1. はじめに
年末年始が近づくと、「今年もいろいろあったなあ」と振り返りながら、忘年会や大掃除、買い出しでバタバタしつつ、ようやく迎えたお正月。やっとゆっくりできるはずなのに――なぜか体が重い、やたら眠い、朝起きるのがつらい。いわゆる「正月ボケ」ですよね。
私のところにも、毎年この時期になるとこんな相談が増えます。
「休んだのに、仕事始めのほうがしんどい」
「年末年始はだるいし、頭もぼんやりする」
「夜遅くまでゲームして、昼まで寝ていたらリズムが戻らない」
多くの方がうすうす気づいているとおり、この「年末年始のだるさ」には自律神経と体内時計(サーカディアンリズム)の乱れが深く関わっています。
この記事では、
- 年末年始に「だるい・やる気が出ない」が起こりやすい理由
- 正月ボケや寝だめ、昼夜逆転が自律神経にどう影響するのか
- 休み明けを少しラクにするための、現実的な立て直し方
を、できるだけやさしく、でもしっかり根拠も交えながら整理していきます。
「今年こそは、休み明けにぐったりしたくない」という方の、小さなヒントになればうれしいです。


2. 年末年始のだるさと自律神経の関係って、結局なんなのか?
「年末年始 だるい」「正月明け しんどい」と検索すると、いろいろな情報が出てきます。中でもよく目にするのが、
- 生活リズムが乱れて自律神経が崩れる
- 睡眠負債がたまっている
- 正月ボケでやる気が出ない
といった言葉です。少し整理してみましょう。
「自律神経が乱れる」とはどういう状態か
自律神経は、心拍・血圧・体温・消化・ホルモン分泌などを自動で調整してくれている“からだのオペレーター”のような存在です。
ざっくり分けると、
- 昼間モードの「交感神経」:活動・緊張・集中
- 夜モードの「副交感神経」:休息・回復・消化
この2つのバランスで、私たちは一日を乗り切っています。
年末年始のように、夜更かし・朝寝坊・暴飲暴食・アルコール・スマホ三昧が重なると、本来「夜は休む」「朝は起きる」というリズムが崩れやすくなります。
その結果、
- 朝になっても交感神経がうまく立ち上がらない → だるい・頭がぼんやり
- 夜になっても副交感神経が優位になりにくい → 寝つきが悪い・浅い眠り
という状態になり、「年末年始はなんだか体調不良」という感覚につながります。
「睡眠負債」と「寝だめ」の関係
ふだんから睡眠時間が足りていない状態が続くと、少しずつ“睡眠の借金”がたまっていきます。これが睡眠負債と呼ばれるものです。
週末や長期休暇に「寝だめ」で取り返そうとする人は多いですが、最近の研究では、平日と休日の睡眠時間の差が大きいほど、肥満や代謝の乱れ、メンタル不調と関連しやすいことが指摘されています。OUP Academic+1
つまり、
「寝不足 → 休みで一気に寝て挽回」というよりも
「不規則なリズムそのものが、自律神経や体調に負担になる」
というイメージのほうが、実態に近いといえます。
この“平日と休日のリズムのズレ”は**ソーシャルジェットラグ(社会的時差ボケ)**とも呼ばれ、
- 日中のパフォーマンス低下
- 体重増加や代謝異常
- 心血管リスクやメンタル不調
との関連が報告されています。OUP Academic+1
年末年始は、このソーシャルジェットラグが最大級に拡大するタイミングと考えてもよいかもしれません。
「正月ボケ」は怠けではなく“生体のズレ”
「正月ボケ」という言葉だけ聞くと、なんだか怠け癖のように感じる方もいるかもしれません。
ですが、実際には
- いつもと違う時間に寝起きする
- 食事の時間・量・内容が変わる
- アルコールや甘いものが増える
- 外出や運動が減る
といった複数の要素が重なって、**体内時計と自律神経のリズムがずれた結果の“現象”**です。
「気合いが足りない」のではなく、からだ側の仕組みとして起こっている部分が大きいので、自分を責める必要はありません。
むしろ「仕組みを知って、少しずつ戻していこう」と考えたほうが、ずっと建設的です。
3. からだの中で起きていること
ここからは、年末年始にだるくなるとき、からだの内部でどんな変化が起きているのかを、できるだけイメージしやすい形で見ていきます。
体内時計と自律神経の“時間表”がずれる
私たちのからだには、約24時間周期で働く体内時計が組み込まれています。脳の視交叉上核という部分がメインの時計役をしており、光や食事、活動パターンなどの情報をもとに「今は昼か、夜か」を判断しています。
この体内時計は、自律神経のリズムとも密接につながっています。
研究では、睡眠不足やサーカディアンリズムの乱れが、自律神経の働きや心血管リスクの上昇と関係することが報告されています。オビッド+1
年末年始に、
- 夜遅くまで起きて強い光を浴びる
- 朝は暗い時間帯に寝続ける
- 食事の時間が日によってバラバラ
といった生活が続くと、体内時計は「いったい今は昼なのか夜なのか?」と混乱します。
その結果、
- 朝なのに血圧や心拍が十分上がらない → 起きてもエンジンがかからない
- 日中に急に眠気が襲う → 集中力・判断力の低下
- 夜になっても交感神経が落ちない → 寝つきが悪い・浅い眠り
という、典型的な「年末年始のだるさ」が現れてきます。
ブルーライトと「夜モードホルモン」メラトニン
夜のスマホ・テレビ・タブレットも、自律神経や睡眠に影響します。
ブルーライト(青色光)は、脳に「まだ昼だよ」というシグナルを送り、眠りを誘うメラトニンというホルモンの分泌を抑えることがわかっています。PubMed+1
実験では、ブルーライトを数時間浴びると、
- メラトニンの分泌が抑えられる
- 体内時計が後ろにずれる(夜型に寄っていく)
といった変化が確認されています。PNAS+1
年末年始は、
- 夜更かししながらゲームや動画を楽しむ
- SNSで新年の投稿をチェックし続ける
といった時間が増えやすい時期です。
楽しい時間である一方で、自律神経の「夜モード移行」を遅らせてしまう要因にもなっている、ということは頭の片隅に置いておくとよいかもしれません。
アルコールと暴飲暴食が眠りと自律神経に与える影響
忘年会や新年会で増えるアルコールも、年末年始のだるさに関わります。
アルコールは、飲んだ直後は「眠気を強めて寝つきをよくする」ように感じられることがありますが、実際にはREM睡眠(夢を見る時間)を減らし、夜間の覚醒を増やしてしまうことが多くの研究で示されています。Sleep Foundation+2サイエンスダイレクト+2
また、夜の深酒は
- 睡眠中の心拍数を上げる(交感神経が優位になりやすい)
- 翌朝の自律神経の回復を妨げる
といった影響も報告されています。Physiology Journals+1
そこに「こってり料理」や「甘いデザート」が重なると、胃腸もフル稼働状態が続きます。
本来、夜は消化器を休ませて回復モードに入りたい時間帯ですが、
- 食べ過ぎ・飲み過ぎ
- 就寝直前の食事
が続くと、消化にエネルギーを取られ、寝ているのに休めた感じがしないという状態に陥りやすくなります。
動かないことで「構造」と「感覚」にも影響が出る
もうひとつ見落とされがちなのが、体の「構造」と「感覚」の側面です。
- こたつやソファで長時間同じ姿勢
- 運動量の大幅な減少
- 外に出る機会が減る
といった生活が続くと、
- 筋肉や関節がこわばる →「体が重い」「腰や首がつらい」
- 血流が滞る → むくみ・冷え・だるさ
- からだの位置感覚が鈍る → なんとなくシャキッとしない
といった形で、**自律神経のトラブルとからだの“構造的な負担”が重なっていきます。
「頭だけじゃなく、からだそのものも休み方を忘れている」
そんな状態が、年末年始のだるさの背景にあると言えるでしょう。
4. 日常のクセと年末年始のだるさの関係
ここからは、よくある年末年始の過ごし方を具体的に取り上げながら、「どう自律神経に響いているのか」をつなげてみます。
パターン1:夜更かし+昼まで寝る
- 紅白やカウントダウンを見て、そのあともダラダラ
- 気づいたら深夜2〜3時までスマホや動画
- 翌朝(というより昼)に起きる
こうした生活が数日続くと、体内時計は一気に「夜型」側にずれていきます。
その結果、
- 休み明けにいつもの起床時間に戻そうとしても、脳は「まだ夜」のつもり
- 朝の交感神経の立ち上がりが遅れる → 起きられない・頭が動かない
- 日中は眠気がとれず、夕方からようやく元気になる
という“ミニ・時差ボケ”のような状態になります。
パターン2:寝だめで「昼夜逆転」に近づく
「平日は睡眠時間が短いから、休みの間にたっぷり取り返したい」という気持ちは、ごく自然なものだと思います。
ただ、平日との睡眠時間の差が2時間以上になると、ソーシャルジェットラグとして体調不良との関連が指摘されています。OUP Academic+1
とくに、
- 昼近くまで寝る
- 起きても布団やソファでゴロゴロ
- 夜になっても眠くならず、また夜更かし
という流れになると、「寝ているのに疲れが増していく」不思議な感覚になりやすいです。
パターン3:アルコール+ごちそう+夜食
忘年会・新年会・家での団らんで、
- 連日お酒を飲む
- こってりした料理が増える
- 夜遅い時間まで食べてしまう
という日が続くと、睡眠と自律神経には二重の負担になります。
- アルコールが眠りの質を下げる(REM睡眠の減少・夜間覚醒の増加)
- 消化器がフル稼働したまま眠ることで、「休息モード」へ移行しきれない
研究でも、寝る前の飲酒が睡眠の分断や翌日の眠気と関連することが報告されています。Sleep Foundation+1
パターン4:スマホ・ゲームで頭だけずっと“オン”
年末年始は、普段よりもSNSやゲームに触れる時間が増えがちです。
先ほど触れたように、ブルーライトによるメラトニン抑制も問題ですが、それ以上に
- 常に新しい情報が流れてくる
- ゲームで興奮状態が続く
- SNSのやりとりで感情が振り回される
といった“脳の興奮”が、自律神経をずっと「オン」に保ってしまいます。
たとえ布団に入っていても、心と脳が休めなければ、からだは十分に回復しません。
ここで、よくある疑問にも触れておきます。
Q1. 寝だめをすれば、年末年始の睡眠負債はチャラになりますか?
完全にチャラにするのは難しいと考えたほうが現実的です。
一定時間の「キャッチアップ睡眠」がその場の眠気を軽くする効果はありますが、
- 平日と休日の睡眠時間の差が大きいほど、体重増加や代謝の乱れ、メンタル不調と関連しやすい
という報告があります。OUP Academic+1
ポイントは、「一気に取り返す」よりも、
“ふだんから少しずつ借金を増やさない”方向に生活を整えていくことです。
年末年始も、起きる時間のズレをできるだけ小さくしておくと、休み明けが楽になります。
Q2. 数日だけ昼夜逆転しても、すぐ元に戻るから問題ないでしょうか?
個人差はありますが、リズムが大きくずれると、自律神経やホルモンの調整には時間がかかります。
研究では、睡眠やサーカディアンリズムの乱れが、自律神経機能の低下や心血管リスク、メンタル不調と関連することが示されています。オビッド+1
「数日だけだから大丈夫」と思っていても、
- その前後がずっと忙しくて睡眠不足だった
- 休み明けにいきなりフル稼働を求められる
といった条件が重なると、からだにとってはかなりの負担です。
完全に昼夜逆転させるのではなく、せめて「起きる時間」のほうは大きくずらしすぎないようにしておくと、安全圏が広がります。
Q3. 「正月くらい好きにさせてよ」と思うのですが、それでも何か気をつけたほうがいいですか?
もちろん、「一年に一度くらい、好きに過ごしたい」という気持ちはとても大切です。私自身も、つい夜更かししたくなることがあります。
大事なのは、全部を完璧に守ることではなく、「ここだけは守る」というラインを決めておくことです。
たとえば、
- 起きる時間は、いつもの±1時間以内におさめる
- 深酒は連日続けない(飲まない日をつくる)
- 寝る前30分だけ、スマホから離れてみる
こうした「小さなブレーキ」をかけておくだけでも、年末年始の自律神経の乱れ方はだいぶ変わってきます。
5. おわりに
年末年始にだるくなるのは、「意志が弱いから」「休みぼけしているから」だけではありません。
- 体内時計と自律神経のリズムが大きく揺さぶられる
- アルコールや食事の変化で睡眠と胃腸に負担がかかる
- 動かないことで、からだの構造や感覚も鈍ってくる
といった複数の要素が重なって起きる、“からだの必然的な反応”です。
だからこそ、少しだけ生活のハンドルを握り直してあげるだけで、年末年始のだるさは和らげることができます。
今日からできる「小さな一歩」
全部を一気に変えようとするとしんどくなるので、「この中から1つだけやってみる」くらいの気持ちで十分です。
| 行動のヒント | イメージ・ポイント |
|---|---|
| 起きる時間だけは大きくずらさない | 休みの日も「いつもの±1時間以内」を目安にする |
| 深酒・夜食を「毎日」にはしない | 飲む日と飲まない日を分ける、就寝2〜3時間前には食事を終える |
| 寝る前30分は画面から目を休めてみる | スマホの代わりに、ストレッチや入浴、軽い読書で“夜モード”に |
睡眠の「規則性」が心血管リスクや代謝にも関わるという報告もあり、毎日の起床時間をなるべくそろえることは、思っている以上に大切な土台です。sleephealthjournal.org
一方で、年末年始は「楽しむこと」も同じくらい大事です。
無理にストイックになる必要はありません。
- 起きる時間を少し整える
- 深酒を“毎日”にしない
- 寝る前だけ画面を控えてみる
このあたりからひとつでも試してみると、「年末年始はだるいし自律神経が乱れがち」というパターンが、少しずつ変わっていくはずです。
今年の年末年始は、自分のからだを「責める」のではなく、
リズムをやさしく整え直してあげる期間として過ごしてみてください。
それだけでも、休み明けの一歩が、少し軽く感じられると思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
