“音がうるさいとイライラしてしまう日”のからだで起きていること~騒音・BGM・子どもの声と「疲れ方の個人差」~

「店内のBGMや話し声に疲れて、耳を軽く押さえて目を閉じている女性のイメージイラスト」
目次

1. 「なんで今日だけこんなに音がうるさく感じるんだろう?」

普段はそこまで気にならないのに、
コンビニのBGMや隣の席のキーボード音、子どもの声などが、
やけに耳についてイライラしてしまう日ってありませんか。

「自分が心が狭いだけかな」
「HSPとか、何かの病気なんだろうか」
そうやって、音にイラッとする自分を責めてしまう方も少なくありません。

私のもとにも、
「オフィスのBGMがつらくて仕事に集中できない」
「保育園・小学校の行事がある日、頭がガンガンしてぐったりする」
「家族の生活音にイライラして自己嫌悪になる」
といった相談が、ここ数年でかなり増えてきました。

結論から言うと、
音に対する感じ方にはもともとの個人差があり、
そのうえで「その日の自律神経の状態」や「脳の疲れ具合」によって、
同じ音でも“しんどさ”がまったく変わることが分かっています。uni-vechta.de+1

この記事では、
・音がうるさいとイライラしてしまう日のからだの中で何が起きているのか
・どんな生活パターンで「音疲れ」が起こりやすいのか
・今日からできる、静かな神経を取り戻す小さな工夫

を、専門用語をかみ砕きながら整理していきます。
「私だけがおかしいわけじゃないんだ」と、少し肩の力が抜けるきっかけになればうれしいです。


2. 「騒音」「音に敏感」「感覚過敏」…よく聞く言葉をいったん整理する

騒音って、どこからが“うるさい音”?

医学や公衆衛生の世界では、
「騒音」は**“望んでいない音・健康に悪影響を与えうる音”**として扱われます。J-STAGE+1

・道路や鉄道、飛行機の音
・工事の音
・近隣トラブルになるような大音量の音楽

などが典型的ですが、ポイントは**「音の種類」よりも“本人にとって望んでいるかどうか”**です。
好きなアーティストのライブなら大音量でも平気なのに、
興味のない店内BGMだとすぐに疲れてしまう、というのはよくある話です。

WHOや各国の機関の報告では、
交通騒音などの環境騒音は、
・心血管病(高血圧・心筋梗塞など)のリスク上昇
・睡眠障害、メンタル不調、生活の質の低下
といった健康への影響があることが、数多くの研究から示されています。MDPI+2UCLA Health+2

つまり、音にまいってしまうのは「気のせい」ではなく、身体的なストレス反応でもあるということです。

「音に敏感」「感覚過敏」「ミソフォニア」は同じ?

最近はSNSなどで「音に敏感」「感覚過敏」「ミソフォニア」という言葉もよく見かけます。

  • 音に敏感・ノイズセンシティビティ
    生まれつき、または性格として「音をストレスとして感じやすい」傾向のこと。
    人によっては、普通レベルの環境騒音でもストレスや疲労を感じやすいことが分かっています。uni-vechta.de+1
  • 感覚過敏・感覚処理の特徴
    自閉スペクトラム症などの発達特性の一部として語られることもありますが、
    診断がなくても、光や匂い、音などに敏感な人は一定数います。
  • ミソフォニア
    咀嚼音・鼻をすする音・ペンをカチカチ鳴らす音など、
    ごく特定の音に対して、強い嫌悪感や怒り、身体反応が出てしまう状態を指します。Frontiers+1

ここで大事なのは、
「ラベルをたくさん覚えること」よりも、

“今の自分のからだが、どんな音をどれくらいしんどいと感じているか”

を丁寧に観察することです。

診断名がつくケースもありますが、
慢性的なストレスや睡眠不足の結果として、一時的に音に敏感になっているだけという方も多くいます。
「全部を病名で説明しなきゃ」と思わなくて大丈夫です。


3. 音がうるさいと感じるとき、耳・脳・自律神経で何が起こっているか

ここからは、からだの中の流れをイメージしやすいように、
「耳」「脳と自律神経」「筋肉と姿勢・呼吸」の3つの視点で見ていきます。

3-1. 耳は“24時間センサー”として働いている

耳は、目と違って「閉じる」ということができません。
寝ているあいだも、周囲の音をキャッチし続けています。

音は、

  1. 外耳から鼓膜・耳小骨を通り
  2. 内耳(蝸牛)で電気信号に変換され
  3. 聴神経を通って脳幹・大脳皮質へ

と伝わっていきます。
このルートの途中に、**“危険かどうかを瞬時に判断する装置”**がいくつもあると考えてください。

たとえば、急ブレーキの音やガラスが割れる音などは、
「意味が分かる前」に、びくっとからだが反応しますよね。
これは、脳幹や扁桃体といった“原始的な脳”が、
「危ないかもしれない」と判断して交感神経を一気にオンにしている反応です。

3-2. 騒音とストレスホルモンの関係

環境騒音とストレスホルモン(コルチゾールなど)の関係を調べた研究では、
・工場や交通騒音の多い地域に住む人ほど、
 ストレス自覚度が高く、尿中コルチゾールが上昇しやすい
・夜間の騒音が増えると、心拍数が上がり、自律神経のバランスが乱れやすい

といった結果が報告されています。PMC+2PMC+2

つまり、**「音がうるさい → イライラする → からだが疲れる」**の裏側では、

  • 交感神経が優位になり、心拍や血圧が上がる
  • ストレスホルモンがじわじわ増える
  • 脳の「警戒モード」が続く

といった現象が同時に走っています。
これは意志の問題ではなく、生き物としてごく自然な防御反応です。

長期的には、環境騒音に長くさらされる人ほど、
高血圧や心筋梗塞などのリスクが高いとする報告も多数あります。MDPI+1
「音に弱い自分が悪い」のではなく、
からだがきちんと危険信号に反応しているとも言えるのです。

3-3. 筋肉・姿勢・呼吸にどう波及するか

音でイライラしているとき、
・首や肩がガチガチに固まる
・歯を食いしばっている
・呼吸が浅く、胸だけで息をしている

そんな状態になっていないでしょうか。

音に対して交感神経が高ぶると、
首・肩まわりや咬筋(かむ筋肉)、背中の筋肉に無意識の力みが入りやすくなります。
さらに、胸郭の動きが固くなることで横隔膜の動きも小さくなり、
**浅くて早い呼吸(“びくびく呼吸”)**になりがちです。

このとき脳は、
「からだが緊張している → 何かに備えないといけない状況だ」と解釈しやすいため、
音への警戒心がさらに強まるという悪循環が起こります。

  • 音が気になる
  • 肩や首が固まる
  • 呼吸が浅くなり、頭がぼーっとする
  • 余計にイライラする・集中できない

こんなループにはまりやすい人ほど、
「構造(筋肉・姿勢)」と「神経(自律神経・ホルモン)」と「感覚(イライラ・不安)」が
一体となって疲れているイメージを持ってみてください。

3-4. 個人差があるのは“性格の弱さ”ではない

研究レベルでは、
・もともと音に敏感な人ほど、同じ騒音レベルでもストレス・生活の質の低下が起こりやすい
・ミソフォニアや聴覚過敏がある人は、そうでない人よりも心理的ストレスが高い傾向がある

といった報告があります。PMC+1

これは、「弱い人」「我慢が足りない人」という意味ではありません。
生まれ持った感受性や、これまでのストレス歴・睡眠状況などが重なった結果、
「音に対する入力感度」が高くなっているだけです。

ですから、
「耐えなきゃ」「気にしない訓練をしなきゃ」よりも、

・音そのものを少し遠ざける工夫
・からだをリラックス方向に戻す工夫

の両方からアプローチしていく方が、現実的でやさしい方法になります。


4. どんな生活パターンで“音疲れ”が起こりやすいか

ここからは、日常のシーン別に「音疲れ」が起こりやすいパターンを見ていきます。
「これ、自分のことだ」と感じるものがあれば、その章だけでも意識してみてください。

4-1. オフィス・在宅ワークでのBGM・話し声

オープンフロアのオフィスやカフェワークでは、
・BGM
・周りの雑談
・キーボード音
・オンライン会議の声

など、“意味のある音”と“意味のない音”がごちゃ混ぜになりがちです。

脳は「自分に関係があるかもしれない音」を優先して処理しようとするので、
集中したい仕事中でも、隣の会話のキーワードが無意識に拾われてしまいます。

この状態が続くと、
・集中力の低下
・作業効率の悪化
・仕事が終わるころにはどっと疲れる

といった“認知の疲れ”が積み上がっていきます。Nature+1

4-2. 子どもの声・学校・保育関連のイベント

運動会、学芸会、保育園の発表会などは、
子どもの成長を感じられる楽しい場である一方、
・高い声がたくさん飛び交う
・マイク・音楽・歓声が重なる
・人混みで身動きがとりづらい

という条件が重なり、感覚的な情報量の洪水になりやすい場でもあります。

その場では楽しく過ごせていても、
帰宅後にどっと疲れが出て、頭痛やだるさ、イライラだけが残ることもあります。
「せっかくの行事なのに楽しめなかった」と自分を責めてしまいがちですが、
からだの側から見ると、ごく自然な反応です。

4-3. 家の中の“生活音”がしんどいとき

近年の集合住宅では、
・テレビやゲームの音
・ドアの開閉音
・家電の稼働音
・家族それぞれのスマホから出る音

など、小さな音源がたくさんある状態が普通になっています。

ふだんは気にならない音でも、
・寝不足が続いている
・仕事や育児で頭がパンパン
・ホルモンバランスが乱れやすい時期

といった条件が重なると、
同じ生活音でも「砂粒みたいなストレス」が一気に積もってしまうことがあります。

4-4. 「全部自分のせい」にしないための視点

環境騒音にさらされている人ほど、
・メンタル不調
・睡眠の質の低下
・生活の満足度低下

が起きやすいというデータも報告されています。J-STAGE+1

つまり、音にしんどさを感じるのは“世の中の構造”の影響も大きいということです。
「静かな環境が当たり前ではない社会に生きている」という視点を持つことで、
少しだけ自分へのハードルを下げやすくなります。

ここからは、よくある疑問にQ&A形式で触れてみます。

Q1. 音がうるさいとイライラするのは、HSPや発達特性のサインでしょうか?

「繊細さん」「HSP」という言葉が広まったことで、
音にしんどさを感じると「自分はHSPなのかも」と不安になる方も増えました。

確かに、もともと感受性が高い人は、
音・光・匂いなどの刺激をストレスとして感じやすい傾向があります。

ただ、
・一時的な睡眠不足
・ストレス続き
・ホルモンバランスの変化

によって、誰でも一時的に“音に敏感なモード”になることがあります。

日常生活や人間関係に大きな支障が出ていない場合は、
「今は神経が疲れていて、音への許容量がいつもより少ない時期なんだな」と受け止め、
からだを休ませる方向に舵を切ってみるのも一つの方法です。

Q2. 耳栓やノイズキャンセリングイヤホンを常に使っても大丈夫?

耳栓やノイズキャンセリングは、
「音の洪水から一時的に避難するツール」としてとても有効です。

ただし、
・1日中ずっと付けっぱなし
・静かな場所でも常に完全遮断

のような使い方をすると、
かえって「少しの音でもびくっとしてしまう」状態が強まることがあります。

おすすめは、
・特に音量が大きい環境だけで使う
・休憩時間など、区切りを決めて使う
・完全遮音ではなく、少し音が入るタイプを選ぶ

といった“メリハリのある使い方”です。
イヤーマフ・耳栓・ノイズキャンセリングなど、
自分に合うグッズをいくつか試してみてもよいでしょう。

Q3. どんなときに医療機関や専門家に相談した方がいいですか?

以下のようなサインがある場合は、
耳鼻咽喉科や心療内科・精神科、カウンセラーなどに一度相談することをおすすめします。

  • 日常の音でも、耳に強い痛みを感じる
  • 特定の音にさらされると、パニック発作に近い症状が出る
  • 音への恐怖・回避のせいで、学校や仕事、人付き合いが難しくなっている
  • 耳鳴り・難聴など、他の耳の症状を伴っている

早めに相談することで、
・聴力や耳の病気が隠れていないか
・ミソフォニアや聴覚過敏など専門的な支援が必要か

を整理しやすくなります。
「これくらいで相談していいのかな」と迷う段階で受診しても大丈夫です。


5. “音疲れ”をやわらげるために、今日からできる小さな工夫

最後に、音がうるさいとイライラしてしまう日のための、
現実的な対策をいくつかまとめます。
すべてを一度にやる必要はないので、「これならできそう」というものから試してみてください。

5-1. 音環境を「層」でコントロールする

音はゼロか100かではなく、**“層で調整する”**イメージを持つと少し楽になります。

やってみることポイント
物理的に距離をとるオフィスなら一時的に別室で作業する、イベント会場では出入口付近に陣取るなど「逃げやすさ」を確保する。
耳栓・イヤーマフを使う完全遮音ではなく、音量を2〜3割下げるイメージで。必要な場面だけ使う。
自分にとって心地よい音を重ねる雑音を打ち消すようなやさしい環境音・雨音・波の音などを小さめの音量で流す。

「音をゼロにしないと生きづらい」ではなく、
**“自分の神経が耐えやすい音量・音質に寄せる”**工夫と考えてみてください。

5-2. からだを「音に強くする」のではなく、「緊張から戻しやすく」する

音にイライラしているとき、からだはほぼ確実に緊張モードです。
そんなときに役立つのが、**ごく短い“リセット習慣”**です。

  • すこし静かな場所で、鼻から3秒・口から6秒のゆっくり吐く呼吸を数回
  • 肩をすくめてストンと落とす動きを3〜5回くり返す
  • 両手で耳のまわりをやさしくなでる・さする

どれも、筋肉のこわばりをほどき、
「今はそこまで危険ではないよ」と神経に伝える小さなサインになります。

5-3. 1日のどこかに「意図的な静寂」を置いてみる

環境騒音にさらされる時間が長いほど、
メンタルや睡眠の質が落ちる傾向があることは、多くの研究から示されています。MDPI+1

だからこそ、
1日のどこかに**「意図的に静かな時間」を数分〜10分でも確保する**ことが、
自律神経にとっての“充電時間”になります。

  • 朝起きてすぐ、テレビやスマホをつける前の5分を静かな時間にする
  • 帰宅後、イヤホンを外して、窓を閉めて「沈黙の3分」を作る
  • 寝る前30分だけは、音の出る家電をオフにしてみる

など、できそうなものをひとつだけ選んでみてください。


きちんと疲れるほど、あなたのセンサーは働いている

音にイライラしてしまうと、
つい「自分は器が小さい」「家族に申し訳ない」と、自分を責めやすくなります。

でも、ここまで見てきたように、
音に反応してしまうのはからだの防御システムがきちんと働いている証拠でもあります。

・今は少し、神経が疲れているだけかもしれない
・音環境を調整することは、わがままではなくセルフケア
・全部を変えなくても、「距離」「耳」「呼吸」のどこか一つを少し整えるだけでも違う

そう考えながら、今日できそうな一歩を選んでみてください。
静かな場所に行けない日でも、あなたのからだの内側には、
「戻る力」がちゃんと残っています。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

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この記事を書いた人

からだトレンドラボを運営している、理学療法士のテラサワです。
病院やクリニックでのリハビリに長く関わる中で、
「もっと早く知っていれば楽になれたのに」という声を
何度も聞いてきました。

このブログでは、からだや健康にまつわる“トレンド情報”を、
医学的な視点でていねいに噛み砕いてお届けします。
難しいことはできるだけやさしく。
読み終わったときに、ちょっとだけ不安が軽くなっていたら嬉しいです。

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