「睡眠の質を改善」って本当?~機能性表示食品ラベルの読み解き方~

機能性表示食品のラベルと月のイラストを背景に、睡眠の質を改善と書かれたパッケージを見ながら選び方に悩む男女のイメージイラスト
目次

はじめに

コンビニやドラッグストアの棚にずらっと並ぶ「睡眠の質を改善」「起床時の疲労感を軽減」といった文字つきのドリンクやサプリ。
パッケージの青や紫のグラデーションを眺めながら、

「本当に効くのかな?」
「薬じゃないって書いてあるけど、飲んで大丈夫?」

と立ち止まったことはないでしょうか。

私のところにも、「寝つきが悪くてつい機能性表示食品に手が伸びてしまう」「どれを選べばいいのか分からない」という相談が増えています。
スマホや仕事で頭が休まらない、慢性的に疲れている、でもいきなり睡眠薬には抵抗がある。そんなときの“中間地点”として、こうした商品に期待を寄せたくなる気持ちもとてもよく分かります。

この記事では、「機能性表示食品だから安心」「睡眠の質を改善って書いてあるからきっと効く」に振り切るのでもなく、「どうせ効かないでしょ」と全部を疑うのでもなく、その真ん中あたりの、現実的な付き合い方を一緒に整理していきます。

読み終わるころには、

  • ラベルの“どこ”を見れば、だいたいの中身が分かるか
  • からだの中で、どんな仕組みをサポートしようとしているのか
  • 日常生活の中で、サプリに頼りすぎないための小さな工夫

が少しスッキリして、「じゃあ今日はこれだけやってみようかな」と思えるはずです。


2. いま話題の「機能性表示食品で睡眠を整える」という発想、結局なんなのか?

まずは、そもそも「機能性表示食品」とは何かを軽く整理しておきましょう。

日本では、健康をうたう食品のラベルにいくつかの“枠組み”があります。代表的なものをざっくり表にすると、こんな感じです👇

区分誰が効果を評価するか代表的な表示例睡眠系でよく見るポイント
特定保健用食品(トクホ)国(消費者庁)が個別審査して許可「血圧が高めの方に」など睡眠テーマは比較的少なめ
栄養機能食品一定量のビタミン・ミネラルが入っていればOK(届出不要)「ビタミンB群は〜の働きを助ける」など“睡眠用”というより栄養補給が中心
機能性表示食品企業が自ら科学的根拠を用意し、消費者庁に届出(ただし“個別の審査やお墨付き”はなし)「睡眠の質(眠りの深さ)を高める」など今いちばん数が多く、選択肢も豊富 消費者庁+1

機能性表示食品のポイントは、

  • 企業が自社の責任で安全性・機能性を評価し、その根拠を消費者庁に届け出る
  • ただし、国が一つひとつ「これは効果あり」とお墨付きを与えているわけではない

という“距離感”にあります。消費者庁+2消費者庁+2

さらに、この制度で届け出るためには、ヒトを対象にした臨床試験や、体系的に論文を集めたシステマティックレビューなど、一定の科学的根拠が求められますが、その質にはバラつきがあることも指摘されています。例えば、機能性表示食品のシステマティックレビューを評価した研究では、偏りのリスクが高いものが少なくないことや、表現の“盛りすぎ(spin)”が見られるケースも報告されています。PMC+1

また、近年の調査では、機能性表示食品のうち約2割が、根拠の再検証などを理由に機能性表示を取り下げている、という報道もありました。毎日新聞
「ラベルに書いてある=完璧なエビデンスがある」と考えるのは、やや期待しすぎかもしれません。

ラベルのどこを見るべきか?

睡眠系の機能性表示食品を手に取ったとき、チェックしてほしいのはこのあたりです。

  • 機能性関与成分の名前と1日あたりの量
    例)GABA ◯mg、テアニン◯mg、グリシン◯g など
  • 届出表示の具体的な文言
    「睡眠の質(眠りの深さ)を高める」「起床時の疲労感を軽減する」など、“どの部分”に効くとされているか
  • 注意書き
    「本品は、疾病の診断、治療、予防を目的としたものではありません」「未成年、妊娠中・授乳中の方は摂取を避けること」など

これらは、消費者庁が示しているガイドラインに基づき、必ず表示されるようになっています。消費者庁+1

つまり、「機能性表示食品=怪しい」でも「機能性表示食品=絶対安心」でもなく、

“どんな成分を、どのくらいの量で、どんなデータをもとにサポートしてくれそうなのか”

をラベルから読み取って、自分の生活スタイルに合うかを判断していくもの、と考えるとイメージが近いと思います。


3. からだの中で起きていること

ここからは、睡眠向けの機能性表示食品によく使われる成分が、からだのどこにどう関わっているのかを、ざっくり眺めてみます。

3-1. 眠りは「体内時計 × 自律神経 × 体温」のチームプレー

私たちが眠くなる背景には、大きく3つの流れがあります。

  1. 体内時計のリズム
    朝の光を浴びてから約14〜16時間たつと、脳が「そろそろ夜モードだな」と判断し、眠りを促すホルモン(メラトニンなど)の分泌が高まります。
  2. 自律神経の切り替え
    日中は交感神経が優位で“活動モード”、夜は副交感神経が優位で“休息モード”へ。
  3. 深部体温の低下
    皮膚から熱を逃がし、からだの中心の温度を少し下げることで、「そろそろ寝る時間だよ」という合図になります。

睡眠サポート系の食品は、このどこかを“そっと後押しする”ことで、寝つきや睡眠の質を整えようとしています。

3-2. GABA(ギャバ):ブレーキ役の神経伝達物質を支える

GABAは、脳の中で「興奮しすぎないようにブレーキをかける」役割を持つ神経伝達物質です。サプリや飲料に使われるGABAは、腸から吸収され、脳にどこまで直接届くかはまだ議論の余地がありますが、自律神経やストレス反応を通じて眠りをサポートする可能性が報告されています。MDPI

例えば、天然由来のGABAを75mg摂取した研究では、入眠までの時間が短くなり、客観的な睡眠指標でも改善がみられたとされています。大きな副作用は報告されず、短期的には安全性も比較的高いと考えられています。PMC+2J-STAGE+2

ただし、研究の多くは限られた人数・期間で行われており、「全員に劇的な効果が出る」わけではありません。GABAそのものは脳の中でとても重要な物質ですが、「飲めば一気に熟睡…!」というほど単純な話ではない、というのが現時点のリアルなところです。Frontiers+1

3-3. L-テアニン:お茶に含まれる“ゆるめ役”

L-テアニンは、緑茶などに含まれるアミノ酸の一種で、「リラックスしやすくする」「ストレス感を和らげる」といった効果で研究されてきました。サイエンスダイレクト+2PubMed+2

近年のメタ解析(複数研究のまとめ)では、50〜200mg/日程度のL-テアニンを数週間摂取することで、睡眠の主観的な質やストレス指標の改善が見られた試験も報告されています。Frontiers+2dfns.u-shizuoka-ken.ac.jp+2

働きとしては、

  • 脳波のα波(リラックス時に増えやすい波)の増加
  • ストレス応答の軽減
  • カフェインとのバランス調整

などを通じて、「カリカリした興奮状態」から「落ち着いた覚醒〜眠りへの橋渡し」を担っていると考えられています。

3-4. グリシン:体温をそっと下げて、眠りのスイッチを押す

グリシンは、からだの中に普通に存在するアミノ酸の一つです。睡眠に関しては、「寝る前に3g程度を摂ると、主観的な睡眠の質が良くなり、翌朝の疲労感が軽くなる」という研究がいくつか発表されています。J-STAGE+2Wiley Online Library+2

メカニズムとしては、

  • 皮膚の血流を増やし、深部体温を少し下げる
  • それによって、「眠りやすい状態」への切り替えをスムーズにする

と解釈されています。夜になると自然に手足があたたかくなり、体の中心が少しひんやりしてくる感覚がありますが、その流れをサポートするイメージです。

3-5. 「効き方」のイメージを、少し現実的なサイズに

ここまで読むと、「じゃあGABAとテアニンとグリシンが入ったサプリを飲めば完璧では?」と思いたくなるかもしれません。
ただ、研究データを冷静に見ると、

  • 効果の“サイズ感”は、「全く眠れない人が爆睡できるようになる」ほどではなく、
    入眠までの時間が数分短くなる、翌日のだるさが少し軽くなるといった“微調整レベル”の変化であることが多い
  • 生活習慣がかなり乱れている場合、サプリだけで帳尻を合わせるのは難しい

という現実も見えてきます。サイエンスダイレクト+1

つまり、機能性表示食品の睡眠サポート成分は、

「体内のブレーキや、体温のスイッチを少し押しやすくする“補助輪”」

くらいに捉えておくと、期待と現実のバランスが取りやすいと思います。


4. 日常のクセと、機能性表示食品との付き合い方

ここからは、日常の行動と「機能性表示食品で睡眠を整えたい」という発想との関係を整理していきます。

4-1. カフェインとスマホが“逆方向から引っ張る”ことも

睡眠障害のガイドラインや睡眠衛生の研究では、就寝前のカフェインやスマホの使用が、入眠を遅くし、睡眠時間を短くすることが繰り返し示されています。PLOS+3PMC+3PMC+3

  • カフェインは、脳の「眠気物質(アデノシン)」の働きをブロックし、6〜8時間程度作用が続くとされています。夕方以降のコーヒー・エナジードリンクが、夜の寝つきを邪魔するケースは少なくありません。PMC+2Sleep Foundation+2
  • スマホやタブレットからのブルーライトは、メラトニン分泌を抑え、「そろそろ夜だよ」という体内時計のサインを遅らせる方向に働きます。PMC+2National Sleep Foundation+2

この状態で「睡眠の質を改善」と書かれた飲み物を足しても、
一方でブレーキを軽く踏みながら、もう一方でアクセルを強めに踏んでいるようなもので、効果が実感しづらくなってしまいます。

4-2. 「これさえ飲めば」の落とし穴

機能性表示食品の研究では、あくまで**「生活習慣は大きく変えずに、成分の効果を評価する」**という前提で試験が組まれていることが多いです。PMC+1

しかし、実際の生活では、

  • 疲れ切っているから、とりあえずサプリを飲んで夜更かしを続ける
  • 仕事やSNSのストレスはそのままに、「睡眠だけなんとかしてほしい」と願ってしまう

といった“逆方向の力”も同時にかかっています。

私自身も、忙しい時期には「今日は夜遅くまで作業しちゃうし、明日はサプリの力を借りよう…」と考えてしまうことがあります。
そんなときは、**「これはあくまで補助輪。自転車(生活習慣)本体がガタガタだと、さすがに支えきれないよな…」**と一度立ち止まるようにしています。

4-3. まず見直したい“1〜2割のクセ”

全部を完璧にしようとすると息が詰まってしまうので、
機能性表示食品を取り入れる前に、まずは次のような“1〜2割の調整”から始めるのがおすすめです。

  • カフェインは就寝の6〜8時間前を最後にする
  • 寝る1時間前になったら、スマホは「通知OFF+画面を見続けない」モードに切り替える
  • できる範囲で、平日・休日の就寝・起床時間のズレを1〜2時間以内におさめる(いわゆる“社会的時差ボケ”を減らす)PMC+2MDPI+2

このあたりを少し整えたうえで機能性表示食品を使うと、「なんとなく効きやすい土台」ができてきます。


Q1. 機能性表示食品なら、飲めば必ず眠れるようになりますか?

残念ながら、「必ず」や「劇的に」という表現は成り立ちません。

臨床試験では、GABAやテアニン、グリシンなどで入眠までの時間が数分短くなったり、翌朝の疲労感が少し軽くなったりといった結果が報告されていますが、
その効果の大きさは、統計的には意味があっても、体感としては“ちょっと楽かも”レベルであることが多いです。J-STAGE+3PMC+3J-STAGE+3

また、研究に参加した人と、あなたの生活リズムや体質は当然違います。
「自分の睡眠リズムを整える取り組み+成分のサポート」で、少しずつ変化を積み重ねていくイメージを持っておくと、ガッカリしにくいと思います。


Q2. サプリは何種類も組み合わせて飲んでも大丈夫?

市販のサプリ同士の“組み合わせ”については、しっかり検証されたデータがまだ多くありません。
機能性表示食品のガイドラインでも、1日の摂取量の目安を守ることと、他のサプリとの併用で成分量が過剰にならないように注意することが求められています。消費者庁+1

とくに注意したいのは、

  • 同じ成分(例:GABA、テアニン、グリシン)が複数の商品に入っていて、知らないうちに合計量が増えてしまう
  • 持病の薬と作用が重なる可能性がある場合(高血圧、てんかん、精神科系の薬など)

このあたりは、製品パッケージの「機能性関与成分」「栄養成分表示」を見比べること、
そして不安があればかかりつけ医や薬剤師に相談することが安心につながります。


Q3. 子どもや妊娠中・授乳中でも、睡眠系の機能性表示食品を飲んでいい?

機能性表示食品の制度そのものが、「病気にかかっていない成人」を対象として設計されています。
多くの製品の注意書きにも、未成年・妊娠中・授乳中の方は対象外であることが明記されています。消費者庁+1

子どもや妊娠中・授乳中の睡眠トラブルは、ホルモンや生活環境の影響を大きく受けます。
この時期は、サプリでの対応よりも、

  • 寝る・起きるリズムをできる範囲で整える
  • 昼間の光をしっかり浴びる
  • どうしてもつらい場合は、早めに医師や助産師といった専門家に相談する

といった方向でサポートを受ける方が安全です。


5. おわりに —— ラベルと上手に付き合うための「小さな一歩」

最後に、今日からできそうな行動を、テーブルで軽く整理してみます。

やってみる一歩具体的なイメージ
ラベルの「機能性関与成分」と量をチェック「GABA◯mg」「テアニン◯mg」「グリシン◯g」など、何がどれくらい入っているかを一度は確認する
「注意書き」を読む習慣をつける「疾病の診断・治療・予防を目的としたものではありません」「未成年や妊娠中は対象外」などの一文に目を通す
就寝前1時間の“環境づくり”をセットにするカフェインは夕方まで、寝る1時間前は画面から離れて、照明を少し落とす サイエンスダイレクト+2blogs.cdc.gov+2
効き目の感じ方を「0か100か」で判断しない「飲んだら眠れた/眠れない」だけでなく、「昨日より入眠が楽だったか」「朝のだるさはどうか」をゆるく観察する

機能性表示食品は、うまく使えば、

「眠れない自分はダメだ」と責めてしまうループから、
「からだをいたわるための、ひとつの道具」として自分を助けてくれる存在

になり得ます。

大事なのは、

  • ラベルを“魔法の約束”としてではなく、“丁寧につくられた目安”として読むこと
  • からだのリズムを整える小さな工夫とセットで使うこと

この2つです。

全部を一気に変える必要はありません。
今日の記事の中から「これならできそう」と感じたものを、まず1つだけ選んでみてください。

  • 寝る前1時間、スマホを充電スタンドに置いておく
  • 夕方以降のカフェインだけ意識してみる
  • 気になっていた機能性表示食品のラベルを、いつもより30秒だけじっくり眺めてみる

その小さな一歩が、からだの中のリズムや感覚を少しずつ整えていくきっかけになります。
無理のないペースで、自分の眠りとの付き合い方を、ゆっくり育てていきましょう。 🌙

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

からだトレンドラボを運営している、理学療法士のテラサワです。
病院やクリニックでのリハビリに長く関わる中で、
「もっと早く知っていれば楽になれたのに」という声を
何度も聞いてきました。

このブログでは、からだや健康にまつわる“トレンド情報”を、
医学的な視点でていねいに噛み砕いてお届けします。
難しいことはできるだけやさしく。
読み終わったときに、ちょっとだけ不安が軽くなっていたら嬉しいです。

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