1. はじめに
「最近、なんとなくだるい」「喉が渇きやすい気がする」「夜トイレに起きる回数が増えた」
でも、健康診断の結果は「とりあえず問題なし」。
こんな“宙ぶらりん”な状態にモヤモヤしている方は少なくありません。
現場でも、
- 「血糖値はギリギリ正常って言われたんですけど、なんとなく体調がスッキリしなくて…」
- 「糖尿病と言われたわけじゃないのに、疲れやすさが続いて心配です」
という相談を受けることがあります。
はっきり病名がつかないのに、じわじわ不調が続く。
その背景に、「隠れ糖尿病」レベルの血糖コントロールの乱れが隠れていることもあります。
この記事では、
- 「隠れ糖尿病って、そもそも何なのか」
- 「隠れ糖尿病の症状として、どんな“なんとなく不調”が出やすいのか」
- 「今日からできる、現実的なセルフケアの一歩」
を、できるだけやさしい言葉で整理していきます。
「全部完璧にやる」のではなく、「これだけはやってみようかな」と思えるヒントを拾ってもらえたらうれしいです。


2. いま話題の隠れ糖尿病って、結局なんなのか?
「隠れ糖尿病」は、医学用語としての正式な診断名ではありません。
ただ、日常診療の現場ではよく使われる表現で、
空腹時の血糖値や健康診断の数字だけ見ると“正常〜ギリギリ範囲内”なのに、
実際には食後の血糖値が高くなりやすく、血管やからだには負担がかかっている状態
を指すことが多いです。四谷内科・内視鏡クリニック |+1
用語の整理:正常・予備群・糖尿病
ざっくりしたイメージをつかむために、よく使われる指標を一度整理しておきます。
| 区分 | 空腹時血糖値(mg/dL) | 75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値(mg/dL) | HbA1c(%)の目安* |
|---|---|---|---|
| 正常〜おおむね良好 | 〜99 | 〜139 | 〜5.5 |
| 境界型/糖尿病予備群(前糖尿病) | 100〜125 | 140〜199 | 5.6〜6.4 |
| 糖尿病が強く疑われる/糖尿病 | 126以上 | 200以上 | 6.5以上 |
*HbA1c の基準は、日本糖尿病学会や海外のガイドラインでもおおむね共通しており、**5.7〜6.4%を「前糖尿病(糖尿病予備群)」**とする基準が広く用いられています。diabetes.org+1
日本の解説では、HbA1c 5.6%以上を「境界型」とし、6.5%以上を糖尿病の診断の一つの条件とするものが多いです。karadacare-navi.com
「隠れ糖尿病」のやっかいなポイント
- 空腹時血糖値は問題なし
- 健康診断の“その一瞬”だけ見れば正常範囲
- でも、食後だけ血糖値がグッと上がっている
というケースが、いわゆる「隠れ糖尿病」と呼ばれます。四谷内科・内視鏡クリニック |+1
この段階では、はっきりした自覚症状が出ないことも多いとされています。Mayo Clinic
ただ、
- 食後の強い眠気やだるさ
- ぼんやり感、集中しづらさ
- 体重はそこまで増えていないのに疲れやすい
といった“なんとなく不調”として表に出てくる場合があります。
「症状が出てから」では遅れがち
典型的な糖尿病の症状といえば、
- 喉の渇きが強い
- 尿の回数・量が増える(頻尿・夜間尿)
- 体がひどく疲れやすい
- 体重減少、視力のかすみ
などがよく挙げられます。diabetes.org+1
ただ、こうした症状がはっきり出てくる頃には、血糖のコントロールはかなり乱れていることが多く、
「その手前のグレーゾーン(隠れ糖尿病〜糖尿病予備群)」に気づけるかどうかが、とても大事になってきます。
3. からだの中で起きていること
ここからは、からだの内側で何が起きているのかを、できるだけイメージしやすく追いかけてみます。
3-1. 血管と臓器の「構造」に起きる変化
食事で糖質をとると、血液中のブドウ糖が増えます。
それに合わせて膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、筋肉や肝臓、脂肪細胞などがブドウ糖を取り込むことで、血糖値はゆっくり下がっていきます。
隠れ糖尿病〜糖尿病予備群の段階では、
- インスリンが出ても効きが悪い(インスリン抵抗性)
- 血糖値の上昇に対して分泌が追いつかない
- 食後の血糖値だけが高止まりしやすい
といったことが起こり、**食後の血糖スパイク(急上昇)**が増えていきます。
いくつかの大規模研究では、空腹時の血糖がそこまで高くなくても、「食後の血糖値が高い人」は心筋梗塞や脳卒中など心血管疾患のリスクが高くなることが報告されています。J-STAGE+1
つまり、「数値上はまだ“糖尿病とまでは言えない”」段階でも、
- 血管の壁に炎症やダメージがじわじわ蓄積する
- 将来の動脈硬化リスクが静かに進んでいく
という変化が、すでに始まっている可能性があるということです。
3-2. 自律神経とホルモンの「神経」の視点
血糖値の変動は、自律神経にも影響を与えます。
- 食後に血糖が急激に上がる
→ インスリンがドッと出る
→ そのあと血糖が急に下がる
→ 脳は「エネルギーが足りない?」と察知して、眠気・だるさ・甘いもの欲求を起こす
こうした血糖ジェットコースターが繰り返されると、
- 日中のだるさ
- 集中力の低下
- イライラしやすさ
など、「なんとなく不調」なのに説明しづらい感覚が増えていきます。
さらに、血糖値の乱高下はストレスホルモン(アドレナリンやコルチゾール)とも関係が深いので、
- ちょっとしたことでドキドキしやすい
- 寝つきが悪い、夜中に目が覚めやすい
- 朝起きても疲れが取れにくい
といった自律神経的な不調として現れることもあります。
3-3. 「感覚」として出てくるサイン
隠れ糖尿病〜前糖尿病の段階でも、
- 以前より喉が渇きやすい
- 夜間尿が増えた気がする
- 食後2〜3時間に強い眠気がくる
- 夕方になると頭が重い、ぼーっとする
といった、“小さなサイン”が積み重なっていることがあります。
前糖尿病の人を対象にした調査では、「疲れやすさ」「尿の回数が増えた」「よく喉が渇く」といった自覚症状が一定の割合で見られたという報告もあります。scholarhub.ui.ac.id
ただ、すべての人に同じように出るわけではありません。
「全く自覚がないまま、数年過ごしていた」というケースも珍しくないのが、この領域の難しいところです。
3-4. 日本全体で見ると…
厚生労働省などの統計では、**「糖尿病が強く疑われる人」は男性で約16〜17%、女性で約9%**と報告されています。生活習慣病予防協会+1
さらに、「その予備群」と考えられる人も含めると、かなり多くの人が血糖トラブルのゾーンに足を踏み入れていると推測されます。
言い換えると、
「自分もどこかで引っかかっているかもしれない」
くらいに考えておいた方が、むしろ自然な時代とも言えます。
だからこそ、「不安になるため」ではなく、**“早めに気づいて、小さく方向修正する”**という感覚が大切です。
4. 日常のクセと隠れ糖尿病の関係
ここでは、生活の中のどんなパターンが「隠れ糖尿病レベルの血糖コントロールの乱れ」と結びつきやすいのかを見ていきます。
4-1. 「お腹ペコペコ→ドカ食い」パターン
朝食を抜いて昼まで何も食べない、
忙しくて昼食の時間がバラバラ、
気づいたら夕方にお菓子と甘い飲み物だけで済ませている。
こうした生活が続くと、
- 長時間何も食べない
- 一気に糖質の多いものを食べる
- 食後の血糖値が急上昇・急降下しやすくなる
という流れが、血糖スパイクの温床になってしまいます。
「喉が渇く」「だるい」「食後に眠くて仕事にならない」といった隠れ糖尿病の症状は、
このパターンとセットで出やすくなります。
4-2. 夜遅い食事+ダラダラ間食
- 夕食が21〜22時以降になりがち
- 夕食後もテレビやスマホを見ながら、お菓子やアイスをつまむ
- アルコールと一緒に糖質の多いおつまみが増える
こうなると、就寝までずっと血糖値が高めの状態が続き、
からだは十分にリセットする時間を確保しづらくなります。
睡眠の質も落ちやすく、
「朝起きた瞬間から疲れている」「夜間尿で何度も起きる」など、
自律神経の乱れを伴う“なんとなく不調”が積み上がっていきます。
4-3. 運動不足と筋肉量の低下
筋肉は、**血糖を取り込んでくれる“最大の受け皿”**です。
一日の歩数が少ない、階段をほとんど使わない、座っている時間が長い生活が続くと、
- 筋肉によるブドウ糖の取り込みが減る
- 同じ食事でも血糖値が上がりやすくなる
- インスリンの効きも悪くなる
という流れになり、隠れ糖尿病〜糖尿病予備群に近づきやすくなります。
一方で、激しい運動を突然始める必要はありません。
むしろ、「日常動作の中で“ちょっと多めに動く”」レベルの積み重ねの方が、
続けやすく、血糖コントロールにも良い影響を与えやすいとされています。
4-4. ストレスと睡眠不足
慢性的なストレスや睡眠不足は、
血糖を上げるホルモン(コルチゾールなど)の分泌を増やし、インスリンの効きも悪くします。
- 残業続きで夕食が遅い
- 寝る直前までスマホやPCを見ている
- 眠りが浅く、夜中に何度も目が覚める
こうした状態が続くと、
「たいして食べていないのに太りやすい」「疲れやすい」「朝から甘いものが欲しくなる」
といった、隠れ糖尿病と重なりやすい感覚が出てきます。
実際、生活習慣と糖尿病リスクの関係を調べた研究でも、
- バランスの良い食事
- 一定量の身体活動
- 十分な睡眠時間
が揃っている人ほど、血糖トラブルのリスクが低い傾向が示されています。厚生労働省+1
Q1. 喉が渇きやすく、夜のトイレも増えました。すぐに隠れ糖尿病と思った方がいいですか?
喉の渇きや頻尿・夜間尿は、たしかに血糖値が高いときにもよく見られる症状です。diabetes.org+1
ただし、
- 水分のとり方
- カフェインの摂取
- 泌尿器系のトラブル
- 薬の副作用
など、他の要因でも起こり得ます。
「絶対に隠れ糖尿病だ」と決めつける必要はありませんが、
- 強い喉の渇きが続く
- 尿の回数・量が急に増えた
- 体重減少や強い疲労感もある
といった場合は、早めに医療機関で血液検査を受けておくと安心です。
Q2. 健康診断で「血糖値やHbA1cがちょっと高め、要経過観察」と言われました。どれくらい気にした方がいいですか?
「要経過観察」は、
“今すぐ大きな治療が必要というより、ここからの生活で方向が変わっていきますよ”
というサインと受け取ってみてください。
特に、HbA1cが5.6〜6.4%くらいのゾーンは、
多くのガイドラインで「前糖尿病(糖尿病予備群)」として注意喚起される領域です。diabetes.org+1
「怖いから見ないふり」をするよりも、
- 1年〜数年単位で数値がどう変化しているか
- 体重・お腹まわり・血圧など、他の項目とのセットでどうなっているか
を、主体的に“観察するスタンス”を持つことが、とても大切です。
Q3. 一度生活習慣を整えて数値が良くなれば、その後は検査しなくても大丈夫でしょうか?
生活習慣の改善で数値が良くなるのは、とても素晴らしいことです。
ただ、残念ながら**「一度良くなったから一生安心」というわけではありません**。
- 年齢とともに筋肉量が減る
- 仕事や家庭環境の変化で、活動量や睡眠が乱れる
- ストレスが増える
といった影響で、以前より血糖が上がりやすいからだになることもあります。
少なくとも年に1回の健康診断や、医師から指示されたタイミングでの検査は続けておくと、
「悪くなりきる前に、もう一度方向修正する」ことができます。
5. おわりに
隠れ糖尿病と“なんとなく不調”の関係を、少し立ち止まって眺めてきました。
大事なのは、
- 「自分はダメだ」と責めることではなく、
- 「からだからの小さなサインに、ちょっと耳を傾けてみる」
その姿勢です。
今日からできる、小さな一歩
最後に、「これだけでもいいのでやってみてほしい」行動を、少しだけ整理します。
| 行動のヒント | イメージ・ポイント |
|---|---|
| 食事を「抜かない」「ドカ食いしない」 | 空腹時間を極端に空けず、主食+たんぱく質+野菜を意識 |
| 夜遅い間食を一つだけ減らしてみる | 「毎日」ではなく、「平日だけ」「21時以降だけ」でもOK |
| 1日+2,000歩だけ多く歩いてみる | 一駅分歩く/エレベーターを1回だけ階段に変える |
| 年1回の検診結果を“眺めて終わり”にしない | 数年分を並べて、血糖やHbA1cの変化を見てみる |
全部やろうとすると苦しくなります。
この中から1つだけ選んで、1〜2週間試してみるだけでも、からだの感覚が少し変わることがあります。
隠れ糖尿病や糖尿病予備群は、「気づいた時点からでも方向を変えられる」段階です。
今感じている“なんとなく不調”は、からだが出してくれている小さなメッセージかもしれません。
その声に少しだけ耳を澄ませて、
できる範囲で生活の舵を切り直していきましょう。
完璧でなくて大丈夫です。
一歩だけでも動けば、その分だけ未来の自分のからだがラクになります。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
