甲状腺の不調と“なんとなく不調” ~だるさ・寒がり・汗かき・動悸をどう見分けるか~

だるさや寒がり・汗かき・動悸など“なんとなく不調”を感じながら甲状腺の不調か迷っている人が、自分のからだのサインを振り返っている様子

「ずっと疲れている気がする」「やたら寒がりになった」「逆に汗が止まらないし、動悸が気になる」。
こんな“なんとなく不調”が続くと、検索画面に「甲状腺」という言葉がちらっと浮かぶ方も少なくありません。この記事では、甲状腺の不調でよく見られるサインと、忙しさやストレスから来る疲れとの境目を、できるだけやさしい言葉で整理していきます。読み終わる頃には、「どこまで様子を見て、どのタイミングで相談してみようか」のイメージが少し描けるはずです。


目次

1. 「なんとなく不調」が続くときに、甲状腺が頭をよぎる理由

ここ数年、「前よりずっと疲れやすい」「冷えが強くなった」「心臓がドキドキして落ち着かない」といった相談のなかで、「もしかして甲状腺でしょうか?」という言葉を耳にすることが増えました。

ネットやSNSでも、「だるさ=甲状腺」「痩せる=甲状腺」といった情報を目にしやすくなっています。もちろん、こうした症状の裏に甲状腺の病気が隠れていることはあります。ただ、実際には

  • 仕事や家事の負担
  • 睡眠不足や生活リズムの乱れ
  • ダイエットや偏った食事
  • 更年期や生理周期の変化

などでも、似たような「なんとなく不調」は起こります。

一方で、甲状腺の不調は「気のせい」「年のせい」と片づけられやすい側面もあります。ある大規模な研究では、臨床的な甲状腺機能低下症はおよそ300人に1人程度、より軽い“潜在性”の型まで含めると一般人口の4〜10%に見られると報告されています。AAFP+1
日本でも、甲状腺の病気で治療が必要な人は推計で数百万人規模とされており、「決して珍しくないけれど、気づかれにくい不調」と言えます。Nature

だからこそ、「全部を甲状腺のせいにしない」ことと同時に、「サインを見逃しすぎない」ことのバランスが大切になります。この記事では、そのさじ加減を一緒に整えていきましょう。


2. 甲状腺の不調と言われるものには何がある?

「甲状腺の不調」とひとことで言っても、実際にはいくつかのタイプがあります。ここをざっくり押さえておくと、情報に振り回されにくくなります。

甲状腺は何をしている場所?

首の前にある小さな臓器が、甲状腺です。ここから出る甲状腺ホルモンは、からだ全体の“代謝のスピード”を調整する役割を持っています。

  • スマホでいえば「省エネモードか、高速モードか」を決めるスイッチ
  • 車でいえば、アイドリングの回転数を調節するペダル

そんなイメージをしてもらうと分かりやすいかもしれません。

主なタイプは「低下」と「亢進」

代表的なのは、次の2つです。

  • 甲状腺機能低下症
    甲状腺ホルモンが不足して、からだの代謝が全体的にスローになる状態。
    「冷え」「むくみ」「体重増加」「強い疲労感」「気持ちの落ち込み」などが目立ちやすいと言われています。Frontiers+1
  • 甲状腺機能亢進症(バセドウ病など)
    甲状腺ホルモンが増えすぎて、代謝がフルスロットルになっている状態。
    「動悸」「手の震え」「体重減少」「汗が止まらない」「落ち着かない」など、からだも心も“アクセル踏みっぱなし”のモードになりがちです。PMC+1

さらに、血液検査で甲状腺ホルモンはほぼ正常だが、刺激ホルモン(TSH)だけが高い「潜在性甲状腺機能低下症」と呼ばれるグループもあります。これは「数値上はグレーゾーンだけれど、まだはっきりとした病気とは言い切れない」状態で、歳を重ねるほどよく見つかるようになります。NCBI+1

“なんとなく不調”との境目をざっくり整理

甲状腺の不調でよく見られるサインと、よくある疲れとの違いを、ざっくり表にしてみます。

症状甲状腺の不調で目立ちやすい特徴の例
だるさ・疲れやすさ休んでも回復しづらい、日常生活レベルでも強く感じる
寒がり・冷え周りの人よりも極端に寒がる、季節外れの冷えを感じる
汗をかきやすい・ほてり軽い動作でも滝のような汗、室内でも一人だけ汗だく
動悸・ドキドキ安静時でも脈が速い、胸のドキドキと不安感がセットになりやすい
体重変化食事量が変わらないのに増える/減る
肌・髪の変化乾燥肌・抜け毛が急に目立つようになる

もちろん、これらがすべて当てはまれば必ず甲状腺、というわけではありません。ただ、「なんとなく不調」にこうしたサインが“いくつも重なっている”とき、甲状腺を一度疑ってみる価値はあります。


3. 甲状腺ホルモンと自律神経が、だるさ・寒さ・汗・動悸をどうつくるか

ここからは、からだの中で何が起きているのかを、少しだけ深掘りしてみます。専門的な言葉も出てきますが、日常の感覚と結びつけながら読んでみてください。

「代謝のスピード」を決める司令塔

甲状腺ホルモンは、全身の細胞に「どのくらいエネルギーを使うか」を指示しているホルモンです。

  • ホルモンが足りない → からだは省エネモード
  • ホルモンが多すぎる → からだはフルスロットルモード

となり、これがそのまま「だるさ」「寒さ」「汗」「動悸」といった感覚につながります。

いくつかの総説では、甲状腺機能低下症の成人では「疲労感・冷え・体重増加・乾燥した肌・便秘・気分の落ち込み」が代表的な症状として繰り返し報告されています。Frontiers+1
一方、甲状腺機能亢進症の人では、「動悸・体重減少・不眠・不安・発汗・下痢」など、からだと心の両方が“早送り”になったような症状が多いとされています。PMC+1

自律神経とのタッグ

甲状腺ホルモンは、自律神経とも密接につながっています。

  • 機能低下 → 交感神経の働きが弱まり、心拍数もやや低めに。体温調節もうまくいかず、冷えやすくなる。
  • 機能亢進 → 交感神経が優位になり、心拍数が上がりやすく、動悸や不安感、手の震えを感じやすくなる。

つまり、甲状腺ホルモンの変化は、「体温」「心拍」「腸の動き」「筋肉のスピード」など、自律神経が調整している多くの機能に影響を与えているのです。

「なんとなく不調」とのややこしい関係

ややこしいのは、甲状腺の症状がどれも“非特異的”だという点です。ある論文では、甲状腺機能低下症の代表的な症状(疲労感・冷え・体重増加・便秘・皮膚の乾燥など)は、別の理由でもよく見られるため、「症状だけで見分けるのは難しい」と指摘されています。Frontiers

さらに、潜在性甲状腺機能低下症では、多くの人がほとんど症状を自覚しない一方で、疲労感や気分の変化を訴える人もいる、というデータもあります。Cleveland Clinic+1
そのため、

  • 「症状がある=必ず治療が必要」とも言えない
  • 「症状が軽い=放っておいていい」とも言えない

というグレーなゾーンが生まれます。

ここで鍵になるのは、「時間軸」と「組み合わせ」です。

  • 数日〜1週間ほどで変動する“波”のような不調なのか
  • 1〜3か月以上、じわじわ続いているのか
  • だるさだけなのか、冷え・動悸・体重変化などが重なっているのか

こうした観点で振り返ると、「生活からくる疲れ」なのか、「ホルモンのバランスに何か起きていそうか」が、少し見えやすくなります。


4. 生活パターンと“なんとなく不調”、どこまでが生活の問題でどこからが甲状腺?

続いて、よくある生活パターンと、甲状腺の不調との絡まり方を見てみます。ここでは、「どこまで生活習慣を見直してみるか」「どこから医療機関に相談するか」の目安を探していきます。

パターン1:忙しさ続きで「ずっと疲れている」

残業続き、家事・育児との両立などで、睡眠時間が削られているときは、だれでも疲れやすくなります。
この場合、

  • 休みの日にしっかり寝ると、いくらか回復する
  • 休暇を取ると、だるさの“底”が少し上がる

といった変化が見られやすいです。

一方で、甲状腺の機能低下が関わってくると、

  • 睡眠をとっても「起きた瞬間から重たい」感じが続く
  • エネルギーが抜けたような疲れが、数週間〜数か月単位で続く

といった“質”の違いが出てきます。ある研究では、甲状腺機能低下症の人の多くが、「眠っても疲れが抜けない」「活動量が大きく落ちた」と感じていることが報告されています。Healthline

パターン2:ダイエット・食事の変化が影響している場合

急なダイエットや極端な糖質制限は、それ自体がだるさ・冷え・月経不順の原因になります。
栄養状態が落ちると、甲状腺ホルモンをつくる材料(ヨウ素、鉄、亜鉛など)が不足し、ホルモン分泌が落ちやすくなることも知られています。

  • 食事を抜いている
  • 体重が短期間で大きく減った
  • ふらつきや立ちくらみも増えている

こうした背景があるときは、「まず食事の質と量を戻す」ことが先で、そのうえで症状が続くかどうかを見る視点が役立ちます。

パターン3:更年期・産後・ストレスの多い時期

40〜50代の女性、更年期の前後や産後の時期は、

  • ホットフラッシュ(ほてり・発汗)
  • 動悸、不安感
  • だるさ、気分の落ち込み

などが起こりやすく、甲状腺の症状と重なります。

一部の研究では、更年期周辺の女性で、潜在性甲状腺機能低下症の頻度が高いことも示されており、「女性ホルモンの変化の裏で、甲状腺も揺れやすい時期」と考えられています。Japan Thyroid+1

「更年期かな」と思っていたら、検査で甲状腺の値も引っかかった、というケースも少なくありません。逆に、甲状腺に特別な異常がなくても、更年期症状だけで十分しんどいこともあります。

パターン4:「心の疲れ」と甲状腺の揺らぎ

うつ状態や強いストレスでも、

  • だるさ
  • 眠れない/眠りすぎる
  • 体重変化
  • 動悸や息苦しさ

といった症状はよく出ます。
さらに、ストレスそのものがホルモンバランスを変化させ、甲状腺機能に影響を与えることも指摘されています。

ここで大切なのは、「心かからだか」を切り分けるというより、「どちらにも優しくしてあげる」発想です。

  • からだの検査で安心材料を増やす
  • 同時に、気持ちのケアや休み方も整える

この2本立てで考えると、「自分は大丈夫だろうか」とひたすら不安になるループから抜けやすくなります。


Q1. だるさと寒がりが続くとき、どのくらいで甲状腺を疑った方がいいですか?

「いつもの疲れ」との境目は難しいですが、目安としては

  • 1〜2週間ではなく、1か月以上だるさ・寒がりが続いている
  • 睡眠や休養を増やしても、ほとんど改善がない
  • 体重増加・むくみ・肌の乾燥・便秘など、他のサインも複数ある

といった場合、一度甲状腺を含めた血液検査を相談してよいタイミングと考えてみてください。

Q2. 動悸や汗かきがあるときは、心臓の病気と甲状腺、どちらを先に疑うべきでしょうか?

どちらが“先”というより、両方を視野に入れて相談することをおすすめします。

  • 安静時にも脈が速い
  • 階段を少し上がっただけでドキドキが強い
  • 夜間、急に胸のドキドキで目が覚める

などがある場合は、早めに受診の目安になります。心電図や血液検査を組み合わせて、心臓・甲状腺の両方を確認してもらえると安心です。

Q3. 健診で「TSHが少し高い」と言われました。すぐ治療が必要でしょうか?

TSHがわずかに高い「潜在性甲状腺機能低下症」の段階では、すぐに薬を始めるかどうかがケースバイケースになります。

  • 症状の有無・強さ
  • 年齢や他の持病(心疾患・妊娠希望など)
  • TSHの数値がどの程度か

などを総合して判断されます。ガイドラインでも、「数値が軽度〜中等度で、症状が強くなければ、定期的にフォローしつつ経過観察する」選択肢が示されています。ccjm.org+1

不安なときは、「どのくらいの間隔で再検査した方がいいですか?」「生活面で気をつけることはありますか?」と、具体的に質問してみると見通しが立ちやすくなります。


5. 「甲状腺の不調かも」と感じたときにできる、小さな一歩

ここまで読んで、「ちょっと当てはまるところが多いかも」と感じた方もいるかもしれません。
すぐに結論を出す必要はありませんが、今日からできる小さな一歩をいくつか挙げておきます。

1)症状の「メモ帳」をつくる

  • だるさ・寒さ・汗・動悸などが
    • いつ
    • どんな場面で
    • どのくらいの強さで出るか

を、ざっくりメモしておきます。

数週間分を眺めると、

  • 仕事が忙しい日の前後に偏っているのか
  • 天気や気温と連動しているのか
  • 特に理由が思い当たらない日にも続いているのか

などが見えてきます。受診するときにも、とても役立つ材料になります。

2)「冷え・汗・心拍」に、そっと意識を向けてみる

日中、ふとしたタイミングで、

  • 手足の温度
  • 服の枚数に対する体感温度
  • 脈の速さ(手首や首に指を当ててみる)

をチェックしてみるのも一つの方法です。

「周囲の人と比べて極端に違う感覚」が続くときは、甲状腺や自律神経の揺らぎが関わっている可能性があります。ただし、自己判断ではなく、「最近こういう違和感があって」と言葉にして相談できるようにしておくイメージです。

3)生活全体の“オーバーワーク”を一段階ゆるめてみる

甲状腺の検査をする・しないにかかわらず、

  • 睡眠時間を30分だけ前倒しする
  • 週に1日は「予定を入れない日」をつくる
  • 極端なダイエットや、食事抜きをやめる

こうした調整は、どの方向から見てもプラスになります。
甲状腺の不調があったとしても、からだに「回復の余白」をつくっておくことで、治療の効果も出やすくなります。


甲状腺の不調は、「検査の数値」と「あなたが感じているしんどさ」を、両方あわせて考えていくタイプの不調です。
一人で検索画面とにらめっこしていると、心配ばかりが膨らんでしまいがちですが、少しずつ状況を言葉やメモにしていくことで、医療者とも相談しやすくなります。

全部を一度に変えなくて大丈夫です。
今日の自分にできそうな一歩を、ひとつだけ拾ってみてください。それだけでも、からだは少しずつ「自分を守る方向」に舵を切り始めてくれます。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事があなたのより良い生活のための一助になりますように。

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この記事を書いた人

からだトレンドラボを運営している、理学療法士のテラサワです。
病院やクリニックでのリハビリに長く関わる中で、
「もっと早く知っていれば楽になれたのに」という声を
何度も聞いてきました。

このブログでは、からだや健康にまつわる“トレンド情報”を、
医学的な視点でていねいに噛み砕いてお届けします。
難しいことはできるだけやさしく。
読み終わったときに、ちょっとだけ不安が軽くなっていたら嬉しいです。

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