中
- 糖尿病・メタボリックシンドローム
などの生活習慣病と深く関係していることが、多くの研究で繰り返し報告されています。ScienceDirect+2JACD+2
「歳だから仕方ない」と我慢しているあいだに、心臓や血管への負担がじわじわと積み重なっている可能性がある、ということですね。
3. からだの中では何が起きている?いびき・眠気・夜間頻尿のつながり
ここから少しだけ、からだの中の話をしていきます。難しい専門用語は、生活のイメージに置き換えながら読んでみてください。
上気道が“つぶれかけたホース”のようになる
睡眠時無呼吸症候群の多くは「閉塞性タイプ」で、寝ているあいだにのどの空気の通り道(上気道)が狭くなってしまうことで起こります。NCBI+1
- あお向けで寝る
- 首が前に落ちる姿勢
- 首まわりに脂肪がついている
- 扁桃肥大や鼻づまりがある
こうした条件が重なると、ホースがつぶれたように空気の通り道が狭くなり、そこを空気が無理に通ることでいびきが起きます。さらに、完全にふさがると**無呼吸(10秒以上息が止まる状態)**になってしまいます。
この無呼吸・低呼吸が一晩中何十回、何百回も繰り返されると、眠りはとても浅く、バラバラに分断された状態になってしまいます。JACD+1
酸素不足と“警報モード”の自律神経
無呼吸になると、血液中の酸素が一時的に下がります。からだにとっては「窒息しかけている」のと似た状態で、脳と自律神経は「大変だ!」と警報モードに切り替わります。
- 心拍数や血圧を一気に上げる
- 眠っている脳を半分だけ起こして、呼吸を再開させる
こうした反応が、一晩のあいだに何十回も何百回も起きていると考えてみてください。翌朝、ぐったりしてしまうのはむしろ当然で、日中も眠気や集中力低下が残りやすくなります。med.or.jp+1
実際、日本を含む複数の研究で、「強い昼間の眠気」がある睡眠時無呼吸症候群の人は、居眠り運転などの事故リスクが高いことが報告されています。med.or.jp+2ResearchGate+2
夜間頻尿は「腎臓のせい」だけとは限らない
夜のトイレが増えると、「年齢のせい」「前立腺かな」と考えがちです。もちろん、それらが原因のこともたくさんあります。
一方で、睡眠時無呼吸症候群と夜間頻尿の関係も、ここ20〜30年でかなり注目されてきました。
無呼吸のとき、胸の中は強く陰圧になり、心臓に一時的な負担がかかります。その結果、心臓の中では「心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)」というホルモンが多く分泌され、腎臓に「尿をたくさん作ってください」という指令が出ます。PMC+2ScienceDirect+2
- 無呼吸・いびき → 胸腔内圧の変化 → 心臓の負担
- 心臓からANPが増える → 腎臓が尿を増やす → 夜間頻尿
という流れですね。
睡眠時無呼吸症候群の患者さんにCPAP治療を行ったところ、夜間のトイレ回数が減ったという報告も複数あります。Researchmap+2jscimedcentral.com+2
「膀胱だけの問題」と決めつけず、睡眠の質や呼吸の状態も一緒に考えることが大切です。
生活習慣病とのつながりもじわじわと
断続的な酸素不足と自律神経の“警報モード”が続くと、からだのあちこちで炎症やホルモンバランスの乱れが起きてきます。
- 血圧が上がりやすくなる
- インスリンの効きが悪くなり、血糖値が高止まりしやすくなる
- 心臓への負担が増え、不整脈や心不全のリスクが上がる
中等症以上の睡眠時無呼吸症候群は、20%前後の中年男性・10%前後の中年女性に見られると報告されており、決して珍しい病気ではありません。RACGP+2ScienceDirect+2
「いびきがうるさいだけの話」ではなく、長期的な健康リスクの入り口でもある、という視点を持っておきたいところです。
4. よくある生活パターンとSASのつながり
ここからは、実際の生活パターンと睡眠時無呼吸症候群の関係を、少し現実的な場面に落とし込んでみます。
パターン1:夜遅い食事+晩酌+そのままあお向けで寝落ち
- 夕食が21〜22時と遅くなりがち
- 食後にアルコールを飲み、テレビやスマホを見ながらうとうと
- 気づいたらソファであお向けのまま寝落ちしている
アルコールには筋肉を緩める作用があるため、のどの筋肉もゆるみ、気道がさらに狭くなりやすくなります。遅い時間の飲酒は胃の中に食べ物も残りやすく、横隔膜の動きも制限され、呼吸はより浅くなりがちです。ScienceDirect+1
この状態であお向け寝が続くと、
- 大きないびき
- 呼吸が止まって静かになる瞬間
- 朝の強いだるさ
がセットで起こりやすくなります。

パターン2:慢性的な睡眠不足+日中の強い眠気
- 平日は毎日5〜6時間睡眠
- 休日に「寝だめ」しようとしても、途中で何度も目が覚める
- 電車や会議、信号待ちなど、座るとすぐに眠気がくる
慢性的な睡眠不足があると、それだけで日中の眠気は強くなります。
ただ、**「座ると数分で寝てしまう」「運転中に、記憶が飛ぶような眠気に襲われる」**というレベルになってくると、睡眠時無呼吸症候群が背景にあることも多いです。
日中の眠気を評価する「Epworth Sleepiness Scale(ESS)」では、11点以上を「過度の眠気あり」と判定し、睡眠時無呼吸症候群などの検査を検討すべきレベルとされています。日本職業災害専門学校+2ResearchGate+2
「眠いのは忙しいから」と決めつけず、眠気の強さ・頻度を一度じっくり振り返ることも大切です。

パターン3:夜間頻尿と“睡眠の分断”の悪循環
- 夜2〜3回はトイレに起きる
- 起きるたびにスマホを見てしまい、そのまま覚醒してしまう
- 朝はぐったりしていて、昼間の血圧が高めと言われる
夜間頻尿は、前立腺や膀胱の疾患だけでなく、睡眠時無呼吸症候群・心不全・夜間の血圧変動とも関係していることがわかってきています。JACD+2Schlafapnoe Heilen+2
- 無呼吸で酸素が下がる
- 心臓に負担がかかる
- ANPが増えて尿が作られる
- トイレで起きるたびに、さらに睡眠が分断される
という悪循環が、静かに進んでいるケースも少なくありません。
「完璧な生活」よりも、「1〜2割の見直し」から
生活習慣の話をすると、「全部直さなきゃ」と肩に力が入ってしまう方も多いです。
ポイントは、
- 平日の飲酒量を少しだけ減らす
- 寝る2〜3時間前は軽めの食事にする
- ソファで寝落ちしないように、早めに寝室に移動する
といった**“1〜2割の見直し”から始めること**です。
それでも「いびき+日中の眠気+夜間頻尿」が続く場合は、生活習慣だけで説明できないサインが隠れていると考えたほうが自然です。
Q1. いびきが大きいだけで、睡眠時無呼吸症候群を疑ったほうがいいですか?
いびきがある人すべてが、睡眠時無呼吸症候群というわけではありません。
次のようなサインが“いびきに加わっている”ときは要注意です。
- 呼吸が止まっているように静かになり、しばらくして「ガッ」と息を吸う
- 朝起きたときの頭痛・だるさが強い
- 日中の眠気がつらく、居眠り運転が心配になる
- 夜2回以上トイレに起きる日が続いている
一つ一つはよくある症状ですが、「組み合わせ」で見たとき、睡眠時無呼吸症候群が浮かび上がってくることがあります。
Q2. 日中の眠気はどの程度になったら、受診を考えたほうが良いですか?
目安としては、
- 座ってテレビを見ていると、ほぼ毎回寝落ちする
- 会議・映画館・電車など、「普通は起きていたい場面」でも眠ってしまう
- 運転中に、強い眠気でヒヤッとした経験がある
といった状況が続いている場合は、早めに医療機関に相談してほしいレベルです。
ESS(Epworth Sleepiness Scale)というチェックでは、11点以上が過度の眠気の目安とされています。自己チェックも大切ですが、「少し怖いな」と感じたタイミングが、受診のサインだと思っていただいて良いと思います。日本職業災害専門学校+1
Q3. どの診療科に相談すればよいですか?
睡眠時無呼吸症候群は、
- 呼吸器内科
- 耳鼻咽喉科
- 睡眠専門外来
などで診ていることが多いです。
まずは、かかりつけの内科に相談し、必要に応じて**簡易検査(携帯型の睡眠検査)や睡眠ポリグラフ検査(PSG)**に進む流れが一般的です。一般社団法人日本呼吸器学会+2PMC+2
「自分で決めきれない」ときは、症状を紙にメモして持参し、医師に相談してみてください。
5. 今日からできる、小さなセルフチェックと一歩
最後に、今日からできる現実的な一歩をいくつかまとめておきます。全部やろうとしなくて大丈夫です。気になったものを1つだけでも十分です。
① 一週間だけ「睡眠とトイレ」のメモをつけてみる
- 寝ついた時間・起きた時間
- 夜中にトイレに起きた回数
- 朝の目覚めのスッキリ感(10点満点で自己評価)
- 日中の眠気の強さ(同じく10点満点)
これを1週間だけ記録してみると、自分では気づいていなかった「パターン」が見えてきます。
例えば「飲酒した日は夜間頻尿が増える」「平日のほうが眠気が強い」など、生活と症状の関係がつかみやすくなります。
② 家族と「いびきと呼吸」の観察をお願いしてみる
一人暮らしでは難しいのですが、同居家族がいる場合は、一晩だけ“観察役”になってもらうのも一つの方法です。
- いびきの音がどう変化しているか
- 呼吸が止まっているように見える瞬間があるか
- 苦しそうにあえぐような呼吸があるか
可能であれば、スマホの録音機能で一部を記録しておくと、受診時の情報としても役立ちます。
③ 「生活習慣でできること」と「医療に任せること」を分けて考える
睡眠時無呼吸症候群は、
- 体重管理・節酒・禁煙・寝る前の食事を控えめにする
- 横向き寝や枕の調整で、多少ラクになることがある
といった生活習慣の工夫で軽くなる部分と、
- CPAP
- マウスピース
- 手術(扁桃摘出など)
といった医療的なアプローチが必要な部分があります。一般社団法人日本呼吸器学会+2PMC+2
「全部自分でなんとかしなきゃ」と思うと苦しくなってしまいますが、
“生活でできる部分だけやってみる → それでも気になるなら医療にバトンを渡す”
くらいの感覚でいてもらえたら良いと思います。
いびき・日中の眠気・夜間頻尿は、どれも「よくあること」です。
だからこそ、「自分のからだがどんなサインを出しているのか」を一度立ち止まって眺めてみることが、将来の健康を守る大きな一歩になります。
- いびきに、呼吸の停止や朝の頭痛が重なっていないか
- 日中の眠気で、日常生活や運転が危うくなっていないか
- 夜のトイレの回数と、睡眠の質がどう関係していそうか
このあたりを、今日の夜からゆっくり振り返ってみてください。
必要なときには、医療に頼っていい。そう思えるだけでも、からだは少しホッとします。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事があなたのより良い生活のための一助になりますように。
