夜中、となりで寝ている家族に突然ドンと殴られる・蹴られる。しかも本人は全く覚えていない。冗談で済ませたいけれど、続くとさすがに怖くなって検索してしまう…。そんなご家族もいると思います。この記事では、「レム睡眠行動障害」とパーキンソン病の関係を、必要以上に不安になりすぎない範囲で整理しつつ、家族としてどこに気を配ればよいかを一緒に確認していきます。

1. 「夜中に暴れるのは性格のせい?」と悩むご家族へ
夜中にいきなり腕が飛んできて目が覚める。
「なんでそんなに乱暴なの」と腹が立ちつつも、相手はぐっすり寝ていて記憶もない。朝になって伝えても「ごめん、全然覚えてない」と困った顔をするだけ。
こうした相談は、ここ数年じわじわ増えている印象があります。
とくに多いのは、次のようなパターンです。
- ここ数年で、寝言が激しくなってきた
- 夢の内容と同じ動きをしているように見える
- 一緒に寝ている家族にケガをさせてしまいそうで怖い
ご本人も「なんだか最近、動きが鈍くなった」「便秘や立ちくらみが増えた」「気分の落ち込みが続く」など、うまく言葉にできない不調を抱えていることがあります。
もちろん、すべてが重大な病気につながるわけではありません。単なる「寝ぼけ」の範囲のこともあるし、一時的なストレスや薬の影響の可能性もあります。
ただ、「夢の内容どおりに体が動く」「殴る・蹴るなどの激しい動きが、レム睡眠(夢を見ている睡眠)のタイミングで繰り返し起こる」といった特徴があるとき、医学的には「レム睡眠行動障害」という病気が候補に挙がります。健康日本21+1
この記事は、「もしかして…」と感じているご家族が、
- どこまで心配すべきか
- どんな情報を医療機関に伝えるとよいか
- 家でできる安全対策は何か
を落ち着いて整理できるようにすることを目的にしています。
2. 「レム睡眠行動障害」と普通の寝ぼけ・悪夢の違い
まずは言葉の整理からいきます。
レム睡眠行動障害ってどんな病気?
レム睡眠行動障害とは、「夢の内容をそのまま行動にうつしてしまう病気」です。ふつう、レム睡眠中は脳は活発でも、体の筋肉にはしっかりブレーキがかかっているので、大きく動いたりはしません。ところがこの病気では、そのブレーキがうまく働かず、
- 大声で叫ぶ・怒鳴る
- 殴る・蹴る・つかみ掛かる
- ベッドから飛び降りる
といった行動が出てしまいます。健康日本21+1
特徴的なのは、夢の内容と動きが対応していることです。
「誰かに追いかけられる夢を見て、実際にベッドの上で逃げるようにバタバタする」「ケンカしている夢を見て、隣の家族を殴ってしまう」といった具合です。
“ただの寝ぼけ”や他の睡眠時随伴症との違い
睡眠中の不思議な行動は、医学的には「睡眠時随伴症」とまとめて呼ばれ、
- 夢遊病のように歩き回る「睡眠時遊行症」
- 子どもに多い「夜驚症」
- 歯ぎしり・寝言
なども含まれます。健康日本21
レム睡眠行動障害と区別するポイントとしては、
- 起きたあと、夢の内容をはっきり覚えていることが多い
- 発症のピークが中高年以降であることが多い
- レム睡眠(体は休んでいるのに脳が活発な睡眠段階)に一致している
といった点が挙げられます。
一方で、「夜中に一度だけ起きてトイレに行ったのを本人が覚えていない」「疲れているときだけ寝言が増える」程度であれば、すぐにレム睡眠行動障害とは言えません。
大事なのは、行動の激しさ・頻度・ケガの危険性がどのくらいあるか。
家族としては、「ちょっとした寝言」なのか、「誰かがケガをしてしまいそうなレベル」なのかを観察しておくことが、受診の判断材料になります。
3. レム睡眠行動障害とパーキンソン病・自律神経のつながり
ここからは、一度からだの中の話に降りてみます。
レム睡眠中の「筋肉ブレーキ」が外れてしまう
レム睡眠行動障害では、脳幹と呼ばれる部分の働きがうまくいかず、本来レム睡眠中にかかるはずの「筋肉へのブレーキ」が弱まると考えられています。PMC
- 脳は夢を見て興奮している
- 体は本来リラックスしているはず
- でもブレーキが壊れていて、夢の内容どおりに体が動く
という状態です。ここには自律神経の揺らぎも関わっていて、心拍や血圧の変動が大きくなりやすいことも報告されています。健康日本21
パーキンソン病との関連:すべてがつながるわけではないが、「手がかり」になる
厚生労働省の情報では、レム睡眠行動障害の患者さんの約半数に中枢神経の病気がみられ、その中でもパーキンソン病やレビー小体型認知症、多系統萎縮症などが多いとされています。健康日本21
さらに、レム睡眠行動障害だけが先に出てきて、数年〜十数年後にパーキンソン病などの神経変性疾患が明らかになるケースも、複数の研究で確認されています。
- ある大規模研究では、レム睡眠行動障害(他の病気がまだはっきりしていない「孤発型」)と診断された人のうち、約33%が5年以内に、約75〜80%が10〜14年以内に神経変性疾患を発症したと報告されています。サイエンスダイレクト+2PLOS+2
- 別の追跡研究では、1年あたりおよそ6%ずつ神経変性疾患へ移行し、12年で約7割が何らかの診断に至ったとされています。OUP Academic
数字だけ見ると不安が強くなってしまうかもしれませんが、ここで大切なのは、
- 「レム睡眠行動障害=必ずパーキンソン病になる」ではないこと
- 一人ひとりのリスクは、年齢・家族歴・嗅覚や自律神経症状など、さまざまな要素で変わること
です。
実際、パーキンソン病の患者さんの中でレム睡眠行動障害を持つ人は多く、日本の患者さんを対象にした研究でも「よくみられる非運動症状であり、運動症状の発症より前から見られることがある」と報告されています。慶応義塾大学純粋研究+2PMC+2
また、便秘・嗅覚低下・うつっぽさ・立ちくらみなどの自律神経症状が、パーキンソン病の「前段階」で現れることも知られています。サイエンスダイレクト
家族として覚えておきたいポイント
- レム睡眠行動障害は、パーキンソン病などの「早めのサイン」になりうる
- 一方で、薬の影響や他の睡眠障害が背景にあるケースもある
- 自己判断せず、睡眠や神経に詳しい専門家と一緒に全体像を確認していくことが大事
このあたりをざっくり理解しておくと、インターネット上の「一部の怖い情報」だけに振り回されにくくなります。

4. 生活パターンとレム睡眠行動障害
家族で共有したい観察ポイントと受診の目安
ここからは、もう少し現実的な目線で、「どんなときに相談したらいいか」を整理してみます。
よくある生活パターン・背景
レム睡眠行動障害がある人の生活を見ていると、
- 長年の睡眠不足・交代勤務
- アルコールを寝酒代わりに使う習慣
- 抗うつ薬・抗不安薬など中枢神経に作用する薬を複数服用している
- 50〜60代以降で、便秘・立ちくらみ・嗅覚低下なども少しずつ気になってきている
といった背景が重なっていることがあります。もちろん、これらがすべて原因というわけではありませんが、「からだのブレーキ役」である脳幹や自律神経への負担が積み重なりやすい条件ではあります。PMC+1
家族が見ておきたいチェックポイント
受診するときに役立つ情報として、家族があらかじめメモしておくとよいのは次のような点です。
- どんな夢を見ていそうか(ご本人の話もあわせて)
- どのくらいの頻度で、どの程度の強さの動きが出るか
- ベッドから落ちる・家具にぶつかる・一緒に寝ている人を殴るなど、ケガにつながる行動があるか
- 便秘・嗅覚の低下・手の震え・動きの遅さ・うつっぽさ・立ちくらみなど、日中のサインはどうか
寝室の安全対策:できる範囲からでOK
「パーキンソン病かどうか」は、一度で結論が出ないこともあります。
その一方で、「今晩のケガを減らす」ことは、今日からでも工夫できます。
例えば、
- ベッドの周囲の固い家具を少し離す
- 角の鋭い棚にクッション材を貼る
- ベッドから落ちやすい人は布団にする、あるいはマットレスを低くする
- しばらくのあいだ、家族と少し距離を取って寝るレイアウトにする
など、「完璧な対策」よりも、「最悪のケガを減らす工夫」を優先すると、現実的です。
どこに相談すればいい?
目安としては、
- ケガにつながりそうな動きが月に何度もある
- ご本人が「疲れが取れない」「日中の眠気やだるさが強い」と感じている
- 便秘・嗅覚低下・手の震え・動きの鈍さなどが、ここ数年でじわじわ増えている
こうした条件が重なってきたら、睡眠外来や脳神経内科で相談してみる価値があります。
睡眠専門の検査(ポリソムノグラフィ)を行える施設は限られていますが、問診と診察だけでも、「本当にレム睡眠行動障害が疑われるのか」「薬の調整で改善しそうか」などの方向性が見えてくることが多いです。厚生労働省+1
Q&A:家族からよく出る疑問
Q1. たまに手足がピクッと動く程度でも、レム睡眠行動障害の心配をした方がいいですか?
寝入りばなにピクッと体がはねる「ジャーキング」や、軽い寝言は、健康な人でもよく起こります。月に数回、軽く動く程度でケガの心配がないなら、すぐに病気と結びつけなくて大丈夫なことがほとんどです。
ただ、「月に何度も、強く殴る・蹴る」「ベッドから落ちる」「本人も夢をはっきり覚えている」といった状況が続く場合は、一度専門家に相談しておくと安心です。
Q2. 子どもや若い人でも、レム睡眠行動障害になりますか?
まったく無いわけではありませんが、典型的なレム睡眠行動障害は中高年に多い病気とされています。健康日本21+1
子どもの「夜泣き」「夜驚症」「夢遊病」など、別の睡眠時随伴症の可能性もあります。年齢や症状の出方によって判断が変わるので、気になる場合は小児科や睡眠専門外来で相談してみてください。
Q3. 受診すると、必ずパーキンソン病の検査まで進められますか?
医療機関によって方針は異なりますが、いきなり全員に負担の大きい検査をするわけではありません。
問診・神経学的診察・必要に応じた血液検査や画像検査を組み合わせて、「今の時点でどこまで疑うべきか」を総合的に判断していきます。
レム睡眠行動障害は、パーキンソン病などの「手がかり」にはなりますが、今すぐ結論を急ぐというより、定期的に経過をみていくタイプのサインと考えると、少し気持ちが落ち着くかもしれません。
5. 不安を抱え込みすぎないために
今日からできる小さな一歩
ここまで読んで、「やっぱり心配だな…」と感じた方も多いと思います。
最後に、家族としてできる小さな一歩をいくつか挙げておきます。
1つめは、「記録しておく」こと。
スマホのメモでもノートでも構いません。発作の頻度・時間帯・行動の様子・夢の内容・日中の体調などをざっくり書き留めておくだけでも、診察室での情報量がぐっと増えます。
2つめは、寝室の安全度を見直すこと。
家具の配置を少し変えるだけでも、ケガのリスクは下げられます。「心配だから」とすべてを禁止するより、家族みんなが眠りやすい環境を一緒に整えていく感覚のほうが続きやすいはずです。
3つめは、一人で抱え込まないこと。
パートナーの夜の行動を「乱暴だから」「迷惑だから」とだけ受け取ると、お互いにしんどくなっていきます。
「もしかしたら体のブレーキがうまく働いていないのかもしれないね」と、からだの仕組みの話として共有できると、責める気持ちが少し和らぎますし、受診するときも「一緒に聞きに行こうか」と前向きな相談がしやすくなります。
すべてを一度に変える必要はありません。
- 記録をつけてみる
- 寝室の環境を少し整える
- 次の健診や受診のときに、ひと言相談してみる
そのどれか一つでも、今の不安を少し軽くするきっかけになると思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事があなたのより良い生活のための一助になりますように。
