1. 「私がやらなきゃ」と抱え込む人に共通するからだのサイン
仕事でも家のことでも、気づけば
「それ、私がやっておきます」
と口にしてしまうタイプの人がいます。
責任感が強くて、周りへの気配りもできる。
一緒にいる人から見れば、とても頼りになる存在です。
ただ、その分だけからだが静かに悲鳴を上げていることも少なくありません。
- 夕方になると肩が板みたいに固くなる
- 会議や締め切り前には決まって頭痛が出る
- ベッドに入っても頭の中で「やることリスト」がぐるぐるして眠れない
こんな相談は、ここ数年とても増えています。
表現は違っても、よくよく話を聞いていくと
「人に頼るのが苦手で、結局なんでも自分で背負ってしまうんです」
という一言に行き着くことが多いです。
この記事では、「なんでも抱え込んでしまう性格」そのものを否定するつもりはありません。
むしろ、そうなってきた背景には、過去の経験や環境が関わっていることも多く、簡単に変えられるものでもないと感じています。
だからこそ視点を少し変えて、
- がんばりグセが続くと、からだの中では何が起きているのか
- 肩こり・頭痛・睡眠の乱れが、どうつながっているのか
- 今日からできる「がんばり方の微調整」は何か
このあたりを、やさしくほどいていきます。
「全部やめる」のではなく、「ほんの少し力の抜きどころを見つける」つもりで読み進めてみてください。


2. 「がんばりすぎ」とストレスのからだへの影響を整理してみる
「がんばりすぎ」と一口に言っても、人によって中身は違います。
共通しているのは、
- 休むことへの罪悪感
- 断ることへの強い抵抗
- 失敗したときの自己否定の強さ
といったこころのパターンが、日常の行動をギュッと固めていることです。
ストレス反応はもともと「緊急モード」
人間のからだは、ストレスを感じると「戦う・逃げるモード」に切り替わります。
自律神経でいうと、交感神経が優位になりやすい状態です。
- 心拍数や血圧が少し上がる
- 血流が筋肉に集まり、からだが固くなる
- 呼吸が浅く速くなる
短時間なら、これは生き残るための大切な仕組みです。
問題は、この「緊急モード」がダラダラ続いてしまうときです。
日本の研究でも、「ストレスを強く感じている人ほど、首や肩のこりを自覚しやすい」という報告があります。ストレスの蓄積が自律神経に影響し、免疫や筋肉の緊張にも関係していると考えられています。広島大学学術情報リポジトリ
真面目な人ほど「オンとオフ」が曖昧になりやすい
がんばりグセのある人は、
- 仕事が終わっても頭の中で仕事のことを考えている
- 家に帰ってからも「家事を完璧にこなさなきゃ」と気が休まらない
- 休日も「やるべきこと」を詰め込みがち
といった具合に、「からだは座っていても、こころはフル回転」の状態になりやすいです。
その結果、からだの感覚としては
- 肩や首がいつも重い
- ふと力を抜こうとしても、抜き方が分からない
- 寝る前になって急にどっと疲れが出る
といった「常時軽い緊急モード」が続きます。
ここに、スマホやパソコンの長時間使用、睡眠不足、運動不足が重なると、
肩こりや頭痛、不眠といった症状が静かに積み上がっていきます。
次の章では、からだの中で何が起きているのかを少し踏み込んで見ていきます。
3. 肩こり・頭痛・眠れなさは、同じストレス回路の中で起きている
首・肩まわりは「ストレスの避雷針」になりやすい
ストレスが続くと、首から肩・背中にかけての筋肉(僧帽筋など)が緊張しやすくなります。
長時間のデスクワークや、前かがみの姿勢が加わると、その緊張はさらに強くなります。
自律神経の働きを調べた研究では、慢性的な首・肩の痛みがある人ほど、交感神経が優位になりやすく、心拍変動(HRV)という指標も低下しがちだと報告されています。これは「休む側の神経(副交感神経)」がうまく働きにくくなっているサインの一つです。PubMed+1
この状態が続くと、
- 肩が常にガチガチ
- ちょっとした刺激でも「ピキッ」と痛みを感じやすい
- 触ると筋肉がゴリゴリしている
といった、筋肉の「防御反応」がクセになっていきます。
緊張型頭痛という「ストレス由来の頭痛」
肩や首まわりの筋肉の緊張が続くと、「緊張型頭痛」と呼ばれるタイプの頭痛が出やすくなります。
・頭全体を締めつけられるような痛み
・頭のてっぺんが重い、帽子をかぶっているような感じ
と表現されることが多い頭痛です。
国際的なガイドラインでも、緊張型頭痛はストレスや筋肉のこりと深く関係しており、頭や首周りの筋肉に触れると痛みが強く出やすいことが示されています。国立バイオテクノロジー情報センター+1
「ストレスで頭が痛い」という言い方は、決して比喩だけではなく、
筋肉と神経の両方のレベルで起きている現象でもあるのです。
ストレスと不眠は「双方向」の関係
がんばりグセがある人にとって、睡眠は「削ればなんとかなる時間」と見なされがちです。
- 残った仕事を片付けるために夜更かし
- ベッドに入ってからもスマホで情報収集
- 寝付けないまま、翌朝も早起き
こうした生活が続くと、睡眠の質そのものが落ちてきます。
仕事のストレスと不眠との関係を調べた複数の研究では、「仕事のストレスが強い人ほど、不眠のリスクが1.5~2倍ほど高まる」という結果が報告されています。PubMed+1
そして、不眠が続くと
- 痛みを感じやすくなる
- イライラ・不安感が強まりやすい
- 日中の集中力が落ち、ミスが増える
といった形で、また新たなストレスを生み出します。
肩こり・頭痛・不眠は、それぞれバラバラに見えて、実は同じストレス回路の中でつながっているのです。
完璧主義と「燃え尽き」の身体的サイン
「なんでも抱え込んでしまう」人には、完璧主義的な傾向があることも多いです。
近年の心理学のレビューでは、行き過ぎた完璧主義は、燃え尽き(バーンアウト)や不安、疲労感、睡眠の問題など、こころとからだの両方の不調と関係していると指摘されています。心理学ジャーナル+1
- 「ミスしたら自分の価値がなくなる」
- 「人に頼むくらいなら、寝る時間を削ってでも自分でやる」
こうした思いが強いほど、ブレーキを踏むタイミングを見失いやすくなります。
からだからのサイン(肩こり・頭痛・眠れない)が、その“警告灯”の役割をしていると考えると、少し見え方が変わってきます。
4. なんでも背負い込む人の生活パターンと、からだの悪循環
ここからは、日常生活の中でよく見かけるパターンをもとに、
「がんばりグセ」とからだの疲れ方のつながりを見ていきます。
パターン1:仕事も家事も「自分がやった方が早い」
- 仕事では、人に頼むより自分で抱えた方が安心
- 家に帰っても、家事を人に任せるとソワソワしてしまう
- 結果として、1日の中で「何もしていない時間」がほとんどない
このパターンでは、首・肩まわりが休む隙間を失いやすくなります。
座っている時間が長い人ほど、首肩こりや頭痛、腰痛を訴えやすいという報告もあります。SpringerLink
筋肉を動かさずに緊張だけしている時間が長いと、血流が滞り、疲労物質が溜まりやすくなるためです。
パターン2:夜になるほど「やることスイッチ」が入る
- 日中は人のために動き回り、夜になってようやく自分の時間
- その時間に家計簿・書類整理・情報収集を詰め込みがち
- ベッドに入ってからも、明日の段取りを考えてしまう
結果として、寝つきが悪くなったり、途中で何度も目が覚めたりします。
睡眠不足が続くと、痛みの感じ方が鋭くなることも知られています。
「日中のストレス → 不眠 → 日中の疲れ・ミス → さらにがんばる → もっと不眠」
というループに入りやすく、いつのまにか肩こり・頭痛が“セットメニュー”になってしまいます。
パターン3:「頼むのが怖い」から、一人で抱え込む
- 人に頼んで断られた経験がある
- 「迷惑をかけたくない」という気持ちが強い
- 頼むくらいなら自分が我慢した方がいいと思ってしまう
このパターンでは、心の中で常に緊張が続いている状態になりやすいです。
からだは、その心の状態をなぞるように、筋肉をキュッと固め続けます。
私自身も、忙しいときほど「人に頼む前に自分でやろう」としてしまうことがあります。
ただ、その結果として肩がバキバキになり、仕事の効率が落ちる…という失敗も何度も経験してきました。
「頼むのが苦手な自分」を責めるのではなく、
「からだにとっては、少しずつ練習が必要なんだ」と捉えてみると、少し気持ちが軽くなるかもしれません。
Q1. どんな症状が出てきたら「がんばりすぎサイン」と考えてよいですか?
目安の一つとして、
- 週の半分以上で肩こりや頭痛が気になる
- 1か月以上、「寝ても疲れが抜けない」と感じている
- 休日も「休んだ感じ」がしない
こういった状態が続いているなら、
からだが「少しペースを落としてほしい」と伝えている可能性が高いです。
痛みが強くなってきたり、しびれ・めまい・吐き気など気になる症状が出る場合は、
早めに医療機関でのチェックも検討してください。
Q2. 趣味や運動も「やらなきゃ」と感じてしまいます。これも負担になりますか?
本来はリフレッシュのはずの趣味や運動も、
- 「この回数やらないと意味がない」
- 「毎日続けなきゃダメだ」
と“義務”の色が濃くなりすぎると、こころとからだの負担になります。
ポイントは、「やったら気分が軽くなるか」「やらないと自分を責めてしまうか」。
後者が強いときは、量や頻度を少し減らしたり、「今日はお休みデー」と決めることも大切です。
Q3. どのタイミングで専門家や医療機関に相談した方がいいですか?
次のような場合は、一度専門家に相談することをおすすめします。
- 痛みやしびれが急に強くなった、片側だけに出る
- 頭痛に、ろれつの回りにくさ・手足のまひ・視野の異常などが伴う
- 市販薬を長期間使っても改善が乏しい
- 不眠や気分の落ち込みが数週間以上続き、日常生活に支障が出ている
「こんなことで相談していいのかな」と思うくらいの段階で話を聞いてもらう方が、
結果的に早く楽になれることも多いです。
5. すべてを投げ出さなくていい。今日から試せる小さな一歩
ここまで読んで、「自分にも思い当たるところが多い…」と感じた方もいるかもしれません。
とはいえ、急に性格を変えることも、今の生活をガラッと入れ替えることも現実的ではありません。
ここからは、今日からでも試しやすい「小さな一歩」をいくつか挙げてみます。
全部やる必要はありません。できそうなものを一つだけでも十分です。
| 小さな一歩 | イメージ |
|---|---|
| ① 1日の中に「5分だけ何もしない時間」を入れる | スマホも触らず、飲み物を飲みながら呼吸を感じる時間をつくる |
| ② 1つだけ「人に頼むタスク」を決める | 仕事でも家事でも、些細なことでOK。「頼む練習」と割り切る |
| ③ 寝る前30分は「考えごとを紙に出す」 | 頭の中の“やることリスト”を紙に書き出し、今日はここまでと区切る |
| ④ 肩まわりの「脱力チェック」を1日数回 | 深呼吸をしながら、両肩をすくめてストンと落とす動きを数回繰り返す |
どれもシンプルですが、続けていくと
- 「常に力が入っている状態」から抜け出しやすくなる
- 肩こりや頭痛が少しずつ軽くなる
- 夜の眠りに入りやすくなる
といった変化につながりやすい取り組みです。
大事なのは、「がんばるか、何もしないか」の二択にしないこと。
“がんばる方向”をほんの少しだけ調整してあげるイメージです。
なんでも抱え込んでしまう人は、それだけ周りを大切に思っている人でもあります。
その優しさや責任感を手放す必要はありません。
ただ、その矢印の一部を、少し自分自身にも向けてあげること。
からだのサインは、「もうダメ」という宣告ではなく、
「そろそろ自分にも優先順位を上げてほしい」というメッセージです。
今日のうちにできそうなことを、一つだけ選んでみてください。
それだけでも、からだはちゃんと受け取ってくれます。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
