1. はじめに
年末年始が近づくと、どうしてもお酒の機会が増えますよね。
仕事納めの飲み会、オンライン忘年会、家でひとり乾杯。気づけば「最近、毎晩飲んでるな……」という人も多いはずです。
その中で、よく聞くのがこんな声です。
- 「お酒を飲むとすぐ眠れるから、つい“寝酒”が習慣になってきた」
- 「寝つきはいいのに、夜中に何度も目が覚めて朝がつらい」
- 「二日酔いじゃないのに、飲み会の翌日は一日中だるい」
一見、アルコールは「睡眠の味方」に感じられます。
実際、“ほろ酔い”の心地よさで、布団に入ってすぐ眠りに落ちることも多いですよね。
ところが、体の中ではまったく逆のことが起きています。
アルコールは「寝つきは良くするけれど、睡眠の質を落として自律神経を乱しやすい」という、なかなかクセの強い存在です。
私自身も、若い頃は「寝られればいいでしょ」と思って遅くまで飲んでいた時期がありましたが、年齢を重ねるほど「同じ量でも明らかに翌日のダメージが違う」と感じるようになりました。
この記事では、
- アルコールと睡眠の質の関係
- 寝酒や飲み会明けのだるさのしくみ
- 自律神経への影響
- 今日からできる“ダメージを減らす飲み方・やめ方のヒント”
を、できるだけやさしい言葉で整理していきます。
「お酒はゼロにしなきゃダメ」と言いたいわけではありません。
“ほどよい距離感”を知っておくことで、年末年始を少しラクに乗り切る、そんなイメージで読んでもらえたらうれしいです。


2. いま話題の「アルコールと睡眠の質」って、結局なんなのか?
まずは、世の中で語られがちなイメージを軽く並べてみます。
- 「お酒を飲むとよく眠れる」
- 「寝酒をしないと眠れない」
- 「年を取ったらお酒が残りやすくなった」
- 「二日酔いで一日中、頭がぼんやりする」
ここまでは実感としてうなずける人も多いと思います。
一方で、最近はSNSやテレビでも「アルコールは睡眠の質を下げる」「寝酒はやめたほうがいい」といった情報もよく見かけるようになりました。
アルコールは「寝つきを良くして、途中で邪魔をする」
ざっくりいうと、アルコールは次のような特徴を持っています。
- 寝つきを良くする(入眠までの時間を短くする)
- 深い睡眠(ノンレム睡眠)を一時的に増やすこともある
- その代わり、夜の後半で中途覚醒を増やし、浅い睡眠を増やす
- レム睡眠(夢を見る、脳の整理の時間)を乱しやすい
つまり、「前半だけ頑張ってくれて、後半で帳尻合わせのようにマイナスがやってくる」イメージです。
どれくらいの量から影響が出やすいのか?
厚生労働省は、いわゆる“節度ある適度な飲酒量”の目安として、
1日あたり純アルコール20g程度までに抑えることを推奨しています。
これは、おおよそ次のような量に相当します。
| お酒の種類 | 目安量(純アルコール約20g) |
|---|---|
| ビール(5%) | 中瓶1本(500ml) |
| 日本酒(15%) | 1合(180ml) |
| ワイン(12%) | グラス2杯弱(200ml程度) |
| 焼酎(25%) | 1合の2/3ほど(約110ml) |
このくらいの量でも、睡眠の質に影響が出る人は少なくありません。
特に40代以降になると、同じ量でも分解に時間がかかり、夜中までアルコールや代謝産物(アセトアルデヒド)が残りやすいため、
- 夜中にトイレで目が覚める
- 心臓がドキドキして眠りが浅い
- 朝方に早く目が覚めてしまう
といった症状が増えやすくなります。
「寝酒が習慣」になりやすい理由
寝酒がクセになってしまう背景には、
- 「飲むとすぐ眠れる」という短期的なメリットがわかりやすい
- 不安やストレスを一時的にマヒさせてくれる
- 布団に入る前の“ルーティン”として定着しやすい
といったポイントがあります。
ただし、本当の意味での「睡眠の質」は、
- 夜中にあまり目が覚めないこと
- 朝起きたときに頭と体が回復していること
まで含めて考える必要があります。
「寝つきが良い=睡眠の質が良い」ではない。
ここが、アルコールと睡眠の話でいちばん誤解されやすいところです。
3. からだの中で起きていること
ここからは、体の中で何が起こっているかを、できるだけイメージしやすく整理していきます。
アルコールが入ると、自律神経はどう動く?
お酒を飲むと、顔が赤くなったり、ドキドキしたり、ポカポカしたりしますよね。
これは、自律神経のうち交感神経が一時的に優位になることで起きる反応です。
- 血管が広がる
- 心拍数が上がる
- 体温調節が乱れやすくなる
その一方で、リラックスを担当する副交感神経は押され気味になります。
つまり、眠りたい時間帯に“アクセル(交感神経)”と“ブレーキ(副交感神経)”が同時に踏まれて、からだのコントロールがぐらつきやすい状態になるわけです。
脳と睡眠の「スイッチ」が乱れる
脳には「そろそろ寝るモードに切り替えよう」とするスイッチがあります。
代表的なのがメラトニンというホルモンです。
夜になり、部屋が暗くなってくるとメラトニンが増え、自然と眠気が高まっていきます。
アルコールは、このメラトニンの分泌や、脳内の神経伝達物質のバランスに影響を与えることが知られています。
特に、寝る直前の飲酒は「せっかく整った睡眠スイッチを、手でぐりぐりかき回してしまう」ような状態を作ります。
海外の研究でも、就寝前の飲酒が睡眠周期を乱し、夜間の覚醒を増やすことが報告されています。
軽・中等量の飲酒でも深い睡眠は最初の数時間だけ増え、その後は浅い睡眠と覚醒が増えるという傾向がみられます。
アルコール分解の裏で、からだはフル稼働している
お酒を飲むと、肝臓はアルコールを分解するために休みなく働き続けます。
- アルコール → アセトアルデヒド(有害で、悪酔いや頭痛の原因)
- アセトアルデヒド → 酢酸 → 水と二酸化炭素として体外へ
この分解過程で、肝臓だけでなく、自律神経・ホルモン・血糖値のコントロールにも負担がかかります。
- 夜間の低血糖気味で目が覚める
- 心拍数が上がって眠りが浅くなる
- 喉が渇いて水分をとる→トイレが近くなる
といった形で、「からだは寝ているのに、内側はバタバタ動き続けている」状態になりがちです。
ある調査では、睡眠の質が低い人ほど、飲酒量が多かったり、寝酒の頻度が高いという関連が示されています。
もちろん因果関係は一方向ではありませんが、“眠れないから飲む”と“飲むから眠りが浅くなる”という悪循環が起きやすいのは確かです。
二日酔いと「脳とからだの炎症」
二日酔いで、
- 頭が重い
- 吐き気がする
- やたらと光や音がしんどい
- 何もしていないのに、妙に疲れている
と感じるのは、単純な「水分不足」だけではありません。
アルコールの代謝産物や、分解の過程で生まれる酸化ストレスなどが、脳や体に軽い炎症反応を起こしていると考えられています。
炎症が起きると、自律神経は「からだを守ろう」として防御モードに傾きます。
その結果、
- 倦怠感(だるさ)
- 集中力低下
- 気分の落ち込み
などが出やすくなります。
「二日酔いで、一日中なにもする気が起きない」のは、サボっているのではなく、からだが“防御モード”になっているサインでもあるのです。

4. 日常のクセとアルコール・睡眠の質の関係
ここからは、よくある生活パターンと「アルコール×睡眠×自律神経」のつながりを見ていきます。
パターン1:寝つきをよくしたくて、毎晩の寝酒が習慣化
「布団に入る1〜2時間前に、必ずお酒を飲む」
こうした寝酒パターンは、一時的には“よく眠れている感覚”をくれます。
ところが、さきほど触れたように、
- 前半:寝つきは良く、深い睡眠が増えることも
- 後半:中途覚醒が増える、浅い睡眠が増える
という波が起きるため、
- 「睡眠時間のわりに回復した感じがしない」
- 「早朝に目が覚めて、そのあと眠りが浅くなる」
という悩みにつながりやすくなります。
また、寝酒の習慣が続くと、アルコールなしでは寝つきにくい体質を自ら作ってしまうリスクもあります。
これは、脳が「寝る=アルコール」というセットで覚えてしまうからです。
パターン2:週末の“ドカ飲み”で、月曜からずっとだるい
平日は控えめでも、週末にまとめてたくさん飲むパターンもよくあります。
いわゆる「二日酔い+睡眠不足」が重なると、
- 月曜の朝から自律神経が乱れたままスタート
- 一週間を通して疲れが抜けにくい
という状態になりがちです。
研究でも、週末の過度な飲酒が、平日の日中の眠気やパフォーマンス低下に影響することが指摘されています。
特に40代以降では、代謝能力が若い頃より落ちるため、「同じ量を飲んでいるつもりでも、体への負担は増えている」ことが少なくありません。
パターン3:40代以降、「昔と同じ量」で一気に疲れやすくなる
「若い頃と同じように飲んでいるのに、最近やたら疲れやすい」
これはとてもよく聞く相談です。
歳を重ねると、
- 肝臓のアルコール分解スピードが落ちる
- 筋肉量が減り、体内の水分量も減る(アルコール濃度が上がりやすい)
- 自律神経の切り替えがやや苦手になる
などの変化が重なります。
結果として、同じ量のお酒でも「濃く・長く」効いてしまうので、
- 夜間の動悸や発汗
- 眠りの浅さ
- 翌日のだるさや不安感
が出やすくなっていきます。
「全部やめる」より、「1〜2割変える」発想で
とはいえ、「今日から完全に禁酒しましょう」と言われても、現実的ではない人も多いはずです。
睡眠と自律神経の観点で言うと、いきなりゼロにするより、“ダメージを減らす工夫”から始めたほうが続きやすいことが多いです。たとえば:
- 就寝2〜3時間前までに飲み終える
- 「毎日飲む」から「週のうち○日はノンアルの日」にしてみる
- 缶ビール2本を、ビール1本+炭酸水にしてみる
- アルコールと一緒に水をこまめに飲む
こうした小さな調整でも、自律神経の回復時間をしっかり確保しやすくなるので、「なんとなく毎日疲れている」状態から少し抜け出しやすくなります。
Q&Aコーナー:よくある疑問に答えます
### Q1. 寝酒はどのくらいの量なら大丈夫ですか?
「この量なら絶対に安全」というラインは、人それぞれの体質で変わります。
一般的な目安としては、
**“節度ある適度な飲酒量(純アルコール約20g程度)でも、睡眠の質に影響が出る人はいる”**と考えておくとよいです。
特に、寝る直前の飲酒は少量でも睡眠リズムを乱しやすいので、
- 量よりも「飲むタイミング」を見直す
- 就寝の3時間前までに飲み終える
といった工夫のほうが、実は効果的なことも多いです。
### Q2. ノンアルコールビールなら、寝る前に飲んでも平気?
アルコール0.00%のノンアル飲料であれば、アルコールによる睡眠の質への悪影響は基本的にありません。
ただし、
- カフェイン入りのもの
- 糖分が多いもの
を寝る直前に飲むと、血糖値の変動やトイレに行きたくなることで、結果的に睡眠を妨げる可能性はあります。
「どうしても何か飲みたい」場合は、
- アルコール0.00%
- カフェイン控えめ
- 糖分もほどほど
のものを選ぶと、からだへの負担はぐっと減らせます。
### Q3. 眠れない夜、お酒以外に頼れるものはありますか?
「寝酒以外の選択肢」をいくつか持っておくと、アルコールに頼りすぎずにすみます。例えば:
- ぬるめのお風呂にゆっくり浸かる
- スマホやPC画面を寝る1時間前にはオフにする
- 軽いストレッチや深呼吸で、からだの緊張をゆるめる
- ノンカフェインのハーブティーなどを少し飲む
どれも即効性の“強さ”ではお酒に負けるかもしれませんが、自律神経を穏やかに整えるという意味では、長期的な味方になってくれます。
5. おわりに
アルコールと睡眠、自律神経の関係をざっくり整理すると、こんなイメージになります。
- アルコールは「寝つき」をよくしてくれるが、「睡眠の質」と「翌日の回復力」を削りやすい
- 特に40代以降は、同じ量でも分解に時間がかかり、自律神経の乱れやすさが増してくる
- 完全にゼロにするよりも、「タイミング・量・頻度」を1〜2割変えるだけでも、体調はぐっとラクになりやすい
最後に、**今日からできそうな“小さな一歩”**を、イメージしやすいように表にしてみます。
| 行動のヒント | からだへのイメージ |
|---|---|
| 就寝3時間前までに飲み終える | 自律神経と肝臓に「片づける時間」をプレゼントする |
| 週に1〜2日はノンアルの日をつくる | からだの“オフデー”を作り、リセットしやすくする |
| 1杯ごとに水も一緒に飲む | 脱水と濃度をゆるやかにして、二日酔いとだるさを減らす |
| 寝る前のスマホ時間を短くする | アルコール以外の「睡眠の妨げ」を減らして、回復しやすくする |
全部を一気に変える必要はありません。
この中から「これならできそうかな」と思うものを1つだけ選んで、数日続けてみてください。
- 朝の目覚めが少しラクになった
- 飲み会の翌日でも、以前ほどグッタリしなくなった
そんな小さな変化が積み重なっていくと、「お酒とのつきあい方」と「自分のからだとの距離感」が、少しずつ心地よい方向に変わっていきます。
年末年始は、どうしても生活リズムが乱れやすい時期です。
だからこそ、お酒との距離を少しだけ整えて、自律神経がホッとできる時間を増やしてあげることが、結果的に自分へのいちばん優しいプレゼントになるのかもしれません。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
