1. 予定はいっぱいなのに、満足感より「ずっと疲れている」感覚
ここ数年、「毎日予定がぎっしりで、常に疲れている気がする」という相談がとても増えています。
仕事・家事・育児にくわえて、習いごとやイベント、友人との約束。手帳もスマホカレンダーも予定でパンパン。空白のマスがあると、なんとなく不安になって、つい何かを入れてしまう。
一見、とても充実した毎日に見えます。
でもふたを開けてみると、
- いつもだるい
- 土日も回復しきれない
- イライラしやすい
- 夜になっても頭が「オフ」にならない
といった“慢性的な疲れ”を抱えている方が少なくありません。
私自身も、予定を詰め込んで頑張りすぎていた時期があります。カレンダーは埋まっているのに、「達成感」より「消耗感」が強い。そんな状態が続くと、からだも心も少しずつ擦り減っていきます。
この記事では、「予定の詰め込みすぎ」と「からだの疲れ」がどうつながっているのかを、からだの構造・神経・感覚の三つの方向から整理してみます。
ポイントは、スケジュールの余白=からだの余白だという視点です。
「全部は変えられないけれど、ここだけなら少し緩められそう」と思えるヒントを、最後にいくつかお伝えします。


2. 「予定を詰め込む」とからだに何が起きているのか
まず、「予定を詰め込みすぎ」と言うと、単に「忙しい」「働きすぎ」と同じものとして語られがちです。ただ実際には、こんなパターンがあります。
- 仕事の予定が常にギリギリ
- 仕事終わりや休日にも、人との予定がびっしり
- 自分の「やりたいこと」までスケジュール化してしまう
- キャンセルや予定変更に、強い罪悪感を覚える
つまり、「やらされている予定」だけでなく、「自分で自分に課している予定」まで山盛りになっていることが多いのです。
予定の詰め込みと「オーバーワーク」の共通点
研究レベルでは、長時間労働やオーバーワークが、心身の不調や疲労感・うつ症状のリスクを高めることが多数報告されています。
日本でも、長時間労働が脳・心臓疾患やメンタル不調のリスクになることが公的な調査や指針で示されています。J-STAGE+2労働安全衛生総合研究所+2
予定の詰め込みは、必ずしも「残業時間」という形では表れませんが、
- 「常に次の予定に追われている」
- 「頭が休まるスキマがない」
という意味では、からだにとっては“軽い長時間労働状態”が続いているのに近いものがあります。
「楽しい予定」でも疲れるのはおかしくない
よくある誤解が、「仕事は疲れるけど、趣味や友人との予定は疲れないはず」というものです。
実際には、
移動・人間関係の気遣い・時間の制約・準備や片付けなど、楽しい予定にも「エネルギーコスト」はしっかり存在します。
「楽しい予定だから大丈夫」と自分に言い聞かせて詰め込んでしまうと、からだの疲れと心の満足感がちぐはぐな状態になりやすいのです。
ざっくり言うと、
予定の数 × ひとつひとつの負担(時間・エネルギー・気疲れ)
= その日・その週の“総疲労量”
この「総疲労量」が、自分の回復力を超えた状態が続くほど、慢性的な疲れは抜けにくくなります。
3. 構造・神経・感覚から見る「予定パンパン」のからだの中身
ここからは少し具体的に、からだの中で何が起きているのかを整理していきます。
3-1. 神経・ホルモンの視点:ストレスシステムが“常時オン”になる
予定を詰め込みすぎている状態では、頭の中は常に「次のタスク」でいっぱいです。
- あの資料をいつまでに仕上げるか
- 夕方までに買い出しと夕食準備をどうこなすか
- 週末の予定に向けて何を準備するか
こうした「段取りモード」が続くと、ストレスに反応する神経・ホルモン(自律神経やコルチゾールなど)が長時間オンになりがちです。
慢性的なストレスは、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌リズムを乱し、心血管疾患やうつ症状など様々な健康リスクと関連することが報告されています。MDPI+2J-STAGE+2
本来、コルチゾールは
- 朝に高くなって活動をサポート
- 夜に下がって眠りやすくなる
という一日のリズムを持っていますが、予定とタスクで頭がいっぱいの状態が続くと、夜になってもストレスモードが切れにくい傾向が出てきます。
その結果、
- 寝つきが悪い
- 夜中に何度も目が覚める
- 朝起きたときにぐったりしている
といった「睡眠の質の低下」につながりやすくなります。ストレスと睡眠障害の関連は、多くの研究で指摘されています。PMC+2サイエンスダイレクト+2
3-2. 構造の視点:からだは“ブレーキを踏みっぱなし”
スケジュールがパンパンな時期の姿勢や筋肉の使い方を思い出してみてください。
- 肩や首に力が入りやすい
- 背中がこわばって呼吸が浅くなる
- 仕事中も移動中も、スマホを見ながら次の予定を確認している
こうした状態では、からだ全体が「いつでも動けるように」軽くブレーキを踏みっぱなしで走っている車のようになっています。
筋肉レベルで見ると、
- 首~肩~背中の筋肉が緊張しやすい
- 胸郭・横隔膜が硬くなり、呼吸が浅く速くなる
- 腰回りや股関節の筋肉が固まり、「疲れ姿勢」がクセになる
といったことが起きやすく、首こり・肩こり・腰のだるさなどの「構造的な疲れ」も積み重なっていきます。
バーンアウト(燃え尽き症候群)に関する研究でも、疲労感だけでなく、首・背中の痛みや頭痛、胃腸の不調などの身体症状を伴うことが多いとされています。PMC+2SpringerLink+2
3-3. 感覚・メンタルの視点:「常に追い立てられている」感覚
予定を詰め込みすぎている人に共通する感覚として、
- 「常に時間に追われている」
- 「何か忘れている気がして落ち着かない」
- 「やることリストが頭から離れない」
という“心のせわしなさ”があります。
この状態が続くと、
- 小さなミスや物忘れが増えて自己嫌悪
- 休んでいても「休んでいる自分」に罪悪感を覚える
- どこか常にうっすらイライラしている
といったメンタル面の負担につながります。
世界的にも、仕事のストレスや仕事量の多さが、燃え尽きや精神的疲労の増加に強く関わっているという報告が多数あります。アメリカ心理学会+2PLOS+2
「予定が多い=充実している」という価値観のもとで頑張り続けるほど、からだの感覚と頭の理屈がずれていくのがやっかいなところです。
4. 「予定パンパンさん」のよくある生活パターンと疲れ方
では、予定を詰め込みがちな人の生活には、どんなパターンが見られるでしょうか。いくつか典型例を挙げてみます。
4-1. 平日はフル稼働、休日も「埋めないと落ち着かない」
- 平日は仕事と家事・育児でフル回転
- 休日も「せっかくの休みだから」と予定を入れ続ける
- 何も予定がない日があると「もったいない」と感じる
このパターンでは、「回復のための時間」そのものがスケジュールから消えてしまうのがポイントです。
研究レベルでも、長時間労働そのものだけでなく、「休みの日の使い方」が慢性疲労やパフォーマンス低下に関わると指摘されています。東洋経済オンライン+1
本来であれば、休日には
- 睡眠時間を少し長めにとる
- 軽い運動や散歩で血行を促す
- 何もしない時間をあえてつくる
といった「回復のための余白」が必要です。
予定を入れ続けると、体内の疲労は“借金”のようにたまっていきます。
4-2. 「やるべきこと」が終わる前に「やりたいこと」まで詰める
- 仕事や家事が終わりきっていないのに、夜の予定を入れる
- 片付けや事務作業を後回しにして、次のイベントを重ねる
- 「未来の自分がなんとかするだろう」と見積もりが甘くなる
こうしたスケジュールの組み方は、一見アクティブでポジティブに見えますが、未来の自分にツケを回している状態とも言えます。
「後でまとめてやろう」としていたことが溜まり切って、ある日どこかでパンクしてしまう。
そのタイミングで初めて、「あ、予定を詰め込みすぎていたのか」と気づく人も少なくありません。
4-3. 「断れない」「キャンセルできない」という心理的なクセ
予定の詰め込みの背景には、
- 断ると申し訳ない
- 自分だけ参加しないと置いていかれる気がする
- 仕事のお願いを断る怖さ
といった心理的な要素も強く関わります。
「NO」と言えない状態が続くことは、その人にとっての“心理的オーバーワーク”です。
結果として、からだの疲れだけでなく、心のエネルギーも消耗し、疲れやすさ・落ち込みやすさにつながっていきます。
Q1. 予定を減らした日でも、なぜか疲れが取れません。おかしいでしょうか?
おかしくありません。
長く予定を詰め込み続けてきた人ほど、一日や二日予定を減らしたくらいでは、からだの疲労が追いつかないことがよくあります。
ストレスや睡眠不足が続いたあとは、ストレスホルモンのリズムや自律神経のバランスが乱れていることが多く、回復にも時間がかかります。PMC+2サイエンスダイレクト+2
「1日休んだから大丈夫」ではなく、「数週間~数か月かけて、少しずつ回復していくもの」とイメージしてあげるとよいと思います。
Q2. 趣味や遊びの予定でも、入れすぎるとやっぱり疲れますか?
はい、疲れます。
たとえ楽しい予定でも、移動時間・人とのコミュニケーション・時間の制約など、からだと心への負担はゼロではありません。
むしろ「楽しい予定だから疲れないはず」と自分に言い聞かせてしまうと、
本当は疲れているサインを無視して頑張り続けてしまうことがあります。
「予定の数」だけでなく、「その予定がどれくらいエネルギーを使うか」も合わせて考えてみてください。
Q3. 仕事の忙しさは変えられません。それでもできることはありますか?
仕事量そのものをすぐ変えられない人は多いと思います。
その場合は、
- 仕事以外の予定を少し減らす
- 1日の中に「3〜5分の何もしない時間」を挟む
- 通勤や移動中のスマホ時間を少しだけ減らす
といった**「微調整レベルの余白づくり」**から始めるのがおすすめです。
完璧を目指す必要はありません。
「いきなり半分にする」のではなく、「今より1〜2割、予定や情報量を減らしてみる」くらいのイメージで十分です。
5. 「からだの余白」を取り戻すための小さな工夫
最後に、今日から試せそうなヒントをいくつか挙げてみます。
全部やる必要はないので、「これならできそう」と感じるものを一つ選んでみてください。
5-1. 週に1マスだけ「完全フリー」の日をつくる
手帳・スマホカレンダーを見ながら、「なにも予定を入れないマス」を週に1つ決めてみてください。
その日は、やる気が出たら何かをしてもいいし、本当に何もしなくてもいい日です。
ポイントは、「あらかじめフリーにすると決めておく」こと。
あとから“たまたま空いた日”ではなく、「意図して余白にした日」であることが、心とからだの安心につながります。
5-2. 予定を入れるとき「前後30分」を一緒にブロックする
予定をパズルのピースのようにピッタリ並べると、移動・準備・片付け・気持ちの切り替えの時間が消えます。
新しく予定を入れるときには、カレンダー上で
- 前後15〜30分を「予備時間」として一緒に確保する
というルールを作ってみるのも一手です。
その時間は、
- 水分をとる
- 立ち上がって軽くストレッチする
- 次の予定の準備を落ち着いてする
といった、「からだと頭を落ち着かせる時間」に使えます。
5-3. タスクを「やる」「やらない」「あとで考える」に分ける
予定やタスクを書き出したあと、いきなり全部スケジュールに入れずに、
- どうしてもやる
- やらないと決める
- 今日は判断しない(あとで考える)
の三つに分類してみてください。
「3」の“保留ボックス”をつくっておくと、「全部今決めないと」というプレッシャーが少し和らぎます。
忙しい時期ほど、「もっと頑張らなきゃ」とアクセルを踏みがちです。
でも、車と同じで、アクセルだけでは長く走り続けられません。
ブレーキと、ニュートラルに戻す時間があるからこそ、次の一歩も軽くなります。
予定を減らすことは、「怠けること」でも「諦めること」でもありません。
からだと心がまた軽く動き出せるように、「余白を取り戻す選択」だと考えてみてください。
今日の自分にできるのは、ほんの小さな一歩で十分です。
カレンダーの1マス、スマホを見る時間の5分、そのくらいの単位から、からだの余白を取り戻していきましょう。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
