1. はじめに
「しっかり筋トレした日はぐっすり眠れる気がする」「むしろ疲れすぎて目がさえてしまう…」。
同じ「運動」なのに、睡眠との相性は人によっても、やり方によってもかなり違います。
最近はSNSでも「筋トレ 睡眠 質」といったキーワードがよく見られますし、
「寝つきが悪いから走り始めた」「夜のジム通いを始めてから逆に眠れない」
といった相談も増えてきました。
現場で話を聞いていると、
- 夜21〜22時にハードな有酸素運動をしている人
- 夕方に短めの筋トレをしている人
- 寝る直前にストレッチと軽い自重トレーニングをしている人
…など、生活スタイルはさまざまです。
その中で「睡眠の質が良くなった」と感じるパターンと、「かえって寝づらくなった」というパターンには、いくつか共通点があります。
この記事では、最新の研究(筑波大学とアリナミン製薬の共同研究など)も踏まえながら、
「どのくらい・どの時間帯で筋トレをすると、睡眠の質と相性が良いのか」を、私なりの視点で整理していきます。
難しい理屈よりも、「じゃあ、今日からこうしてみようかな」と思えるヒントを大切に書いていきますね。


2. いま話題の「筋トレと睡眠の質」の関係って、結局なんなのか?
まず大枠として、「運動と睡眠」の関係についての研究をざっくり整理しておきます。
運動は“全体としては”睡眠の味方
一般の成人を対象にした複数の研究をまとめた解析では、
定期的な運動は睡眠の質(PSQIという指標)を改善し、睡眠効率も数%ほど上がることが報告されています。サイエンスダイレクト
別のメタ解析でも、有酸素運動・筋トレ(レジスタンス運動)・それらを組み合わせた運動は、
どのタイプであっても主観的な睡眠の質を良くする傾向がある、とされています。PMC+1
つまり、「運動する人」全体で見ると、筋トレに限らず、睡眠の質はむしろ“良くなりやすい”側に振れています。
なのに「運動したら眠れない」人がいるのはなぜ?
ここで、筑波大×アリナミン製薬の共同研究が出てきます。
報道されている内容をかんたんにまとめると、こんな結果でした。毎日新聞+1
- 高強度の有酸素運動(いわゆる「きつめの有酸素」)は、自律神経を強く刺激して、
夜の睡眠の質を下げる傾向があった - 一方、高強度のレジスタンス運動(筋トレ)は、自律神経への負荷はあるものの、
深い睡眠が増え、総合的には「質が上がる」方向に働いた
どちらも「高強度」である点は共通ですが、
心拍数の上がり方や、“興奮の残り方”に違いがあることが示唆されています。
「筋トレなら何でも睡眠に良い」のか?
もちろん、ここで注意が必要です。
- 研究は限られた人数・条件で行われたもの
- 現実の生活では、仕事のストレス・カフェイン・照明・スマホなど、
睡眠に影響する要素が山ほどある
ですから、「有酸素運動はダメで筋トレは最高」といった極端な解釈はおすすめしません。
あくまで、
やり方次第で、筋トレは睡眠の質ととても相性の良いツールになりうる
というくらいのイメージで捉えておくとちょうど良いと思います。
3. からだの中で起きていること
ここからは、からだの中で何が起きているのかを、
「からだの構造」「神経の働き」「自分の感覚」の3つの方向から見ていきます。
3-1. 構造:筋肉に「適度な疲れ」を作る
筋トレをすると、筋線維の一部が小さく傷つき、
その修復に向けてたんぱく質合成やホルモン分泌が活発になります。
- 日中にほどよく筋肉を使う → 夜に「修復モード」に入りやすくなる
- 修復モードは、深い睡眠(ノンレム睡眠)の時間帯にしっかり働きやすい
運動と睡眠の関係を扱った総説では、「日中の身体活動は深い睡眠を増やす」ことが繰り返し述べられています。Nature
からだ側から見ると、
「壊れた部分を直したいから、眠っている時間をしっかり確保したい」
という、ごく自然な流れが生まれているわけですね。
3-2. 神経:自律神経の“アクセルとブレーキ”
問題は「どのタイミングで」「どのくらい強く」からだを追い込むかです。
激しい運動をすると、心拍数や体温がぐっと上がり、
交感神経(アクセル側)が強く働きます。これはこれで大事な反応ですが、
- 強度が高すぎる
- 寝る直前までやってしまう
と、アクセルが踏みっぱなしの状態で布団に入ることになります。
睡眠と運動のタイミングをまとめたレビューでは、
- 就寝の4〜8時間前の運動 → 入眠までの時間が短くなり、深い睡眠が増える
- 就寝の1時間以内の高強度運動 → 眠りにつくまでが遅くなり、睡眠の質が下がる
といった傾向が示されています。Nature+1
さらに、何万人もの活動量計データを解析した研究では、
「寝る4時間以内の高強度運動は、入眠時刻が遅くなり、睡眠の質が下がる」ことも報告されています。Monash University
このあたりを踏まえると、
筋トレ自体は睡眠の質にプラスに働きやすいが、
強度とタイミングを間違えると“興奮が残りすぎて眠れない”
ということが見えてきます。
3-3. 感覚:からだの“ほどよい疲れ”を脳がどう感じるか
もうひとつ大事なのが「自分の感覚」です。
- からだはぐったりなのに、頭だけ冴えている
- 心拍がなかなか落ち着かない
- 呼吸が浅く、肩や首の筋肉が張ったまま
こういった状態では、ベッドに入っても「落ち着かない感じ」が続きます。
一方、夕方などに筋トレをしておくと、
- 夜になるにつれて筋肉痛がじわっと出てくる
- 体温がゆっくり下がっていく
- 「今日もちゃんと動いたな」という満足感がある
といった感覚が積み重なり、**眠りに入りやすい“重さ”**がからだに出てきます。
筑波大の研究では、「客観的には睡眠が深くなっているのに、本人はあまり変化を自覚していない」という結果も報告されています。wpi-iiis.tsukuba.ac.jp
つまり、
からだの内側では良い変化が起きていても、感覚として分かりにくい場合がある
ということです。
だからこそ、1〜2回の筋トレで判断せず、
2〜3週間くらい同じパターンを続けてみて、自分の眠り方の変化を観察することが大切になります。
4. 日常のクセと「筋トレと睡眠の質」の関係
では、実際の生活パターンの中で、
どういう筋トレの仕方が「ぐっすり」と相性がよく、
どういうパターンが「疲れすぎて眠れない」状態を招きやすいのでしょうか。
4-1. 「仕事終わり→そのままジム」の落とし穴
よくあるのが、
仕事でクタクタ
→ 夜21〜22時にジムで高強度の有酸素+筋トレ
→ プロテインを飲んで、シャワーを浴びて、0時過ぎに就寝
というパターンです。
この流れだと、
- 日中の精神的ストレス
- 夜の高強度運動による交感神経の興奮
- カフェイン入りサプリやエナドリの摂取
などが重なり、からだは「戦闘モード」のまま。
布団に入っても、心拍数と体温がなかなか落ちてこない状態になりやすいです。
夜の運動の影響を調べた研究でも、
寝る1〜2時間前の激しい運動は、寝つきを悪くしやすいと報告されています。Harvard Health+1
4-2. 「夕方〜夜の“ほどよい筋トレ”」が狙い目
一方で、睡眠の質と相性が良いのは、たとえばこんなパターンです。
- 夕方〜夜の「就寝3〜4時間前」までに、30〜45分ほどの筋トレ
- 大きな筋肉(脚・背中・胸)を中心に、適度に負荷をかける
- 終わったあとは、クールダウンとシャワーで体温を一度上げ、
その後ゆっくり下がっていく流れを作る
世界保健機関(WHO)や各国のガイドラインでは、
成人は週150〜300分の中等度の運動、または75〜150分の高強度運動に加え、
週2日以上の筋力トレーニングが推奨されています。PMC+1
睡眠の質をねらう観点からも、
「週2〜3回、日中〜夕方の筋トレ」をベースに、
余裕があれば軽めの有酸素を足すくらいが現実的で続けやすいと感じます。
4-3. 「疲れすぎて眠れない」を避けるためのざっくり目安
ざっくりとした目安を表にまとめると、こんなイメージです。
| 項目 | 目安のライン |
|---|---|
| 筋トレの時間帯 | 就寝の 3〜4時間前まで に終える |
| 強度 | 息が上がるが会話はギリギリできる〜ややキツイ程度(RPEで13〜15くらい) |
| 1回あたりの時間 | ウォームアップ込みで 30〜60分 程度 |
| 週あたりの頻度 | 2〜3回 を基本に、慣れたら4回まで |
| 有酸素運動との組み合わせ | 高強度の有酸素は別日or日中に。夜は軽めのウォーキングやストレッチ程度にする |
もちろん体力や忙しさによって調整は必要ですが、
「寝る前ギリギリに追い込みすぎない」ことが、
筋トレと睡眠の質を両立させるうえで大事なポイントです。
4-4. よくある疑問Q&A
### Q1. 寝る直前に“軽い筋トレ”なら大丈夫?
A. 負荷がごく軽く、ストレッチに近い内容なら多くの場合は問題ありません。
ただし、「腕立て伏せを限界まで」「スクワットを息が上がるまで」といったものは、
たとえ時間が短くても交感神経を強く刺激しやすく、
寝つきが悪くなる可能性があります。
就寝前にやるなら、
- 深い呼吸を意識しながらの軽い自重トレ(10回×1セット程度)
- ストレッチやヨガに近いゆったりした動き
くらいにとどめると安心です。
### Q2. 週に何回くらい筋トレすれば、睡眠の質に変化が出ますか?
研究によってばらつきはありますが、
週2〜3回の筋トレを4〜8週間ほど続けると、
睡眠の質が改善してくるという報告が多いです。PMC+1
もちろん個人差はありますが、
「とりあえず2週間やってダメだったから意味ない」ではなく、
1〜2か月は同じリズムで続けてみることをおすすめします。
### Q3. 夜しか時間が取れません。それでも筋トレして大丈夫?
A. 大丈夫です。大切なのは「強度」と「終わる時間」です。
- できれば就寝の3〜4時間前までに終える
- どうしても21〜22時スタートになる場合は、
強度を落として「中等度(ややキツイ程度)」にしておく - 寝る前は、照明を落としてスマホ時間を減らすなど、
“クールダウン”の時間を意識する
このあたりを意識するだけでも、「夜に運動すると眠れなくなる」パターンをだいぶ避けられます。
私自身も、夜にトレーニングする日は強度を下げて、
最後はストレッチと呼吸を長めに入れるようにしています。
5. おわりに
筋トレと睡眠の質の関係を、研究と日常の感覚の両方から眺めてきました。
ポイントを整理すると、こんな感じになります。
- 運動は基本的に睡眠の味方
有酸素運動も筋トレも、継続すれば睡眠の質を上げる可能性が高いことが、
大規模な解析でも示されています。サイエンスダイレクト+1 - 「いつ・どれくらい」やるかがとても大事
寝る直前の高強度トレーニングは、自律神経を興奮させすぎて、
「疲れすぎて眠れない」状態を作りやすくなります。
就寝3〜4時間前までに、30〜45分のほどよい筋トレがひとつの目安です。 - 完璧ではなく、“1〜2割変える”意識で
いきなり理想的な運動習慣を目指す必要はありません。
仕事終わりの時間を少しだけ前にずらす、
有酸素運動の日と筋トレの日を分けてみる、
寝る前のスマホ時間を10分だけ減らす…。
そんな小さな調整でも、睡眠の質は少しずつ変わっていきます。
最後に、今日から試せそうな「小さな一歩」を表にしてみます。
| 行動のヒント | イメージ |
|---|---|
| 週2回だけ、夕方に筋トレを入れてみる | 帰宅後すぐか、夕食前に30〜40分。就寝までの“クールダウン時間”を確保 |
| 夜の有酸素は軽めにする | ランニング→ウォーキングに変えて、呼吸とリズムを整える時間にする |
| 寝る前10分のストレッチ+深呼吸 | 筋肉と神経のブレーキを意識して、「おやすみモード」へのスイッチに |
全部を一度に変える必要はありません。
気になったものを、ひとつだけ選んで試してみるだけでも十分です。
「筋トレ 睡眠 質」というキーワードに振り回されるのではなく、
自分のからだがどう反応しているかを観察しながら、
“ちょうどいい疲れ方”を探していくプロセスを楽しんでみてください。
うまくハマったときの「今日は自然に眠くなってきたな」という感覚は、
きっと日中のパフォーマンスや心の落ち着きにもつながっていきます。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
