たんぱく質不足で“なんとなく不調”に?~睡眠・だるさ・筋力低下との関係~

たんぱく質不足でなんとなく不調を感じる女性と、肉・魚・卵・大豆製品などの食材が並んでいるイメージイラスト(睡眠不足やだるさ・筋力低下とたんぱく質不足の関係をイメージさせる画像)

「最近、なんとなくだるい」「寝てもスッキリしない」「筋トレもしてないのに筋力が落ちてきた気がする」──
40代以降で、こんな“なんとなく不調”を感じている方はかなり多い印象があります。

相談を受けて話を聞いていくと、睡眠・ストレス・運動不足にくわえて、たんぱく質のとり方がかなり少ない or かたよっているケースが目立ちます。

SNSやテレビでも「高たんぱく」「プロテイン」が話題になっていますが、

  • どれくらい足りないと「たんぱく質不足」と言えるのか
  • ほんとうに不調の原因になるのか
  • 増やしたほうがいい人・そこまで気にしなくていい人

このあたりがモヤっとしたまま、なんとなく不安だけ抱えている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、難しい専門用語はできるだけほどきながら、たんぱく質不足と不調のつながりを整理していきます。
「じゃあ、私の生活ではここを少し変えてみようかな」と思えるヒントになればうれしいです。


目次

2. いま話題の「たんぱく質不足と不調」って、結局なんなのか?

まず、少しだけ整理します。

たんぱく質は、筋肉だけでなく、

  • 内臓の材料
  • ホルモンや酵素
  • 血液・免疫細胞
  • 髪や爪、肌

など、からだのあらゆる“パーツ”の素材になっています。
極端に足りなくなると命に関わりますが、日常的に問題になるのは、**「ギリギリ足りていない状態が続くこと」**です。

「不足」と「ギリギリ」の違い

医学的には「低栄養」と呼ばれるような、体重が大きく減っている状態はわかりやすい“たんぱく質不足”です。
一方で、見た目には普通体型でも、

  • 1日の必要量はかろうじて満たしている
  • でも、40〜60代以降の「フレイル(虚弱)」予防の観点では心もとない

という“グレーゾーン”もあります。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、健康維持のための1日の推奨量として、成人ではだいたい次のような数字が示されています。長寿科学振興財団+1

区分1日の推奨量の目安
18〜64歳 男性約65 g
65歳以上 男性約60 g
18歳以上 女性約50 g

また、摂取エネルギー全体のうち、13〜20%をたんぱく質からとるのが目標とされています。長寿科学振興財団+1

ここでポイントになるのが、

  • 「推奨量」は“ほとんどの人が足りるライン”
  • 40〜50代以降で筋肉量やフレイル(虚弱)予防を考えると、もう少し多めを意識したいという議論もある

という点です。

実際、日本人の食事内容を分析した研究では、30歳以上の多くが、サルコペニアやフレイル予防の観点から見ると、たんぱく質も必須アミノ酸(ロイシンなど)もやや不足気味と報告されています。長寿科学振興財団

「たんぱく質不足=すぐに病気になる」ではありませんが、

“不調まではいかないけれど、元気が出ない・疲れやすい・筋力が落ちやすい”

と感じやすい土台は、ゆっくり育ってしまう。
そんな、少し地味だけれど大事な問題が隠れています。


3. からだの中で起きていること

ここからは、からだの内側で何が起きているのかを、
「からだの構造」「神経やホルモン」「自分の感覚」という3つの方向から眺めてみます。

3-1. 筋肉・骨・内臓という“構造”の話

たんぱく質は、筋肉の“材料”です。
材料が足りない状態が続くと、からだは生きるために優先度の低い部分から少しずつ削っていきます。真っ先に削られやすいのが筋肉です。

  • 階段の昇り降りで疲れやすくなる
  • 歩くスピードが落ちてくる
  • イスから立ち上がるのが少しおっくうになる

こうした変化は、急にガクンと来るというより、数年単位でジワジワ進みます。

日本人の高齢女性を対象とした研究では、1日あたりおよそ70 g以上のたんぱく質をとっているグループのほうが、フレイル(虚弱)の割合が低かったという報告があります。nutrepi.m.u-tokyo.ac.jp
また、1日のエネルギーのうち、たんぱく質の割合が**男性15〜17%、女性17〜21%**の範囲にあると、フレイルのリスクがもっとも低いというデータも出ています。nibn.go.jp

もちろん、これは高齢者を対象にした研究ですが、
40代以降の「疲れやすい」「踏ん張りがきかない」といった感覚ともつながってきます。

筋肉は単に“力を出す器官”ではなく、姿勢を支え、関節を守り、血流をポンプのように送り出してくれる存在です。
材料が足りずにやせてくると、

  • 肩こり・腰痛などの慢性的なコリ
  • 冷えやむくみ
  • 転びやすさ

といった、さまざまな不調に波及しやすくなります。

3-2. 神経・ホルモンのバランスと睡眠

たんぱく質は、神経伝達物質(脳内のメッセンジャー)やホルモンの材料でもあります。

例として、

  • セロトニン:心の安定に関わる
  • メラトニン:睡眠のリズムに関わる
  • ドーパミン:やる気や集中力に関わる

といった物質は、アミノ酸(たんぱく質が分解されたもの)から作られています。

「たんぱく質が少ない=即うつ病になる」という単純な話ではありませんが、
慢性的な不足が続くと、

  • 夜になっても眠気のスイッチが入りづらい
  • 睡眠の質が落ちる
  • 日中の集中力が続かない

といった“ぼんやりした不調”と関係する可能性があります。

高齢者を対象にした栄養疫学研究では、十分なたんぱく質摂取と、身体機能や主観的健康感の維持が関連していたという報告もあります。J-STAGE
「たんぱく質をとる=筋肉だけの話」ではなく、
からだ全体の“調子のよさ”に関わる土台づくりだとイメージしてみてください。

3-3. 「なんとなく不調」という感覚の正体

最後に、「感覚」の話です。

人間のからだは、エネルギーや栄養が足りなくなってくると、
生き延びるために**“省エネモード”**に切り替わります。

  • 以前より疲れやすい
  • 仕事終わりはヘトヘトで、平日は何もする気が起きない
  • 休日も寝だめをして終わってしまう

こうした状態は、単なる気合い不足ではなく、

「これ以上エネルギーを使うと危ないから、動きをセーブしておこう」

という、からだからの防御反応、という面もあります。

たんぱく質不足にくわえて、睡眠不足・ストレス・運動不足などが重なると、この“省エネモード”のスイッチが入りっぱなしになり、
本人としては **「なんとなくずっとだるい」「自分だけ老け込んだ気がする」**と感じやすくなります。

私自身も、忙しい時期に食事が適当になり、
「気づいたら昼はパンとおにぎりだけ、夜も炭水化物中心」という生活が続いた時期がありますが、
その頃は、同じ仕事量でも妙に疲れ方が違いました。

たんぱく質だけが原因ではありませんが、**“からだの材料が足りているかどうか”**は、
この「なんとなく不調」をほどくうえで、見逃せないポイントのひとつです。


4. 日常のクセと「たんぱく質不足と不調」の関係

では、具体的にどんな生活パターンが、たんぱく質不足と不調につながりやすいのでしょうか。
代表的なものを、いくつかの“あるあるパターン”で見ていきます。

4-1. 朝・昼が軽すぎて、夜だけドカン型

日本人の食事を分析した研究では、**たんぱく質が「夜ごはんに偏りがち」**で、
1食あたりの量で見たときに、筋肉の維持という観点からは十分とは言えない、という結果も出ています。長寿科学振興財団

よくある例としては、

  • 朝:パンとコーヒーだけ
  • 昼:うどんやパスタ、おにぎりだけ
  • 夜:やっと肉や魚をしっかり食べる

というパターンです。

1日の合計としては、なんとか推奨量に届くかもしれません。
ただ、筋肉の合成は1回の食事である程度の量のたんぱく質が入ってきたときにスイッチが入りやすいと言われています。

朝・昼が極端に少ないと、

  • 日中の集中力が出にくい
  • 夕方にどっと疲れが出る
  • 筋肉の維持・増量のチャンスを逃しやすい

といったことが起きやすくなります。

4-2. ダイエットで「たんぱく質まで一緒に削ってしまう」

40代以降で多いのが、「体重を落としたい」「検診でコレステロールを指摘された」という理由で、
全体の食事量をただ減らしてしまうケースです。

  • 食事回数を減らす
  • 主菜(肉・魚・卵・大豆製品)を控えめにする
  • サラダとおにぎり、みたいな食事が増える

体重は一時的に落ちても、そのぶん筋肉も削られやすくなり、
結果的に「少し動いただけで疲れる」「冷えやすい」といった不調につながりやすくなります。

フレイルやサルコペニアのリスクを見た研究では、たんぱく質を“しっかりとりながら”体重や生活習慣を整えている人ほど、7年後の生活機能が保たれやすいというデータもあります。J-STAGE

ダイエットをするときこそ、

「全体量は少し減らしても、たんぱく質はしっかり確保する」

という視点が大事になってきます。

4-3. ひとり暮らし・高齢の家族で起こりやすいパターン

自分自身だけでなく、親世代・祖父母世代の食事も要チェックです。

  • 食事の準備が大変で、パンや麺、簡単なお惣菜が中心
  • 肉や魚を調理するのが面倒で、ハムやソーセージだけで済ませてしまう
  • 食が細くなり、そもそも量を食べられない

こうした状態が続くと、体重はそこまで減っていなくても、
筋肉量や体力は静かに落ちていきます。

日本の研究でも、高齢者でたんぱく質摂取量が多いほどフレイルのリスクが低いことが示されています。厚生労働科学研究成果データベース+1
「歩幅が狭くなってきた」「最近よくつまずく」といった変化が見られたら、
たんぱく質のとり方を一度見直してみる価値があります。


ここまで読むと、「じゃあ、とにかくプロテインを飲めばいいの?」と感じるかもしれません。
ここで、よくある疑問にも触れておきます。

Q1. プロテインを飲めば、たんぱく質不足は全部解決しますか?

プロテイン(粉末のたんぱく質)は、**あくまで“補助”**です。

  • 朝食がどうしてもパン+コーヒーになってしまう
  • 食が細くて、主菜をしっかり食べきれない
  • 筋トレをしていて、どうしても食事だけでは足りない

こういった場合には、とても便利な道具になります。

ただ、「プロテインを飲んでいるから安心」と考えて、普段の食事の主菜が減ってしまうと本末転倒です。
肉・魚・卵・大豆製品・乳製品などからの“噛んで食べるたんぱく質”は、咀嚼や満腹感、ビタミン・ミネラル摂取の面でも重要です。

まずは食事から必要量のベースをつくり、それでも不足しがちなタイミングで**“足りないぶんを補う”くらいの感覚**で考えてみてください。

Q2. 腎臓が心配で、たんぱく質を増やすのが怖いです。

もともと腎臓の病気がある方は、医師や栄養士から「たんぱく質は控えめに」と指示されることがあります。
その場合は、自己判断で増やさず、必ず主治医に相談してください。

一方、腎機能に問題のない人で、食事摂取基準の範囲内(エネルギーの13〜20%程度)でたんぱく質をとることは、通常は大きなリスクとは考えられていません。長寿科学振興財団+1

ただし、極端な高たんぱく食(ステーキばかり、プロテインを何杯も、など)を長期に続けると、
将来的な腎機能への影響を懸念する研究結果もあり、「多ければ多いほど良い」というものではないこともわかっています。Wiley Online Library

目安として、

「今の自分の体重 × 1.0〜1.2 g/日くらい」

をひとつの目安にしつつ(※腎疾患などがない場合)、それ以上増やしたいときは専門家に相談するのがおすすめです。

Q3. 動物性と植物性、どちらのたんぱく質を意識したらいいですか?

結論だけ言うと、どちらも大切です。

  • 肉・魚・卵・乳製品などの動物性たんぱく質
  • 大豆製品や穀物などの植物性たんぱく質

それぞれにメリットがありますが、日本の高齢者を対象にした研究では、動物性たんぱく質をある程度しっかりとっている人のほうが、生活機能が保たれやすいという結果も出ています。J-STAGE

とはいえ、赤身肉ばかりでは脂質や塩分が増えやすくなるので、

  • 魚(特に青魚)
  • 鶏むね肉やささみ
  • 豆腐・納豆・ヨーグルト

などを組み合わせて、「動物性+植物性」をバランスよくとるイメージが安心です。


5. おわりに ─ 今日からできる“小さな一歩”

たんぱく質不足は、目に見えて劇的な症状が出ることは少ない分、
「なんとなく不調」「年齢のせいかな」で片付けられがちです。

一気に完璧を目指す必要はありません。
**“今より1〜2割だけ、たんぱく質を意識する”**くらいの感覚で、できそうなところから始めてみてください。

たとえば、こんな“小さな一歩”があります。

行動の例イメージ
朝食にゆで卵やヨーグルトを足す「パンだけ朝食」を、たんぱく質入りの朝食へ
昼の麺類に、肉・卵・豆腐トッピングを追加うどんだけ→肉うどん、ラーメン+味玉など
夜ごはんの主菜を「手のひら1枚分」を目安にする目で見てわかりやすい“自分なりの定規”をつくる

全部やる必要はありません。

「この中から1つだけなら、今日からできそうかも」

と感じたものを、まずは1〜2週間続けてみてください。

最後に、ポイントを3つだけ整理しておきます。

  1. たんぱく質不足は、筋力低下だけでなく、睡眠の質や“なんとなく不調”ともじわじわ関係する。
  2. 日本人全体として、フレイル・サルコペニア予防の観点から見ると、たんぱく質のとり方がやや不足・偏り気味というデータがある。長寿科学振興財団+1
  3. プロテインやサプリに頼りきる前に、「朝と昼にも少しずつたんぱく質を足す」「動物性+植物性をバランスよく」といった、小さな生活の工夫が土台になる。

からだは、いきなり完璧を求めてはいません。
少しずつ材料が届きはじめると、時間をかけてちゃんと応えてくれます。

「最近ちょっと疲れやすいな」と感じている方は、
今日の食事を思い浮かべながら、「たんぱく質、どこでどれくらいとっているかな?」と、そっと振り返ってみてください。
それが、“なんとなく不調”から一歩抜け出すきっかけになるかもしれません。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

からだトレンドラボを運営している、理学療法士のテラサワです。
病院やクリニックでのリハビリに長く関わる中で、
「もっと早く知っていれば楽になれたのに」という声を
何度も聞いてきました。

このブログでは、からだや健康にまつわる“トレンド情報”を、
医学的な視点でていねいに噛み砕いてお届けします。
難しいことはできるだけやさしく。
読み終わったときに、ちょっとだけ不安が軽くなっていたら嬉しいです。

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