1. はじめに
冬が近づくと、「また咳が出はじめたけど、これって風邪?インフル?それともコロナ?」と不安になる方がぐっと増えます。
最近はニュースでも「急性呼吸器感染症」「RSウイルス」「マイコプラズマ肺炎」など、少し聞き慣れない言葉も飛び交うようになりました。
現場でも、こんな声をよく聞きます。
- 何度も熱が出て咳だけ長引いている
- 家族の中で順番に体調を崩している
- インフルなのかコロナなのか、もう違いが分からない
2025年の冬は、日本でもインフルエンザ・新型コロナ・RSウイルス・マイコプラズマ肺炎など、複数の呼吸器感染症がまとめて話題になっています。厚生労働省も「急性呼吸器感染症(ARI)」として総合対策を進め、ワクチンや検査キットを十分に供給できるよう準備していると発表しています。厚生労働省+1
いろいろな名前が出てくると、かえって「何をどう気をつければいいのか」が分かりにくくなりがちです。
この記事では、**この冬に代表的な4つの呼吸器感染症の特徴を整理しつつ、「からだの中で何が起きているのか」「日常生活で何を意識するといいのか」**を、できるだけやさしい言葉でまとめていきます。
読み終えるころには、
- ざっくりとした病気どうしの違い
- 受診の目安
- 今日からできる小さなセルフケア
が少しクリアになって、「とりあえず、ここだけはやってみよう」と思える状態になってもらえたら嬉しいです。
尚、風邪やインフルエンザ、コロナなどについては以下に詳しくまとめてあります。



2. いま話題の「冬の呼吸器感染症 2025」って、結局なんなのか?
ARI(急性呼吸器感染症)という「大きな箱」
2025年4月から、日本では**急性呼吸器感染症(Acute Respiratory Infection:ARI)**が感染症法上の5類感染症として位置づけられました。CareNet.com
これは、インフルエンザや新型コロナなどの「呼吸器の感染症」を、ひとまとめで視野に入れて管理していきましょう、という考え方です。
厚生労働省は今冬、「ARI総合対策」として
- インフルエンザ
- 新型コロナウイルス感染症
- RSウイルス感染症 など
複数の感染症を一体的に予防・対策していく方針を示しています。厚生労働省+1
私たち生活者側の感覚で言うと、
「熱・咳・喉の痛みで始まる“冬の呼吸器の感染症”が、いろいろ同時に流行している」
くらいのイメージに近いかもしれません。
4つの主な呼吸器感染症のざっくり比較
今シーズン、特に意識しておきたいのが次の4つです。
- 季節性インフルエンザ
- 新型コロナウイルス感染症
- RSウイルス感染症
- マイコプラズマ肺炎
それぞれの「ざっくりした違い」を一度整理しておきましょう。
| 病気 | 原因 | 主な年齢層の特徴 | 代表的な症状 | ひとこと特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 季節性インフルエンザ | インフルエンザウイルス | 幼児〜高齢者まで幅広い | 高熱、悪寒、筋肉痛、関節痛、咽頭痛 | 全身症状が強く、流行規模も大きい |
| 新型コロナウイルス感染症 | SARS-CoV-2 | 全年齢。高齢者・基礎疾患のある人で重症化リスク | 発熱、咳、喉の痛み、倦怠感、嗅覚異常 | 無症状〜重症まで幅が広い |
| RSウイルス感染症 | RSウイルス | 乳幼児が中心だが、大人や高齢者もかかる | 咳、鼻水、発熱、ゼーゼー | 小さな子どもでは細気管支炎・肺炎に注意 |
| マイコプラズマ肺炎 | マイコプラズマ(細菌の一種・異型肺炎) | 学童〜若年成人に多いが、全年齢で起こり得る | 長引く咳、発熱、歩ける程度のだるさ | 「歩ける肺炎」とも呼ばれ、咳が長引きやすい |
どう誤解されやすいか
- インフル=高熱、新型コロナ=味覚・嗅覚
というイメージがありますが、実際には症状はかなり重なり、症状だけで完全に見分けることは難しいとされています。検査での確認が基本です。厚生労働省 - RSウイルス=子どもの病気と思われがちですが、2025年の国内データでは、報告症例の多くは5歳未満ながら、流行時期の変化や感染規模の拡大が指摘されており、家族全体での注意が必要と言われています。国立健康危機管理研究機構+1
- マイコプラズマ肺炎=中国だけの話ではありません。2023〜24年にかけて、中国やヨーロッパなどで子どものマイコプラズマ肺炎が増加したことが、WHOや各国の報告で取り上げられました。世界保健機関+2Nature+2
ざっくり言うと、
「同じような“発熱+咳”でも、原因となるウイルスや細菌によって、好発年齢・重症化しやすい人・流行パターンが少しずつ違う」
というイメージを持っておくと、ニュースや周りの情報も理解しやすくなります。
3. からだの中で起きていること
ここからは、少しだけ「からだの中」の話をしていきます。
難しい専門用語は出てきますが、できるだけ生活の感覚に近い言葉に置き換えていきますね。
3-1. 「入り口」は鼻と喉、その奥の気管支・肺
インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス、RSウイルスは、主に鼻・喉・気管支・肺の粘膜から体内に入ります。
ここには、
- 粘膜を覆う「上皮細胞」
- 侵入者を見張る免疫細胞
- 粘液やせん毛(ホコリをかき出す小さな毛)
がびっしりと並んでいて、まるで「空港の検疫ゲート」のように出入りをチェックしています。
ウイルスが入り込み増えると、からだは発熱・咳・喉の痛み・だるさという形で「異常が起きているよ」とサインを出します。
- 発熱:免疫反応を高めるための「体温の引き上げ」
- 咳:気管支や肺から異物を外に押し出すための反応
- 喉の痛み:炎症で神経が敏感になったサイン
こうした反応はつらいのですが、本来はからだを守るための防御システムでもあります。
3-2. インフルとコロナ:全身への影響
インフルエンザと新型コロナは、どちらも全身症状が前面に出やすい感染症です。
日本では、2024年秋〜2025年初めのシーズンだけで、季節性インフルエンザの推計症例数が約950万例に達したと報告されています。Vietnam+ (VietnamPlus)
これは、単なる「喉風邪」ではなく、社会全体の医療体制に影響するレベルの感染症だ、ということの一つの目安になります。
新型コロナは、
- 味覚・嗅覚の異常
- 長く続く倦怠感(いわゆる“ブレインフォグ”含む)
などを残すことがあり、神経や血管にも影響し得る感染症として位置づけられています。
どちらも、
- 高齢者
- 持病(心臓・肺・腎臓・糖尿病など)のある人
- 妊娠中の方
では重症化リスクが高く、ワクチンによる予防と、早めの受診が大切です。厚生労働省+1
3-3. RSウイルス:細い気管支の“詰まり”に注意
RSウイルスは、特に乳幼児の細気管支炎・肺炎の原因として知られています。
- 気管支のさらに先にある、「ストローより細い空気の通り道」が炎症で腫れたり、粘液で詰まったりする
- 生まれて間もない赤ちゃんほど、もともとの気道が細いので、少し腫れるだけでも呼吸が苦しくなりやすい
という特徴があります。
日本の感染症発生動向調査では、2025年初頭のRSウイルス感染症の報告数が、2020年以降で最も高い水準となったことが示されており、流行時期のずれや規模の変化が指摘されています。国立健康危機管理研究機構+1
「子どもがゼーゼーしている」「肩やお腹を大きく使って呼吸している」ようなときは、迷わず医療機関を受診することが勧められています。厚生労働省
一方で、大人がRSウイルスにかかった場合は、
- 強めの風邪
- 長引く咳
のように見えることも多く、「ただの風邪かな」と見過ごされがちです。
高齢者や持病のある方では、重症肺炎の原因になることもあり、家族内での感染に注意が必要です。
3-4. マイコプラズマ肺炎:「歩ける肺炎」と神経・感覚のズレ
マイコプラズマは、細菌の一種ですが、普通の細菌とは少し性格が違い、「異型肺炎」の原因として知られています。
- 高熱が出ても、比較的動けてしまう
- 咳が2〜3週間と長く続きやすい
- レントゲンで肺炎の影が出ていても、見た目はそこまでぐったりしていない
といった特徴から、「歩ける肺炎」と呼ばれることもあります。
2023〜24年には、中国やヨーロッパなどでマイコプラズマ肺炎の増加が報告され、「新型の病気ではないが、子どもたちの“免疫の貯金”が不足している影響がある」との分析も出ています。Nature+2PMC+2
ここで大事なのは、
「からだの感覚」と「実際の状態」がズレることがあるという点です。
- なんとなく動けてしまう
- 仕事や学校を休むほどじゃない気がする
- でも咳がどんどん長引き、夜眠れない
こうした「感覚のズレ」は、自律神経にも負担をかけ、
- 寝付きにくい
- 食欲が落ちる
- イライラしやすい
といった二次的な不調につながることがあります。
3-5. 自律神経と呼吸の「バランス」が崩れると…
呼吸器の感染症が続くと、呼吸の仕方そのものも変わりがちです。
- 咳をこらえるクセで首・肩まわりにギュッと力が入る
- 浅く速い呼吸が続き、胸だけで息をしている感じになる
- 夜、咳を気にしてなかなか眠れない
すると、自律神経は「戦闘モード」に偏り、からだが休まりにくくなります。
結果として、
- 病気そのものは治りかけているのに、だるさだけ残る
- ちょっと動くだけで息切れする
- いつも風邪を引いているような感覚
が長引きやすくなります。
ここまで読むと、少し不安になってしまったかもしれませんが、全部を完璧にコントロールしようとする必要はありません。
次の章では、私たちの日常のクセと、これらの呼吸器感染症との関係を、もう少し生活レベルに落として見ていきます。
4. 日常のクセと「冬の呼吸器感染症」の関係
4-1. 「閉め切った暖房+乾燥」のダブルパンチ
冬はどうしても、
- 窓をあまり開けない
- エアコンやストーブで空気が乾燥する
という環境になりやすいですよね。私自身も、寒い日はつい換気を後回しにしてしまうことがあります。
しかし、厚生労働省も、急性呼吸器感染症の予防として、
- 室内の換気
- 手洗い・咳エチケット
を基本として繰り返し呼びかけています。厚生労働省+1
乾燥した空気は、
- 喉や鼻の粘膜をカサカサにして防御力を下げる
- 飛沫が細かくなり、空気中を漂いやすくする
と言われています。
「暖かいけれど、のどがイガイガする部屋」は、呼吸器にとってはやや過酷な環境です。
4-2. 「無理して出勤・登校」が、家族内感染のスタートに
ARIのQ&Aでも、「症状があるときは無理をして学校や職場に行かないこと」が強調されています。厚生労働省
- ちょっと熱があるけれど、大事な会議だから
- 子どもが微熱だけど、どうしても仕事を休めないから登園させる
という判断が、結果として家族内やクラス・職場全体の感染拡大につながることは、コロナ禍で多くの人が体験したことだと思います。
もちろん、現実には「休めない事情」があるのもよく分かります。
だからこそ、せめてこんなサインがあるときは、早めに受診・相談してほしいラインを決めておくのがおすすめです。
- 38℃前後の発熱が2〜3日以上続く
- 息苦しさ、胸の痛みがある
- 水分をほとんど取れない
- 子どもが顔色不良・ぐったりしている
こうしたサインが出ているときは、「頑張りすぎない」が何より大切です。
4-3. 市販薬だけで粘り続けるリスク
市販の風邪薬や解熱鎮痛薬は、うまく使えば心強い味方ですが、
- 何日も飲み続けて症状を“隠して”しまう
- 解熱したからといって、すぐに無理をする
といった使い方は、インフルエンザやマイコプラズマ肺炎など重要な病気の発見を遅らせることがあります。
最近の研究でも、「自己判断で市販薬のみを長期間使用した群」は、適切なタイミングで医療機関を受診した群と比べて、肺炎など重い合併症のリスクが高かった、という報告があります(※複数の観察研究の傾向からの一般的な知見)。Nature+1
「2〜3日試しても明らかに良くならないときは、医療機関に相談する」という**自分なりの“線引き”**を決めておくと安心です。
4-4. 睡眠不足とストレスが「長引く咳」を招きやすい
睡眠不足や慢性的なストレスも、呼吸器感染症の回復を遅らせる要因になります。
- 夜更かしで免疫細胞の働きが落ちる
- ストレスで自律神経が乱れ、気道の反応性が高まる
- 咳が出るのが怖くて浅い呼吸になり、胸や首の筋肉がこわばる
この悪循環が続くと、
**「もうウイルスや細菌は落ち着いているのに、咳だけ残っている」**状態になりがちです。
全部を一気に変える必要はありません。
**「睡眠時間を30分だけ増やしてみる」「寝る前のスマホ時間を少しだけ短くする」**といった、1〜2割の調整でも、からだにとっては大きな変化になります。

Q1. 冬になると咳だけ長引くのは、全部マイコプラズマ肺炎ですか?
A. いいえ、原因は一つではありません。
長引く咳の背景には、
- かぜやインフル・コロナなど、感染後の気道の過敏
- 喘息やアレルギーの素因
- 胃酸の逆流(逆流性食道炎)
- マイコプラズマ肺炎 など
さまざまなパターンがあります。
特に、
- 3週間以上咳が続く
- 夜間・明け方に強く出る
- 息苦しさや胸の痛みを伴う
場合には、マイコプラズマ肺炎を含め、医療機関での評価が必要になることがあります。
自己判断で「きっとマイコプラズマだ」と決めつけるよりも、経過や症状に応じて相談していくのがおすすめです。
Q2. インフルと新型コロナ、自分で見分けることはできますか?
A. 症状だけで完全に見分けるのは、ほぼ不可能に近いです。
どちらも、
- 発熱
- 喉の痛み
- 咳
- 全身のだるさ
などの症状が重なります。
確かに、「インフルは急に高熱が出る」「コロナは味覚・嗅覚異常が出ることがある」といった傾向はありますが、今の変異株では、その違いがはっきりしないことも多くなっています。厚生労働省+1
大切なのは、
- 重症化リスクのある人は早めに検査・受診する
- 周囲に高齢者や持病のある家族がいる場合は、感染を拡げない行動をとる
といった「行動面」での対策です。
Q3. RSウイルスって子どもの病気だと思っていました。大人も気をつける必要がありますか?
A. はい、特に高齢者や持病のある方は注意が必要です。
確かに、RSウイルスは乳幼児の重症肺炎・細気管支炎の原因として有名です。
一方で、
- 大人や高齢者が感染すると、「強めの風邪」や「長引く咳」として表れることも多い
- 高齢者施設などでは、集団発生や重症例の報告もある
ことが分かってきています。国立健康危機管理研究機構+2kitahara-hirokazu.com+2
「子どもから大人への“お土産感染”」が起きやすいウイルスなので、
- 子どもがRSウイルスと診断された
- 同居の高齢者に持病がある
といった状況では、
- 室内の換気
- 手洗い・咳エチケット
- 体調不良時の早めの受診
をいつも以上に意識しておくと安心です。
5. おわりに ― 今日からできる、小さな一歩
いろいろな名前の呼吸器感染症が話題になる冬は、どうしても不安が膨らみがちです。
ただ、どの感染症であっても、「からだを守る基本」は大きく変わりません。
ここまでの内容を踏まえつつ、今日からでも取り入れやすい行動を、少し整理してみます。
| 行動のヒント | からだのイメージ・狙い |
|---|---|
| 1日数回の換気+加湿(加湿器 or 洗濯物干し) | 粘膜を潤わせて、ウイルスの侵入に「クッション」をつくる |
| 37〜38℃のぬるめのお風呂にゆっくり浸かる | 自律神経を落ち着かせ、回復モードに切り替えやすくする |
| 就寝前1時間はスマホを手放す | 睡眠の質を上げ、免疫細胞が働きやすい環境をつくる |
| 「この症状が出たら受診」とマイルールを決める | 不安になりすぎず、我慢しすぎずに適切なタイミングで相談 |
もちろん、全部を一気に実践する必要はありません。
**「この中から1つだけ」**選ぶところからで十分です。
最後に、この記事のポイントを3つだけ振り返ります。
- 2025年の冬は、インフル・コロナ・RS・マイコプラズマ肺炎など、複数の呼吸器感染症が「ARI」として一体的に対策されています。
- 症状だけで完全に病名を見分けることは難しく、「重症化リスク」「家族構成」「経過の長さ」を目安に、早めの相談・受診ラインを決めておくことが大切です。
- 換気・加湿・睡眠・無理をしない働き方など、生活の1〜2割の調整でも、からだの防御システムを大きく助けることができます。
冬はどうしても、からだも心もこわばりやすい季節です。
完璧を目指さなくて大丈夫なので、「今年の冬は、これだけは続けてみよう」という小さな約束を、自分のからだと結んでみてください。
その積み重ねが、**「何度も風邪をひく冬」から「うまく付き合える冬」**への第一歩になっていきます。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
