冬になるとだるくなる・やる気が出ないのはなぜ?~寒暖差と日照時間と自律神経の話~

冬の朝、だるそうな表情でソファに座る女性と、窓の外の寒い景色。寒暖差や日照時間の変化で自律神経が乱れ、やる気が出ない様子をイメージした写真。
目次

1. はじめに

気温がぐっと下がってくる頃から、こんな感覚はありませんか。

「朝起きてもスイッチが入らない」
「一日中なんとなくだるい、頭も重い」
「休んでいるはずなのに、やる気が出ない」

いわゆる風邪でもインフルエンザでもないのに、「冬になるとだるい」「ぼーっとする」という相談は、私のところにも毎年のように届きます。とくに、40代以降の方から「若い頃は冬でも平気だったのに、最近はガクッと疲れやすい」と言われることが増えました。

SNSを見ていても「冬眠したい」「冬は人間をやめたい」なんて冗談めいた言葉が飛び交います。笑い話のようでいて、本人はけっこう切実だったりしますよね。

この記事では、

  • なぜ冬になるとだるさや無気力を感じやすくなるのか
  • 寒暖差や日照時間の短さが、自律神経やホルモンにどう影響するのか
  • 「全部は無理でも、これだけやってみよう」という小さな対策

を、できるだけやさしい言葉でお話していきます。

「冬の不調=自分の根性の問題」ではありません。からだの仕組みがそうなりやすい季節、というだけです。その背景を知ることで、少しだけ自分に優しくなれるはずです。


2. いま話題の「冬のだるさ」と自律神経の関係って、結局なんなのか?

最近、「冬のだるさは自律神経の乱れ」「冬のやる気のなさは自律神経を整えれば解決」といったフレーズをよく目にします。

確かに、自律神経は冬の不調と深く関わっています。ただ、「なんでもかんでも自律神経のせい」にしてしまうと、かえってモヤモヤが増えてしまいます。

自律神経って、結局なにをしているのか

自律神経は、ざっくり言うと「からだの自動運転システム」です。

  • 心臓を勝手に動かす
  • 血圧や体温を調整する
  • 呼吸のリズム、胃腸の動きなどをコントロールする

こうした「意識しなくても続いている仕事」を、24時間休まず担当しています。

この自律神経には、

  • 活動モードの「交感神経」
  • 休息モードの「副交感神経」

の2つがあり、ブランコのように揺れながらバランスを取っています。

冬に起こりやすい「バランスのくずれ方」

冬になると「交感神経」が働きやすくなります。理由のひとつが「寒さ」。

からだは、寒さから内臓を守るために、血管をキュッと縮めて熱が逃げないようにします。これは交感神経の仕事です。寒い場所にいると血圧が上がりやすくなるのも、この仕組みと関係しています。サイエンスダイレクト+1

また、もうひとつ大きいのが「日照時間の短さ」です。秋から冬にかけて日が短くなると、脳内のホルモンバランスが変わりやすく、

  • 気分を持ち上げてくれるセロトニン
  • 眠気をつくるメラトニン

などの分泌リズムが乱れます。季節性うつ(季節性情動障害)は、こうした日照時間の低下と関係していると考えられています。国立精神衛生研究所+2nhs.uk+2

その結果として、

  • 日中なのにぼーっとする、だるい
  • ベッドから出るのがつらい
  • なんとなく気分が沈み、やる気が出ない

といった「冬特有の不調」が出てきます。これが、「冬になるとだるくなる」「冬はやる気が出ない原因がよくわからない」と言われる正体の一部です。

「寒暖差疲労」という言葉が指しているもの

最近では、「寒暖差疲労」という言葉もよく聞かれます。これは医学用語ではありませんが、

  • 室内は暖かい → 外に出ると一気に冷える
  • 朝晩と日中で気温差が大きい

といった状況で、自律神経がフル回転してしまい、

  • 頭痛
  • めまい
  • 倦怠感
  • 肩こりや首こり

などの症状が出ている状態を指すことが多いです。

つまり、「冬になるとだるい = 自律神経が頑張りすぎているサイン」という側面があるわけですね。


3. からだの中で起きていること

ここからは、少しだけ中の話をしていきます。むずかしそうに見えるかもしれませんが、「からだの中で何が起きているのか」をイメージできると、自分を責める気持ちが少し和らぎます。

3-1. 構造:冷えると「守りの姿勢」になりやすい

寒い場所に出ると、私たちは無意識のうちに、

  • 肩をすくめる
  • 背中を丸める
  • 首をすぼめる

といった「守りの姿勢」になりがちです。

これは、体表から熱が逃げないようにするための自然な反応ですが、その状態が長く続くと、

  • 首〜肩〜背中の筋肉が常に緊張
  • 胸が閉じて、呼吸が浅くなる
  • 血流が悪くなり、さらに冷えやすくなる

という、少しつらい循環に入っていきます。

「構造(姿勢)」がこうしてこわばると、その情報が筋肉や関節のセンサーを通じて脳に伝わり、「今は危ない環境かもしれない」と誤解されやすくなります。

3-2. 神経:寒さ+光の少なさで“自動運転”が乱れる

さきほども触れましたが、寒さと日照時間の短さは、自律神経にとってかなりのストレスです。

寒さと交感神経

寒さにさらされると、交感神経が優位になり、

  • 血管が収縮して血圧が上がる
  • 心拍数が増える
  • 筋肉がこわばりやすくなる

などの変化が起こります。冷たい環境での血圧上昇や心血管リスクの増加は、多くの研究で報告されています。PMC+1

これは命を守るための正常な反応ですが、「暖房の効いた室内」と「冷たい屋外」を何度も出入りする生活では、このスイッチの切り替えが過剰になり、自律神経が疲れやすくなります。

日照時間とホルモン

一方で、光の量は「体内時計」を調整するうえで、とても重要な刺激です。

  • 朝の強い光 → メラトニン(眠気ホルモン)の分泌を抑え、目を覚まさせる
  • 日中の自然光 → セロトニン(気分を安定させる物質)の働きを助ける
  • 夜間の暗さ → 再びメラトニンを増やし、眠りへ誘う

という流れが、本来の理想的なリズムです。

ところが、冬はそもそも日照時間が短いうえ、外に出る時間も減りがちです。その結果、

  • 朝なのにメラトニンがうまく減らない
  • 日中のセロトニンの活動が鈍くなる
  • 夜遅くまでスマホやPCの光を浴びる

といった要素が重なり、体内時計がずれてしまいます。

実際に、光環境と睡眠・気分の関係を調べた研究では、「日中に十分な光を浴びる人ほど睡眠の質や気分が安定しやすい」という報告が多数あります。PMC+1

また、季節性うつに関する研究でも、冬の光不足がセロトニンやメラトニンの働きを乱し、抑うつ症状や日中のだるさを引き起こすことが示されています。Mayo Clinic+2nursing.ceconnection.com+2

3-3. 感覚:からだの「温度と明るさの地図」が狂う

最後に、「感覚」の話を少し。

私たちのからだには、

  • 皮膚にある温度のセンサー
  • 鼻や喉が感じる空気の冷たさ
  • 目が感じる明るさ・暗さ

など、さまざまなセンサーが散りばめられています。これらの情報が脳に集まり、「今どんな環境にいるのか?」という“地図”のようなものがつくられています。

冬になると、

  • 外は極端に寒い
  • 室内は暖房で暑い
  • 朝も夕方も暗くなるのが早い

という「ギャップの大きい刺激」が増えます。すると、この“地図”がごちゃごちゃになり、脳は常に微調整を強いられます。

その結果として、

  • 天気や気温の変化に左右されやすい
  • 頭痛やだるさが「なんとなく」続く
  • 気分が落ち込みやすく、やる気が出ない

という状態になっていきます。

私自身も、冬の長い雨の日が続くと、からだの芯が冷えて頭がぼんやりしたり、「今日は仕事のエンジンがかかりにくいな」と感じることがあります。そういうときは「ああ、からだのセンサーが忙しく働いてるんだな」と一度立ち止まるようにしています。


4. 日常のクセと冬のだるさの関係

冬のだるさや、「やる気が出ない」感覚は、からだの仕組みだけでなく、日常の小さなクセとも深くつながっています。

ここでは、よく見られるパターンを3つほど取り上げてみます。

4-1. 「家から出ない」「窓際にも行かない」生活

寒い季節になると、

  • 通勤・通学以外はほぼ外に出ない
  • 在宅ワークで一日中、カーテンを閉めたまま
  • 休日はベッドとソファの往復

という生活になりがちです。

もちろん、無理に出歩く必要はありません。ただ、日中の自然光をほとんど浴びない状態が続くと、

  • メラトニンのリズムが後ろにずれる
  • 日中の眠気やだるさが抜けにくい
  • 夜の寝つきも悪くなる

といった「冬の睡眠負債」を抱えやすくなります。日照時間と気分の変化の関係は、季節性うつの研究でも繰り返し示されており、「外に出て光を浴びること」が大事な治療の柱にもなっています。Harvard Health+1

4-2. エアコン強め+服装は薄着のまま

もうひとつ多いのが、

  • 室内はエアコンでガンガン暖める
  • その代わり、服装は秋とほとんど変わらない

というパターンです。

ここで問題になるのが、「外との寒暖差」です。

  • 暖かい室内(20〜24℃)
  • 一歩出ると、冷たい外気(0〜5℃台のことも)

この出入りを何度も繰り返すと、自律神経はそのたびに血管を広げたり縮めたり、心拍を調整したりと、大忙しになります。これが積み重なると、いわゆる「寒暖差疲労」の症状につながりやすくなります。

「暖房を少し弱めて、服装で調整する」というだけでも、自律神経のアップダウンを和らげることができます。

4-3. 夜のスマホ時間が長くなる

外が暗く、外出も減る冬は、どうしても夜のスマホ時間が長くなりがちです。

  • 布団に入ってから1〜2時間SNSを見てしまう
  • ベッドで動画を見ながら寝落ちする
  • 気づくと夜中までブルーライトを浴びている

こうした習慣は、光による体内時計のリセットを強めてしまい、

  • メラトニンの分泌が遅れる
  • 寝つきが悪くなる、眠りが浅くなる
  • 翌日のだるさ・集中力低下

に直結しやすいことが、多くの研究で示されています。MDPI+1

「冬はただでさえ日中の光が少ない+夜の人工照明が多い」という、体内時計にはけっこう厳しい環境です。完璧に整える必要はありませんが、

  • 就寝1時間前は画面の光を控える
  • 間接照明や暖色系のライトに切り替える

といった小さな工夫だけでも、翌朝のスッキリ感が変わってくる方は多いです。

4-4. 100点を目指さず「1〜2割変える」くらいで十分

生活習慣の話になると、「あれもこれも直さなきゃ」となりがちですが、そこまで気負う必要はありません。

  • 朝、カーテンをしっかり開けて光を浴びる
  • エアコンの温度を1〜2℃下げて、ひとつ羽織る
  • 夜のスマホ時間を30分だけ減らす

こうした「1〜2割の変化」でも、自律神経にとっては大きな助けになります。

ここで、よくいただく質問にQ&A形式でお答えしておきます。

Q1. 冬になると朝どうしても起きられません。自律神経が弱いからでしょうか?

「自律神経が弱い」という言い方はあまり正確ではありません。冬は、

  • 日の出が遅く、朝の光が弱い
  • 室内が暖かくて布団から出にくい

などの理由で、そもそも「起きにくい条件」がそろっています。

朝の光をしっかり浴びること(できれば起きてから1時間以内に窓際か外に出る)、休日の寝だめをしすぎないことだけでも、「起きられない感覚」が少し軽くなる方は多いです。

それでも、何週間も生活に支障が出るほど起きられない、気分が強く落ち込む場合は、季節性うつなどの可能性もあるので、医療機関に相談するのがおすすめです。

Q2. 季節性うつと「なんとなく冬にやる気が出ない」の違いはありますか?

はっきり線を引くのはむずかしいのですが、

  • 数週間〜数か月にわたり、ほとんど毎日気分が落ち込む
  • 仕事や家事、対人関係に大きな支障が出る
  • 食欲や体重、睡眠リズムが大きく変化する

といった状態が続くときは、「冬になるとやる気が出ない原因は性格の問題」ではなく、季節性うつ(季節性情動障害)を含めて専門的なサポートを検討した方が良いサインです。国立精神衛生研究所+2Mayo Clinic+2

一方で、「なんとなく気分が乗らない」「仕事はこなせるけれど、やる気が湧きにくい」という程度で、生活に大きな支障がないのであれば、まずは生活リズムや光の浴び方を整えることから試してみてよいでしょう。

Q3. 運動が大事なのは分かるのですが、寒くて外でする気になれません…

冬に外でがっつり運動をする必要はありません。

  • 室内でできる軽いストレッチ
  • 5〜10分のその場足踏み
  • 階段の上り下りをゆっくり行う

こうした「小さな動き」だけでも、血流が良くなり、からだの「守りの姿勢」をほどいてくれます。

運動と気分の関係については、「週150分程度の中等度の運動(1日20分目安)」が、うつ症状の軽減や睡眠改善に役立つという報告もありますが、いきなりそこを目指さなくても大丈夫です。nursing.ceconnection.com

「今日は2〜3分だけでも動いてみた」くらいのスタートで十分です。


5. おわりに

冬になると出てくる「だるさ」「やる気が出ない」といった感覚は、

  • 寒さによるからだのこわばり(構造)
  • 自律神経やホルモンのリズムの乱れ(神経)
  • 温度や光のギャップに振り回されるセンサー(感覚)

が重なった、からだからの「ちょっと休みたい」というサインでもあります。

最後に、「全部は無理でも、この中から1つだけやってみようかな」という冬の小さな工夫を、表にまとめてみます。

行動のヒントイメージ・ポイント
朝、カーテンをしっかり開ける/窓際で1〜2分深呼吸体内時計に「朝だよ」と知らせるスイッチ。冬の光でも、浴びないよりずっと良い。
エアコン1〜2℃ダウン+1枚羽織る室内外の寒暖差を少しだけ減らし、自律神経の負担を軽くするイメージ。
夜のスマホを30分だけ早く切り上げるメラトニンを邪魔しないための「睡眠準備タイム」。間接照明や暖色系のライトに変えるとより◎。
1日合計5〜10分程度の「なんとなく動く時間」をつくる完璧な運動ではなく、血流を少しだけ回して、からだの守りの姿勢をゆるめる目的。

大事なのは、「頑張って自分を変えること」ではなく、

  • からだが冬にどう反応しているかを知ること
  • そのうえで、自分に合った小さな工夫をひとつ選ぶこと

です。

今日お話ししたことを、ざっくり3つにまとめると――

  1. 冬のだるさややる気の低下は、自律神経・ホルモン・体内時計の変化と深く関わっていて、「気のせい」でも「性格の弱さ」でもない。
  2. 寒暖差や日照時間の短さ、夜の光環境など、現代の冬はからだにとって少し厳しい条件が重なりやすい季節。
  3. 朝の光・服装と室温の工夫・夜のスマホ時間の見直しなど、「1〜2割の変化」でも、冬のだるさがやわらぐ人は多い。

冬はどうしても、からだも心も「省エネモード」になりやすい時期です。
うまく付き合うコツは、自分を追い立てるのではなく、「冬の自分仕様」に生活を少し寄せてあげること。

全部やろうとしなくて大丈夫です。
気になったものをひとつだけ、今日か明日から試してみてください。
それが、「冬でも少しラクに過ごせる自分」への、静かな一歩になっていきます。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

からだトレンドラボを運営している、理学療法士のテラサワです。
病院やクリニックでのリハビリに長く関わる中で、
「もっと早く知っていれば楽になれたのに」という声を
何度も聞いてきました。

このブログでは、からだや健康にまつわる“トレンド情報”を、
医学的な視点でていねいに噛み砕いてお届けします。
難しいことはできるだけやさしく。
読み終わったときに、ちょっとだけ不安が軽くなっていたら嬉しいです。

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