「最近、歩幅がすごく小さくなってきた」「腕をあまり振らずに歩いている気がする」「前かがみ姿勢が戻らない」…。年齢や運動不足のせいにしたくなる変化ですが、なかにはパーキンソン病の早期サインが紛れていることもあります。この記事では、“動きグセの変化”という視点から、どんなポイントに目を向けるとよいかを整理していきます。

1. 「歩き方が変わってきた気がする」をどう受け止めるか
家族を見ていて、「前より歩幅が狭い」「なんとなくすり足」「片方の腕だけ、あまり振っていない」など、ちょっとした違和感に気づくことがあります。
ご本人は「歳のせい」「運動していないから」と話すことも多いのですが、
・歩き方
・姿勢
・立ち上がり方
といった“動きグセ”は、脳や神経の状態が映りやすい場所でもあります。
パーキンソン病は、高齢者に比較的多い神経疾患で、日本では10万人あたり50〜80人程度とされています。e-jmd.org+1
決して「めずらしい病気」ではなく、高齢化に伴って患者数は増えるだろうと予測されています。
だからといって、「歩き方が変だ=パーキンソン病」と考える必要はありません。変形性膝関節症や脊柱管狭窄症、筋力低下など、歩き方が変わる理由はいろいろあります。
大事なのは、
「どんな変化が、どんな組み合わせで、どれくらい続いているか」
をいったん整理してみることです。この記事は、そのための“動きグセチェックメモ”として使ってもらえるイメージで書いていきます。
2. パーキンソン病の「歩き方サイン」と、よくある勘違い
パーキンソン病と聞くと、「手が震える病気」というイメージが強いかもしれません。実際には、震え(振戦)だけでなく、
- 動きが全体的にゆっくりになる(寡動・無動)
- 筋肉がこわばる(固縮)
- 姿勢やバランスが崩れやすい
といった特徴があり、歩き方や姿勢に変化が出るケースが多くみられます。PMC+1
よくみられる「歩き方・姿勢のサイン」
代表的なものを、イメージしやすい言葉でまとめるとこんな感じです。
| サインの種類 | 具体的な様子のイメージ |
|---|---|
| 歩幅の変化 | 一歩が小さく、ちょこちょこ歩く/人と並ぶと、置いていかれがち |
| 腕振りの減少 | 片方の腕だけ振りが小さい、または両腕ともほとんど動かない |
| すり足 | 足が床から離れにくく、スリッパを引きずる音が増える |
| 前かがみ姿勢 | 頭と肩が前に出て、背中が丸まった姿勢で固まりやすい |
| 向きを変える | 体全体で「まとめて向きを変える」ようになり、くるっと振り向けない |
研究レベルでも、「パーキンソン病の人は、歩くときの腕振りが小さく、左右差も出やすい」という報告が多数あります。サイエンスダイレクト+2MDPI+2
また、「最初は片側だけ腕振りが小さくなる」「歩幅が短くなる」といった変化が、比較的早い段階で見つかることも知られています。メドスケープ医学辞典+1
「全部パーキンソン病」というわけではない
一方で、ここがとても大事なポイントですが、
- 膝や股関節の変形(変形性関節症)
- 腰の神経の圧迫(脊柱管狭窄症)
- 筋力低下・体力低下
- 単純な猫背・姿勢のクセ
でも、歩幅は小さくなりますし、前かがみ姿勢にもなります。
「歩き方が変わった → すぐパーキンソン病と決めつける」必要はありません。
ただし、「いくつかのサインがセットで、じわじわ増えている」場合には、神経内科などで相談しておくと安心、というイメージです。
3. 脳の中で何が起きると“動きグセ”が変わるのか
パーキンソン病では、脳の深いところにある「黒質」という部分の神経細胞が傷み、ドパミンという物質が減っていきます。ドパミンは、動きの“スイッチ”や“ブレーキ”の微調整をしている役割があり、これが足りなくなることで、からだ全体の動き方が変わっていきます。PMC
「歩き出す」「止まる」「方向転換」のハードルが上がる
- 歩き出す一歩目が出にくい
- とっさに止まれない
- 方向転換に時間がかかる
こういった変化は、「筋力が弱いから」というより、「動作のスイッチを切り替える神経の連携が追いつきにくい」イメージに近いものです。
歩行解析の研究では、パーキンソン病の人は
- 歩幅の短縮
- 歩行速度の低下
- 歩行時の腕振りの減少・左右差
が健康な人と比べて顕著で、病気の初期から見られることが報告されています。Nature+2MDPI+2
姿勢を支える「自動運転モード」が弱くなる
人は本来、何も意識しなくても
- 軽く胸を張る
- 頭が体の真上にくるよう保つ
- つまずきそうになったら反射的に踏み出す
といった「姿勢の自動調整」を行っています。
パーキンソン病では、この「自動運転モード」が少しずつ弱くなるため、
- いつの間にか前かがみが“普通”になってしまう
- 転びそうになったとき、踏み出しが間に合わない
といった姿勢・バランスの問題が起きやすくなります。
動きの変化とセットで出やすい“からだのサイン”
最近の研究では、以下のような非運動症状が、運動症状よりも前から続いているケースも多いと言われています。practicalneurology.com+2ResearchGate+2
- 嗅覚の低下(においを感じにくい)
- 長年続く便秘
- 寝ている間に暴れる・夢の内容に合わせて動く(レム睡眠行動異常)
- 気分の落ち込み、不安感
「歩き方の変化」+「こうした非運動症状のいくつか」が重なっている場合、パーキンソン病を念頭に置いて相談しておく価値は高くなります。

4. こんな“動きグセの変化”が重なっていたら、一度メモを
ここからは、「家族や周囲の人が気づきやすいポイント」に絞って整理してみます。
よくある“動きグセ”の変化
- 歩幅が小さく、追いつけない
一緒に歩いていると、ご本人だけ歩幅が小さく、いつの間にか後ろに下がっている。段差やカーブで特に歩みが小さくなる。 - 片側の腕だけ、あまり振らない
写真や動画を見返すと、右手(または左手)だけほとんど振らず、体の横に貼り付いたようになっている。 - 向きを変えるのが、妙に大げさ
「首だけくるっと振り向く」のではなく、体全体を一塊で回すような動き方になっている。布団から起き上がるときも、時間がかかる。 - 表情が険しく見える
怒っているわけではないのに、「笑顔が少なくなった」「写真写りが固くなった」と言われる。瞬きの回数も減り、顔の筋肉の動きが乏しく見える。 - 椅子からの立ち上がりに、ひと拍おく
「よいしょ」と声をかけながら、数秒ためてからでないと立ち上がれない。何度か体を前後にゆすって勢いをつけることもある。
変形性関節症や脊柱管狭窄との“ありがちな勘違い”
- 膝や股関節が痛い → 変形性関節症だと思っていた
- 腰が重だるい → 脊柱管狭窄症だと思っていた
こうしたケースは実際に多く、もちろん本当に関節や腰の病気であることもたくさんあります。
ただし、
- 痛みより「動きの遅さ」「ぎこちなさ」が主である
- かなり前から便秘や嗅覚低下が続いている
- 歩き方だけでなく、声が小さくなった・字が小さくなったなど別の変化もある
といった「組み合わせ」が見えてきたら、関節だけでなく神経の専門家に一度相談してみる意味が出てきます。
“全部あてはまらないとダメ”ではない
ここまで読んで、「いくつかは当てはまるけれど、全部ではない」と感じた方も多いと思います。
パーキンソン病は人によって出方がかなり違い、「震えがほとんどないタイプ」や、「歩き方より気分の落ち込みが目立つタイプ」もあります。PMC+1
「いくつかのサインが重なっていて、しかもここ数年じわじわ増えている」
そんなときは、「一度診てもらっておこうか」と考えるきっかけにしてみてください。
Q&A:よくある疑問へのヒント
Q1. 歩幅が小さくなっただけでも、パーキンソン病を疑うべきですか?
歩幅が小さくなる理由は、筋力低下や関節の痛みなど本当にさまざまです。歩幅の変化「だけ」でパーキンソン病かどうかを判断することはできません。
ただ、歩幅の小ささに加えて
- 片側の腕振りの減少
- 前かがみ姿勢
- 立ち上がりのもたつき
- 便秘や嗅覚低下、睡眠中に暴れる など
が重なっている場合は、一度神経内科で相談しておくと安心です。
Q2. 「年齢のせい」との違いは、どこで見分ければいいですか?
加齢による変化は、
- 全身の筋力低下や関節のこわばり
- 持久力の低下
として、ゆっくり広く出ることが多いです。
パーキンソン病では、
- 片側だけの変化から始まりやすい
- 動きの「遅さ」「ぎこちなさ」が目立つ
- 非運動症状(便秘・嗅覚低下・睡眠の異常など)が長く続く
といった特徴が重なることがあります。どちらにしても、自己判断ではなく、医師に経過を伝えながら一緒に整理してもらうのがおすすめです。
Q3. どのタイミングで受診したらいいですか? 「様子を見すぎる」のが心配です
「もうどうしようもないほど困ってから」よりも、
- 最近2〜3年で、歩き方・姿勢・表情がじわじわ変わってきた
- 家族からも、同じような指摘を受ける
- 便秘や睡眠、気分の問題なども重なっている
と感じた段階で、一度相談しておくと安心です。
スマホで短い歩行動画(前・横・後ろから)を撮っておき、受診時に見せると、医師が変化を把握しやすくなります。
5. 今日からできる「動きグセメモ」と受診へのつなげ方
最後に、「いま不安がある方が、今日からできる小さな一歩」をまとめます。
1)“なんとなく気になる”をメモに残しておく
- いつごろから歩き方が気になり始めたか
- どんな場面で歩幅の小ささや転びそうな感覚が強いか
- 腕振り・表情・声・字の変化に気づいたタイミング
- 便秘や嗅覚、睡眠のトラブルの有無
などを、思い出せる範囲で書き出しておくと、受診時にとても役立ちます。
2)短い動画で「いつもの歩き方」を記録する
- 真っすぐ歩く様子を前後・横から
- 椅子から立ち上がる様子
- 方向転換をする様子
などを10〜20秒ずつ撮影しておくと、“そのときの状態”を客観的に確認できます。ご本人も、「そんなに腕を振ってなかったんだ」と気づくきっかけになることがあります。
3)「全部を変えようとしない」ことも大切に
パーキンソン病が疑われると、「運動もしなきゃ、食事も、睡眠も…」と一気に完璧を目指したくなるかもしれません。しかし、生活を急に大きく変えようとすると、かえって疲れてしまいます。
- まずは「動きグセを観察する」
- 不安が強ければ、かかりつけ医や神経内科で一度相談してみる
- そのうえで、主治医と相談しながら、できる範囲の運動や生活調整を考えていく
この順番で十分です。動きの変化に早めに気づき、早めに相談につなげることで、今後の選択肢が広がりやすくなります。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事があなたのより良い生活のための一助になりますように。
