1. 「16時間断食を始めてみたけれど…」という相談が増えています
ここ数年、「16時間断食」「ファスティング」という言葉を耳にする機会がぐっと増えました。SNSでは、
- 朝食を抜いて昼〜夜の8時間だけ食べる
- 体重が落ちた、頭がスッキリした
といった声が並ぶ一方で、現場レベルではこんな相談もよく届きます。
- 断食を始めてから、逆にだるさ・眠気が強くなった
- 空腹でイライラしたり、不安感が強くなった気がする
- 夜に目が冴えてしまい、睡眠の質が落ちた
「自律神経を整えるために始めたのに、これって本当に合っているのかな?」と不安になる方も少なくありません。
この記事では、16時間断食やファスティングを
「良い/悪い」と決めつけるのではなく、血糖値・ホルモン・睡眠との関係からフラットに眺めてみることをゴールにします。
そのうえで、
- 自律神経の観点から**“相性が良い人/慎重にすべき人”**
- 生活に取り入れるなら、どこまでが「ほどよいライン」なのか
を、一緒に整理していきましょう。
私自身も好奇心で食事法を試しては、「これは自分にはイマイチだったな…」と軌道修正してきたタイプです。流行の食事法も、「合う人には追い風、合わない人には向かい風」くらいのスタンスで読んでもらえたらうれしいです。


2. 16時間断食・ファスティングは何をしているのか
まずは、世の中で言われる「16時間断食」「ファスティング」がどんなものかを軽く整理しておきます。
2-1. インターミッテントファスティングの代表パターン
研究の世界では、ざっくり次のようなパターンが使われています。BMJ
- 時間制限食(Time-Restricted Eating / TRE)
1日の中で食べる時間帯を8〜12時間などに限定する方法
例:12〜20時だけ食べる「16:8」、7〜15時の「早め時間窓」など - 隔日(Alternate-Day)ファスティング
1日おきに、かなり摂取量を減らす or ほぼ食べない日を挟む方法 - 5:2ダイエット
週5日は通常、2日は大幅にカロリー制限をする方法
多くの人が「16時間断食」と呼んでいるものは、時間制限食の一種と考えてOKです。
2-2. 研究から見えることは「魔法ではないけれど、条件次第でプラスもある」
16時間前後の時間制限食については、
- 体重・体脂肪
- 空腹時血糖やインスリン、血圧、脂質
などへの影響を調べた研究が増えてきました。
大雑把にまとめると、
- 食べる量が自然と減ることで、体重や血糖が改善する人もいる一方で、
- 同じカロリー制限だけをしたグループと比べると、時間制限食のほうが特別に優れているとは言えない結果もあります。ジャマネットワーク+1
また、最新のメタ解析では、時間制限食が
- 体重・体脂肪
- 血圧・血糖・脂質
を中等度に改善する傾向がある、という報告も出ています。PubMed+1
「劇的なダイエット法」というよりも、**カロリーコントロールの“ひとつの手段”**くらいのイメージが実態に近いです。
2-3. 食事時間を8時間未満にするとリスクが増える可能性も
一方で、最近の大規模な観察研究では、
「1日の食事時間が8時間未満」のかなり厳しい時間制限をしている人は、12〜14時間食べている人に比べて、心血管疾患による死亡リスクが高かった、という結果も報告されています。EatingWell
観察研究なので「断食が原因」と断定はできませんが、
- 食事時間を極端に短くする
- 病気がある人が、自己判断でストイックな断食をする
といったやり方には、慎重さが必要と考えた方がよさそうです。
3. 断食と自律神経:血糖値・ホルモン・体内時計で何が起きているか
ここからは、16時間断食やファスティングが自律神経にどう響きやすいかを、「血糖値」「ホルモン」「睡眠・体内時計」の3つの窓から見ていきます。
3-1. 「空腹=副交感神経モード」とは限らない
空腹になると、
- 胃がキュルキュル鳴る
- 集中力が増す感覚がある
といった経験をする方もいると思います。
これは、血糖値が下がってきたときに
- 交感神経を適度に高め、
- 血糖や血圧を維持しようとするホルモン(アドレナリンやコルチゾールなど)
が働くからです。
短時間の空腹であれば、「からだを目覚めさせるスイッチ」としてプラスに働くこともあります。ただ、
- 強い空腹感を何時間も我慢する
- 仕事や育児のストレスと重なっている
ような状況では、交感神経が過剰に優位な状態が続きやすく、自律神経的には“張りつめている”モードになりがちです。
3-2. 血糖値の乱高下と、だるさ・イライラ
16時間断食をしているつもりでも、
- 夜遅くに高脂肪・高糖質の食事
- 日中はコーヒーやエナジードリンクでしのぐ
といったスタイルになると、
- 夜の血糖値が高いまま寝る
- 朝〜午前中は低めの血糖でスタート
- カフェインで無理やり交感神経を上げる
という流れになりやすく、
**「日中はぼんやり+夕方からドッと疲れる」**というパターンにハマりがちです。
夜型の生活リズムの人は、朝型の人に比べて
- 日中の交感神経活動が高まりやすい
- 眠気が強く、食欲リズムも乱れやすい
と報告した研究もあります。J-STAGE
「16時間断食をしているつもりが、実は**“夜型+カフェイン頼み”の生活を強化しているだけ**」というケースも少なくありません。
3-3. 体内時計と食事タイミング:早め窓のほうが有利?
時間制限食の研究を細かく見ると、
- 朝〜午後の早い時間に食事を集中させる「早め時間窓」
- 昼〜夜の遅い時間に偏らせる「遅め時間窓」
では、前者のほうが
- インスリン感受性の改善
- 血圧・酸化ストレスの低下
など、代謝的には有利かもしれないという結果も出ています。Nature+1
体内時計は、
- 日光
- 食事の時間帯
- 運動のタイミング
などで調整されています。夜遅くの食事や夜食は、睡眠の質を落とし、生活習慣病リスクと関連する可能性があるというレビューもあります。厚生労働科学研究成果データベース
「何時間食べないか」だけでなく、「いつ食べるか」が自律神経や睡眠にとって重要だと考えたほうが現実的です。
3-4. 睡眠・ケトン体・脳のエネルギー
断食中や糖質を抑えた状態では、からだは脂肪から「ケトン体」というエネルギー源を作り、脳にもそれを回します。このケトン体が、眠気や睡眠の深さに関わっている可能性を示す基礎研究もあります。日本生化学会
とはいえ、人間の日常生活レベルでの「プチ断食」が、どこまで睡眠の質を良くするかについては、まだはっきり言える段階ではありません。
ポイントは、
- 睡眠不足のまま断食を足すと、ストレス負荷が二重になる
- 逆に、睡眠リズムが整っている人が、夜食を減らす方向で時間制限を取り入れると、睡眠の質が上がる人もいる
という「土台」の違いです。
3-5. 「自律神経のための断食」の現時点でのまとめ
現時点の研究や臨床感覚から、断食と自律神経について言えるのは、
- ほどほどの時間制限(10〜12時間前後)+バランスのよい食事は、多くの人にとってプラスに働きやすい
- 16時間断食も、“早め時間窓”で、無理のない範囲なら選択肢のひとつ
- 極端な長時間断食や、ストレスが強い人・持病がある人の自己流ファスティングは、自律神経への負担になりうる
このあたりの「バランス感覚」が大事になります。
4. よくある生活パターンと、自律神経が疲れやすい断食のやり方
ここでは、日常でよく見かけるパターンをいくつか挙げて、「どういうときに自律神経が悲鳴を上げやすいか」を整理してみます。
4-1. パターンA:夜遅くまで仕事 → 深夜にドカ食い → 朝食抜き
いちばん多いのがこのパターンです。
- 夜22〜23時にようやく夕食
- 炭水化物+脂質多めのメニュー
- 翌朝はお腹が空かず、コーヒーだけで出勤
- 「結果的に16時間断食になっているから、これはこれで良いのでは?」と考える
この場合、
- 就寝前まで胃腸がフル稼働
- 睡眠中も血糖値が高め・自律神経が完全には休めない
- 翌朝は低血糖気味+カフェインで無理やり交感神経を上げる
という流れになり、「常にアクセルとブレーキを同時に踏んでいる」ような負担が続きます。
4-2. パターンB:とにかく我慢重視の16時間断食
- とにかく1日2食にすれば痩せるはず
- 空腹感が強くても「慣れれば大丈夫」と我慢
- 水分や塩分はあまり意識していない
こんなスタイルだと、
- 低血糖による頭痛・ふらつき
- イライラ・動悸・不安感の増加
といった「交感神経が振り切れたような反応」が出やすくなります。
「空腹がつらくない範囲」=自律神経の許容量と考えて、そのラインを超えてまでやるのはおすすめできません。
4-3. パターンC:睡眠がそもそも乱れているのに断食を上乗せ
- もともと寝つきが悪い/途中で何度も目が覚める
- 朝起きても疲れが取れていない
- そこに「断食もやったほうが健康にいいらしい」と足してしまう
睡眠不足はそれだけで自律神経に大きな負担です。その状態で断食を組み合わせると、
- からだにとっては「飢餓+睡眠不足」の二重ストレス
- 回復モードに入りたくても、交感神経が休まらない
というループにはまりやすくなります。
4-4. 自律神経の観点から「慎重にすべき人」
医学的な観点から、自己流の16時間断食やファスティングを慎重にすべき人として、よく挙げられるのは次のような方たちです。
- 糖尿病や低血糖発作の既往がある
- 心疾患・腎疾患・肝疾患などの持病がある
- 妊娠中・授乳中
- 摂食障害の既往がある
- 高齢で、すでにやせ・フレイル傾向がある
このような場合は、必ず主治医に相談したうえで食事調整を行うことが前提になります。
Q&A:よくある疑問を整理しておきます
Q1. 16時間断食をすると、イライラしたり動悸が出るのは自律神経の乱れですか?
イライラや動悸は、
- 低血糖気味になって血糖を上げようとする反応
- 空腹ストレスで交感神経が過剰に働いている
などが重なって起きることがあります。
「16時間続けること」よりも、「からだのサインを無視しないこと」のほうがずっと大事です。
- 空腹がつらい
- 手の震え・冷や汗・動悸が出る
- 頭痛やふらつきが強い
といったときは、いったん中断して軽く補食し、それでも症状が続くようなら医療機関を受診してください。
Q2. 睡眠が不安定なときに、16時間断食を始めてもいいのでしょうか?
個人的には、睡眠が乱れている時期に、いきなり16時間断食を足すのはおすすめしません。
- まずは「就寝2〜3時間前には食事を終える」
- 夜食・夕食後のお菓子を控える
といった**「夜遅い食事を減らす」方向から整えるほうが、自律神経にはやさしい**ことが多いです。
そのうえで、朝〜昼の時間帯の食事を調整していくほうが、からだの体内時計とも整合がとりやすくなります。
Q3. どのくらいつらくなったら、専門家や医療機関に相談したほうがいいですか?
次のような状態が続くなら、「我慢して続ける」より専門家に相談するサインと受け取ってください。
- 体重が急激に減っている
- 立ちくらみ・動悸・息切れが強い
- 生理不順や無月経が出てきた
- 気分の落ち込みや不安感が増している
- 睡眠障害が悪化している
また、もともと持病がある方は、始める前に主治医に相談することを強くおすすめします。
5. 今日からできる「ほどよい付き合い方」のヒント
最後に、ファスティングや16時間断食と**「ほどよく付き合うための考え方」**をいくつか提案します。
5-1. まずは「12時間ルール」から
いきなり16時間断食に飛び込むのではなく、
- 夜20時に食べ終えたら、翌朝8時まではカロリーのあるものは摂らない
といった**「12時間空ける」ラインを目標**にするのがおすすめです。
日本の食事摂取基準や食育の考え方でも、「特定の食品を極端に制限する」のではなく、バランスのよい食事を規則正しくとることが基本とされています。厚生労働省+1
そのうえで時間制限をかけるなら、「まずは12時間」くらいが、からだにとっても自律神経にとっても優しいスタートラインになります。
5-2. 「いつ食べるか」を整えてから、「何時間あけるか」を考える
自律神経目線では、
- 夜遅くの食事を減らす
- 朝は少量でもよいので、何かしら口に入れる
- 昼〜夕方に主なカロリーを置く
といった**「食事の並び順」を整えるほうが、16時間という数字そのものより重要**になりやすいです。
そのうえで、
- 1日の食事時間を14時間 → 12時間 → 10時間と、少しずつ短くしてみる
- 体調や睡眠の質を見ながら、「ここまでなら調子が良い」というラインを探る
そんな**“実験するような感覚”**で調整していくと、極端になりにくくなります。
5-3. 「断食する日」ではなく、「からだをいたわる日」として扱う
もし16時間断食やファスティングを取り入れるなら、
- 仕事が比較的落ち着いている日
- 睡眠がしっかり取れそうなタイミング
を選び、「からだのリズムをリセットする日」として優しく扱うのがおすすめです。
- 水分と少量の塩分をこまめにとる
- 激しい運動は避け、軽いストレッチや散歩程度にする
- だるさ・頭痛・動悸などが強くなったら、潔く中止する
このくらいの“ゆるさ”で付き合ったほうが、結果的に長く続きやすく、自律神経にも負担がかかりにくくなります。
流行の食事法は、からだに合えば心強い味方になりますが、合わなければストレス源にもなりえます。
頑張り屋さんほど「決めたからには続けなきゃ」と自分に厳しくなりがちですが、
- 今日は調子がイマイチだから、普通の食事に戻そう
- 今週は睡眠を優先したいから、断食はいったんお休み
といった**“ゆるいハンドルさばき”**が、自律神経を守るうえではとても大切です。
「16時間断食を完璧にこなすこと」ではなく、
**「自分のからだの声をちゃんと拾えるようになること」**をゴールにして、付き合い方を選んでみてください。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
